Archive for the ‘発信者情報開示請求関連’ Category
爆サイ・5ちゃんねるに実名で誹謗中傷を書かれた場合の削除と投稿者特定
1 相談内容
地域情報の掲示板「爆サイ」と、匿名掲示板「5ちゃんねる」の両方に、私の実名を出したうえで、誹謗中傷のスレッドを立てられてしまいました。
内容は、「不倫している」「会社のお金を盗んでいる」といったもので、いずれも完全なデマです。
実名でこのような書き込みをされているため、家族、職場、取引先、近所の人に見られるのではないかと不安です。できるだけ早く削除し、書き込んだ人も特定したいと考えています。
爆サイと5ちゃんねるでは、削除や投稿者特定の方法に違いはあるのでしょうか。どのように対応すればよいのでしょうか。
2 弁護士の回答-爆サイと5ちゃんねるでは、対応方法と難易度が異なります
爆サイと5ちゃんねるは、いずれも匿名で書き込みができる掲示板ですが、削除請求や発信者情報開示請求の進め方には違いがあります。
結論として、爆サイは比較的、削除依頼やログ照会の窓口が整備されており、権利侵害が明らかな場合には比較的スムーズに対応できることがあります。一方、5ちゃんねるは、任意の開示請求に応じない方針が示されており、裁判所を通じた手続きが必要になることが多く、海外法人を相手にする点でも専門的な対応が必要です。
ご相談のように、「不倫している」「会社のお金を盗んでいる」といった書き込みは、単なる悪口ではなく、社会的評価を大きく低下させる内容です。特に「会社のお金を盗んでいる」という表現は、犯罪行為をしているかのような印象を与えます。これが虚偽であれば、名誉毀損や信用毀損、プライバシー侵害などを理由に、削除請求や投稿者の特定を検討できます。
ただし、掲示板ごとに運営体制、削除手続、ログ保存の扱いが異なるため、同じ「掲示板の誹謗中傷」と考えて一律に対応するのは危険です。
3 まず行うべきは証拠保全です
どちらの掲示板でも、最初に行うべきことは証拠保全です。
削除を急ぐ気持ちは当然ですが、証拠を残さないまま削除されると、後から投稿者を特定したり、損害賠償請求をしたりすることが難しくなることがあります。
最低限、次の情報が分かるように保存しておきましょう。
- 投稿内容
- 投稿番号またはレス番号
- 投稿日時
- スレッドタイトル
- スレッドURL
- 掲示板名
- 前後の投稿内容
- 実名や勤務先など、自分を特定できる記載
- 検索結果に表示されている場合は、その画面
爆サイについても、誹謗中傷投稿の内容・番号、関連する一連の投稿、投稿日、スレッド名、URLが分かるようにスクリーンショットを撮ることが重要とされています。
スマートフォンのスクリーンショットだけではURLが途中で切れることがあります。可能であれば、パソコンで画面全体を保存し、URLや日時が分かる形で証拠化してください。
4 爆サイの場合:比較的対応しやすいが、削除前のログ保存が重要
爆サイは、地域密着型の掲示板で、都道府県や市区町村、職場、学校、店舗など、身近な話題が書き込まれることが多いのが特徴です。そのため、実名で誹謗中傷を書かれると、知人、近隣住民、職場関係者に見られやすく、現実生活への影響が大きくなりやすいといえます。
爆サイには削除依頼フォームやログ照会依頼フォームが用意されており、一定の条件のもとで任意の開示に応じる傾向があるとされています。
ただし、注意すべきなのは、削除を先にしてしまうことです。
爆サイでは、削除請求を急いで行うと、投稿の証拠が消え、法的措置が困難になる可能性があると指摘されています。また、ログ保存期間にも限りがあり、一定期間が経過すると投稿者の特定が難しくなります。
そのため、投稿者を特定したい場合には、単に削除依頼を出すのではなく、先に証拠保全とログ保存、発信者情報開示の方針を整理することが重要です。
ご相談のように、虚偽の不倫や横領を実名で書かれているケースでは、権利侵害の程度が強い可能性があります。弁護士が法的な理由を整理して削除依頼や開示請求を行うことで、削除と投稿者特定を並行して進められる場合があります。
5 5ちゃんねるの場合:裁判所を通じた対応が中心になりやすい
5ちゃんねるの場合、爆サイよりも手続きが複雑になることが多いです。
5ちゃんねるは、捜査機関または裁判所の命令によらない限り、任意での開示請求には応じないことが明言されていると説明されています。そのため、投稿時のIPアドレスやタイムスタンプの開示を求めるには、運営会社を相手に発信者情報開示仮処分などの裁判手続きを申し立てる必要があります。
5ちゃんねるの投稿者を特定する場合、一般的には、まず5ちゃんねる側からIPアドレスとタイムスタンプの開示を受けます。その後、そのIPアドレスを管理するアクセスプロバイダを調査し、プロバイダに対して契約者の氏名・住所等の開示を求めます。
また、5ちゃんねるの運営会社は海外法人とされ、申立書の英訳、海外送達など、特殊な対応が必要になる場合があります。この点で、国内サイトに対する削除請求や開示請求とは異なり、手続き面の負担が大きくなりやすいといえます。
5ちゃんねるでは、削除だけでなく、投稿者特定まで行う場合には、ログ保存期間との関係で時間との勝負になります。投稿者を特定するには、IPアドレスやタイムスタンプを取得したうえで、プロバイダに対する手続きまで進める必要があるため、早期対応が不可欠です。
6 コピーサイト・まとめサイトにも注意が必要です
5ちゃんねるの誹謗中傷で特に注意すべきなのは、コピーサイトやまとめサイトへの転載です。
5ちゃんねる本体の投稿を削除できたとしても、その内容がまとめサイト、過去ログサイト、ミラーサイト、検索エンジンのキャッシュなどに残っていることがあります。
この場合、大元の投稿を削除しただけでは、インターネット上から完全に消えたとはいえません。まとめサイトに転載された場合には、5ちゃんねる本体とは別に、まとめサイトの運営者に対して個別に削除を求める必要があるとされています。
また、爆サイでも5ちゃんねるでも、実名を含む誹謗中傷が検索結果に表示されるようになると、就職、転職、取引、近所付き合い、家族関係などに長期的な影響が出るおそれがあります。
したがって、削除対応では、元の掲示板だけでなく、検索結果、転載先、まとめサイト、過去ログ化されたページまで確認することが重要です。
7 「放置すればそのうち消える」は危険です
掲示板の書き込みについて、「匿名掲示板の書き込みだから誰も信用しないだろう」「時間が経てば流れるだろう」と考えて放置するのは危険です。
特に実名で「不倫」「横領」などと書かれている場合、検索エンジンに拾われたり、スクリーンショットで拡散されたり、別の掲示板やSNSに転載されたりする可能性があります。
爆サイは地域性が強く、同じ地域の人や職場関係者が見ている可能性があります。一方、5ちゃんねるは匿名性と拡散性が高く、スレッドの内容が他サイトに転載されることもあります。被害の広がり方が異なるため、それぞれの特徴に応じた対応が必要です。
また、発信者情報開示請求には時間制限があります。接続プロバイダのログは永久に保存されるわけではなく、一般的に3か月から6か月程度で削除されることが多いとされています。ウェブログが消えてしまえば、権利侵害が明らかな投稿であっても、投稿者の特定が難しくなります。
8 投稿者を特定した後にできること
投稿者を特定できた場合には、投稿者に対して損害賠償請求を検討できます。
実名で「不倫している」「会社のお金を盗んでいる」と書かれた場合、精神的苦痛に対する慰謝料だけでなく、職場での信用低下、取引への影響、退職や異動に関する不利益などが生じていれば、それらの損害についても検討対象になります。
また、内容によっては、名誉毀損罪や侮辱罪での刑事告訴を検討することもあります。特に、犯罪行為をしているかのように書かれた場合や、同じ投稿者が繰り返し書き込んでいる場合には、民事・刑事の両面から対応方針を検討することになります。
ただし、開示された契約者が必ずしも実際の投稿者本人とは限りません。家族名義の回線、会社や店舗のネットワーク、共有Wi-Fiなどが利用されている場合には、契約者情報をもとに、実際に誰が投稿したのかをさらに確認する必要があります。
9 まとめ
爆サイと5ちゃんねるはいずれも匿名掲示板ですが、削除や投稿者特定の進め方は異なります。
爆サイは削除依頼やログ照会の窓口が比較的整備されており、権利侵害が明らかな投稿については対応を進めやすい場合があります。ただし、削除を先に行うとログや証拠の問題が生じる可能性があるため、投稿者特定を希望する場合には、削除前の証拠保全とログ保存が重要です。
一方、5ちゃんねるは任意開示に応じにくく、裁判所を通じた仮処分や発信者情報開示請求が必要になることが多いです。海外法人を相手にする手続きや、まとめサイト・過去ログサイトへの転載対応も必要になる場合があります。
実名で「不倫」「横領」などの虚偽情報を書かれた場合、社会的信用への影響は非常に大きく、放置すると被害が拡大するおそれがあります。まずは投稿内容、URL、投稿番号、日時、スレッド名を保存し、削除と投稿者特定の順序を誤らないよう、早めに弁護士へ相談することをおすすめします。

有森FA法律事務所では、インターネット上の誹謗中傷や名誉毀損、プライバシー・著作権に関するトラブルなど、ネットにまつわる様々なお悩みに対応しています。スマートフォンやSNSが日常に溶け込んだ今、ネット上の問題は誰にとっても身近なリスクとなっています。東京都をはじめ全国からのご相談に対応しており、WEB会議によるご相談も可能です。ひとりで抱え込まず、まずはお気軽にご相談ください。
Googleマップの悪質な口コミは削除・投稿者の特定ができる?
