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1 相談内容
X(旧Twitter)で、私個人を攻撃する匿名アカウント、いわゆる「裏垢」に悩まされています。
相手のプロフィール画像は初期設定のままで、名前も適当な文字列です。投稿内容からすると、私のプライベートな情報を知っているようなので、現実の知人ではないかと思っています。しかし、相手が誰なのかを示す証拠はありません。
「Xは匿名性が高いから、投稿者を特定するのは難しい」と聞いたことがあります。このような「捨て垢」や「裏垢」のような匿名アカウントでも、法的手続きによって相手の正体を突き止めることはできるのでしょうか。
2 弁護士の回答-匿名アカウントでも、投稿者を特定できる可能性があります
結論からいうと、X上の「裏垢」や「捨て垢」であっても、発信者情報開示請求などの法的手続きを通じて、投稿者を特定できる可能性があります。
たしかに、Xではアカウント名やプロフィール画像を見ただけでは、投稿者の氏名や住所は分かりません。初期アイコン、意味のないユーザー名、投稿数の少ないアカウントであれば、外見上は身元につながる情報がほとんどないこともあります。
しかし、匿名アカウントであっても、そのアカウントを作成・利用するためには、通常、インターネット回線を通じてログインしています。つまり、アカウントの表面上は匿名でも、裏側には通信記録が残っている可能性があります。
Xに対する発信者情報開示請求では、問題となる投稿に関連するログイン時のIPアドレスやタイムスタンプなどの情報が重要な手がかりになります。裁判例でも、Xのアカウントへのログイン時のIPアドレス等が、権利侵害に関係する発信者情報として問題とされた事案があります。ウェブ
したがって、「裏垢だから絶対に特定できない」「捨て垢だから安全」というわけではありません。むしろ、投稿者が自宅のWi-Fiや自分のスマートフォン回線を使ってログインしていれば、その通信記録をたどることで、契約者情報に行き着く可能性があります。
3 特定の鍵になるのは「ログイン情報」です
Xの投稿者を特定する場合、重要になるのが「ログイン情報」です。
以前は、投稿そのものが行われた際のIPアドレス、いわゆる投稿時IPアドレスが重視されることがありました。しかし、SNSの仕組みやログの保存状況によっては、投稿時の通信記録が十分に残っていないことがあります。
そこで現在の実務では、問題となる投稿をしたアカウントについて、投稿に近接するログイン時のIPアドレスやタイムスタンプの開示を求めることが重要になります。
X社から開示される情報だけで、直ちに投稿者の氏名・住所が分かるとは限りません。Xのアカウントには、実名や住所が登録されていないことも多いためです。
一般的な流れとしては、まずX社に対し、問題の投稿をしたアカウントについて、ログイン時のIPアドレス、タイムスタンプ、登録メールアドレス、電話番号などの開示を求めます。そのうえで、開示されたIPアドレスをもとに、インターネット接続事業者を特定します。そして、その接続事業者に対し、該当する日時にそのIPアドレスを利用していた契約者の氏名・住所の開示を求めることになります。ウェブ
このように、X社に対する手続きと、接続事業者に対する手続きの双方を通じて、投稿者の特定を進めていくのが基本的な流れです。
4 「本垢とは別だから大丈夫」とは限りません
加害者側は、「普段使っている本アカウントとは別のメールアドレスで作ったから大丈夫」「プロフィールに何も書いていないからバレない」「投稿後にアカウントを消せば分からない」と考えていることがあります。
しかし、発信者情報開示請求で重要になるのは、アカウント名や登録メールアドレスだけではありません。むしろ、実務上大きな意味を持つのは、そのアカウントにログインした際の接続元です。
たとえば、投稿者が裏垢に自宅のWi-Fiからログインしていれば、その通信は自宅のインターネット回線を経由しています。また、自分のスマートフォンの携帯キャリア回線からログインしていれば、その通信記録は携帯電話会社側の契約者情報につながる可能性があります。
つまり、アカウントを複数持っていたとしても、同じ端末や同じ回線からログインしていれば、特定の手がかりが残ることがあります。
