学習塾や予備校にとって、合格実績は生徒募集に大きな影響を与える重要な広告要素です。
「東大合格者数」「難関高校合格者数」「地域No.1の合格実績」といった表示は、保護者や生徒に強く訴求します。
その一方で、合格実績の表示方法を誤ると、景品表示法上の優良誤認表示や、業界の自主基準違反として問題になる可能性があります。
特に、短期講習だけを受講した生徒、模試だけを受けた生徒、他塾で主に学習していた生徒を合格実績に含めることは、慎重に判断する必要があります。
今回は、大手学習塾フランチャイズから相談を受けた事例をもとに、講習生を合格者数に含めてよいのか、「地域No.1」と表示してよいのか、広告をどのように修正すべきかを解説します。
このページの目次
相談内容:夏期講習だけ受けた生徒を「東大合格者数」に含めたい
大手学習塾フランチャイズのエリアマネージャーであるOさんから、次のようなご相談を受けました。
春の生徒募集に向けて、チラシとLPを作成しています。
昨年、当塾の夏期講習だけを数日間受講し、その後は別の予備校に通っていた生徒が、東大に合格しました。
この生徒を当塾の「東大合格者数」にカウントし、「地域No.1の合格実績」と大々的に宣伝したいと考えています。
部下から「それは公正競争規約や景品表示法上、問題があるのではないか」と指摘されました。
受講料をもらって教えていたのは事実ですし、他の塾もやっていると思うのですが、問題ないのでしょうか。
Oさんとしては、「有料の夏期講習を受講していたのだから、自塾の合格実績として表示してもよいのではないか」という認識でした。
しかし、合格実績の表示は、単に「一度でも受講料を支払ったか」で判断されるものではありません。
夏期講習だけの短期受講生を正規の合格者数に含めるのは危険
今回のケースでは、当該生徒は、受験直前期に継続的に通塾していたわけではなく、夏期講習を数日間受講しただけでした。
このような生徒を、通年在籍していた塾生と同じように「東大合格者数」に含めると、保護者や生徒は、「この塾の通常指導によって東大合格に導いた」と受け取る可能性があります。
しかし、実際には、その生徒は主に別の予備校に通っており、当該塾の関与は限定的です。
そのような実績を正規の合格者数に含めることは、合格実績を実際よりも著しく優良に見せる表示として問題になる可能性があります。
景品表示法上、自己の供給する商品・サービスの内容について、実際よりも著しく優良であると示し、一般消費者の合理的な選択を阻害するおそれがある表示は、優良誤認表示として禁止されています。また、優良誤認表示は、故意に偽った場合だけでなく、誤って表示してしまった場合でも規制対象になるため注意が必要です。
合格実績に含められる生徒の基準
学習塾業界では、合格実績の表示について、公益社団法人全国学習塾協会が自主基準を定めています。
2024年7月に改定された基準では、合格実績に含めることのできる生徒について、概ね次のような考え方が示されています。
- 受験直前の6か月間のいずれかに在籍していること
- 同期間に受講契約に基づく30時間以上の受講実態があること
- または、継続して3か月以上の受講実態があること
- 在籍とは、入塾申込書等の契約書面があり、有料講座への料金納入が証明できること
- 体験授業、体験講習、無料講習、自習、補習、模試のみの受験は対象に含めないこと
全国学習塾協会の実施細則でも、合格実績の対象生徒は、受験直前の6か月間のいずれかに在籍し、同期間に受講契約に基づく30時間以上の受講実態がある生徒、または継続して3か月以上の受講実態がある生徒とされています。また、体験授業・体験講習・無料講習・自習・補習、単に教室内にいただけの自習時間などは含まれないとされています。
今回の「夏期講習を数日間だけ受講した生徒」が、30時間以上の受講実態も、継続3か月以上の受講実態も満たしていないのであれば、正規の合格実績に含めることは避けるべきです。
「受講料をもらっていた」だけでは足りない
Oさんは、「有料で授業をしたのだから、当塾の生徒といえるのではないか」と考えていました。
