関税法違反で「刑事告発」されたら?

はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介

本日は、輸入実務において最も深刻かつ企業の存続を直接的に脅かす事態である、関税法違反に伴う刑事事件化のリスクについて、その法的構造から実務的な防御策までを網羅的に解説いたします。輸入トラブルは、単なる過少申告加算税といった行政処分の範囲に留まらず、悪質性が高いと判断された場合には、警察や税関の犯則調査部門による強制捜査を経て、検察庁への告発、さらには起訴へと発展する恐れがあります。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。

【相談者】

東京都内で海外の健康食品や雑貨の輸入卸売業を営む株式会社Z、代表取締役、田中氏(仮名)。

【相談内容】

「当社は、東南アジアの取引先から、現地で合法的に販売されているハーブティーを継続的に輸入しておりました。ところが、先日輸入した貨物について、税関の検査で『指定薬物』に該当する成分が含まれていると指摘され、貨物が差し押さえられました。それだけではなく、翌朝には税関の犯則事務調査官と警察官が会社と私の自宅に現れ、裁判所の令状に基づいてパソコンや書類、スマートフォンをすべて押収していきました。私は、当該製品に日本の法律で規制されている成分が含まれているとは全く知りませんでした。調査官からは『密輸の疑いがある』と言われ、逮捕されるのではないかと極度の不安の中にあります。また、過去の輸入において、取引先から送られてきたインボイスの価格が実際の送金額より低かったことも、意図的な脱税(アンダーバリュー)ではないかと追及されています。私は今後どうなるのでしょうか。会社を守るために、法的にどのような手を打てばよいのでしょうか。」

このような事例は、近年の薬物規制の強化や、税関による脱税摘発の高度化に伴い、決して他人事ではなくなっています。田中氏のように「知らなかった」という主張が法的にどのように評価されるのか、そして国家権力による強大な調査権限に対し、いかにして適正な防御権を行使すべきか。本日は、関税法違反の刑事罰の全容と、最悪の事態を回避するための弁護活動について、関係法令を詳細に引用しながら詳説いたします。

1 関税法違反における重罰化の現状と主要な罪状の法的解釈

関税法は、国の経済秩序を維持し、国民の安全を守るために、違反行為に対して極めて重い刑罰を規定しています。事後調査(行政調査)とは異なり、刑事罰を目的とした犯則調査の対象となった場合、以下の条文が直接の適用対象となります。

(一)輸入してはならない貨物を輸入する罪(密輸罪)

(関税法第百九条第一項)

「第六十九条の十一第一項第一号から第六号まで、第九号又は第十号に掲げる貨物を輸入した者は、十年以下の懲役若しくは三千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。」

この条文にいう「輸入してはならない貨物」には、麻薬、覚醒剤、指定薬物(薬機法関連)、銃火器、さらには知的財産権侵害物品が含まれます。田中氏の事例のように、指定薬物が含まれる製品を輸入した場合は、この密輸罪の容疑がかけられます。法定刑に「十年以下の懲役」が含まれていることから、非常に重大な犯罪として扱われることがわかります。

(二)関税を免れる罪(脱税罪・不当低価申告)

(関税法第百十条第一項第一号)

「偽りその他不正の行為により関税(中略)を免れた者は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。」

いわゆるアンダーバリュー(価格の過少申告)が「偽りその他不正の行為」と認定された場合に適用されます。この罪の恐ろしい点は、罰金額の特則です。同条第二項により、免れた関税額の十倍が、一千万円を超える場合には、罰金はその免れた関税額の十倍以下まで引き上げられます。例えば一億円の脱税であれば、最大十億円の罰金が科される可能性があるのです。

(三)無許可輸入罪

(関税法第百十一条第一項第一号)

「第六十七条(輸出又は輸入の許可)の規定に違反して貨物を輸入した者は、五年以下の懲役若しくは一千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。」

