このページの目次
1 相談の背景
相談者は、化粧品D2Cメーカーのマーケティング責任者であるAさんです。
同社では、数年前からマイクロインフルエンサーを活用したSNSマーケティングを積極的に行っていました。新商品を発売するたびに、数百人規模のインフルエンサーへ商品を提供し、Instagram、X、TikTok、ブログなどで使用感を投稿してもらっていたのです。
当時は、現在ほどステルスマーケティングへの法的規制が明確ではなく、投稿には「PR」「広告」「提供」などの表示が付いていないものも多数ありました。投稿数は累計で数千件に及び、過去のキャンペーン投稿の一部は、現在も検索結果やハッシュタグ経由で閲覧できる状態でした。
Aさんは、2023年10月1日からステルスマーケティング規制が始まったことを受け、今後の投稿については「PR」表記を徹底する運用に切り替えていました。インフルエンサー向けの依頼文にも、「広告であることが分かる表示を必ず入れること」「投稿冒頭または分かりやすい位置にPR表記を行うこと」を明記するようにしました。
しかし、問題は過去投稿でした。
Aさんは、次のような不安を抱えて相談に来られました。
「これからの投稿にPRを付けることはできます。しかし、数年前に依頼した投稿まで、今から全部修正しなければならないのでしょうか。すでに連絡が取れないインフルエンサーも多く、アカウントが削除されている人もいます。上場準備中なので、もし消費者庁から措置命令を受ければ、レピュテーションにも審査にも大きな影響が出ます。現実的にどこまで対応すべきかを知りたいです。」
2 法的見解:過去投稿も規制対象になり得る
まず、前提として押さえるべき点は、ステマ規制は2023年10月1日以降の表示に適用されるということです。
ステルスマーケティングは、2023年10月1日施行の告示により、景品表示法第5条3号の不当表示として規制対象になりました。規制対象となるのは、「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示」であって、「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」です。
ここで重要なのは、投稿された時期が施行日前であっても、施行日後も一般消費者が閲覧できる状態にあり、かつ事業者が管理できる実態がある場合には、施行日後の表示として規制対象となる可能性があるという点です。消費者庁のパブリックコメント回答を踏まえた解説でも、施行日前に第三者に行わせた表示であっても、施行日後に作成者と連絡がつくなど事業者が表示を管理できる状態にある場合には、施行日後の表示が告示の対象となる可能性があるとされています。
したがって、「3年前の投稿だから関係ない」「当時は違法ではなかったから修正不要」とは言い切れません。
特に、過去投稿が現在も検索上位に表示されている、自社LPに埋め込まれている、自社公式アカウントで再投稿している、自社ECサイトの「お客様の声」として引用している、といった場合には、現在の広告表示としての性格が強くなります。
実際、近時の措置命令事例では、インフルエンサー等のInstagram投稿そのものではなく、それを自社ウェブサイトに「お客様の声」や「SNSでも話題」として抜粋・転載した表示が問題とされた例があります。自社が依頼した投稿であることを明らかにせず、自社サイト上で第三者の自然な感想のように見せたことが、ステマ告示上の不当表示と判断されています。
このため、過去のインフルエンサー投稿についても、現在どのように閲覧・利用されているかを確認する必要があります。
3 すべてを一律に処理するのではなく、リスクを分類する
もっとも、数千件の投稿すべてを即時に修正することは、現実的ではありません。アカウントの閉鎖、連絡先の喪失、DM未読、投稿者の活動停止などにより、物理的に修正できない投稿もあります。
このような場合、重要なのは「ゼロリスク」を目指すことではなく、リスクの高い投稿から優先的に処理し、会社として合理的な管理体制を構築することです。
A社では、弁護士の助言に基づき、過去投稿を次のように分類しました。
| 優先度 | 対象投稿 | リスク評価 | 対応方針 |
| 最優先 | 自社LP・EC・広告ページに掲載、引用、リンクしている投稿 | 自社が現在も広告利用しているため高リスク | 即時に削除・差替え・PR表記追加 |
| 高 | 検索上位、ハッシュタグ上位、インプレッションが多い投稿 | 現在も消費者の購買判断に影響しやすい | 個別連絡で修正依頼 |
| 中 | 直近1年程度の投稿、投稿者が活動中の投稿 | 修正可能性が高く、影響も残りやすい | 一斉DM・メールでPR追記依頼 |
| 低 | 数年前の埋もれた投稿、表示回数がほぼない投稿 | 実務上の探知可能性は相対的に低い | リスト化し、可能な範囲で順次対応 |