しかし、合格実績として表示できるかどうかは、有料か無料かだけで決まるものではありません。
重要なのは、保護者や生徒がその表示を見たときに、どのように受け取るかです。
「東大合格者○名」と大きく表示されていれば、多くの保護者は、その塾の継続的な指導を受けた生徒の実績だと理解します。
その中に、数日間だけ講習を受けた生徒を含めると、実績の意味が実態よりも強く見えてしまいます。
特に、難関校の合格実績は、塾選びに大きな影響を与える表示です。
そのため、短期受講生や講習生を含める場合には、通常の塾生の合格実績とは明確に区別する必要があります。
「地域No.1」表示はさらにリスクが高い
今回の広告案では、夏期講習だけの受講生を含めたうえで、「地域No.1の合格実績」と表示する予定でした。
これは二重に危険です。
第一に、合格者数自体が水増しされていれば、その数値を根拠にしたNo.1表示も虚偽または不当な表示になります。
第二に、仮に合格者数の集計が適正であったとしても、「地域No.1」と表示するには、客観的かつ合理的な根拠が必要です。
全国学習塾協会の実施細則でも、「日本一」「全国一」「ナンバーワン」「最高」「最大」などの最高級の優位性または唯一性を意味する用語は、客観的事実に基づく数値または確実な根拠なしに使用しないものとされています。
また、学習塾に関するNo.1表示については、合理的な根拠がないとして、消費者庁が景品表示法上の優良誤認表示に該当すると判断した事例もあります。
No.1表示に必要な根拠
「地域No.1」「合格実績No.1」「満足度No.1」などを表示する場合、少なくとも次の点を確認する必要があります。
- 比較対象となる塾の範囲
- 地域の範囲
- 調査時期
- 調査主体
- 調査方法
- 比較した項目
- 対象校や対象学年
- 合格者数の集計基準
- 実人数か延べ人数か
- 自社と他社で同じ基準により比較しているか
- 調査結果と広告表示の内容が対応しているか
例えば、「地域No.1」と表示する場合でも、地域を恣意的に狭く設定したり、一部の競合だけを除外したり、古いデータを使ったりしていると、客観的な根拠があるとはいえません。
また、「自社調べ」と書けばよいわけでもありません。
調査の前提が不適切であれば、No.1表示は優良誤認表示として問題になります。
チラシ・LPの修正方針
今回のケースでは、弁護士として、チラシとLPの内容を全面的に修正するよう助言しました。
修正のポイントは、次の3つです。
1. 合格者数を正規塾生のみで再集計する
まず、合格実績の対象となる生徒を、基準に沿って再集計しました。
確認した項目は、次のとおりです。
- 入塾申込書や契約書面の有無
- 有料講座の受講料納入記録
- 受験直前6か月間の在籍状況
- 受講時間数
- 継続受講期間
- 対面授業・オンライン授業・映像授業の受講記録
- 講習のみの受講か、通常授業も受講していたか
- 模試のみ、体験授業のみ、自習のみではないか
- 他校舎との重複カウントがないか
その結果、夏期講習を数日間だけ受講した生徒は、正規の合格者数から除外しました。
2. 講習生の実績は別枠で表示する
短期講習だけを受講した生徒の実績を一切表示できないわけではありません。
ただし、通常の合格者数と混同されないよう、明確に区別する必要があります。
例えば、次のような表示が考えられます。
2026年度 大学入試 合格実績
正規塾生の合格実績:○○大学 ○名
※正規塾生とは、受験直前6か月間に在籍し、受講契約に基づく30時間以上の受講実態がある生徒、または継続して3か月以上の受講実態がある生徒をいいます。
※上記人数には、体験授業、模試のみ、短期講習のみの受講生は含みません。
どうしても短期講習生の合格実績に触れる場合は、例えば次のように、主たる合格者数とは別枠にします。
参考情報:夏期講習のみを受講した生徒の合格報告として、東京大学1名があります。
※上記は正規塾生の合格実績には含めていません。
