フリーWi-FiやVPNを使った誹謗中傷は特定できる?匿名化された投稿への発信者情報開示請求

ネット上で誹謗中傷をしている相手が、カフェのフリーWi-Fiや海外VPN、Torなどを使っているかもしれない。そのような場合、発信者情報開示請求をしても、結局「特定できませんでした」で終わってしまうのではないか。

このような不安を持つ方は少なくありません。

結論からいうと、フリーWi-FiやVPNが使われている場合、投稿者特定の難易度は上がります。通常の自宅回線や携帯回線からの投稿と比べると、開示請求が途中で行き詰まるリスクは高くなります。

もっとも、「絶対に特定できない」と決まっているわけではありません。投稿先のサービス、利用された通信手段、アカウントの利用履歴、登録情報、投稿内容の悪質性などによっては、特定につながる手がかりが見つかることがあります。

1 発信者情報開示請求で分かること

発信者情報開示請求では、まず掲示板やSNSなどの運営者に対して、投稿に使われたIPアドレスやタイムスタンプの開示を求めます。IPアドレスは、インターネット上の通信の手がかりとなる情報であり、投稿時に利用された回線やプロバイダをたどる出発点になります。ウェブ

ただし、IPアドレスだけで投稿者の氏名や住所が分かるわけではありません。IPアドレスから分かるのは、利用された回線、通信事業者、国や地域などにとどまります。投稿者本人を特定するためには、そのIPアドレスを管理しているプロバイダ等に対し、契約者情報の開示を求める必要があります。ウェブ

問題は、開示されたIPアドレスが、自宅回線や携帯回線ではなく、フリーWi-FiやVPNサーバーを指している場合です。この場合、その先にいる実際の投稿者までたどるために、通常より多くの検討が必要になります。

2 カフェや店舗のフリーWi-Fiが使われていた場合

カフェ、商業施設、駅、ホテル、ネットカフェなどのフリーWi-Fiを使って投稿された場合、開示されたIPアドレスから、そのWi-Fiサービスや店舗、施設にたどり着けることがあります。

しかし、そこで直ちに「誰が投稿したか」が分かるわけではありません。

たとえば、IPアドレスから「ある店舗のフリーWi-Fiが使われた」と分かったとしても、その時間帯に店内にいた利用者は複数いる可能性があります。フリーWi-Fiの場合、民事の発信者情報開示請求では特定が行き詰まるケースが多いと指摘されています。ウェブ

もっとも、次のような事情があれば、特定可能性が高まることがあります。

  • Wi-Fi利用時にメールアドレス、電話番号、SNSアカウント等の登録が必要だった
  • 店舗や施設側に利用ログが残っている
  • 防犯カメラ映像と投稿時刻を照合できる
  • ネットカフェの会員登録情報や入退店記録がある
  • 投稿者が同じアカウントを別の通信環境でも利用している

特に、脅迫や業務妨害など事件性が高い場合には、警察の捜査により、Wi-Fiサービス事業者のログや防犯カメラ映像が確認されることがあります。ただし、名誉毀損や侮辱などの民事中心の事案で、警察が常にそこまで捜査してくれるとは限りません。

したがって、フリーWi-Fiが使われた場合は、民事手続だけで完結するのか、警察相談も並行すべきかを慎重に判断する必要があります。

3 VPNが使われていた場合

VPNとは、通信を別のサーバー経由にする仕組みです。投稿者がVPNを使っていた場合、掲示板やSNSに記録されるIPアドレスは、投稿者本人の自宅回線や携帯回線ではなく、VPNサーバーのIPアドレスになることがあります。

この場合、次の段階では、VPN事業者に対して、当該時刻にそのVPNサーバーを利用していた契約者情報や接続ログの開示を求めることになります。ウェブ

ただし、VPN事業者によっては、利用者の接続ログを保存しない「ノーログ」を掲げている場合があります。実際にログを保存していなければ、裁判所や捜査機関から照会を受けても「提供できる情報がない」という結論になることがあります。ウェブ

また、海外VPNの場合は、その事業者がどの国に所在するか、現地法上の開示手続に応じるか、日本からの請求に対応するかといった問題もあります。海外事業者が任意に対応しない場合、時間や費用が増え、ログ保存期間との関係で特定が難しくなることもあります。