| 対応困難 | アカウント削除、連絡不能、投稿者不明 | 事業者側で直接修正不能 | 対応履歴・連絡不能記録を保存 |
この分類により、限られた人的リソースを最もリスクの高い領域に集中させることができました。
特に注意したのは、自社が過去投稿を現在も広告素材として利用しているケースです。自社サイト、LP、広告バナー、メルマガ、SNS公式アカウント、ECの商品ページなどにインフルエンサー投稿を転載・引用している場合、それはもはや「過去の第三者投稿」ではなく、「現在の自社広告」と評価されやすくなります。
このため、A社ではまず、自社が管理する媒体から、PR表記のないインフルエンサー投稿の引用・埋め込み・リンクを洗い出し、修正または削除を行いました。
4 「PR」表記はどこに、どのように入れるべきか
ステマ規制で重要なのは、一般消費者が事業者の表示であることを明瞭に判別できることです。
「PR」「広告」「プロモーション」「提供:A社」「A社から商品提供を受けて投稿しています」といった表示が、一般消費者に認識可能な方法で表示されているかが問題になります。
したがって、単にプロフィール欄や投稿末尾に小さく書けば足りるとは限りません。投稿本文の冒頭や、ハッシュタグ群に埋もれない位置に表示することが望ましいです。
A社では、インフルエンサー向けに、次のような修正ルールを示しました。
【修正依頼の基本ルール】
・投稿本文の冒頭または冒頭近くに「PR」または「広告」と明記する
・商品提供を受けた投稿である場合は「A社から商品提供を受けています」と記載する
・ハッシュタグの末尾に「#PR」だけを埋め込む運用は避ける
・ストーリーズやリールの場合も、視認できる位置に広告表示を入れる
・自社が指定した文言を削除・変更する場合は事前確認を求める
重要なのは、広告表示が形式的に存在するだけでなく、一般消費者が実際に認識できることです。たとえば、投稿末尾の大量のハッシュタグの中に「#PR」が埋もれている場合や、動画の一瞬だけ小さく表示される場合には、明瞭性に疑問が残ります。
5 連絡が取れない投稿者への対応
Aさんが最も心配していたのは、過去に依頼したインフルエンサーの中に、すでに連絡が取れない人が多いことでした。
この場合、企業として重要なのは、「修正できなかった」という結論だけでなく、修正に向けて合理的な努力をしたことを証拠化することです。
A社では、次の対応を実施しました。
| 対応 | 内容 |
| 投稿リストの作成 | 投稿URL、投稿者名、投稿日、商品名、PR表記の有無を一覧化 |
| 連絡先の確認 | DM、メール、契約書、発送記録、キャンペーン管理ツールを確認 |
| 修正依頼の送信 | DM・メールでPR表記追記または削除を依頼 |
| 送信履歴の保存 | 送信日時、送信内容、既読・未読、返信内容を記録 |
| 再依頼 | 一定期間後にリマインドを送信 |
| 連絡不能の記録 | アカウント削除、DM不可、メール不達などを記録 |
| 自社媒体の削除 | 自社サイト・LP・広告から該当投稿の引用やリンクを削除 |
| 社内報告 | 対応件数、未対応件数、理由、今後の管理方針を報告書化 |
このような対応履歴は、万が一、消費者庁から照会を受けた場合に、会社として管理義務を軽視していなかったこと、問題を認識した後に合理的な是正措置を講じたことを説明する材料になります。
もちろん、対応履歴を残せば違法性がなくなるわけではありません。しかし、行政対応や上場審査の場面では、リスクを放置したのか、把握・分類・是正・再発防止を行ったのかが重要な評価ポイントになります。
6 自社サイトでの「お客様の声」利用は特に注意
ステマ規制対応で見落とされやすいのが、自社サイト上の「お客様の声」「SNSで話題」「愛用者の口コミ」などの表示です。
インフルエンサー投稿にPR表記が付いていたとしても、その投稿を自社サイトに抜粋して掲載する際にPR表記を外してしまうと、一般消費者には、第三者が自発的に投稿した口コミのように見える可能性があります。
実際に、近時のステマ措置命令事例では、対価提供や商品提供を条件に投稿を依頼したインフルエンサー投稿を、自社ウェブサイトに「お客様の声」などとして転載し、自社が依頼した投稿であることを明らかにしていなかった点が問題となっています。
このため、A社では、自社サイト上の口コミ・レビュー欄について、次のルールを設けました。
【自社サイト掲載時のルール】
・依頼投稿を「お客様の声」として掲載しない
・掲載する場合は「広告」「PR」「商品提供を受けた投稿」などを明記する
・Instagram投稿を抜粋する場合、元投稿のPR表記も含めて表示する
・投稿本文を編集・抜粋する場合、広告性が分からなくならないようにする
・自然発生的な口コミと依頼投稿を同じ枠で混在させない
特に化粧品D2Cでは、口コミ、使用感レビュー、ビフォーアフター、愛用者コメントが購買に大きな影響を与えます。だからこそ、広告として依頼した投稿と、自然発生的な口コミを明確に区別する必要があります。