他法令(薬機法や食品衛生法等)の許可を得ていないことを隠して輸入を強行した場合や、申告自体を回避して貨物を引き取った場合に適用されます。

以下の表に、関税法における主要な犯罪類型と罰則の対比を整理いたしました。

┌──────────────────────────────────────┐

│       関税法違反における刑事罰の種類と法定刑の一覧表        │

├───────┬──────────────────┬───────────┤

│罪状の名称  │主な違反内容(該当条文)      │法定刑(最高刑)   │

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│禁制品輸入罪 │麻薬、指定薬物、拳銃等の密輸入   │10年以下の懲役又は │

│(密輸)   │(関税法第109条)        │3000万円以下の罰金│

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│関税脱税罪  │アンダーバリュー等の不正な価格申告 │10年以下の懲役又は │

│(価格操作) │(関税法第110条)        │脱税額の10倍の罰金 │

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│無許可輸入罪 │他法令の許可を得ずに輸入を強行   │5年以下の懲役又は  │

│(手続違反) │(関税法第111条)        │1000万円以下の罰金│

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│法人処罰   │従業員の違反に対する会社の責任   │上記各号の罰金刑を  │

│(両罰規定) │(関税法第117条)        │会社組織に対しても科す│

└───────┴──────────────────┴───────────┘

2 逮捕・勾留という身体拘束のリスクと社会的制裁

関税法違反、特に密輸容疑においては、捜査機関は極めて強力な姿勢で臨みます。刑事訴訟法の原則に基づき、罪を犯したと疑うに足りる相当な理由があり、かつ「証拠隠滅」や「逃亡」の恐れがあると判断されれば、逮捕・勾留の対象となります。

(一)身体拘束のプロセス

逮捕されると、警察や税関による取り調べが行われ、四十八時間以内に検察庁へ送致されます。その後、検察官が勾留を請求し、裁判官がこれを認めれば、原則として十日間、さらに延長されれば最大二十日間にわたり身柄を拘束されます。田中氏のような経営者が長期間不在となれば、会社の決済は止まり、従業員や取引先への説明もままならず、ビジネスは実質的に崩壊の危機に直面いたします。

(二)メディア露出と実名報道

関税法違反は「社会悪」としての側面が強調されやすいため、逮捕の段階で実名報道がなされるリスクが非常に高いです。インターネット上に一度拡散された情報は消去が困難であり、無罪を勝ち取った後であっても、企業のブランドイメージを回復させるのは至難の業となります。

(三)AEO制度等の認定取消し

刑事事件化された事実は、税関のコンプライアンス評価に致命的な影響を与えます。認定通関業者や認定輸入者としての資格は即座に剥奪され、今後のすべての取引において厳格な全量検査を課されるなどの不利益を被ることになります。

3 刑事裁判における最大の争点:故意(犯意)の存否と挙証責任

刑事事件において、検察側が有罪を立証するためには、被告人に「故意(わざと行ったこと)」があったことを証明しなければなりません。

(一)「知らなかった」という抗弁の限界

田中氏の事例において、「指定薬物だとは知らなかった」という主張は、法的には「事実の錯誤」として争点となります。しかし、単に主観的に知らなかったと言うだけでは足りません。

(刑法第三十八条第一項)

「罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。」

関税法違反においても、未必の故意(犯罪になるかもしれないが、それでも構わないという認識)があれば有罪となります。例えば、海外のセラーから「このお茶は日本で流行るが、成分の詳細は秘密だ」と言われていた場合や、インボイス価格が異常に低いことを認識しながらあえて確認しなかった場合には、未必の故意ありと判断される可能性が高いのです。

(二)客観的証拠(エビデンス)による立証

故意の有無を判断するために、捜査機関は押収したメール、LINEのやり取り、送金履歴、仕入先との契約書を徹底的に解析いたします。弁護活動においては、逆にこれらの客観的資料の中から、「輸入者が真摯に法令遵守に努めていたこと(適正価格の確認や成分調査の依頼など)」を示す証拠を抽出し、犯意を否定するロジックを構築する必要があります。