1 相談内容
飲食店を経営しています。
最近、Googleマップの口コミに星1の低評価をつけられたうえで、「料理に虫が入っていた」「店員の態度が最悪でボッタクリだ」などと書き込まれました。
しかし、料理に虫が入っていた事実はありませんし、不当な料金を請求したこともありません。まったく身に覚えのない内容です。
この口コミが表示されるようになってから、予約のキャンセルが出たり、新規のお客様が減ったりしており、実際に営業への影響も出ています。
Googleに違反報告をしましたが、「ポリシー違反ではない」と判断され、削除してもらえませんでした。このような口コミを削除したり、投稿者を特定したりすることはできるのでしょうか。
2 弁護士の回答-虚偽の事実を書かれている場合、削除や投稿者特定を検討できます
Googleマップの口コミは、飲食店や美容院、クリニックなど、地域のお客様を相手にする事業者にとって非常に重要です。来店前に口コミを確認する人も多く、星の数や口コミの内容が、予約や来店の判断に直結することも少なくありません。
そのため、事実と異なる悪質な口コミを放置すると、「この店では本当に不衛生な料理が出るのではないか」「不当な料金を請求されるのではないか」と受け取られ、売上や信用に大きな影響が出るおそれがあります。
結論として、「料理に虫が入っていた」「ボッタクリだ」といった内容が事実無根である場合には、名誉毀損、信用毀損、業務妨害などを理由に、口コミの削除や投稿者の特定を検討できます。根拠のない「商品に虫が混入していた」といった書き込みは、店の信用を傷つけるものとして信用毀損罪に該当し得ると説明されています。
もっとも、Googleに単に違反報告をしただけで、必ず削除されるわけではありません。Googleは独自のポリシーに基づいて口コミを審査しますが、事業者側が「事実と違う」と訴えても、Google側だけでは真偽を判断しにくい場合があります。そのため、任意の削除依頼で削除されない場合には、裁判所を通じた手続きや、発信者情報開示請求を検討することになります。
3 削除・特定しやすい口コミと、難しい口コミの違い
法的対応を検討するうえで重要なのは、その口コミが「事実」を述べているのか、それとも単なる「感想・意見」にとどまるのかという点です。
たとえば、「料理に虫が入っていた」「賞味期限切れの食材を出している」「会計で不当な料金を請求された」といった書き込みは、客観的に真実かどうかを判断できる内容です。このような事実が書かれており、かつそれが虚偽である場合には、店の社会的評価や信用を低下させるものとして、削除や投稿者特定の対象になり得ます。
ご相談の「料理に虫が入っていた」という投稿は、飲食店にとって衛生管理への信頼を大きく損なう内容です。また、「ボッタクリだ」という表現も、不当請求や悪質な営業をしているという印象を与えるため、単なる不満を超えて、店の信用を害する表現と評価される可能性があります。
一方で、「おいしくなかった」「接客が合わなかった」「雰囲気が暗かった」「価格が高く感じた」といった口コミは、利用者の主観的な感想や評価として扱われやすく、削除や発信者情報開示が難しい場合があります。価格、対応スピード、接客態度などサービスの満足度に関する主観的なコメントについては、法的手続をとるべきか慎重に検討する必要があるとされています。
つまり、口コミが不快である、低評価であるというだけでは足りません。法的に対応するには、その口コミがどのような権利侵害に当たるのか、そして虚偽であることをどのように示すのかが重要になります。
4 コメントのない「星1」だけの評価は難しい
Googleマップでは、コメントを書かずに星だけをつけることもできます。
このような「星1だけ」の評価については、法的に削除や投稿者特定を行うことはかなり難しいのが実情です。なぜなら、星の数は利用者の主観的評価であり、それだけでは具体的な事実が示されていないためです。
たとえば、コメントなしの星1評価だけでは、その人が何を理由に低評価をつけたのか分かりません。料理、接客、価格、雰囲気、待ち時間など、さまざまな理由が考えられます。事実の摘示がない以上、名誉毀損や信用毀損に当たると主張することは容易ではありません。
実際にも、星だけの評価については、口コミがなければポリシー違反や刑法上の問題に該当するか判断しにくく、削除は難しいと説明されています。
したがって、コメントのない低評価については、法的措置よりも、誠実な店舗運営、丁寧な返信、良い口コミを自然に増やす取り組みなど、評判管理の観点から対応することが現実的です。
5 お店側がしてはいけない対応
悪質な口コミを見つけると、強い怒りを感じるのは当然です。特に、事実無根の内容で売上に影響が出ている場合には、すぐに反論したくなるでしょう。
しかし、口コミへのオーナー返信で感情的に反論することは避けるべきです。
たとえば、「そんな事実はない。誰か分かっている」「訴えてやる」「二度と来るな」といった攻撃的な返信をすると、その返信自体が他の利用者に見られます。その結果、口コミの内容以上に、「この店の対応は怖い」「トラブルになりそうだ」という印象を与えてしまうおそれがあります。
また、相手に法的措置をちらつかせることで、投稿やアカウントを削除され、証拠や投稿者特定の手がかりを失う可能性もあります。
返信する場合には、感情的な表現を避け、事実確認を行っていること、店舗として衛生管理や適正な会計を重視していること、必要に応じて個別に連絡を求めることなどを、落ち着いた文面で記載するにとどめるのがよいでしょう。投稿者を罵倒したり、いきなり「法的措置を取る」と強い表現で威嚇したりする返信は、スクリーンショットで拡散され、二次的な炎上につながるおそれがあると指摘されています。
6 まず確保すべき証拠
法的対応を検討する場合、最初に行うべきことは証拠保全です。
最低限、次の資料を保存しておくべきです。
- 問題となる口コミのスクリーンショット
- 投稿者名・アイコン・プロフィール画面
- 口コミの投稿日
- 店舗名、Googleマップ上の掲載ページ
- 口コミのURL
- 星評価とコメント内容が分かる画面
- 予約キャンセルや売上減少など、実害を示す資料
- 衛生管理記録、当日の営業記録、会計記録など、投稿内容が虚偽であることを示す資料
特に「虫が入っていた」と書かれた場合には、当日の仕入れ・調理・提供状況、クレームの有無、保健所対応の有無、店内の衛生管理記録などが重要になります。
「ボッタクリ」と書かれた場合には、メニュー表示、会計伝票、レシート、料金体系、追加料金の説明状況などを整理しておく必要があります。
7 法的措置の流れ
Googleへの通常の違反報告で削除されない場合、法的措置としては、大きく分けて次の手続きが考えられます。
1つ目は、Googleに対する削除仮処分です。これは、裁判所に対して、問題の口コミが名誉毀損や信用毀損に当たることを主張し、Googleに削除を命じるよう求める手続きです。Googleに対して削除仮処分を求めることで、口コミを削除できる可能性があるとされています。
2つ目は、発信者情報開示請求です。これは、口コミを書いた投稿者を特定するための手続きです。Googleやアクセスプロバイダに対して、投稿者に関する情報の開示を求めます。投稿者が特定できれば、その後、損害賠償請求や再発防止の交渉を行うことが可能になります。口コミ投稿者に損害賠償請求をするには、その前提として、Googleやアクセスプロバイダに対する発信者情報開示請求によって投稿者を特定する必要があると説明されています。
3つ目は、投稿者に対する損害賠償請求です。実際に予約キャンセルや売上減少が生じている場合には、その損害との因果関係を整理し、慰謝料や営業損害の請求を検討します。ただし、損害額の立証には資料が必要ですので、売上データやキャンセル記録を早めに保全しておくことが重要です。
8 対応は早いほど有利です
Googleマップの口コミトラブルでは、対応の早さが重要です。
投稿が削除されたり、アカウント情報やアクセスログの保存期間が経過したりすると、投稿者の特定が難しくなる可能性があります。Google側やプロバイダ側のログは一定期間が過ぎると消去されるため、迷っているうちに特定が困難になることがあると指摘されています。
特に、営業への影響が出ている場合には、「もう少し様子を見よう」と放置するよりも、早めに証拠を確保し、法的対応が可能な事案かどうかを確認することが大切です。
9 まとめ
Googleマップの口コミであっても、「料理に虫が入っていた」「ボッタクリだ」など、客観的な事実を示す内容が虚偽である場合には、削除や投稿者特定を検討できます。
一方で、「おいしくなかった」「接客が悪かった」といった主観的な感想や、コメントのない星1評価だけの場合には、法的対応が難しいこともあります。
重要なのは、口コミの内容が単なる感想なのか、虚偽の事実を示しているのかを見極めることです。そして、法的対応を検討する場合には、感情的に反論する前に、口コミの画面、投稿者情報、売上への影響、投稿内容が虚偽であることを示す資料を保存しておく必要があります。
悪質な口コミは、放置すると店舗の信用に大きな影響を及ぼします。Googleへの報告で削除されない場合でも、法的手続きによって削除や投稿者特定が可能なケースがありますので、早い段階で弁護士に相談することをおすすめします。

有森FA法律事務所では、インターネット上の誹謗中傷や名誉毀損、プライバシー・著作権に関するトラブルなど、ネットにまつわる様々なお悩みに対応しています。スマートフォンやSNSが日常に溶け込んだ今、ネット上の問題は誰にとっても身近なリスクとなっています。東京都をはじめ全国からのご相談に対応しており、WEB会議によるご相談も可能です。ひとりで抱え込まず、まずはお気軽にご相談ください。
X(旧Twitter)の「裏垢」「捨て垢」は特定できる?発信者情報開示請求でできること
1 相談内容
X(旧Twitter)で、私個人を攻撃する匿名アカウント、いわゆる「裏垢」に悩まされています。
相手のプロフィール画像は初期設定のままで、名前も適当な文字列です。投稿内容からすると、私のプライベートな情報を知っているようなので、現実の知人ではないかと思っています。しかし、相手が誰なのかを示す証拠はありません。
「Xは匿名性が高いから、投稿者を特定するのは難しい」と聞いたことがあります。このような「捨て垢」や「裏垢」のような匿名アカウントでも、法的手続きによって相手の正体を突き止めることはできるのでしょうか。
2 弁護士の回答-匿名アカウントでも、投稿者を特定できる可能性があります
結論からいうと、X上の「裏垢」や「捨て垢」であっても、発信者情報開示請求などの法的手続きを通じて、投稿者を特定できる可能性があります。
たしかに、Xではアカウント名やプロフィール画像を見ただけでは、投稿者の氏名や住所は分かりません。初期アイコン、意味のないユーザー名、投稿数の少ないアカウントであれば、外見上は身元につながる情報がほとんどないこともあります。
しかし、匿名アカウントであっても、そのアカウントを作成・利用するためには、通常、インターネット回線を通じてログインしています。つまり、アカウントの表面上は匿名でも、裏側には通信記録が残っている可能性があります。
Xに対する発信者情報開示請求では、問題となる投稿に関連するログイン時のIPアドレスやタイムスタンプなどの情報が重要な手がかりになります。裁判例でも、Xのアカウントへのログイン時のIPアドレス等が、権利侵害に関係する発信者情報として問題とされた事案があります。ウェブ
したがって、「裏垢だから絶対に特定できない」「捨て垢だから安全」というわけではありません。むしろ、投稿者が自宅のWi-Fiや自分のスマートフォン回線を使ってログインしていれば、その通信記録をたどることで、契約者情報に行き着く可能性があります。
3 特定の鍵になるのは「ログイン情報」です
Xの投稿者を特定する場合、重要になるのが「ログイン情報」です。
以前は、投稿そのものが行われた際のIPアドレス、いわゆる投稿時IPアドレスが重視されることがありました。しかし、SNSの仕組みやログの保存状況によっては、投稿時の通信記録が十分に残っていないことがあります。