7 今後の契約・同意書の改定
過去投稿対応と並行して、A社では今後のインフルエンサー施策に関する契約書・同意書も見直しました。
ステマ規制への対応は、投稿時に「PRを付けてください」と依頼するだけでは不十分です。投稿後に法令や運用基準が変わった場合、表示内容の修正が必要になった場合、投稿者と連絡が取れなくなった場合に備えて、契約上の対応権限を確保しておく必要があります。
A社が追加した主な条項は、次のとおりです。
| 条項 | 内容 |
| 広告表示義務 | 投稿冒頭等にPR・広告・提供表示を明記する義務 |
| 表示位置・文言指定 | 会社が指定する表示方法に従う義務 |
| 修正協力義務 | 法令・ガイドライン変更時や会社の要請時に投稿を修正する義務 |
| 投稿削除義務 | 修正が困難な場合、会社の求めに応じて投稿を削除する義務 |
| 連絡先維持義務 | 一定期間、連絡可能なメール・SNSアカウントを維持する義務 |
| 自社利用時の表示 | 会社が投稿を転載・引用する場合にもPR表示を維持するルール |
| 違反時対応 | 表示義務違反時の報酬不払い、削除要請、損害賠償等 |
| 証跡提出 | 投稿完了後、表示内容のスクリーンショット提出を求める条項 |
特に重要なのは、法令改正や行政指導を踏まえた「事後修正協力義務」です。マーケティング投稿は公開後も長期間ネット上に残るため、投稿時点で問題がなくても、後に表示修正が必要になることがあります。
8 解決結果
A社では、まず自社サイト、LP、広告、公式SNSで利用していたインフルエンサー投稿を最優先で確認し、PR表記のないものは削除または修正しました。
次に、検索上位に表示される投稿、直近1年以内の投稿、インプレッションの高い投稿を対象に、弁護士監修の修正依頼テンプレートを用いて、DMとメールで一斉に修正依頼を行いました。
その結果、主要投稿の大部分について、「PR」「広告」「A社から商品提供を受けています」といった表示を追記することができました。連絡が取れない投稿者については、送信履歴、不達記録、アカウント閉鎖記録、対応不能理由を一覧化し、社内コンプライアンス資料として保存しました。
また、今後のギフティング施策については、契約書・同意書・投稿依頼文・投稿チェックリストを改定し、投稿前後の管理フローを整備しました。
【A社が整備した管理フロー】
インフルエンサー選定
↓
同意書取得・広告表示義務の説明
↓
投稿文言・PR表記位置の事前確認
↓
投稿後スクリーンショット保存
↓
定期的な投稿モニタリング
↓
法令変更時・問題発生時の修正依頼
↓
対応履歴の保存
これにより、A社は過去投稿に関するリスクを大幅に低減し、上場準備においても、単なる未対応リスクではなく、把握・是正・再発防止が行われている管理課題として説明できる状態を整えました。
9 弁護士のコメント
ステマ規制への対応は、「過去投稿をすべて完全に消すか」「何もしないか」という二択ではありません。
法的には、施行日前に投稿されたものであっても、施行日後も閲覧可能であり、事業者が表示を管理できる実態がある場合には、規制対象となる可能性があります。そのため、「昔の投稿だから放置してよい」と考えるのは危険です。
一方で、数千件の投稿を一斉に完全修正することが現実的でない場合もあります。その場合に重要なのは、リスクの高い投稿から優先的に対応し、対応できなかったものについても、会社として合理的な努力をした証拠を残すことです。
特に、次の投稿は優先対応が必要です。
・自社サイト、LP、広告、ECページに掲載・引用している投稿
・検索上位、ハッシュタグ上位、インプレッションの多い投稿
・現在も販売中の商品に関する投稿
・商品提供や報酬提供の事実が明確な投稿
・PR表記がまったくなく、自然な口コミに見える投稿
ステマ規制で問われるのは、個々の投稿だけではありません。企業として、インフルエンサー投稿をどのように依頼し、確認し、保存し、修正し、再発防止しているかという管理体制そのものが問われます。
上場準備中の企業であればなおさら、過去投稿の棚卸し、修正依頼、対応不能記録、契約書改定、運用フロー整備までを一体として実施する必要があります。ステマ対応は、マーケティング部門だけの問題ではなく、法務、広報、IR、内部統制が連携して取り組むべきコンプライアンス課題です。

有森FA法律事務所は、「広告表現に不安があるけれど、何から始めていいか分からない」という方々の力になりたいと考えています。インターネット広告やSNSの普及で、広告に関する法律リスクも多様化してきました。広告チェックに関しては、全国からのご相談に対応しており、WEB会議や出張相談も可能です。地域を問わず、さまざまなエリアの事業者様からご相談をいただいています。身近な相談相手として、お気軽にご連絡ください。
