輸入販売におけるPL法のリスク管理

はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介

本日は、海外から商品を仕入れて国内で販売する際に、多くの事業者が「自分は作っていないから関係ない」と誤解しがちな、製造物責任法(以下、PL法といいます。)の重大なリスクについて詳述いたします。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。製造工程に関与していない輸入者が、なぜ莫大な賠償責任を負わされるのか、その法的な厳しさを理解する重要な一場面となるかと思います。

【相談者】

神奈川県内で最新のスマートフォン関連機器やモバイルバッテリーの輸入卸売業を営むA社 代表取締役 B氏

【相談内容】

「当社はこの度、アジアのメーカーが開発した、大容量かつ安価なモバイルバッテリーを一万個仕入れ、自社のECサイトや家電量販店を通じて販売いたしました。当該製品は現地では大手ショップでも扱われており、B氏はメーカーからの安全検査報告書を確認した上で輸入を決定しました。ところが、販売開始から三ヶ月後、購入者の一人から『充電中にバッテリーが異常発熱して発火し、自宅の絨毯と家具が焼けた。さらに消火の際に手に大火傷を負った』という連絡がありました。被害者は当社に対し、治療費や家財の損害、慰謝料を含め五百万円の賠償を求めています。B氏は『当社は輸入しただけで、設計ミスや製造ミスは海外メーカーの責任だ。メーカーに直接請求してほしい』と回答しましたが、被害者の弁護士からは『PL法に基づき、輸入者がすべての責任を負う義務がある』と反論されています。B氏は、製造に関わっていない自社がなぜこれほど重い法的責任を負わなければならないのか、また、海外メーカーにこの損害を転嫁することはできるのか、専門的な見地からの詳細な解説を求めています」

このような事例は、輸入ビジネスにおいて「知らなかった」では済まされない最も致命的な法的トラブルの一つです。海外から仕入れた商品を日本国内で販売する場合、たとえ製造していなくても、輸入者が製造物責任を問われる可能性があります。製造物責任法により、製造者だけでなく、輸入者や特定の表示を行った者にも法的責任が及ぶため、細心の注意が必要です。本日は、輸入販売におけるPL法のリスクと、それに対する予防策について、法令の条文に基づき詳細に解説いたします。

1 製造物責任法(PL法)の基本理念と無過失責任の原則

まず、PL法がどのような法律であり、なぜ輸入者にとって過酷な内容となっているのかを正しく理解する必要があります。PL法は、製品の欠陥により消費者が被害を受けた際、被害者を迅速に救済することを目的としています。

(製造物責任法第一条 目的)

この法律は、製造物の欠陥により人の生命、身体又は財産に係る被害が生じた場合における製造業者等の損害賠償の責任について定めることにより、被害者の保護を図り、もつて国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。

(製造物責任法第三条 製造物責任)

製造業者等は、その引き渡した製造物の欠陥により他人の生命、身体又は財産を侵害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責任を負う。

通常の民法上の不法行為責任(民法第七百九条)では、被害者が「加害者に過失(落ち度)があったこと」を証明しなければなりませんが、PL法においては、輸入者に過失がなくても「製品に欠陥があったこと」さえ証明されれば、賠償責任が発生いたします。これを「無過失責任原則」と呼びます。B氏の事例において、たとえA社が検品を尽くしていたとしても、バッテリー自体に潜在的な欠陥があれば、責任を免れることはできません。

2 なぜ「輸入者」が「製造業者等」とみなされるのか

PL法において、損害賠償の主体となる「製造業者等」の定義には、驚くべきことに輸入者が明確に含まれています。

(製造物責任法第二条第三項 製造業者等)

この法律において「製造業者等」とは、次のいずれかに該当する者をいう。

一 当該製造物を業として製造、加工又は輸入した者

二 自ら当該製造物の製造業者として当該製造物にその氏名、商号若しくは商標(以下「氏名等」という。)を表示した者又は当該製造物にその製造業者と誤認させるような氏名等を表示した者