そこで現在の実務では、問題となる投稿をしたアカウントについて、投稿に近接するログイン時のIPアドレスやタイムスタンプの開示を求めることが重要になります。
X社から開示される情報だけで、直ちに投稿者の氏名・住所が分かるとは限りません。Xのアカウントには、実名や住所が登録されていないことも多いためです。
一般的な流れとしては、まずX社に対し、問題の投稿をしたアカウントについて、ログイン時のIPアドレス、タイムスタンプ、登録メールアドレス、電話番号などの開示を求めます。そのうえで、開示されたIPアドレスをもとに、インターネット接続事業者を特定します。そして、その接続事業者に対し、該当する日時にそのIPアドレスを利用していた契約者の氏名・住所の開示を求めることになります。ウェブ
このように、X社に対する手続きと、接続事業者に対する手続きの双方を通じて、投稿者の特定を進めていくのが基本的な流れです。
4 「本垢とは別だから大丈夫」とは限りません
加害者側は、「普段使っている本アカウントとは別のメールアドレスで作ったから大丈夫」「プロフィールに何も書いていないからバレない」「投稿後にアカウントを消せば分からない」と考えていることがあります。
しかし、発信者情報開示請求で重要になるのは、アカウント名や登録メールアドレスだけではありません。むしろ、実務上大きな意味を持つのは、そのアカウントにログインした際の接続元です。
たとえば、投稿者が裏垢に自宅のWi-Fiからログインしていれば、その通信は自宅のインターネット回線を経由しています。また、自分のスマートフォンの携帯キャリア回線からログインしていれば、その通信記録は携帯電話会社側の契約者情報につながる可能性があります。
つまり、アカウントを複数持っていたとしても、同じ端末や同じ回線からログインしていれば、特定の手がかりが残ることがあります。
もちろん、開示された契約者が直ちに投稿者本人であるとは限りません。家族名義の回線、会社や学校のネットワーク、共有Wi-Fiなどが使われている場合には、さらに事実関係の検討が必要です。それでも、通信記録をたどることで、少なくとも投稿者に近づく重要な情報を得られる可能性があります。
5 リポストだけでも責任を問われる可能性があります
「自分で投稿したわけではなく、リポストしただけ」という場合でも、法的責任を免れるとは限りません。
他人の投稿をリポストする行為であっても、その内容や態様によっては、名誉毀損、プライバシー侵害、肖像権侵害などが問題となる可能性があります。特に、誹謗中傷や個人情報の暴露を含む投稿を拡散した場合、その拡散行為自体が被害を拡大させることがあります。
そのため、悪質な投稿を繰り返しリポストしているアカウントについても、事案によっては発信者情報開示請求の対象となり得ます。
「自分の言葉で書いていないから問題ない」「リポストしただけだから責任はない」と安易に考えることはできません。拡散によって被害が広がった場合には、投稿者本人だけでなく、拡散したアカウントについても対応を検討する必要があります。
6 発信者情報開示請求が認められるためのポイント
もっとも、X上の匿名アカウントであれば、どのような投稿でも必ず特定できるわけではありません。
発信者情報開示請求が認められるためには、問題となる投稿によって権利が侵害されたことを具体的に示す必要があります。典型的には、名誉毀損、名誉感情侵害、プライバシー侵害、肖像権侵害、著作権侵害などが問題になります。
たとえば、単に「気に入らない」「不快だ」というだけでは、開示が認められるとは限りません。投稿内容が社会的評価を低下させるものか、私生活上の情報を不当に公開するものか、本人の写真や著作物を無断で利用しているものかなど、法的にどの権利侵害にあたるのかを検討する必要があります。
また、問題となる投稿を具体的に特定することも重要です。投稿のURL、投稿日時、投稿内容、アカウント名、ユーザーIDなどが不明確なままだと、手続きを進めることが難しくなります。
7 Xでの被害は、初動対応が非常に重要です
Xでの誹謗中傷やプライバシー侵害に対応するうえで、特に重要なのはスピードです。
投稿者が危険を察知して投稿やアカウントを削除してしまうと、証拠の確保が難しくなることがあります。また、通信記録には保存期間があり、時間が経過すると必要なログが残っていない可能性があります。
そのため、被害に気づいたら、相手に直接警告したり、リプライで反論したりする前に、まず証拠を保存することが重要です。
保存しておくべき証拠としては、次のようなものがあります。
- 問題となる投稿のURL
- 投稿内容が分かるスクリーンショット
- 投稿日時
- アカウント名・ユーザーID
- プロフィール画面
- 投稿の前後関係が分かる画面
- 権利侵害が生じていることを示す資料
X上の投稿は、投稿者自身が削除することも、アカウントごと消えることもあります。そのため、投稿を見つけた段階で速やかに証拠を確保することが大切です。ウェブ
特に、相手に警告を送ると、投稿やアカウントを削除される可能性があります。感情的に反論したくなる場面でも、まずは証拠を保存し、必要に応じて水面下で法的手続きを準備することが重要です。
8 まとめ
Xの「裏垢」や「捨て垢」であっても、発信者情報開示請求などの法的手続きを通じて、投稿者を特定できる可能性があります。
特定の手がかりになるのは、アカウント名やプロフィールだけではありません。投稿に関連するログイン時のIPアドレスやタイムスタンプ、接続元の回線情報などをたどることで、投稿者に近づくことができます。
ただし、開示請求が認められるためには、投稿によってどのような権利が侵害されたのかを具体的に主張・立証する必要があります。また、投稿やアカウントの削除、ログ保存期間の経過によって、特定が難しくなる場合もあります。
匿名アカウントからの誹謗中傷や個人情報の暴露に悩んでいる場合は、まず証拠を確保し、できるだけ早い段階で発信者情報開示請求に詳しい弁護士へ相談することをおすすめします。

有森FA法律事務所では、インターネット上の誹謗中傷や名誉毀損、プライバシー・著作権に関するトラブルなど、ネットにまつわる様々なお悩みに対応しています。スマートフォンやSNSが日常に溶け込んだ今、ネット上の問題は誰にとっても身近なリスクとなっています。東京都をはじめ全国からのご相談に対応しており、WEB会議によるご相談も可能です。ひとりで抱え込まず、まずはお気軽にご相談ください。
発信者情報開示請求の弁護士費用は相手に請求できる?費用倒れのリスクと判断基準
ネット上で誹謗中傷を受けた場合、「投稿者を特定して責任を取らせたい」と考えるのは当然です。一方で、発信者情報開示請求には弁護士費用や実費がかかります。調べてみると、特定だけで数十万円以上かかるという情報もあり、「悪いのは相手なのに、なぜ被害者が先にお金を払わなければならないのか」と感じる方も多いでしょう。
結論からいうと、発信者情報開示請求にかかった費用を、特定後に相手へ請求できる可能性はあります。ただし、実際に全額を回収できるかは事案によります。慰謝料額、投稿内容の悪質性、相手の資力、示談で解決できるか、裁判になった場合に裁判所がどこまで費用を損害として認めるかによって、最終的な収支は変わります。
そのため、発信者情報開示請求では、費用倒れのリスクを事前に見積もったうえで進めることが重要です。
1 発信者情報開示請求にかかる費用の目安
発信者情報開示請求にかかる費用は、投稿先のサイト、相手方が国内法人か海外法人か、手続の種類、対象投稿の数、争いの有無によって変わります。
一般的には、裁判所に納める印紙代や郵券などの実費に加え、弁護士費用として着手金・報酬金が発生します。発信者情報開示請求の弁護士費用については、数十万円から100万円程度が相場と説明されることがあります。
実際の法律事務所の料金例でも、発信者情報開示命令申立てについて、基本費用33万円、報酬金18万7000円、SNS等については報酬金がさらに高く設定されている例があります。
別の解説では、投稿者の氏名・住所を特定するまでの弁護士費用として、着手金と報酬金を合わせて55万円程度、実費として1万〜2万円程度が例示されています。
つまり、発信者情報開示請求だけで、少なくとも数十万円単位の費用がかかることは珍しくありません。さらに、投稿者を特定した後に損害賠償請求を行う場合には、示談交渉や訴訟のための追加費用が発生することがあります。
2 「調査費用」として相手に請求できる場合がある
発信者情報開示請求にかかった弁護士費用は、損害賠償請求の場面で「調査費用」として相手に請求できる場合があります。
ここでいう調査費用とは、匿名の投稿者を特定するために発信者情報開示請求を行い、そのために弁護士へ支払った費用のことです。相手の住所や氏名が分からなければ、そもそも損害賠償請求をすることができません。そのため、投稿者を特定するために必要だった費用も、損害の一部として請求できないかが問題になります。
実務上、発信者情報開示の費用は、相手への損害賠償請求において調査費用として請求可能とされています。ただし、これまでの裁判例では、全額を認めたケースと一部だけを認めたケースがあり、必ず全額回収できるとは限りません。
近年は、発信者情報開示請求の専門性や迅速性を踏まえ、調査費用の全額または相当額を損害として認める裁判例もあります。もっとも、対象投稿との関係が薄い費用、特定に失敗した投稿に関する費用、過大な費用まで当然に認められるわけではありません。
3 損害賠償請求の弁護士費用は全額認められにくい
注意すべきなのは、発信者情報開示請求の「調査費用」と、損害賠償請求そのものにかかる「弁護士費用」は区別されるという点です。
損害賠償請求訴訟にかかった弁護士費用については、裁判上、慰謝料など認められた損害額の1割程度にとどまることが多いとされています。
たとえば、慰謝料として50万円が認められた場合、弁護士費用相当損害として5万円程度が加算される、という考え方です。実際に弁護士へ支払った金額がそれ以上であっても、その全額が当然に相手負担になるわけではありません。
この点を誤解して、「弁護士に払った費用は全部相手に請求できるはず」と考えてしまうと、後で収支の見込みが大きくずれることがあります。
4 費用倒れが起こる理由
費用倒れとは、投稿者の特定や損害賠償請求にかかった費用が、最終的に相手から回収できた金額を上回ってしまう状態をいいます。
発信者情報開示請求で費用倒れが起こり得る理由は、主に次の3つです。
1. 特定費用が高額になりやすい
発信者情報開示請求は、手続が専門的で、時間との勝負でもあります。サイト管理者やプロバイダへの対応、裁判所への申立て、証拠整理などが必要になるため、弁護士費用が数十万円単位になりやすい手続です。
2. 慰謝料の相場が必ずしも高くない
誹謗中傷の慰謝料額は、投稿内容の悪質性や拡散状況、被害の程度によって変わります。
軽い侮辱表現や単発の悪口では、慰謝料額が低くなることがあります。他方で、犯罪歴、不倫、反社会的勢力との関係、業務上の不正など、社会的評価を大きく低下させる虚偽事実が投稿された場合や、事業に損害が出ている場合には、比較的高額な請求を検討できることがあります。
ある解説では、軽微な侮辱では回収見込みが低いため費用倒れリスクが高く、事業に深刻な損害を与える名誉毀損では特定費用を上回る回収が期待できる場合があると整理されています。
3. 相手に支払能力がないことがある
裁判で勝っても、相手に資力がなければ、任意に支払ってもらえない可能性があります。
支払わない相手に対しては強制執行を検討することになりますが、そのためには相手の勤務先や預金口座などの情報が必要になることがあり、追加の手間や費用もかかります。
5 具体的な収支のイメージ
たとえば、発信者情報開示請求に60万円、特定後の示談交渉や損害賠償請求に20万円かかったとします。総費用は80万円です。
その後、裁判で慰謝料40万円、弁護士費用相当損害4万円、調査費用の一部20万円が認められた場合、合計64万円です。この場合、金銭面だけを見れば16万円の赤字になります。
一方で、調査費用が全額認められ、慰謝料も高めに認定されれば、費用を回収できる可能性もあります。また、裁判ではなく示談で、相手が早期解決を望み、調査費用や慰謝料を含めた一定額を支払うことに合意する場合もあります。