以下の表に、故意の有無を判断する際の税関・検察のチェックポイントをまとめました。

┌──────────────────────────────────────┐

│     関税法違反における「故意」の認定に係る判断基準一覧表       │

├───────┬──────────────────┬───────────┤

│検討要素   │故意(未必の故意を含む)を疑われる例│故意を否定し得る事情の例│

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│価格設定の経緯│実際の送金額とインボイス価格が乖離し│相場価格との整合性を示す│

│       │ていることを認識していた      │資料や価格交渉の記録 │

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│成分・品質確認│取引先から『税関を通りにくい』等の │第三者機関による事前検査│

│       │隠語や注意点を聞かされていた    │や成分表の提供要請記録│

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│隠蔽工作の有無│貨物を他の物品の中に隠して梱包したり│通常の梱包形態で輸入し、│

│       │虚偽の品名を記載したりした     │品名も正確に記載していた│

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│過去の指導歴 │過去に同様の不備で税関から厳重な  │過去に指摘を受けた際、 │

│       │警告を受けていたが改善しなかった  │即座に再発防止策を講じた│

└───────┴──────────────────┴───────────┘

4 犯則調査という特殊手続の峻烈さと法的防御の必要性

関税法に規定される「犯則調査」は、一般の税務調査とは全く異なる次元の強制的続きです。

(一)税関調査官の強大な権限

関税法第百十九条以下の規定に基づき、税関の犯則事務調査官は、裁判所の許可を得て、臨検、捜索、差押えを行う権限を有しています。

(関税法第百二十一条 臨検、捜索又は差押え)

「税関職員は、犯則事件を調査するため必要があるときは、その所属官署の所在地を管轄する地方裁判所(中略)の裁判官が発する許可状により、臨検、捜索又は差押えをすることができる。」

これは実質的に「関税警察」としての活動であり、被疑者は極限の心理的プレッシャーに晒されます。調査官による取り調べは、時に早朝から深夜に及び、密室での執拗な追及が行われることもあります。

(二)供述調書の決定的な重み

犯則調査の結果、作成される「供述調書」は、後の刑事裁判において最強の証拠となります。被疑者が一度「はい、脱税の意図がありました」や「成分が怪しいとは薄々感じていました」と認め、署名・押印してしまえば、それを後から「無理やり言わされた」と覆すことは、日本の司法制度においては極めて困難です。

(三)弁護士による早期介入のメリット

犯則調査の初期段階から弁護士が介入することには、以下の決定的なメリットがあります。

一 取り調べに対する法的アドバイス:憲法で保障された黙秘権(憲法第三十八条)をどのように行使すべきか、誘導的な質問にいかに対応すべきかを具体的に指導いたします。

二 不当な取り調べの監視:違法な長時間拘束や強迫的な言辞があれば、直ちに抗議し、捜査の適正化を求めます。

三 釈放および保釈の請求:逮捕・勾留された場合でも、速やかに裁判所に対して準抗告や保釈請求を行い、一日も早い身柄解放を目指します。

四 告発回避に向けた税関交渉:事案がそれほど悪質でない場合や、輸入者の過失が明白な場合には、検察庁への告発を見送らせ、行政処分(反則金の納付等)の範囲で解決するよう当局と粘り強く折衝いたします。

五 証拠の早期収集:捜査機関に押収される前に、無実を証明するためのメールや内部資料を保全し、防御のための武器を整えます。

5 企業を襲う「両罰規定」と組織としての防衛策

関税法違反は、実行した社員個人だけでなく、その法人に対しても罰則が及びます。

(関税法第百十七条 両罰規定)

「法人の代表者(中略)が、その法人又は人の業務又は財産に関し、次の各号に掲げる規定の違反行為をしたときは、その行為者を罰するほか、その法人又は人に対して当該各号に定める罰金刑を科する。」

この規定により、会社全体が犯罪者集団としての烙印を押され、多額の罰金によって倒産に追い込まれるリスクがあります。組織としての防御策としては、以下の三点が不可欠です。