ただし、このような表示でも、見せ方によっては誤認を招く可能性があります。
本文より大きく強調したり、正規実績と同列に見せたりすることは避けるべきです。
3. 「地域No.1」表示は削除する
今回のケースでは、第三者調査や客観的な比較データがありませんでした。
また、正規塾生のみで再集計すると、地域No.1といえる根拠もありませんでした。
そのため、「地域No.1」「圧倒的合格実績」「地域最多」といった表現は削除しました。
代わりに、客観的に示せる実績を正確に表示しました。
2026年度 大学入試 合格実績
東京大学 ○名
早稲田大学 ○名
慶應義塾大学 ○名
※当塾○○エリア内の正規塾生のみを対象に集計しています。
※合格者数は実人数であり、同一生徒の重複カウントはしていません。
※短期講習のみ、模試のみ、体験授業のみの生徒は含みません。
このように、数値を大きく見せるよりも、集計基準を明確にした方が、保護者からの信頼につながります。
合格実績表示で注意すべきポイント
学習塾が合格実績を広告に表示する場合、次の点に注意が必要です。
1. 実人数か延べ人数か
一人の生徒が複数の学校に合格した場合、それをすべて合算すると、実際の合格者数よりも大きな数字になります。
「合格者数」と表示する場合は、実人数なのか、延べ合格件数なのかを明確にする必要があります。
例えば、次のように分けて表示します。
合格者実人数:○名
延べ合格件数:○件
2. 対象範囲を明示する
合格実績が、どの範囲の実績なのかを明示する必要があります。
- 全国全校舎の実績
- 特定エリアの実績
- 当該校舎のみの実績
- フランチャイズ全体の実績
- 提携塾を含む実績
全国学習塾協会の実施細則でも、合格実績の広告表示にあたり、合格実績が「事業主体の全部」「分教室の一部」「チェーンシステムにおける同名塾全体または一部」「提携塾の全体または一部」のいずれかに該当するかを明示することが求められています。
特定校舎のLPに、グループ全体の合格者数を大きく表示すると、その校舎単独の実績であるかのように誤認されるおそれがあります。
3. 重複カウントを避ける
同じ生徒が複数校舎に在籍していた場合や、グループ内の複数ブランドを利用していた場合、グループ全体の合格者数として重複カウントすることは避ける必要があります。
実施細則でも、同一の生徒がグループ内の複数の学習塾でカウント要件を満たした場合、グループ全体での合格者数を表示する際に重複してカウントすることはできないとされています。
4. 入試区分を混同しない
中学受験、高校受験、大学受験の実績を混在させると、消費者に誤解を与える可能性があります。
特に、中高一貫校について「○○中学・高校 ○名合格」と合算表示するような方法は、実績の中身が分かりにくくなります。
実施細則でも、同一系列校の小学校受験・中学校受験・高校受験・大学受験の内訳を明示せずに合計表示することはできないとされていますウェブ。
5. 年度を明示する
合格実績が当年度のものなのか、過年度を含む累積実績なのかを明確に表示する必要があります。
例えば、次のような表示は誤解を招きやすくなります。
東大合格者100名
この場合、2026年度だけの実績なのか、過去10年の累計なのか、全国全校舎の実績なのかが分かりません。
適切には、次のように表示します。
2026年度 大学入試 合格実績
東京大学 ○名
※○○塾全体の正規塾生を対象に集計しています。
※過年度累計ではありません。
公正取引協議会・業界団体から指摘を受けた場合の対応
合格実績表示について、業界団体や行政から問い合わせを受けた場合は、速やかに事実関係を整理する必要があります。
対応のポイントは、次のとおりです。
- 問題となったチラシ・LPを保存する
- 表示していた期間を確認する
- 配布部数や閲覧数を確認する
- 合格者数の集計資料を確認する
- 各生徒の在籍期間・受講時間・契約書面を確認する
- 誤表示がある場合は速やかに停止・修正する
- 原因を分析する
- 再発防止策を文書化する
- 必要に応じて弁明書や改善報告書を提出する