つまり、費用倒れになるかどうかは、事案ごとの見通しを立てなければ判断できません。
6 示談では裁判より柔軟な解決ができることもある
裁判では、慰謝料額や弁護士費用相当額について一定の相場感があります。しかし、示談交渉では、当事者が合意すれば、裁判上の相場に必ずしも縛られません。
相手が、職場や家族に知られたくない、裁判記録に残したくない、刑事告訴を避けたい、早期に解決したいと考える場合には、慰謝料に加えて調査費用の全部または相当部分を支払う内容で示談できることがあります。
ただし、示談で高額請求をすれば必ず通るわけではありません。請求額が過大であれば交渉が決裂し、訴訟に移行する可能性もあります。投稿内容の違法性、証拠の強さ、相手の属性、相手の支払能力を踏まえて、現実的な交渉ラインを設定する必要があります。
7 金銭以外のメリットも考える
費用倒れを避けたいという考えは重要です。ただ、発信者情報開示請求の目的は、必ずしも金銭回収だけではありません。
投稿者を特定することで、次のような効果が期待できます。
- 誹謗中傷を止めさせる
- 再発防止の誓約を取る
- 投稿削除を求める
- 謝罪を求める
- 追加投稿を抑止する
- 刑事告訴や勤務先対応を検討できる
- 精神的に区切りをつけられる
特に、同じ相手が継続的に投稿している場合や、事業・就職・人間関係に現実の影響が出ている場合には、金銭収支だけでは測れない意味があります。
もっとも、「赤字は絶対に避けたい」という方にとっては、金銭的な見通しが最優先になります。その場合は、開示請求前に、想定費用と回収可能額をかなり慎重に比較すべきです。
8 依頼前に確認すべきポイント
弁護士に相談する際は、少なくとも次の点を確認してください。
- 投稿内容は名誉毀損、侮辱、プライバシー侵害等として違法といえるか
- 発信者情報開示請求が認められる見込みはどの程度か
- 特定までの費用総額はいくらか
- 特定後の損害賠償請求・示談交渉には別途いくらかかるか
- 慰謝料の見込み額はいくらか
- 調査費用を相手に請求できる見込みはどの程度か
- 相手が支払わない場合の回収手段はあるか
- 削除や再発防止を優先する選択肢はあるか
特に重要なのは、開示請求だけの費用ではなく、特定後の損害賠償請求まで含めた総額で見積もることです。投稿者を特定できても、その後の請求に追加費用がかかるため、全体の収支を見なければ費用倒れリスクは判断できません。
9 まとめ
発信者情報開示請求にかかった費用は、投稿者を特定した後、調査費用として相手に請求できる可能性があります。近年は調査費用の全額または相当額を認める裁判例もありますが、必ず全額回収できるわけではありません。
また、損害賠償請求そのものにかかる弁護士費用は、認められた損害額の1割程度にとどまることが多く、慰謝料額が低い事案では費用倒れになるリスクがあります。
したがって、発信者情報開示請求を検討する際は、感情だけで進めるのではなく、投稿内容の悪質性、特定可能性、慰謝料見込み、調査費用回収の可能性、相手の支払能力を踏まえて判断することが重要です。
「費用倒れは絶対に避けたい」という場合は、依頼前に、費用と回収見込みを具体的にシミュレーションし、赤字リスクを納得したうえで進めるかどうかを決めるべきです。

有森FA法律事務所では、インターネット上の誹謗中傷や名誉毀損、プライバシー・著作権に関するトラブルなど、ネットにまつわる様々なお悩みに対応しています。スマートフォンやSNSが日常に溶け込んだ今、ネット上の問題は誰にとっても身近なリスクとなっています。東京都をはじめ全国からのご相談に対応しており、WEB会議によるご相談も可能です。ひとりで抱え込まず、まずはお気軽にご相談ください。
フリーWi-FiやVPNを使った誹謗中傷は特定できる?匿名化された投稿への発信者情報開示請求
ネット上で誹謗中傷をしている相手が、カフェのフリーWi-Fiや海外VPN、Torなどを使っているかもしれない。そのような場合、発信者情報開示請求をしても、結局「特定できませんでした」で終わってしまうのではないか。
このような不安を持つ方は少なくありません。
結論からいうと、フリーWi-FiやVPNが使われている場合、投稿者特定の難易度は上がります。通常の自宅回線や携帯回線からの投稿と比べると、開示請求が途中で行き詰まるリスクは高くなります。
もっとも、「絶対に特定できない」と決まっているわけではありません。投稿先のサービス、利用された通信手段、アカウントの利用履歴、登録情報、投稿内容の悪質性などによっては、特定につながる手がかりが見つかることがあります。
1 発信者情報開示請求で分かること
発信者情報開示請求では、まず掲示板やSNSなどの運営者に対して、投稿に使われたIPアドレスやタイムスタンプの開示を求めます。IPアドレスは、インターネット上の通信の手がかりとなる情報であり、投稿時に利用された回線やプロバイダをたどる出発点になります。ウェブ
ただし、IPアドレスだけで投稿者の氏名や住所が分かるわけではありません。IPアドレスから分かるのは、利用された回線、通信事業者、国や地域などにとどまります。投稿者本人を特定するためには、そのIPアドレスを管理しているプロバイダ等に対し、契約者情報の開示を求める必要があります。ウェブ
問題は、開示されたIPアドレスが、自宅回線や携帯回線ではなく、フリーWi-FiやVPNサーバーを指している場合です。この場合、その先にいる実際の投稿者までたどるために、通常より多くの検討が必要になります。
2 カフェや店舗のフリーWi-Fiが使われていた場合
カフェ、商業施設、駅、ホテル、ネットカフェなどのフリーWi-Fiを使って投稿された場合、開示されたIPアドレスから、そのWi-Fiサービスや店舗、施設にたどり着けることがあります。
しかし、そこで直ちに「誰が投稿したか」が分かるわけではありません。
たとえば、IPアドレスから「ある店舗のフリーWi-Fiが使われた」と分かったとしても、その時間帯に店内にいた利用者は複数いる可能性があります。フリーWi-Fiの場合、民事の発信者情報開示請求では特定が行き詰まるケースが多いと指摘されています。ウェブ
もっとも、次のような事情があれば、特定可能性が高まることがあります。
- Wi-Fi利用時にメールアドレス、電話番号、SNSアカウント等の登録が必要だった
- 店舗や施設側に利用ログが残っている
- 防犯カメラ映像と投稿時刻を照合できる
- ネットカフェの会員登録情報や入退店記録がある
- 投稿者が同じアカウントを別の通信環境でも利用している
特に、脅迫や業務妨害など事件性が高い場合には、警察の捜査により、Wi-Fiサービス事業者のログや防犯カメラ映像が確認されることがあります。ただし、名誉毀損や侮辱などの民事中心の事案で、警察が常にそこまで捜査してくれるとは限りません。
したがって、フリーWi-Fiが使われた場合は、民事手続だけで完結するのか、警察相談も並行すべきかを慎重に判断する必要があります。
3 VPNが使われていた場合
VPNとは、通信を別のサーバー経由にする仕組みです。投稿者がVPNを使っていた場合、掲示板やSNSに記録されるIPアドレスは、投稿者本人の自宅回線や携帯回線ではなく、VPNサーバーのIPアドレスになることがあります。
この場合、次の段階では、VPN事業者に対して、当該時刻にそのVPNサーバーを利用していた契約者情報や接続ログの開示を求めることになります。ウェブ
ただし、VPN事業者によっては、利用者の接続ログを保存しない「ノーログ」を掲げている場合があります。実際にログを保存していなければ、裁判所や捜査機関から照会を受けても「提供できる情報がない」という結論になることがあります。ウェブ
また、海外VPNの場合は、その事業者がどの国に所在するか、現地法上の開示手続に応じるか、日本からの請求に対応するかといった問題もあります。海外事業者が任意に対応しない場合、時間や費用が増え、ログ保存期間との関係で特定が難しくなることもあります。
4 それでもVPN利用者が特定される可能性がある理由
VPNが使われていると、特定は難しくなります。しかし、「VPNを使ったから絶対に安全」とはいえません。
たとえば、次のような事情があると、投稿者の特定につながる可能性があります。
1. VPN事業者がログを保存している
すべてのVPN事業者が本当にログを保存していないわけではありません。接続日時、接続元IPアドレス、アカウント情報、決済情報など、何らかの情報が残っている場合があります。
ログが残っていれば、法的手続や捜査を通じて、契約者や利用者にたどり着ける可能性があります。
2. アカウント登録情報から追える
VPNの利用自体では本人が分からなくても、投稿先の掲示板やSNSに登録されたメールアドレス、電話番号、二段階認証情報、決済情報などが手がかりになることがあります。
TorやVPNのような匿名化技術を使っていても、クレジットカード名義や二要素認証に使った電話番号など、IPアドレス以外の個人情報から特定される可能性があると指摘されています。ウェブ
3. 同じアカウントを別の環境で使っている
投稿時はVPNを使っていても、別の日に同じアカウントへ自宅回線や携帯回線からログインしていることがあります。
X、Instagram、掲示板の会員制アカウントなど、ログイン型サービスでは、問題投稿そのもののIPアドレスだけでなく、アカウントのログイン履歴が重要な手がかりになることがあります。VPNを使い忘れた通信や、別環境からのログイン履歴があれば、そこから特定を試みる余地があります。
4. VPN設定の不備やIP漏れがある
投稿者がITに詳しいつもりでも、VPN設定を誤っていたり、通信の一部で本来のIPアドレスが漏れていたりすることがあります。
投稿者が常に完璧に匿名化しているとは限りません。複数の投稿、複数のログイン履歴、投稿時間帯、文体、アカウント運用状況などを総合的に見ることで、手がかりが見つかる場合があります。
5 Torが使われていた場合
Torは、複数の中継サーバーを経由して通信する仕組みです。Torを利用した場合、通常の発信者情報開示請求だけで投稿者本人までたどることは非常に困難になります。
Torでは複数のノードを経由するため、投稿先サイトから見えるのは出口ノードのIPアドレスです。その先にいる投稿者をたどるには、複数の中継地点を順番に追う必要があります。海外ノードが関係する場合、開示請求への対応に時間がかかったり、ログが残っていなかったりすることがあります。ウェブ
ただし、Torを使っていても、アカウント登録情報、決済情報、電話番号認証、別環境でのログイン、投稿内容そのものからの人物推定など、IPアドレス以外の手がかりが残ることがあります。
6 費用倒れのリスクは事前に検討すべき
フリーWi-Fi、VPN、Torが疑われる事案では、通常の自宅回線や携帯回線からの投稿よりも、特定失敗のリスクが高いことは事実です。
そのため、弁護士に相談する際は、最初に次の点を確認することが重要です。
- 投稿内容は法的に違法と評価できるか
- 投稿先サイトはIPアドレスやログを保有している可能性があるか
- 会員登録型・ログイン型のサービスか
- 投稿者のアカウントに他の投稿やログイン履歴があるか
- フリーWi-Fi、VPN、Tor利用の可能性がどの程度あるか
- 民事手続だけで進めるか、警察相談も検討するか
- どの段階まで費用をかけるか
開示請求には費用と時間がかかります。特定できる可能性が低い事案で、漫然と最後まで手続を進めると、費用倒れになる可能性があります。
一方で、投稿内容が悪質であり、アカウント利用履歴や登録情報などの手がかりがある場合には、一定の費用をかけてでも調査する価値があるケースもあります。
7 まとめ
カフェのフリーWi-Fi、海外VPN、Torなどが使われている場合、発信者情報開示請求による投稿者特定は難しくなります。特に、民事手続だけでは、フリーWi-Fiの利用者や海外VPNの背後にいる人物までたどり着けないことがあります。
しかし、絶対に特定できないわけではありません。Wi-Fi利用時の登録情報、防犯カメラ、VPN事業者のログ、SNSのログイン履歴、電話番号認証、決済情報、同一アカウントの別環境での利用など、別の手がかりから投稿者に近づける場合があります。