三 (中略)当該製造物の製造、加工、輸入又は販売に係る事業の実態その他の事情からみて、当該製造物にその実質的な製造業者と認めることができる氏名等を表示した者

なぜ、作っていない輸入者がこれほど重い責任を負わされるのでしょうか。その法理的な背景には以下の三つの理由があります。

(一)被害者救済の実効性。海外の製造者に対して、日本の消費者が直接訴訟を起こすことは、言語の壁や裁判管轄、執行の困難さから見て現実的ではありません。そこで、商品を国内に持ち込んだ「輸入者」を責任の窓口とすることで、被害者が容易に救済を受けられるようにしています。

(二)利益の帰属とリスクの負担。海外製品を輸入して利益を得ている者は、その製品から生じるリスクも併せて負担すべきであるという考え方(報償責任の原則)に基づいています。

(三)ゲートキーパーとしての役割。輸入者は、どのような製品を国内に流通させるかを選択できる立場にあります。法は輸入者に対し、安全な製品のみを選択して輸入するという「門番」としての役割を期待しているのです。

3 PL法における「欠陥」の三つのカテゴリー

輸入者が賠償責任を負うかどうかの分かれ目は、製品に「欠陥」があったか否かです。PL法上の欠陥は、単なる「故障」よりも広い概念であり、以下の三種類に分類されます。

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PL法における「欠陥」の定義と具体的類型一覧表

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欠陥の類型|法的な意味合い|輸入ビジネスにおける具体例

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設計上の欠陥|製品の設計段階で安全性への配慮が不足しており、事故を招く構造になっている場合|モバイルバッテリーの保護回路の設計ミス、強度が不足したベビーカーの構造

製造上の欠陥|設計は正しいが、製造工程でのミスにより、一部の個体において品質にバラツキが生じた場合|配線のハンダ付け不良によるショート、異物の混入、ネジの締め忘れ

指示・警告上の欠陥|製品自体に不備はないが、適切な使用方法や危険性に関する情報提供が不足している場合|日本語での注意書きがない、警告ラベルが剥がれやすい、誤飲の危険性を明記していない

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特に輸入者が注意すべきは「指示・警告上の欠陥」です。海外メーカーの取扱説明書をそのまま翻訳しただけでは、日本の法基準や安全意識に適合しない場合があります。警告不足を理由に、輸入者が一億円を超える賠償を命じられた判例も存在します。

4 想定されるPLリスクの具体的ケーススタディ

輸入販売におけるPL事故は、あらゆる商材で発生する可能性があります。代表的なリスクを整理いたしました。

一 電子機器・家電製品

リチウムイオン電池の発火、プラグの過熱による火災。これらは建物への延焼など、損害が数千万円から数億円に達するリスクを孕んでいます。

二 化粧品・サプリメント・健康食品

成分による重篤なアレルギー反応や肌荒れ。長期的な健康被害が生じた場合、将来にわたる逸失利益を含めた莫大な賠償が必要となります。

三 玩具・子供用品

部品の脱落による誤飲窒息、鋭利な角による負傷。子供に関する事故は、社会的批判(レピュテーションリスク)も極めて強く、企業の存続に直結いたします。

四 アパレル・繊維製品

染料による皮膚炎、装飾品の脱落、または難燃性の欠如による火傷。

これらすべてのケースにおいて、被害者は「海外メーカー」ではなく「あなたの会社(輸入者)」を訴えてくるのです。適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です。