4 それでもVPN利用者が特定される可能性がある理由

VPNが使われていると、特定は難しくなります。しかし、「VPNを使ったから絶対に安全」とはいえません。

たとえば、次のような事情があると、投稿者の特定につながる可能性があります。

1. VPN事業者がログを保存している

すべてのVPN事業者が本当にログを保存していないわけではありません。接続日時、接続元IPアドレス、アカウント情報、決済情報など、何らかの情報が残っている場合があります。

ログが残っていれば、法的手続や捜査を通じて、契約者や利用者にたどり着ける可能性があります。

2. アカウント登録情報から追える

VPNの利用自体では本人が分からなくても、投稿先の掲示板やSNSに登録されたメールアドレス、電話番号、二段階認証情報、決済情報などが手がかりになることがあります。

TorやVPNのような匿名化技術を使っていても、クレジットカード名義や二要素認証に使った電話番号など、IPアドレス以外の個人情報から特定される可能性があると指摘されています。ウェブ

3. 同じアカウントを別の環境で使っている

投稿時はVPNを使っていても、別の日に同じアカウントへ自宅回線や携帯回線からログインしていることがあります。

X、Instagram、掲示板の会員制アカウントなど、ログイン型サービスでは、問題投稿そのもののIPアドレスだけでなく、アカウントのログイン履歴が重要な手がかりになることがあります。VPNを使い忘れた通信や、別環境からのログイン履歴があれば、そこから特定を試みる余地があります。

4. VPN設定の不備やIP漏れがある

投稿者がITに詳しいつもりでも、VPN設定を誤っていたり、通信の一部で本来のIPアドレスが漏れていたりすることがあります。

投稿者が常に完璧に匿名化しているとは限りません。複数の投稿、複数のログイン履歴、投稿時間帯、文体、アカウント運用状況などを総合的に見ることで、手がかりが見つかる場合があります。

5 Torが使われていた場合

Torは、複数の中継サーバーを経由して通信する仕組みです。Torを利用した場合、通常の発信者情報開示請求だけで投稿者本人までたどることは非常に困難になります。

Torでは複数のノードを経由するため、投稿先サイトから見えるのは出口ノードのIPアドレスです。その先にいる投稿者をたどるには、複数の中継地点を順番に追う必要があります。海外ノードが関係する場合、開示請求への対応に時間がかかったり、ログが残っていなかったりすることがあります。ウェブ

ただし、Torを使っていても、アカウント登録情報、決済情報、電話番号認証、別環境でのログイン、投稿内容そのものからの人物推定など、IPアドレス以外の手がかりが残ることがあります。

6 費用倒れのリスクは事前に検討すべき

フリーWi-Fi、VPN、Torが疑われる事案では、通常の自宅回線や携帯回線からの投稿よりも、特定失敗のリスクが高いことは事実です。

そのため、弁護士に相談する際は、最初に次の点を確認することが重要です。

  • 投稿内容は法的に違法と評価できるか
  • 投稿先サイトはIPアドレスやログを保有している可能性があるか
  • 会員登録型・ログイン型のサービスか
  • 投稿者のアカウントに他の投稿やログイン履歴があるか
  • フリーWi-Fi、VPN、Tor利用の可能性がどの程度あるか
  • 民事手続だけで進めるか、警察相談も検討するか
  • どの段階まで費用をかけるか

開示請求には費用と時間がかかります。特定できる可能性が低い事案で、漫然と最後まで手続を進めると、費用倒れになる可能性があります。

一方で、投稿内容が悪質であり、アカウント利用履歴や登録情報などの手がかりがある場合には、一定の費用をかけてでも調査する価値があるケースもあります。

7 まとめ

カフェのフリーWi-Fi、海外VPN、Torなどが使われている場合、発信者情報開示請求による投稿者特定は難しくなります。特に、民事手続だけでは、フリーWi-Fiの利用者や海外VPNの背後にいる人物までたどり着けないことがあります。

しかし、絶対に特定できないわけではありません。Wi-Fi利用時の登録情報、防犯カメラ、VPN事業者のログ、SNSのログイン履歴、電話番号認証、決済情報、同一アカウントの別環境での利用など、別の手がかりから投稿者に近づける場合があります。

大切なのは、最初の相談段階で、特定可能性と費用倒れのリスクを冷静に見極めることです。投稿の内容、媒体、アカウントの利用状況、相手の属性を確認したうえで、「どこまで費用をかけて追うべきか」「削除や警察相談を優先すべきか」を検討するのが現実的です。

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