大切なのは、最初の相談段階で、特定可能性と費用倒れのリスクを冷静に見極めることです。投稿の内容、媒体、アカウントの利用状況、相手の属性を確認したうえで、「どこまで費用をかけて追うべきか」「削除や警察相談を優先すべきか」を検討するのが現実的です。

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半年前の誹謗中傷でも投稿者を特定できる?ログ保存期間を過ぎた場合の対応
匿名掲示板に、自分の過去の失敗談や事実と異なる噂を書き込まれたものの、当時は「そのうち沈静化するだろう」と考えて放置してしまった。しかし、半年経っても検索結果に表示され続け、就職活動や日常生活への影響が心配になってきた。
このような場合、「今からでも削除や投稿者の特定はできるのか」「ログの保存期間が3か月と聞いたが、もう手遅れなのか」と不安に感じる方は少なくありません。
結論からいうと、投稿から半年が経過している場合、投稿者の特定はかなり厳しくなります。ただし、すべてのケースで不可能と決まるわけではありません。利用された回線、掲示板やSNSの仕様、プロバイダのログ保存状況、相手方の最近の利用状況によっては、まだ手続を検討できる場合があります。
1 なぜ「3か月がタイムリミット」と言われるのか
匿名投稿者を特定するためには、投稿に使われたIPアドレスやタイムスタンプを取得し、その情報をもとに接続プロバイダへ契約者情報の開示を求めるのが一般的です。
問題は、接続プロバイダが通信ログを永久に保存しているわけではないという点です。実務上、経由プロバイダの通信ログはおおむね3か月から6か月で削除されると説明されることが多く、ログが消えてしまうと、投稿日時にそのIPアドレスを使っていた契約者をたどれなくなるおそれがあります。ウェブ
特に、携帯電話回線を使った投稿では、ログ保存期間が短いことがあり、「3か月以内に動くべき」と言われることが多いです。第二東京弁護士会の実務解説でも、ISPのログは3か月程度で消える例が多く、3か月以内に誹謗中傷を発見し、コンテンツプロバイダから開示を受けて、ISPに開示請求まで行う必要があるとされています。ウェブ
そのため、投稿から半年が経過している場合、携帯キャリアなどのログがすでに消えている可能性は十分にあります。この場合、どれだけ投稿内容が悪質であっても、技術的に投稿者を特定できないことがあります。
2 半年経っていても可能性が残るケース
もっとも、「半年経過=必ず不可能」とまではいえません。次のような場合には、まだ調査や手続の余地が残っていることがあります。
1. 固定回線から投稿されていた場合
投稿者が自宅や職場のWi-Fi、固定回線を利用して投稿していた場合、プロバイダによっては、携帯回線より長くログを保存していることがあります。
一般的に、ログ保存期間は3〜6か月程度とされることが多いものの、プロバイダごとに実際の保存期間や運用は異なります。何もしなければ一定期間で自動削除されるとしても、個別に保存を求めたり、裁判手続によって保存されていたりする場合もあります。ウェブ
そのため、半年経過しているからといって、確認前に諦める必要はありません。
2. すでにログ保存がされている場合
過去に誰かが同じ投稿や同じ投稿者について開示請求をしていた場合、またはプロバイダに対してログ保存請求が行われていた場合、通常の保存期間を過ぎてもログが残っている可能性があります。
ログ保存の請求には、任意の保存依頼や、ログ保存仮処分・発信者情報消去禁止仮処分などの裁判手続が利用されることがあります。経由プロバイダの通信ログは3〜6か月程度で削除されるため、開示請求訴訟の途中でログが消えないよう、あらかじめ保存を求める手続が重要とされています。ウェブ
3. ログイン型SNSの場合
今回のご相談は匿名掲示板ですが、もし問題の投稿がX、Instagram、Facebookなどのログイン型SNSであれば、別の可能性があります。
投稿自体が半年前でも、投稿者が最近そのアカウントにログインしていれば、直近のログイン時IPアドレスなどから特定を試みられる場合があります。2022年の法改正後、ログイン時情報の開示が問題となる場面が増えており、投稿時のIPアドレスだけではなく、アカウント利用時の通信記録が手がかりになることがあります。
もっとも、ログイン時情報が常に開示されるわけではありません。問題投稿との関連性、ほかの手段では特定できないこと、権利侵害の明白性などを具体的に主張する必要があります。
3 先に削除してはいけない場合がある
投稿者の特定を希望する場合に、特に注意すべきなのが、削除を先行させるかどうかです。
「検索結果に出て困っているから、まず削除したい」と考えるのは自然です。しかし、掲示板やサイトによっては、投稿が削除されることで、その投稿に紐づく管理情報やログの確認が難しくなることがあります。
もちろん、削除を急ぐべきケースもあります。たとえば、個人情報が晒されている、拡散が続いている、就職活動や業務に重大な影響が出ているなどの場合です。
しかし、投稿者の特定を最優先にするのであれば、削除依頼の前に証拠保全と開示手続の見通しを確認するべきです。先に削除してしまうと、後から「誰が書いたのか」をたどる手がかりを失う可能性があります。
4 今すぐ行うべきこと
半年が経過している場合、残された時間は多くありません。まずは、次の資料を保存してください。
- 投稿のURL
- 投稿画面のスクリーンショット
- 掲示板名、スレッド名
- 投稿番号
- 投稿日時
- 投稿本文
- 検索結果に表示されている画面
- 自分のことだと分かる事情
- 投稿内容が虚偽であることを示す資料
- 就職活動などへの影響が分かる資料
スクリーンショットは、投稿本文だけでなく、URL、投稿日時、投稿番号、前後の文脈が分かるように保存することが重要です。検索結果への表示が問題になっている場合は、検索キーワードと検索結果画面も保存しておくとよいでしょう。
そのうえで、できるだけ早く弁護士に相談し、次の点を確認する必要があります。
- 投稿内容が名誉毀損・プライバシー侵害等に当たるか
- 掲示板管理者からIPアドレス等の開示を受けられる可能性があるか
- 接続プロバイダのログが残っている可能性があるか
- 削除と特定のどちらを優先すべきか
- 検索結果への対応も必要か
5 削除と検索結果対策は別に考える
投稿者の特定が難しい場合でも、削除請求や検索結果への対応が可能なケースはあります。
掲示板上の投稿が権利侵害に当たる場合、サイト管理者に対する削除請求や送信防止措置依頼を検討できます。また、検索結果に表示され続けること自体が生活や就職活動に影響している場合には、検索エンジンへの対応を検討することもあります。
ただし、削除が認められるかどうかも、投稿内容が違法といえるか、公共性があるか、真実性があるか、現在も表示され続けることによる不利益がどの程度かによって変わります。単に「過去の失敗談を書かれている」というだけでは難しい場合もありますが、虚偽の噂、私生活上の事実、個人を特定できる情報が含まれている場合には、削除の余地があります。
6 まとめ
投稿から半年が経過している場合、発信者情報開示による投稿者特定は厳しい状況です。特に携帯回線のログが消えている場合には、技術的に特定が困難になることがあります。
しかし、固定回線からの投稿、長めにログを保存しているプロバイダ、すでにログ保存がされているケース、ログイン型サービスで最近のログイン情報が利用できるケースなど、可能性が残る場合もあります。
重要なのは、先に削除だけを進めて手がかりを失わないこと、そして今すぐ証拠を保存して相談することです。半年経っている場合、1日単位で状況が悪化する可能性があります。特定を希望するのであれば、削除依頼の前に、開示請求の可否とログ保存の可能性を早急に確認することをおすすめします。

有森FA法律事務所では、インターネット上の誹謗中傷や名誉毀損、プライバシー・著作権に関するトラブルなど、ネットにまつわる様々なお悩みに対応しています。スマートフォンやSNSが日常に溶け込んだ今、ネット上の問題は誰にとっても身近なリスクとなっています。東京都をはじめ全国からのご相談に対応しており、WEB会議によるご相談も可能です。ひとりで抱え込まず、まずはお気軽にご相談ください。
2022年の法改正で発信者情報開示請求はどう変わった?新しい手続で本当に早く特定できるのか
ネット掲示板やSNSで誹謗中傷を受けた方から、「2022年の法改正で、匿名投稿者を以前より簡単に特定できるようになったと聞いたのですが、本当ですか」というご相談を受けることがあります。
結論からいうと、2022年10月施行の改正により、発信者情報開示の手続は大きく改善されました。新たに「発信者情報開示命令事件」という裁判手続が設けられ、従来よりも一体的・迅速に投稿者の特定を目指せるようになっています。
もっとも、「誰でも簡単に、すぐに犯人を見つけられるようになった」という意味ではありません。裁判所を通じた手続である以上、投稿内容が違法と評価できること、つまり名誉毀損やプライバシー侵害などの権利侵害が明らかであることを、証拠に基づいて主張・立証する必要があります。
1 以前の手続はなぜ大変だったのか
従来、匿名投稿者を特定するためには、原則として2段階の手続が必要でした。
まず、掲示板やSNSの運営会社など、投稿が掲載されたサービスの管理者に対して、投稿に関するIPアドレスやタイムスタンプの開示を求めます。ここでいうサイト管理者やSNS事業者は、法律上「コンテンツプロバイダ」と呼ばれることがあります。
しかし、コンテンツプロバイダが投稿者の氏名や住所まで把握しているとは限りません。多くの場合、分かるのは投稿時またはログイン時のIPアドレス、投稿日時、ログイン日時などにとどまります。
そこで次に、そのIPアドレスを管理している通信会社・接続プロバイダを特定し、「その日時にこのIPアドレスを使っていた契約者は誰か」という情報の開示を求める必要がありました。
つまり、従来は一般に、
- サイト管理者に対する発信者情報開示仮処分
- 接続プロバイダに対する発信者情報開示請求訴訟
という別々の裁判手続を行う必要がありました。異なる相手方に対して、異なる裁判手続を順番に進めなければならないため、時間も費用もかかりやすい仕組みだったのです。
さらに、接続プロバイダの通信ログには保存期間があります。一般に、アクセスログは数か月程度で消去されることが多く、手続に時間がかかると、せっかくIPアドレスを取得しても、契約者情報にたどり着く前にログが消えてしまう危険がありました。
2 2022年改正で導入された「発信者情報開示命令事件」とは
このような問題を解消するため、改正法により新たに導入されたのが、発信者情報開示命令事件です。
これは、匿名投稿者の特定をより迅速に行うための非訟手続です。非訟手続とは、通常の訴訟よりも柔軟・迅速な処理が想定されている裁判手続の一種です。
発信者情報開示命令事件では、コンテンツプロバイダに対する手続と、接続プロバイダに対する手続を、1つの流れの中で進めることができます。
具体的には、裁判所に対して、まずサイト管理者やSNS事業者を相手方として発信者情報開示命令の申立てを行います。その中で、必要に応じて、接続プロバイダの名称等を提供させる「提供命令」や、ログの消去を防ぐための「消去禁止命令」も申し立てます。
提供命令が出されると、コンテンツプロバイダから接続プロバイダの名称等が提供され、その後、接続プロバイダに対する開示命令の申立てへ進むことができます。さらに、これらの手続は併合され、一体的に審理されることが予定されています。
そのため、従来のように「まず仮処分をして、次に別の訴訟を起こす」という流れと比べると、手続の重複が少なくなり、迅速な解決を目指しやすくなりました。
3 「裁判が1回で済む」という理解は正しいのか
「今は1回で済むのですか」という点については、半分は正しいですが、少し注意が必要です。