もちろん、開示された契約者が直ちに投稿者本人であるとは限りません。家族名義の回線、会社や学校のネットワーク、共有Wi-Fiなどが使われている場合には、さらに事実関係の検討が必要です。それでも、通信記録をたどることで、少なくとも投稿者に近づく重要な情報を得られる可能性があります。
5 リポストだけでも責任を問われる可能性があります
「自分で投稿したわけではなく、リポストしただけ」という場合でも、法的責任を免れるとは限りません。
他人の投稿をリポストする行為であっても、その内容や態様によっては、名誉毀損、プライバシー侵害、肖像権侵害などが問題となる可能性があります。特に、誹謗中傷や個人情報の暴露を含む投稿を拡散した場合、その拡散行為自体が被害を拡大させることがあります。
そのため、悪質な投稿を繰り返しリポストしているアカウントについても、事案によっては発信者情報開示請求の対象となり得ます。
「自分の言葉で書いていないから問題ない」「リポストしただけだから責任はない」と安易に考えることはできません。拡散によって被害が広がった場合には、投稿者本人だけでなく、拡散したアカウントについても対応を検討する必要があります。
6 発信者情報開示請求が認められるためのポイント
もっとも、X上の匿名アカウントであれば、どのような投稿でも必ず特定できるわけではありません。
発信者情報開示請求が認められるためには、問題となる投稿によって権利が侵害されたことを具体的に示す必要があります。典型的には、名誉毀損、名誉感情侵害、プライバシー侵害、肖像権侵害、著作権侵害などが問題になります。
たとえば、単に「気に入らない」「不快だ」というだけでは、開示が認められるとは限りません。投稿内容が社会的評価を低下させるものか、私生活上の情報を不当に公開するものか、本人の写真や著作物を無断で利用しているものかなど、法的にどの権利侵害にあたるのかを検討する必要があります。
また、問題となる投稿を具体的に特定することも重要です。投稿のURL、投稿日時、投稿内容、アカウント名、ユーザーIDなどが不明確なままだと、手続きを進めることが難しくなります。
7 Xでの被害は、初動対応が非常に重要です
Xでの誹謗中傷やプライバシー侵害に対応するうえで、特に重要なのはスピードです。
投稿者が危険を察知して投稿やアカウントを削除してしまうと、証拠の確保が難しくなることがあります。また、通信記録には保存期間があり、時間が経過すると必要なログが残っていない可能性があります。
そのため、被害に気づいたら、相手に直接警告したり、リプライで反論したりする前に、まず証拠を保存することが重要です。
保存しておくべき証拠としては、次のようなものがあります。
- 問題となる投稿のURL
- 投稿内容が分かるスクリーンショット
- 投稿日時
- アカウント名・ユーザーID
- プロフィール画面
- 投稿の前後関係が分かる画面
- 権利侵害が生じていることを示す資料
X上の投稿は、投稿者自身が削除することも、アカウントごと消えることもあります。そのため、投稿を見つけた段階で速やかに証拠を確保することが大切です。ウェブ
特に、相手に警告を送ると、投稿やアカウントを削除される可能性があります。感情的に反論したくなる場面でも、まずは証拠を保存し、必要に応じて水面下で法的手続きを準備することが重要です。
8 まとめ
Xの「裏垢」や「捨て垢」であっても、発信者情報開示請求などの法的手続きを通じて、投稿者を特定できる可能性があります。
特定の手がかりになるのは、アカウント名やプロフィールだけではありません。投稿に関連するログイン時のIPアドレスやタイムスタンプ、接続元の回線情報などをたどることで、投稿者に近づくことができます。
ただし、開示請求が認められるためには、投稿によってどのような権利が侵害されたのかを具体的に主張・立証する必要があります。また、投稿やアカウントの削除、ログ保存期間の経過によって、特定が難しくなる場合もあります。
匿名アカウントからの誹謗中傷や個人情報の暴露に悩んでいる場合は、まず証拠を確保し、できるだけ早い段階で発信者情報開示請求に詳しい弁護士へ相談することをおすすめします。

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