一 コンプライアンス・プログラム(ICP)の構築:個人の独断による違反を許さない内部統制システムを整備すること。

二 定期的監査の実施:海外の取引先との連絡内容や送金状況を法務部門がチェックする体制を持つこと。

三 緊急対応マニュアルの策定:万が一、税関が家宅捜索に現れた際に、どの弁護士に連絡し、どのような初期対応をすべきかを事前に決めておくこと。

以下の表に、犯則調査における一般的な進行フローと各段階での重要事項を整理いたしました。

┌──────────────────────────────────────┐

│     関税法犯則調査の進行プロセスと法的アクションの要点        │

├───────┬──────────────────┬───────────┤

│手続の段階  │具体的な捜査の内容         │弁護士が行う防御活動 │

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│家宅捜索・差押│会社や自宅に調査官が入り、資料を押収│令状の範囲の確認、  │

│       │物理的な証拠をすべて確保される   │押収品目録の精査   │

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│取調べ・聴取 │被疑者として呼び出され、事実関係の │調書内容の事前確認、 │

│       │認否を執拗に追及される       │黙秘権行使の助言   │

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│身体拘束判断 │逮捕・勾留が行われるかどうかの決定 │勾留阻止、勾留理由開示│

│       │                  │準抗告の申立て    │

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│検察庁への告発│税関長が検察官に対し、刑事訴追を  │告発を差し控えるよう │

│       │求める公式な手続き         │意見書の提出・折衝  │

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│起訴・公判  │刑事裁判の開始。有罪・無罪や    │公判での無罪主張、  │

│       │量刑(執行猶予)の争い       │情状立証による減刑活動│

└───────┴──────────────────┴───────────┘

6 不測の事態を防ぐための日常的輸入ガバナンス

刑事事件化を防ぐための最良の策は、日常の業務において「不自然な点」を見逃さない誠実な体制です。

(一)インボイスの真正性確認

海外のサプライヤーに対し、「日本の関税法を遵守するため、一円の狂いもなく正確なインボイスを発行すること」を契約書(MOU)等で確約させてください。安易な値引き交渉の記録が、後に「脱税の共謀」と疑われないよう、正当な価格設定の根拠を常に文書化しておくことが肝要です。

(二)成分分析の徹底

特にハーブ、サプリメント、化学製品を扱う場合は、海外の証明書を鵜呑みにせず、輸入前に自らサンプルを取り寄せ、日本の登録検査機関で成分分析を実施してください。この「輸入前の確認作業」を行っているという事実こそが、万が一規制成分が混入していた際の「故意の否定」を支える最強の証拠となります。

(三)弁護士による定期的レビュー

当事務所では、輸入ビジネスを営む企業様に対し、事後調査や犯則調査を想定した「リーガル・シミュレーション」を実施しております。過去のメールのやり取りや契約書が、捜査機関の目から見てどのように映るかを事前に分析することで、致命的な脆弱性を修正することが可能です。

7 まとめ

本日は、輸入実務において最悪の事態とされる「関税法違反の刑事事件」について、その詳細を解説いたしました。田中氏のようなケースであっても、初期段階から弁護士が介入し、成分分析の依頼履歴や価格交渉の正当なプロセスを論理的に提示できていれば、刑事告発を回避し、過失による行政処分の範囲で事態を収束させることが可能でした。

刑事事件は、一度動き出すと国家の巨大な歯車によって個人や企業の力が及ばないところまで運ばれてしまいます。「自分は悪いことをしていないから大丈夫」という確信が、必ずしも法的な安全を保証するものではありません。

正しい法令知識に基づき、万全の準備を整えること。そして、万が一の際には迷わず専門家の門を叩くこと。その決断が、貴社の未来と大切な従業員の人生を守ることに繋がります。

【お問合せは、こちらから】

・・・・・・・・・・・

執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

 

無料相談ご予約・お問い合わせ

 

ページの上部へ戻る

トップへ戻る

03-5877-4099電話番号リンク 問い合わせバナー