競合商品と比較した広告が「誹謗中傷」として問題になった場合の対応

自社商品の性能や価格をアピールするために、競合他社の商品と比較する広告は、多くの業界で利用されています。

比較広告は、消費者にとって商品選択の参考になる情報を提供する面があります。
そのため、日本では、比較広告そのものが一律に禁止されているわけではありません。

しかし、比較対象の選び方、データの引用方法、表現の仕方を誤ると、景品表示法上の不当表示や、不正競争防止法上の信用毀損行為として問題になる可能性があります。

今回は、家電メーカーから相談を受けた事例をもとに、競合他社から「根拠のない誹謗中傷である」と内容証明を受けた場合の対応と、適法な比較広告にするためのポイントを解説します。

相談内容:競合製品と比較した動画広告に対して内容証明が届いた

家電メーカーのマーケティング部長であるPさんから、次のようなご相談を受けました。

新発売の掃除機の性能をアピールするため、LPで競合他社であるQ社の製品と徹底的に比較しました。
広告では、「Q社製品は吸引力が弱い」「Q社は重くて使いにくい」といったデメリットを挙げ、当社製品の優位性を強調しました。
さらに、動画広告でも、Q社製品に大きなバツ印を付けるような演出を行いました。
すると、Q社から内容証明が届き、「根拠のない誹謗中傷であり、不正競争防止法違反の信用毀損行為にあたる。直ちに広告を停止し、謝罪広告を出せ。損害賠償も請求する」と記載されていました。
比較広告は消費者のためになる情報提供だと思うのですが、ここまで言われる筋合いがあるのでしょうか。

Pさんとしては、「競合商品との比較は広告手法として許されるはずだ」という認識でした。

確かに、比較広告自体は禁止されていません。
しかし、比較広告が許されるためには、一定のルールを守る必要があります。

比較広告自体は禁止されていない

景品表示法は、自社の商品・サービスを競争事業者の商品・サービスと比較すること自体を禁止しているわけではありません。

消費者庁も、景品表示法は競争事業者の商品・サービスとの比較そのものを禁止・制限するものではないと説明しています。

ただし、比較広告が不当表示にならないためには、一般消費者に誤認を与えないよう、次の3つの要件を満たす必要があります。

  1. 比較広告で主張する内容が客観的に実証されていること
  2. 実証されている数値や事実を正確かつ適正に引用していること
  3. 比較の方法が公正であること

この3要件は、比較広告の基本ルールです。
どれか1つでも欠けると、景品表示法上の優良誤認表示・有利誤認表示や、不正競争防止法上の問題が生じる可能性があります。

今回の広告の問題点

P社の広告を確認したところ、比較広告として大きく3つの問題がありました。

1. 比較対象が不公平だった

P社は、自社の最新モデルと、Q社の数年前の旧モデルを比較していました。

しかし、広告上は「P社製品とQ社製品の比較」とだけ表示されており、Q社製品が旧モデルであることは目立たない形でしか記載されていませんでした。

このような表示では、消費者は、現在販売されている同等グレードの最新モデル同士を比較していると誤認する可能性があります。

比較広告では、同等の条件にある商品を比較することが重要です。
自社の最新機種と他社の旧機種、自社の上位モデルと他社の下位モデルを比較する場合には、その違いを明確に表示しなければ、公正な比較とはいえません。

比較広告では、社会通念上同等のものとして認識されていない商品と比較し、あたかも同等の商品との比較であるかのように表示する場合、不当表示となるおそれがあります。

2. データの引用が不正確だった

P社は、「吸引力が強い」と表示していましたが、その根拠となる試験は、限定的な条件下で行われたものでした。

例えば、次のような問題がありました。

  • 特定の床材でしか試験していない
  • 新品フィルター装着時のみの結果だった
  • 掃除機のモードが各社で同一条件ではなかった
  • 試験回数が少なかった
  • 第三者機関ではなく自社試験だった
  • 試験条件を広告上で十分に表示していなかった