新しい手続では、従来のように、サイト管理者に対する仮処分と、接続プロバイダに対する訴訟を別々に進める必要性が小さくなりました。1つの発信者情報開示命令事件の中で、コンテンツプロバイダと接続プロバイダへの請求を連続的・一体的に扱えるため、「手続が一本化された」と説明されることがあります。
ただし、実務上は、最初からすべての情報がそろっているわけではありません。まずサイト管理者から接続プロバイダを特定するための情報を得て、その後、接続プロバイダに対する申立てを追加するという流れになることがあります。
また、相手方が争った場合や、開示命令に対して異議が出された場合には、通常の訴訟に移行する可能性もあります。そのため、「必ず1回の申立てだけで、短期間に氏名住所まで分かる」とまではいえません。
正確には、従来よりも一体的に進められるようになったが、事案によっては追加対応や訴訟対応が必要になることもある、という理解が適切です。
4 ログイン型SNSでは特定の可能性が広がった
2022年改正の重要なポイントの一つが、ログイン型サービスへの対応です。
X、Instagram、FacebookなどのSNSは、アカウントにログインして利用するサービスです。このようなサービスでは、問題投稿そのものの投稿時IPアドレスが保存されていない、あるいは十分に取得できないことがあります。
従来は、投稿時のIPアドレスが取得できない場合、投稿者の特定が難しくなることがありました。
改正後は、一定の要件のもとで、ログイン時のIPアドレスやタイムスタンプなど、いわゆるログイン時情報も開示対象となり得ることが明確化されました。これにより、投稿時情報だけでは特定が難しかったSNS上の誹謗中傷についても、投稿者にたどり着ける可能性が広がっています。
ただし、ログイン時情報であれば常に開示されるわけではありません。そのログインが問題投稿とどの程度関連しているか、ほかに投稿者を特定する手段があるか、開示の必要性があるかなどが問題になります。
5 新しい手続でも「違法性の立証」は必要
発信者情報開示命令事件が導入されたからといって、法的なハードルそのものが大きく下がったわけではありません。
裁判所は、単に「悪口を書かれた」「不快な投稿をされた」というだけで、投稿者の氏名住所を開示させるわけではありません。発信者情報は、投稿者側にとって重要な個人情報です。そのため、開示が認められるためには、投稿によって権利が侵害されたことが明らかであり、かつ、開示を受ける正当な理由があることを示す必要があります。
たとえば、次のような点を整理して主張することになります。
- どの投稿が問題なのか
- その投稿が誰について書かれたものか
- 投稿内容が事実を摘示しているのか、意見・論評なのか
- 摘示された事実が社会的評価を低下させるものか
- 真実性や公共性の反論が想定されるか
- プライバシー情報や個人情報が含まれているか
- 損害賠償請求や削除請求のために開示が必要か
この検討が不十分なまま申立てをしても、裁判所に権利侵害を認めてもらえず、申立てが認められない可能性があります。
6 すぐに犯人を見つけ出せるのか
新しい手続により、以前よりも迅速化されたことは確かです。しかし、「すぐに犯人を見つけ出せる」と考えるのは危険です。
発信者情報開示の手続では、サイト管理者やプロバイダへの照会、裁判所での審理、相手方からの反論、発信者への意見照会など、複数のステップがあります。接続プロバイダは、契約者に対して「情報を開示してよいか」という意見照会を行うのが通常です。契約者が開示に同意すれば比較的早く進むこともありますが、不同意の場合には裁判所の判断を待つ必要があります。
また、海外法人が運営するSNS、複数のプロバイダが関係する通信、MVNOや会社・学校の回線を利用した投稿などでは、手続が複雑化することもあります。
そのため、期間は事案によって異なります。数か月で特定できることもありますが、争いが強い場合や手続が複雑な場合には、さらに時間がかかることもあります。
7 従来型の手続を選ぶこともある
発信者情報開示命令事件は有効な手段ですが、すべてのケースで最適とは限りません。
たとえば、相手方が強く争うことが予想される事案、法的論点が複雑な事案、通常訴訟で慎重に主張立証した方がよい事案では、従来型の発信者情報開示請求訴訟を選択することもあります。
また、削除請求を同時に進めたい場合、投稿の拡散を止める必要がある場合、刑事告訴も視野に入れる場合など、目的に応じて最適な手続は変わります。
大切なのは、「新しい手続だから必ずよい」「従来の手続だから古い」という単純な判断をしないことです。投稿内容、媒体、ログの保存状況、相手方の所在、証拠の強さを踏まえて、最も成功可能性の高い方法を選ぶ必要があります。
8 相談前に準備しておくべき資料
弁護士に相談する際は、次の資料をできる限り準備しておくと、手続選択や見通しの判断がしやすくなります。
- 問題投稿のURL
- 投稿画面のスクリーンショット
- 掲示板のスレッド全体の流れ
- 投稿日時
- 投稿番号
- 投稿者名、ID、アカウント情報
- 相談者本人を指していると分かる事情
- 投稿内容が事実無根であることを示す資料
- 実際に生じた被害の資料
掲示板の場合、投稿番号やスレッドURLが重要です。SNSの場合は、投稿URL、アカウントURL、プロフィール画面、返信や引用の状況も保存しておくとよいでしょう。
9 まとめ
2022年の法改正により、発信者情報開示命令事件という新しい手続が導入され、匿名投稿者の特定手続は従来よりも一本化・迅速化されました。特に、コンテンツプロバイダと接続プロバイダに対する手続を一体的に進められる点、ログイン時情報の開示対象が明確化された点は、SNSや掲示板での誹謗中傷被害者にとって大きな意味があります。
しかし、新しい手続を使えば誰でもすぐに投稿者を特定できるわけではありません。投稿内容が違法といえるか、権利侵害が明らかか、証拠が十分か、ログが残っているかによって結果は変わります。
誹謗中傷の投稿を見つけたら、まずはURLとスクリーンショットを保存し、できるだけ早く弁護士に相談してください。早期に動くことで、ログ消去のリスクを避け、最適な手続を選択できる可能性が高まります。

有森FA法律事務所では、インターネット上の誹謗中傷や名誉毀損、プライバシー・著作権に関するトラブルなど、ネットにまつわる様々なお悩みに対応しています。スマートフォンやSNSが日常に溶け込んだ今、ネット上の問題は誰にとっても身近なリスクとなっています。東京都をはじめ全国からのご相談に対応しており、WEB会議によるご相談も可能です。ひとりで抱え込まず、まずはお気軽にご相談ください。
匿名アカウントを特定する発信者情報開示請求の流れ|X(旧Twitter)の誹謗中傷にどう対応するか
X(旧Twitter)で、身に覚えのない誹謗中傷が拡散されている。しかも投稿者は匿名アカウントで、誰が書き込んでいるのか分からない。このような場合、「相手を特定して損害賠償請求や刑事告訴をしたい」と考えるのは自然なことです。
匿名投稿者を特定するための代表的な手続が、いわゆる発信者情報開示請求です。これは、SNS事業者やインターネット接続事業者に対し、投稿者の特定につながる情報の開示を求める制度です。
ただし、発信者情報開示請求は、警察に相談すればすぐに投稿者の氏名住所を調べてもらえる、という手続ではありません。刑事事件として警察が捜査する場合もありますが、投稿者を特定して民事上の損害賠償請求などにつなげるためには、通常、裁判所を利用した民事手続を進める必要があります。
1 まず押さえるべきポイント
匿名アカウントの投稿者を特定するには、基本的に次の流れをたどります。
- XなどのSNS事業者から、投稿に関係するIPアドレスやタイムスタンプなどを取得する
- その情報をもとに、通信会社・接続プロバイダを特定する
- 接続プロバイダに対し、その日時に当該IPアドレスを利用していた契約者情報の開示を求める
- 裁判所が開示を認めれば、氏名・住所等が開示される
- 開示された情報をもとに、損害賠償請求、削除請求、刑事告訴などを検討する
従来は、SNS事業者に対する手続と接続プロバイダに対する手続を別々に行う必要があり、時間と手間がかかることが問題とされていました。現在は、法改正により、発信者情報開示命令という非訟手続が設けられ、コンテンツプロバイダと経由プロバイダに対する手続を一体的・迅速に進める仕組みが整備されています。
もっとも、すべての事案で新しい手続だけを使えばよいわけではありません。事案の内容、投稿媒体、保存されているログの種類、相手方プロバイダの対応などによって、従来型の仮処分・訴訟を利用するか、発信者情報開示命令手続を利用するかを検討することになります。
2 ステップ1:問題投稿の証拠を保存する
最初に行うべきことは、証拠の保存です。
誹謗中傷投稿は、投稿者自身が削除することもありますし、アカウントが凍結されたり、表示内容が変わったりすることもあります。そのため、相談前の段階で、少なくとも次の情報を保存しておくことが重要です。
- 投稿のURL
- 投稿本文が分かるスクリーンショット
- 投稿日時
- アカウント名、ユーザーID
- プロフィール画面
- リポスト、引用、返信など拡散状況が分かる画面
- その投稿によって生じた実害を示す資料
単なるスクリーンショットだけでは、URLや投稿日時が分からない場合があります。後の手続では、どの投稿について開示を求めるのかを特定する必要があるため、URLと画面表示の両方を保存しておくことが望ましいです。
3 ステップ2:権利侵害が明らかかを検討する
発信者情報開示請求は、単に「嫌なことを書かれた」「腹が立つ投稿をされた」というだけで認められるものではありません。
開示が認められるためには、一般に、投稿によって名誉権、プライバシー権、肖像権、営業上の信用などの権利が侵害されたことが明らかであり、かつ、発信者情報の開示を受ける正当な理由があることが必要です。
たとえば、次のような投稿は、名誉毀損やプライバシー侵害として問題になり得ます。
- 「あの人は詐欺をしている」など、犯罪行為をしたかのように書く投稿
- 事実に反して「不倫している」「横領している」などと断定する投稿
- 本名、住所、勤務先、家族構成などを晒す投稿
- 事業者について「反社会的勢力と関係がある」「違法営業をしている」などと書く投稿
一方で、単なる感想、論評、批判にとどまる投稿については、開示が認められにくい場合もあります。投稿の文言、前後の文脈、画像の有無、閲覧者がどのように受け取るかを具体的に検討する必要があります。
4 ステップ3:XなどのSNS事業者に対する手続
匿名アカウントの場合、XなどのSNS事業者が投稿者の氏名や住所を直接把握しているとは限りません。多くの場合、最初に取得を目指すのは、投稿時またはログイン時のIPアドレス、タイムスタンプなどです。
従来型の手続では、SNS事業者などのコンテンツプロバイダに対して、発信者情報開示の仮処分を申し立てることが一般的でした。仮処分とは、正式な訴訟の判決を待っていては権利救済が遅れてしまう場合に、裁判所に暫定的な判断を求める手続です。
現在は、発信者情報開示命令手続を利用することも可能です。この手続では、裁判所が、開示命令、提供命令、消去禁止命令という複数の命令を活用しながら、投稿者特定に必要な情報を段階的に取得・保全することが想定されています。
特に提供命令は、コンテンツプロバイダに対し、経由プロバイダの名称等を申立人に提供させる仕組みです。また、コンテンツプロバイダが保有するIPアドレス等を、申立人には秘密にしたまま経由プロバイダへ提供させることも想定されています。
5 ステップ4:通信会社・接続プロバイダに対する手続
SNS事業者からIPアドレスやタイムスタンプなどが判明すると、次に、そのIPアドレスを管理している通信会社・接続プロバイダを特定します。
たとえば、携帯電話回線、光回線、プロバイダ、MVNOなどが関係することがあります。ここで問題となるのは、「その日時に、そのIPアドレスを使って通信していた契約者が誰か」です。
従来型の手続では、接続プロバイダに対して発信者情報開示請求訴訟を提起し、氏名・住所などの開示を求めるのが一般的でした。現在は、発信者情報開示命令の申立てにより、コンテンツプロバイダに対する手続と接続プロバイダに対する手続を併合し、一体的に審理することが可能とされています。
