このページの目次
1 はじめに―相談事例
海外から魅力的な製品を輸入し国内で販売するビジネスは大きな収益機会となりますが、同時に国内の製造業者と同様、あるいはそれ以上に重い法的責任を負うリスクが伴います。まずは、輸入者が直面し得る具体的なトラブル事例を見てみましょう。
【相談者】
冷凍食品輸入販売業 R社 コンプライアンス担当者
【相談内容】
「当社では、北米の食品加工メーカーから冷凍ベリー類を輸入し、国内の製菓メーカーや飲食店向けに卸売を行っております。ところが先日、当社の製品を使用した飲食店において、顧客複数名が激しい腹痛を訴え、ウイルス性食中毒と診断される事態が発生しました。 保健所の調査により、提供されたメニューに使用されていた当社の冷凍ベリーからウイルスが検出されました。飲食店側からは、製造物責任法に基づき、被害者への賠償金や営業停止期間中の損失について損害賠償を請求されています。 当社はあくまで海外から仕入れてそのまま転売している立場であり、自社で加工や製造を行っているわけではありません。それにもかかわらず、国内のメーカーと同じように重い賠償責任を負わなければならないのでしょうか。また、汚染が輸入前の製造工程で起きたのか、それとも国内の流通段階で起きたのかが不明確な場合、責任の所在はどう判断されるのか詳しく教えてください」
このような状況は、食品に限らず、家電、玩具、産業機械など、あらゆる輸入品のビジネスにおいて起こり得ます。以下、製造物責任法(PL法)に基づき、輸入者が負うべき責任の範囲とその詳細を解説します。
2 輸入品における製造物責任の法的根拠
輸入品によって消費者に生命、身体または財産上の被害が生じた場合、その責任を負うのは海外の製造メーカーだけではありません。日本の法律上、輸入者は極めて重い責任を負う立場にあります。
(1)製造業者としての輸入者
製造物責任法第3条では、製造物の欠陥により他人の生命、身体または財産を侵害したときは、製造業者等がその損害を賠償する義務を負うと規定されています。 ここで重要となるのが、同法第2条第3項による製造業者等の定義です。
製造物責任法第2条第3項
「この法律において「製造業者等」とは、次のいずれかに該当する者をいう。
一 当該製造物を業として製造、加工又は輸入した者(以下単に「製造業者」という。)」
第1号にある通り、自ら製造を行っていなくても、当該製品を「輸入した者」は、法律上「製造業者」と全く同一の責任を負うことになります。これは、海外の製造者に直接訴訟を提起することが困難な消費者に対し、国内の窓口である輸入者に責任を負わせることで、消費者の保護を図るという政策的な配慮に基づく規定です。
(2)輸入者が負う無過失責任
製造物責任の大きな特徴は、不法行為(民法第709条)とは異なり、輸入者に過失(不注意)があったかどうかを問わない「無過失責任」であるという点。製品に欠陥があり、それによって損害が生じたという因果関係さえ証明されれば、輸入者は「注意して仕入れを行っていた」と主張しても責任を免れることはできません。
3 製造物責任法における欠陥の概念
輸入者が責任を負う前提となる「欠陥」とは何を指すのでしょうか。 製造物責任法第2条第2項では、以下のように規定されています。
「この法律において「欠陥」とは、当該製造物の特性、その通常予見される使用形態、製造業者が当該製造物を引き渡した時期その他の当該製造物に係る事情を考慮して、当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいう」
実務上、欠陥は以下の3つの類型に分類されます。
1.設計上の欠陥
製品の設計段階で安全性の配慮が不足しており、製品ライン全体が危険性を有している状態
2.製造上の欠陥
設計通りに作られず、製造工程でのミスや異物混入などにより、個別の個体に不備が生じた状態。食品の細菌汚染などは多くの場合これに該当。
3.指示・警告上の欠陥
製品自体には問題がなくても、正しい使用方法や危険性に関する情報が適切に提供されていない状態。海外製品の日本語説明書が不十分な場合などに発生しやすい論点。
4 輸入品特有の論点-汚染・欠陥時期の特定
輸入者の責任を考える上で最も過酷な争点となるのが、欠陥が生じた「時期」の問題。 前述の通り、輸入者は製造業者とみなされますが、それはあくまで「輸入した時点の製品の状態」に対して責任を負うものです。したがって、欠陥が輸入前に生じていたのか、それとも輸入後に国内で生じたのかが極めて重要です。
(1)汚染時期と責任の所在
食品の事例で言えば、細菌やウイルスが「海外の工場で混入した(輸入前の欠陥)」のであれば、輸入者は製造業者として責任を負います。一方で、国内に到着し、輸入者が販売業者に引き渡した後に、その販売業者の保管不備によって細菌が混入したのであれば、それは製造物責任の対象外となります(この場合は、原因を作った業者の不法行為責任が問われることになります)。
(2)立証責任の壁
裁判実務において、被害者(消費者)は「製品に欠陥があったこと」を証明する必要がありますが、「どの時点で欠陥が生じたか」を厳密に証明することは困難。そのため、裁判所は、製品の流通経路や細菌の特性などから、経験則に基づいて汚染時期を「推定」する傾向にあります。
5 裁判例から学ぶ実務上の判断基準
輸入品の製造物責任、特に汚染時期の判断について参考となる主要な裁判例を整理します。
(1)カナダ産馬刺しO157感染事件(東京地裁平成16年8月31日判決)
