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0 はじめに
まずは,当事務所に寄せられた具体的な相談事例をご紹介いたします。
「私は海外の高級ブランドの公式オンラインサイトから,自分自身で使用するために五十万円の腕時計を購入いたしました。個人輸入の場合,実際に支払った小売価格をそのまま申告するのではなく,卸売価格に引き下げて関税を計算できるという特例があると聞きました。この特例は,どのような場合に適用されるのでしょうか。また,知人へのプレゼントとして輸入する場合や,帰国時に別送品として送る場合でも適用されるのか教えてください。さらに,商売目的の輸入とみなされないための注意点についても,専門的な見地から詳しく解説をお願いいたします」
個人の趣味や生活のために海外から物品を輸入するケースは,電子商取引の普及により飛躍的に増加しております。このような個人的な使用を目的とした輸入については,一般の商業輸入とは異なる特別な課税価格の算定方法が認められています。本稿では,関税定率法に基づく個人的使用の特例について,法令の規定を交えて詳しく解説いたします。
1 課税価格決定の原則的ルール
輸入貨物の課税価格は,原則として,その貨物の輸入取引がされた場合において,買手から売手に対し現実に支払われた,または支払われるべき価格である「決定価格」に基づいて算出されます。
これは関税定率法第四条第一項に規定されている原則です。通常の商業取引では,卸売段階で購入された貨物は卸売価格,小売段階で購入された貨物は小売価格をベースとして課税価格を決定いたします。しかし,個人が自分自身の生活で使用するために小売価格で購入した貨物に対し,そのままの価格で課税することは,商業目的で大量に輸入する業者との比較において,税負担が重くなりすぎるという懸念があります。
2 個人的に使用する貨物の課税価格の特例
そこで,関税定率法第四条の六第二項等において,個人的な使用に供される貨物に係る課税価格決定の特例が設けられています。
(1)特例の対象となる貨物
本条の対象となるのは,以下のいずれかに該当する貨物です。
①本邦に入国する者が携帯して輸入する貨物
②その輸入取引が小売段階によるものと認められる貨物で,輸入者の個人的な使用に供されると認められるもの
③日本に居住する者に寄贈される貨物で,その寄贈を受ける者の個人的な使用に供されるもの
これらは,たとえ小売価格で購入されたものであっても,その課税価格は「通常の卸売取引の段階でされたとした場合の価格」により決定することとされています。
(2)通常の卸売取引の段階の意義
ここでいう通常の卸売取引の段階とは,国内の卸売業者が再販売等の商業目的のために,輸入貨物と同種の貨物を輸入する場合の取引段階を指します。
実務上,税関ではこの「卸売価格」を算出する際,実際の小売価格に「〇.六」を乗じた金額,すなわち小売価格の六十パーセントを課税価格とする運用を行っています。
以下に,特例が適用される具体的なケースを整理した流れを掲載いたします。
【表1 個人特例の適用対象となるケース一覧】
区分の詳細/具体的な形態/課税価格の計算方法
携帯品 海外旅行の帰国時に本人が持ち帰る荷物 小売価格の六十パーセント
別送品 入国後に届くように別途送付した荷物 小売価格の六十パーセント
通信販売 海外サイトから自分用に直接購入した物品 小売価格の六十パーセント
個人依頼 海外の知人に頼んで小売店で買ってもらった物 小売価格の六十パーセント
寄贈品 海外から個人的なプレゼントとして届く荷物 小売価格の六十パーセント
3 適用範囲に関する詳細な法的定義
この特例の適用範囲については,関税定率法施行令や基本通達において詳細に定義されています。
(1)携帯品と別送品の取り扱い
「本邦に入国するものにより携帯して輸入される貨物」には,関税定率法施行令第十四条に規定される手続きを経て,別送して輸入される貨物も含まれます。
これは,帰国時に空港で「別送品申告書」を提出することで,後から届く荷物についても本人の携帯品と同様の特例が受けられる仕組みです。
(2)通信販売等の小売取引
「その他その輸入取引が小売取引の段階によるものと認められる貨物」とは,一般消費者が海外のインターネットサイトを通じて購入する場合や,海外の知人に依頼して店舗で購入してもらう場合を指します。
(3)寄贈品の取り扱い
自分でお金を払って購入したものではなく,海外の親族や友人から無償で送られてきた寄贈品であっても,それが個人的な使用目的であれば,卸売価格への引き下げが適用されます。この場合,貨物の市場価値(小売価格相当)の六十パーセントが課税価格となります。
4 実務上の留意点とリスク管理
この特例は非常に有利な制度ですが,適用にあたっては厳格な条件があります。
(1)個人的使用の認定
最も重要なのは「個人的な使用に供される」と認められるかどうかという点です。
輸入した貨物を日本国内で販売する目的がある場合や,事業のために使用する場合は,たとえ一個の輸入であっても「商業輸入」とみなされ,特例は適用されません。卸売価格への引き下げが認められず,実際の購入価格全額に対して課税されます。
(2)数量と頻度のチェック
同一の物品を短期間に大量に輸入したり,頻繁に輸入を繰り返したりしている場合,税関から販売目的を疑われる可能性があります。この際,個人的な使用であることを客観的に説明できないと,一般の商業通関として扱われるリスクがある点
(3)虚偽申告の禁止
関税を安くするために,実際よりも低い価格をインボイスに記載させたり,個人的な贈り物と偽って商業貨物を輸入したりすることは,関税法違反(脱税)に問われる重大な違法行為です。
以下に,個人輸入と商業輸入の主な違いを比較表としてまとめました。
【表2 個人輸入と商業輸入の比較】
比較項目/個人的な使用(特例適用)/商業目的・販売目的(原則通り)
課税価格のベース/小売価格の六十パーセント/実際の取引価格(卸売価格等)
法令の適用条文/関税定率法第四条の六第二項/関税定率法第四条第一項
他法令の規制/一部免除や緩和がある場合あり/食品衛生法や薬機法等が厳格に適用
必要書類/インボイスや領収書等/インボイス,契約書,各種許認可証等
5 弁護士へのご相談をご希望の方へ
個人的な使用を目的とした輸入であっても,高額な物品や希少な貨物を取り扱う場合には,税関との見解の相違が生じることが少なくありません。特に,個人輸入を装った商業輸入ではないかという疑義をかけられた場合,適切な法的主張を行わなければ,多額の追徴課税や加算税を課される恐れがあります。当事務所は,代表弁護士が輸出入や通関に関する国家資格である通関士資格を保有しております。法律の専門家としての知見と,通関実務の視点を融合させ,以下のような課題に対して強力なサポートを提供いたします。
①輸入貨物が「個人的な使用」に該当するかどうかの法的な判定と助言
②税関による事後調査や確認に対する適切な説明資料の作成支援
③別送品申告の不備や手続き上のミスに関する救済
④商業輸入とみなされた場合の更正処分に対する不服申立て手続き
⑤海外の販売店とのトラブルや契約上の問題解決
輸出入や通関上のトラブルでお悩みの方,あるいはご自身の輸入手続きが適正かどうか不安を感じておられる方は,ぜひお気軽に当事務所までご相談ください。通関士の資格を持つ弁護士だからこそできるリーガルサービスをご提供いたします。
【お問合せは、こちらから】
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。