この段階で、接続プロバイダは契約者に対し、「あなたの情報を開示してよいか」という意見照会を行うのが通常です。ガイドライン上も、開示請求を受けたプロバイダが発信者に意見照会を行うための書式が示されており、一定期間内に回答を求める運用が予定されています。
契約者が開示に同意すれば、比較的早く情報が開示されることがあります。一方、不同意の場合には、裁判所が投稿内容や権利侵害の有無、開示の必要性などを踏まえて判断します。
6 スピードが重要な理由
発信者情報開示請求で最も重要なのは、早期着手です。
アクセスログは永久に保存されるわけではありません。一般に、大手アクセスプロバイダのアクセスログの保有期間は3か月程度といわれ、法律上の保存義務もないため、手続が遅れると、開示請求が認められる前にログが消えてしまう可能性があります。
別の実務解説でも、サイト管理者やプロバイダが保存するログの多くは3〜6か月程度で消去されるため、依頼のタイミングによっては投稿者を特定できないことがあると説明されています。
そのため、「様子を見てから相談する」「投稿がもっと拡散してから動く」という対応は危険です。投稿から時間が経てば経つほど、投稿者特定の可能性は低下します。
警察に相談すれば特定してもらえるのか
警察への相談が無意味というわけではありません。脅迫、業務妨害、名誉毀損、侮辱、ストーカー行為など、刑事事件として問題になり得る内容であれば、警察に相談する価値はあります。
しかし、警察が必ず捜査を開始し、投稿者を特定してくれるとは限りません。特に、民事上の損害賠償請求を目的として氏名住所を知りたい場合には、被害者側で発信者情報開示請求を進める必要があるケースが多いです。
したがって、実務上は、警察相談と民事手続を分けて考えるべきです。緊急性の高い脅迫や危険がある場合は警察へ相談しつつ、投稿者の特定や損害賠償請求を視野に入れる場合は、早急に弁護士へ相談して開示手続を検討することになります。
7 特定後にできる法的措置
投稿者の氏名・住所等が開示された後は、事案に応じて次の対応を検討します。
- 投稿者に対する損害賠償請求
- 慰謝料、調査費用、弁護士費用相当額の請求
- 投稿削除の請求
- 謝罪文や再発防止誓約の要求
- 刑事告訴
- 示談交渉
- 訴訟提起
開示手続は、あくまで「相手を特定するための手続」です。氏名住所が分かった後に、どのような請求を行うかは別途検討する必要があります。
8 まとめ
Xの匿名アカウントによる誹謗中傷について投稿者を特定するには、基本的に、SNS事業者からIPアドレス等を取得し、その情報をもとに接続プロバイダから契約者情報の開示を受けるという流れをたどります。現在は、発信者情報開示命令手続により、従来よりも一体的・迅速に進められる仕組みが整備されていますが、ログの保存期間が短いという問題は依然として重要です。
発信者情報開示請求は、時間との勝負です。投稿を見つけたら、URL、スクリーンショット、投稿日時、アカウント情報を保存し、できるだけ早く弁護士に相談することをおすすめします。早期に動くことで、投稿者を特定できる可能性を高めることができます。

有森FA法律事務所では、インターネット上の誹謗中傷や名誉毀損、プライバシー・著作権に関するトラブルなど、ネットにまつわる様々なお悩みに対応しています。スマートフォンやSNSが日常に溶け込んだ今、ネット上の問題は誰にとっても身近なリスクとなっています。東京都をはじめ全国からのご相談に対応しており、WEB会議によるご相談も可能です。ひとりで抱え込まず、まずはお気軽にご相談ください。
ネット掲示板に本名・大学名・実家住所を晒された場合の法的対応
【相談内容】
大学生のBさんは、SNS上で口論になった相手から、過去の投稿写真などをもとに身元を特定され、掲示板に本名、大学名、実家の住所を書き込まれました。
さらに、「家に突撃しよう」といった趣旨の煽り文句も投稿されており、Bさんは自分だけでなく家族に危害が及ばないか強い不安を感じています。
悪口や虚偽の事実が書かれているわけではなく、個人情報が掲載されただけの場合でも、法律上問題になるのでしょうか。また、すぐに削除できるのでしょうか。
【弁護士の回答】
結論として、本名、大学名、実家住所を本人の同意なく掲示板に投稿する行為は、プライバシー権侵害に当たる可能性が高いです。特に住所は、私生活の平穏や身体の安全に直結する情報であり、「悪口が書かれていないから問題ない」とはいえません。
法務省の削除依頼に関する手引きでも、本人の同意なく個人情報を公開し、私生活の平穏を侵害する場合には、民法709条の不法行為としてプライバシー権侵害が問題になるとされています。
さらに、「家に突撃しよう」といった投稿が添えられている場合、単なるプライバシー侵害にとどまらず、身の危険を感じる事案です。法務省の手引きでも、投稿によってストーカー被害に遭うおそれがある場合や、危害を加えるような脅しの言葉が書き込まれている場合には、ためらわず警察に相談するよう案内されています。
1 住所・本名・大学名の掲載はプライバシー侵害になり得る
プライバシー侵害は、名誉毀損とは異なります。
名誉毀損は、社会的評価を低下させる事実を摘示した場合に問題になります。これに対し、プライバシー侵害は、たとえ情報が真実であっても、本人が公開を望まない私生活上の情報を無断で公開した場合に成立し得ます。
特に、次の情報はプライバシー性が高い情報です。
- 自宅住所
- 実家住所
- 電話番号
- 学校名と本名の組合せ
- 勤務先
- 顔写真
- 家族構成
- 最寄り駅や生活圏
- 病歴、交際関係、過去のトラブル
「過去の投稿写真から調べれば分かる情報だった」と反論されることがあります。しかし、断片的な情報を収集・照合し、「この人の本名はこれ、大学はここ、実家住所はここ」と特定して掲示板に晒す行為は、単なる公開情報の引用とはいえません。本人が想定していない形で個人情報を結び付け、危害を誘発し得る状態に置く点で、プライバシー権侵害として評価される可能性が高いです。
ネット上で住所などの私生活情報が無断公開された場合、削除請求、発信者情報開示請求、損害賠償請求のいずれも検討可能です。プライバシー侵害は、内容が真実であっても成立する点が名誉毀損と異なると整理されています。
2 最優先は削除と拡散防止
Bさんのケースで最優先すべきなのは、投稿の削除です。
住所が掲示板に残っている限り、第三者に保存・転載・拡散される危険があります。特に「家に突撃しよう」といった煽りがある場合、放置すると実害に発展する可能性があります。
削除対応は、一般に次の順序で進めます。
①証拠を保存する
削除依頼の前に、必ず証拠を保存してください。削除されると投稿自体は消えますが、投稿者の責任追及に必要な証拠も失われることがあります。
保存すべきものは次のとおりです。
- 投稿のURL
- 掲示板名・スレッド名
- 投稿番号
- 投稿日時
- 投稿者名・ID
- 本文
- 本名・大学名・住所が表示されている部分
- 「突撃しよう」など危害を示唆する文言
- 前後の投稿
- スクリーンショット
- 可能であればページ全体のPDF保存
法務省の手引きでも、削除依頼では該当ページURL、依頼内容、侵害された権利や理由を示すことが想定されています。
②サイトやSNSの削除フォームから申請する
多くの掲示板やSNSでは、個人情報の晒し、住所の掲載、嫌がらせ、危害を促す投稿を禁止しています。まずは公式の削除申請フォームから、プライバシー侵害を理由に削除を求めます。
このとき、「本名」「大学名」「実家住所」が掲載されていること、「家に突撃しよう」という危害を誘発する文言があること、本人と家族の安全に関わることを明確に記載します。
③送信防止措置依頼を行う
サイト側が任意削除に応じない場合、プロバイダや掲示板管理者に対して、送信防止措置依頼を行います。ネット中傷対策実務では、削除の方法として送信防止措置依頼や削除仮処分が用いられると説明されています。
削除依頼では、掲示板全体ではなく、問題のある投稿のURLや投稿番号を特定することが重要です。掲示板の場合、どの番号の書き込みが問題かを指定する必要があるとされています。
④裁判所に削除仮処分を申し立てる
任意の削除で対応されない場合や緊急性が高い場合は、裁判所に削除仮処分を申し立てます。プライバシー権侵害を理由とする削除仮処分では、プライバシー権という被保全権利と、放置すれば著しい損害や急迫の危険があるという保全の必要性を示すことが重要です。
Bさんのように、実家住所と危害をあおる文言が同時に投稿されているケースでは、削除の緊急性は高いと考えられます。
3 身の危険を感じる場合は警察にも相談する
「家に突撃しよう」という投稿がある以上、民事上の削除請求だけで対応を終えるべきではありません。
次のような事情がある場合は、速やかに警察へ相談してください。
- 実家住所が書かれている
- 家族が住んでいる住所である
- 「突撃」「行こう」「待ち伏せ」などの文言がある
- 投稿者がBさんに執着している
- 過去にも嫌がらせがある
- 投稿が拡散されている
- 実際に不審者や電話、郵便物などの異変がある
法務省の手引きでも、身の危険を感じる場合や脅迫されている場合は、警察相談専用電話「#9110」やサイバー犯罪相談窓口への相談が案内されています。
警察に行く際は、スクリーンショットを印刷し、URL、投稿日時、投稿番号、投稿内容、SNS上の口論の経緯、相手方アカウントが分かる資料を持参するとよいでしょう。実家にも状況を共有し、インターホン対応、郵便物、来訪者への注意、大学への相談も検討してください。
4 投稿者を特定する発信者情報開示請求
削除だけでなく、投稿者を特定して責任追及したい場合は、発信者情報開示請求を行います。
発信者情報開示請求とは、インターネット上でプライバシー侵害などの権利侵害を受けた被害者が、掲示板管理者や通信事業者などに対して、投稿者の情報開示を求める手続です。
匿名掲示板では、掲示板管理者が投稿者の氏名や住所を直接把握していないことが多いため、通常は次のような流れになります。
- 掲示板管理者に対し、IPアドレス、タイムスタンプ、ポート番号などの開示を求める
- その情報をもとにアクセスプロバイダを特定する
- アクセスプロバイダに対し、契約者の氏名、住所、メールアドレス、電話番号などの開示を求める
- 投稿者を特定した後、損害賠償請求、謝罪要求、再発防止の合意、刑事告訴などを検討する
匿名掲示板では、発信者の氏名・住所までは把握されていないことが多く、第1段階でIPアドレスやタイムスタンプ等のアクセスログ情報を取得し、第2段階でアクセスプロバイダに氏名・住所等の開示を求める流れが説明されています。
発信者情報開示請求は時間との勝負です。通信ログの保存期間は限られており、ログ保存期間の制約から、投稿者の特定を目指すなら早期対応が必要とされています。
5 損害賠償として請求できる可能性があるもの
投稿者が特定できた場合、民法709条に基づき、不法行為として損害賠償請求を検討します。
住所晒しのようなプライバシー侵害では、次のような損害が問題になり得ます。
- 慰謝料
- 削除対応に要した費用
- 発信者情報開示請求に要した費用
- 弁護士費用の一部
- 引っ越しを余儀なくされた場合の転居費用
- 防犯対策費用
- 通院が必要になった場合の治療費
- 学業やアルバイトに支障が出た場合の損害
もっとも、どこまで損害として認められるかは、投稿内容、危険の程度、拡散状況、実害の有無、転居の必要性、証拠の有無によって変わります。
実務上は、住所という秘匿性の高い情報が公開され、危害をあおる文言まである場合、単なる氏名掲載よりも悪質性が高いと評価されやすいでしょう。
6 被害者側の住所をさらに晒さない工夫も必要
Bさんのケースでは、すでに実家住所が公開されています。そのため、削除請求や開示請求の手続を進める際にも、Bさん自身の連絡先や現住所を不用意に相手方へ知らせない工夫が必要です。
裁判外の通知や交渉では、弁護士に依頼することで法律事務所を連絡窓口にできます。また、裁判手続では、ストーカー被害や危害のおそれがある事案で、住所等の秘匿措置を検討できる場合があります。発信者情報開示請求では、被害者自身のプライバシーを守る工夫も重要であり、弁護士名での通知や秘匿措置の活用が紹介されています。