カナダから輸入された馬刺しを食べた消費者がO157による食中毒を起こした事案。
この裁判では、細菌による汚染がカナダでの屠畜・加工段階で生じたのか、あるいは日本国内でのカット・分装工程で生じたのかが争われました。
裁判所は、当該細菌の汚染経路には複数の可能性があり、輸入前の段階で汚染されていたと断定するには不十分であるとして、輸入者の製造物責任を否定。汚染経路が不明確な場合には輸入者が救済される可能性を示した事例となります。
(2)輸入瓶詰オリーブ食中毒事件(東京地裁平成13年2月28日判決)
輸入された瓶詰のオリーブからボツリヌス菌が検出され、重篤な食中毒が発生した事案。 この裁判では、検出されたボツリヌス菌が日本国内では極めて稀な型(B型)であったことや、瓶の密封状態に不備があったことなどの証拠に基づき、裁判所は「商品の開封前に、製造工程において既に細菌が混入していた」と事実上推定。輸入者側は製造工程に落ち度がなかったことを主張しましたが、結果として輸入者の製造物責任が肯定された事例です。
(3)輸入クロスバイク転倒事故(東京地裁平成25年3月25日判決)
食品以外では、輸入されたスポーツ自転車(クロスバイク)の前フォークが走行中に折損し、ライダーが重傷を負った事案。裁判所は、フォークの強度不足または製造工程での不備(溶接不良等)を認め、輸入者の製造物責任を肯定。海外メーカーの品質管理が不十分であっても、輸入者がそのすべての責任を肩代わりすることになる実態が浮き彫りとなった判決です。
6 輸入者が講じるべきリスク管理策
輸入品によるPL事故は、企業の存続を揺るがす甚大な損害をもたらします。輸入者が実務上講じるべき対策を以下の表にまとめました。ワードデータ等に貼り付けて社内体制のチェックリストとして活用できる形式。
【輸入者のための製造物責任リスク管理チェックリスト】
|対策項目|具体的なアクション内容|
|海外メーカー選定|ISO取得状況や現地の品質管理体制を監査し、信頼性を確認。|
|品質保証契約の締結|海外メーカーとの契約に、PL事故発生時の求償規定(責任分担)を明記。|
|受入検査の徹底|国内到着時にサンプル検査を実施し、欠陥がないことを記録として保存。|
|説明書・ラベルの整備|日本の法令(家庭用品品質表示法等)に合致した正しい日本語表記と警告を表示。|
|PL保険への加入|万が一の巨額賠償に備え、輸出入をカバーする生産物賠償責任保険を契約。|
|トレーサビリティの確保|ロット番号等により、どの製品がいつ、誰に販売されたかを追跡できる体制を構築。|
7 紛争発生時の法的アプローチ
万が一、自社が輸入した製品で事故が発生した場合には、迅速な法的対応が求められます。
(1)原因究明の専門性
汚染原因や破損原因の特定には、科学的な分析が不可欠です。当事務所では、専門の鑑定機関とも連携し、欠陥が輸入前に存在したのか、それとも使用者の誤使用や国内流通時の過失によるものなのかを精査します。
(2)海外メーカーへの求償
国内の消費者に賠償金を支払った後、輸入者は海外の製造メーカーに対して、支払った金額の払い戻しを求める(求償権の行使)ことができます。しかし、海外の法律や裁判手続きが壁となるため、国際私法に精通した弁護士のアドバイスが必須です。
8 弁護士へのご相談をご希望の方へ
当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する国家資格である通関士資格を有しており、輸出・輸入や通関上のトラブル、さらには輸入品に伴う製造物責任問題に関するご相談を幅広くお受けしております。
弁護士に相談をした方がよいかお悩みの方もいらっしゃるものと存じますが、お悩みをご相談いただくことで、以下のようなメリットを提供し、お悩み解消の一助となることができます。
・PL法上の「製造業者等」としての法的リスクの事前診断
・事故発生時の被害者交渉、及びマスコミ対応等のクライシス・マネジメント
・海外メーカーとの英文契約書(PL条項等)の作成・修正
・裁判例に基づいた、汚染時期や欠陥の有無に関する専門的意見の提供
輸出・輸入や通関に関するトラブル、税関事後調査を含む税関対応等でお悩みの場合には、ご遠慮なく当事務所までご相談ください。法律と実務の両面から、貴社のビジネスを強固にサポートいたします。
9 おわりに
輸入ビジネスにおける製造物責任は、輸入者が想像している以上に厳格なもの。海外で作られたものだからといって、責任を海外に押し付けることは日本の法制度上できません。
しかし、適切な予防策を講じ、万が一の際にも裁判例に基づいた論理的な主張を行うことで、不当な不利益を回避することは可能です。
本記事の解説が、読者の皆様の安全な輸出入実務の一助となれば幸いです。正確な知識を持ち、リスクをコントロールすることこそが、グローバルビジネスを成功させるための鍵です。
【輸入品の製造物責任に関する重要ポイントの再確認】
・輸入者は法律上、国内製造業者と全く同じ責任を負うこと
・製品の欠陥があれば過失がなくても賠償義務が生じること
・汚染や欠陥が輸入前に生じていたかどうかが最大の争点であること
・裁判では細菌の特性や流通経路から汚染時期が推定されること
・海外メーカーとの契約やPL保険の活用がリスク回避の基本であること
適正な申告と安全な製品流通を通じて、貴社のビジネスがさらに発展することを願っております。
【お問合せは、こちらから】
・・・・・・・・・・・
執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。