5 PL訴訟・クレーム発生時の実務的対応フロー

万が一、自社が輸入した製品で事故が発生した場合、迅速かつ的確な初動対応が、被害の拡大と法的責任の重さを左右します。

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PL事故発生時の緊急対応フローチャート

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ステップ一:事実関係の即時確認

被害の程度、発生日時、製品のシリアル番号、事故時の使用状況を詳細に聞き取る

ステップ二:証拠品の確保

事故を起こした現物を回収する。写真は多角的に撮影し、勝手に解体や廃棄をしない

ステップ三:法的アドバイスの受領

弁護士に相談し、PL法上の欠陥に該当するか、免責事由があるかを法的に鑑定する

ステップ四:関係当局への報告

重大事故の場合、消費生活用製品安全法に基づき、消費者庁等への報告義務が生じる

ステップ五:被害者への誠実な対応

謝罪と事実調査の進捗報告を行う。この段階での「責任の断定」は慎重に行う

ステップ六:リコール(回収)の検討

同種製品による再発の恐れがある場合、速やかにリコールを告知し被害拡大を防ぐ

ステップ七:保険会社への通知

加入しているPL保険の担当者に連絡し、査定と賠償手続きの準備を開始する

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6 海外メーカーとの契約によるリスク移転の要諦

輸入者がPL法上の責任を免れることは困難ですが、支払った賠償金を海外メーカーに肩代わりさせる、あるいは後から請求する(求償)ための法的基盤を築くことは可能です。

(一)PL補償条項(Indemnification Clause)の導入

売買契約書において、「製品の欠陥に起因して輸入者が第三者に賠償を行った場合、売主(海外メーカー)は、弁護士費用を含めたすべての損害を輸入者に補償する」旨を明記します。

(二)製造者による保険加入の義務付け

海外メーカー自身に、世界的に有効な「海外PL保険」への加入を義務付け、その証券の写しを提出させることも有効なリスクヘッジです。

(三)表明保証(Representations and Warranties)

製品が日本の安全規格(PSE、SC、STマーク等)に完全に適合していることを契約上で保証させます。

(四)協力義務

万が一訴訟になった際、海外メーカーが技術的なデータや図面を迅速に提供し、証言に協力することを義務付けます。

7 輸入者が構築すべき多重的な防衛体制(ICP)

契約書だけでは不十分です。実務面において以下の四つの柱を確立し、社内輸入管理体制を強化することが不可欠です。

一 厳格な品質検査(インスペクション)

海外工場での出荷前検査だけでなく、日本到着時にも抜き取り検査を実施し、その記録を永続的に保存してください。これは、後に「欠陥は輸入時には存在しなかった(消費者の誤使用である)」と反論するための重要な証拠となります。

二 日本語の警告表示と取扱説明書の最適化

翻訳会社任せにせず、日本の法規制に詳しい専門家のチェックを受け、「警告マーク」や「禁止事項」が視覚的に分かりやすく表示されているかを確認してください。

三 PL保険(生産物賠償責任保険)への加入

どれだけ対策をしても事故はゼロにはなりません。中小企業であっても、高額な賠償に対応できるPL保険への加入は、輸入ビジネスを継続するための「必要経費」と捉えるべきです。

四 専門家との顧問契約

PL法だけでなく、関税法や他法令に精通した弁護士を味方につけておくことで、トラブルの芽を未然に摘み取ることが可能となります。当事務所は、代表弁護士が輸出入の国家資格である通関士資格を保有しており、法務と物流実務の双方から貴社を守ります。

8 まとめ:適正な管理こそがグローバルビジネスを安定させる唯一の道

本日は、輸入販売における最大の法的懸念事項である製造物責任(PL法)について解説いたしました。B氏のようなケースであっても、当初からPL法のリスクを認識し、海外メーカーとの契約で強力な補償条項を設け、かつ適切な警告表示とPL保険の準備を整えていれば、五百万円の賠償という事態が会社を揺るがす危機になることはありませんでした。

企業としては、輸入する貨物の利益や人気のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面や責任面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。

正しい法令知識に基づき、一つひとつの取引を精査すること。その地道な努力が、貴社のグローバルビジネスを安定させ、不測の事態から会社を守ること、そして何より日本の消費者の安全を守ることに繋がります。当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮して、安定した海外展開や、万が一のPL事故における法的防衛をサポートし続けます。適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です。

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

 

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