今回のケースでは、チラシ配布前・LP公開前の段階で部下から指摘があったため、実際に不適切表示を出さずに済みました。
もし既に配布・公開していた場合には、修正告知や再発防止報告が必要になった可能性があります。
社内研修と集計マニュアルの整備
今回の根本的な原因は、エリアマネージャー層が、合格実績表示に関するルールを十分に理解していなかったことでした。
そこで、O社では、全校舎責任者向けに、景品表示法と合格実績表示に関する研修を実施しました。
研修では、次の内容を扱いました。
- 景品表示法の優良誤認表示
- 合格実績表示の基本ルール
- 合格者数に含めてよい生徒の基準
- 短期講習生・模試生・体験生の扱い
- 実人数と延べ人数の違い
- 校舎別実績とグループ全体実績の違い
- No.1表示の根拠資料
- チラシ・LP公開前の審査フロー
- 違反事例
- 保護者から問い合わせを受けた場合の回答方法
あわせて、合格実績の集計マニュアルも策定しました。
合格実績の集計マニュアルに入れるべき項目
合格実績の集計マニュアルには、少なくとも次の事項を定める必要があります。
- 合格実績に含める生徒の定義
- 在籍の確認方法
- 受講時間の確認方法
- 有料受講の確認方法
- 講習生の扱い
- 模試のみの生徒の扱い
- 体験授業のみの生徒の扱い
- 複数校舎在籍者の扱い
- 兄弟校・提携校の扱い
- 実人数と延べ人数の表示方法
- 年度表示の方法
- 合格証明の確認方法
- 広告掲載前の承認者
- 根拠資料の保存期間
- No.1表示の審査基準
属人的に「この生徒はうちの実績でよいだろう」と判断するのではなく、資料に基づいて一貫した集計を行う体制が必要です。
学習塾広告のチェックポイント
学習塾がチラシ、LP、パンフレット、SNS広告を作成する際は、少なくとも次の点を確認する必要があります。
- 合格実績の年度を明示しているか
- 合格者数が実人数か延べ人数かを明示しているか
- 正規塾生の定義を明示しているか
- 短期講習のみ、模試のみ、体験授業のみの生徒を含めていないか
- 講習生の実績を表示する場合、正規塾生の実績と区別しているか
- 校舎単位か、グループ全体かを明示しているか
- 複数校舎での重複カウントをしていないか
- 入試区分を混同していないか
- No.1表示に客観的な根拠があるか
- 調査主体、調査時期、調査方法、比較対象を示せるか
- 「圧倒的」「最高」「最大」などの表現に根拠があるか
- 合格体験記や生徒写真について本人・保護者の同意を得ているか
- 公開前に法務・本部・責任者による審査を行っているか
まとめ:合格実績は「数」よりも「数え方」が重要
学習塾にとって、合格実績は重要な広告要素です。
しかし、短期講習だけを受講した生徒や、模試だけを受けた生徒を、通常の塾生と同じように合格者数に含めると、保護者や生徒に誤解を与える可能性があります。
特に、難関校の合格実績や「地域No.1」表示は、入塾判断に大きな影響を与えるため、景品表示法上の優良誤認表示として問題になりやすい分野です。
重要なのは、次の3点です。
- 合格実績に含める生徒の基準を明確にすること
- 短期講習生や模試のみの生徒を、正規塾生の実績に混ぜないこと
- No.1表示をする場合は、客観的で合理的な根拠を用意すること
教育ビジネスにおいて、合格実績の水増しは、短期的には集客につながるように見えても、長期的には保護者からの信頼を大きく損ないます。
正確で透明性のある実績表示こそが、教育機関としての信頼を守る最も重要な広告戦略です。

有森FA法律事務所は、「広告表現に不安があるけれど、何から始めていいか分からない」という方々の力になりたいと考えています。インターネット広告やSNSの普及で、広告に関する法律リスクも多様化してきました。広告チェックに関しては、全国からのご相談に対応しており、WEB会議や出張相談も可能です。地域を問わず、さまざまなエリアの事業者様からご相談をいただいています。身近な相談相手として、お気軽にご連絡ください。