7 まとめ
Bさんの本名、大学名、実家住所を掲示板に投稿する行為は、悪口がなくてもプライバシー権侵害に当たる可能性が高いです。特に実家住所は、本人だけでなく家族の安全にも関わる情報であり、「家に突撃しよう」という文言がある以上、緊急性の高い事案です。
まずは、投稿のURL、日時、投稿番号、本文、前後の投稿を保存してください。そのうえで、サイトの削除フォーム、送信防止措置依頼、削除仮処分を使って、早急に投稿の削除を求めます。
同時に、身の危険を感じる場合は警察へ相談してください。法務省の手引きでも、危害を加えるような脅しの言葉が書き込まれている場合には、ためらわず警察に相談するよう案内されています。
削除後は、発信者情報開示請求により投稿者を特定し、損害賠償請求や再発防止の対応を検討します。通信ログには保存期間があるため、様子を見るのではなく、できるだけ早く動くことが重要です。
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所では、インターネット上の誹謗中傷や名誉毀損、プライバシー・著作権に関するトラブルなど、ネットにまつわる様々なお悩みに対応しています。スマートフォンやSNSが日常に溶け込んだ今、ネット上の問題は誰にとっても身近なリスクとなっています。東京都をはじめ全国からのご相談に対応しており、WEB会議によるご相談も可能です。ひとりで抱え込まず、まずはお気軽にご相談ください。
昔の投稿でも訴えられる?ログ保存期間と発信者特定の実務上の限界
「投稿からかなり時間が経っているが、今からでも投稿者を特定できるのか」
「昔の投稿が最近になって拡散されている」
「法律上の時効にはまだ余裕があるはずなのに、弁護士から急ぐように言われた」
ネット上の誹謗中傷では、民事上の損害賠償請求や刑事告訴の期限だけでなく、投稿者を特定するためのアクセスログの保存期間が極めて重要です。
前回は、民事上の損害賠償請求の時効、名誉毀損罪・侮辱罪の公訴時効、告訴期間について解説しました。
本日は、実務上最も早く問題になる「ログ保存期間」と、数年前の投稿でも対応できる可能性があるケースについて解説します。
1 法律上の時効より怖い「ログ保存期間」
ネット誹謗中傷の対応で最も注意すべきなのは、民事の3年・20年、刑事の3年といった法律上の期間よりも、アクセスログの保存期間です。
発信者情報開示請求では、SNS、掲示板、口コミサイトなどのコンテンツプロバイダからIPアドレス等の情報を取得し、その後、インターネット接続プロバイダから契約者情報の開示を受けるという流れになることがあります。
現在は、発信者情報開示命令制度により、従来よりも手続の迅速化が図られています。
しかし、どれだけ制度が整備されても、投稿者を特定するためのログがすでに消えていれば、発信者の特定は困難です。
実務上、アクセスログの保存期間は3か月から6か月程度といわれることが多く、事業者によってはそれより短い場合もあります。
そのため、投稿から半年以上経過している場合には、発信者情報開示請求を行っても、すでにログが残っていない可能性があります。
2 ログが消えると何が困るのか
匿名投稿の投稿者を特定するためには、通常、複数の情報をたどる必要があります。
たとえば、SNSや掲示板に投稿された場合、まず投稿時に使われたIPアドレスやタイムスタンプを取得します。
次に、そのIPアドレスを管理しているインターネット接続プロバイダに対し、その時刻にそのIPアドレスを利用していた契約者情報の開示を求めます。
このとき、プロバイダ側に接続ログが残っていなければ、「その日時にそのIPアドレスを使っていた契約者」が分かりません。
つまり、ログが消えてしまうと、投稿者を特定するための手がかりが途切れてしまうのです。
法律上、損害賠償請求権がまだ時効にかかっていなかったとしても、相手を特定できなければ、現実に請求することは困難です。
この意味で、ネット誹謗中傷では、法律上の時効よりもアクセスログの保存期間のほうが、実務上のタイムリミットとして厳しく機能することがあります。
3 発信者情報開示請求は時間との勝負
発信者情報開示請求には、一定の準備が必要です。
投稿内容が権利侵害に当たるかを検討し、投稿のURLや日時を特定し、証拠を整理し、裁判所に提出する資料を準備する必要があります。
相手方となる事業者の選定も重要です。SNS事業者、掲示板管理者、サーバー管理者、インターネット接続プロバイダなど、どの事業者に対してどの情報の開示を求めるかを誤ると、手続が遅れてしまうおそれがあります。
また、ログイン型のSNSでは、投稿時のIPアドレスではなく、ログイン時のIPアドレスが問題になることがあります。この場合、どの期間のログイン情報を対象にするかなど、請求内容の設計にも注意が必要です。
そのため、発信者情報開示請求は、単に「開示してください」と申し立てればよいものではありません。投稿内容、媒体の仕組み、ログの保存状況、裁判手続の選択を踏まえて、迅速かつ正確に進める必要があります。
4 数年前の投稿でも対応できる場合
投稿から時間が経っている場合でも、すべてのケースで対応が不可能になるわけではありません。
数年前の投稿であっても、次のような場合には、法的措置を検討できることがあります。
【投稿者がすでに分かっている場合】
元交際相手、元従業員、取引先関係者、同業者、知人など、投稿者が誰であるかを具体的に把握している場合には、発信者情報開示請求による特定が不要なことがあります。
この場合、アクセスログが消えていても、投稿者を被告として損害賠償請求を検討できる可能性があります。
もっとも、相手が本当に投稿したことを立証できるかが問題になります。
アカウント名だけでなく、過去のやり取り、投稿内容の特徴、本人しか知り得ない情報、投稿端末やアカウントの管理状況など、証拠関係を丁寧に整理する必要があります。
【再投稿・転載・拡散がある場合】
古い投稿そのものについてログが消えていても、最近になって第三者が再投稿、転載、引用、リポスト、まとめサイトへの掲載などを行っている場合には、その新たな行為を対象として対応できる可能性があります。
たとえば、数年前の投稿が最近になってまとめサイトに転載され、検索結果で上位表示されるようになった場合、その転載行為や掲載継続について削除請求や損害賠償請求を検討する余地があります。
また、SNS上で過去の投稿が再拡散され、新たな被害が生じている場合には、元投稿だけでなく、再拡散したアカウントの行為も検討対象になります。
【投稿が現在も掲載され続けている場合】
損害賠償請求や刑事告訴には期間制限がありますが、投稿が現在も掲載され続けている場合には、削除請求を検討できることがあります。
削除請求は、現在も続いている権利侵害を除去するための手段です。
特に、検索結果に表示され続けている投稿、口コミサイトに残り続けている虚偽投稿、まとめサイトに転載された記事などは、現在も被害を生じさせている可能性があります。
もっとも、削除が認められるかどうかは、投稿内容が違法といえるか、公共性・公益目的・真実性または相当性が問題になるか、表現の自由との関係で削除が相当かなど、個別事情によって判断されます。
5 削除請求と発信者特定は順番に注意
ネット誹謗中傷の対応では、削除請求と発信者情報開示請求の順番にも注意が必要です。
被害者としては、まず問題の投稿を消したいと考えるのが自然です。
しかし、投稿が削除されると、投稿内容、URL、投稿日時、アカウント情報などの証拠が失われることがあります。また、事案によっては、発信者情報開示請求に必要な情報の確認が難しくなることもあります。
そのため、削除を急ぐべき事案なのか、まず発信者情報開示請求を優先すべき事案なのかを判断する必要があります。
たとえば、企業の信用を大きく毀損する投稿が検索上位に表示されている場合には、被害拡大を防ぐために削除を急ぐ必要があります。
一方で、投稿者に対する損害賠償請求や刑事告訴を重視する場合には、証拠保全やログ保存を優先すべき場合があります。
この判断を誤ると、投稿は消えたものの投稿者を特定できなくなる、あるいは証拠が不足して損害賠償請求が難しくなるといった事態が起こり得ます。
6 時効が迫っている場合に取るべき初動
ネット誹謗中傷を発見した場合、最初に行うべきことは証拠の確保です。
投稿が削除された後では、投稿内容や掲載状況を立証することが難しくなることがあります。
特に、以下の情報を保存しておくことが重要です。
①投稿本文
②投稿のURL
③投稿日時
④アカウント名、ユーザーID、プロフィール
⑤返信、引用、リポスト、コメント欄
⑥投稿が表示されている検索結果
⑦画像、動画、添付ファイル
⑧被害状況が分かる資料
⑨売上減少、問い合わせ、取引停止などの実害がある場合の資料
スクリーンショットを撮る場合には、画面の一部だけでなく、URLや日時、投稿者情報が分かる形で保存することが望ましいです。
可能であれば、証拠保全の方法について弁護士に相談したうえで、公証役場での事実実験公正証書、証拠保全サービス、タイムスタンプなどの利用を検討することもあります。
次に、投稿者の特定が必要かどうかを判断します。
相手が匿名の場合には、発信者情報開示請求やログ保存の手続を早急に検討する必要があります。
さらに、刑事告訴を検討する場合には、名誉毀損罪・侮辱罪の要件、告訴期間、公訴時効、証拠の十分性を確認する必要があります。
7 「もう遅いかも」と思っても確認すべきポイント
投稿から時間が経っている場合でも、次の点を確認することで、まだ対応可能な手段が見つかることがあります。
①投稿者の氏名・住所がすでに分かっているか
②投稿が現在も閲覧可能か
③最近、再投稿・転載・引用・拡散があったか
④まとめサイトや検索結果に新たに表示されているか
⑤投稿内容が虚偽事実か、意見論評か
⑥名誉毀損、侮辱、プライバシー侵害、業務妨害、信用毀損のいずれが問題になるか
⑦証拠が残っているか
⑧損害が具体的に発生しているか
⑨刑事告訴を希望するのか、削除・損害賠償を優先するのか
ネット上の誹謗中傷対応では、削除請求、発信者情報開示請求、損害賠償請求、刑事告訴をどの順番で進めるかが重要です。
先に削除を求めると、証拠やログの確保に影響することがあります。
一方で、放置すると拡散が進み、検索結果に定着することもあります。
そのため、投稿を見つけたら、まず証拠を保存し、そのうえで、削除を急ぐべきか、発信者情報開示を優先すべきか、刑事告訴を視野に入れるべきかを判断する必要があります。
8 まとめ
ネット誹謗中傷の実務で最も早く問題になるのは、発信者情報開示に必要なアクセスログの保存期間です。法律上、民事の損害賠償請求権がまだ時効にかかっていなくても、ログが消えてしまえば投稿者を特定できず、現実の責任追及が難しくなることがあります。
投稿から時間が経っている場合でも、投稿者が分かっている場合、再投稿や転載がある場合、現在も投稿が掲載されている場合には、まだ取り得る手段が残っていることがあります。
「昔の投稿だから無理だろう」と諦める前に、次の点を確認してください。
①投稿は現在も残っているか
②投稿者を特定できる事情はあるか
③最近の再拡散や転載はあるか
④証拠は保存できているか
⑤削除、発信者情報開示、損害賠償、刑事告訴のどれを優先すべきか
重要なのは、気づいた時点で証拠を確保し、できるだけ早く対応方針を決めることです。
時効やログ保存期間が迫っている場合でも、事案によっては緊急の保全措置や発信者情報開示手続によって間に合う可能性があります。
過去の書き込みであっても、諦める前に、投稿内容、掲載場所、投稿時期、拡散状況、投稿者特定の可能性を整理し、早めに弁護士へ相談することをおすすめします。

有森FA法律事務所では、インターネット上の誹謗中傷や名誉毀損、プライバシー・著作権に関するトラブルなど、ネットにまつわる様々なお悩みに対応しています。スマートフォンやSNSが日常に溶け込んだ今、ネット上の問題は誰にとっても身近なリスクとなっています。東京都をはじめ全国からのご相談に対応しており、WEB会議によるご相談も可能です。ひとりで抱え込まず、まずはお気軽にご相談ください。