調査結果を引用する場合、その結果がどのような条件で得られたものなのかを明確にする必要があります。

限られた条件下での結果を、あたかもあらゆる使用環境で同じ結果が出るかのように表示すると、実証された数値や事実を正確かつ適正に引用したとはいえません。

比較広告で調査結果を引用する場合には、調査機関、調査時点、調査場所などの調査方法に関するデータも、広告中に表示することが望ましいとされています。

3. 相手を貶める表現が強すぎた

P社のLPや動画広告には、次のような表現がありました。

  • Q社製品は吸引力が弱い
  • Q社は重くて使いにくい
  • もう古い掃除機に我慢する必要はありません
  • Q社製品に大きなバツ印を付ける演出
  • Q社製品を使ったユーザーが困っているような演出
  • 「失敗しない掃除機選び」としてQ社製品を避けるべきかのような構成

「吸引力」「重量」のように客観的に測定できる項目であれば、適切な根拠と公正な比較条件があれば表示できる余地があります。

しかし、「使いにくい」「古い」「失敗」といった表現は、主観的評価や印象操作に近く、相手を不当に貶める表現になりやすいものです。

比較広告は、自社商品の特長を説明するための手段であり、競合商品を攻撃するためのものではありません。
表現が攻撃的になりすぎると、たとえ一部に根拠があっても、公正な比較広告とは評価されにくくなります。

不正競争防止法上の信用毀損行為とは

Q社が主張していたのは、不正競争防止法上の信用毀損行為です。

不正競争防止法では、競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、または流布する行為が、不正競争の一類型として規制されています。

信用毀損行為に該当するためには、主に次の要素が問題になります。

  • 競争関係にあること
  • 他人が特定されていること
  • 営業上の信用を害する内容であること
  • 虚偽の事実であること
  • 告知または流布していること

P社とQ社は同じ掃除機市場で競合しているため、競争関係にあることは明らかです。
また、広告上でQ社名や製品名を明示していたため、他人の特定性も問題になりません。

LPや動画広告は不特定多数に配信されているため、「流布」に該当し得ます。
したがって、問題は、P社の表示が「虚偽の事実」といえるか、またQ社の営業上の信用を害するものかという点になります。

「使いにくい」は事実か評価か

信用毀損行為では、「虚偽の事実」が問題になります。

例えば、「Q社製品の重量は2.5kg」と表示したが実際は1.8kgだった場合、これは事実の誤りです。
一方、「使いにくい」「デザインが悪い」といった表現は、主観的評価の側面があります。

もっとも、主観的評価であっても、広告全体の文脈から、客観的事実があるかのように受け取られる場合には問題になります。

例えば、次のような表示は危険です。

  • Q社製品は吸引力が弱く、掃除能力が低い
  • Q社製品は重くて高齢者には不向き
  • Q社製品はすぐ詰まる
  • Q社製品は購入後に後悔する人が多い

これらの表示は、単なる感想ではなく、Q社製品の性能や品質に関する事実を示しているように受け取られる可能性があります。

そのため、客観的根拠がなければ、虚偽または根拠のない信用毀損的表示と評価されるリスクがあります。

景品表示法上のリスクもある

今回の広告は、不正競争防止法だけでなく、景品表示法上のリスクもありました。

P社の広告は、Q社製品よりもP社製品が著しく優れているように表示していました。
しかし、その比較は、旧モデルとの比較、限定条件下の試験、恣意的なデータ引用に基づくものでした。

そのため、消費者に対し、P社製品の性能が実際よりも著しく優良であると誤認させる可能性があります。

景品表示法上、自己の商品・サービスの内容について、実際のものよりも著しく優良であると示す表示や、競争事業者のものよりも著しく優良であると示す表示は、優良誤認表示として禁止されています。

Q社との民事紛争だけでなく、消費者庁から措置命令を受けるリスクもあったため、早急な対応が必要でした。

Q社への初動対応

Q社から内容証明が届いた後、P社が最初に取るべき対応は、広告内容の確認とリスクの切り分けです。

今回のケースでは、次の対応を行いました。

1. 問題広告の停止

まず、Q社製品を名指しして比較していたLP、動画広告、バナー広告、SNS投稿を一時停止しました。

これは、Q社の主張を全面的に認めるという意味ではありません。
しかし、掲載を継続したまま交渉すると、損害が拡大していると主張され、差止請求や仮処分のリスクが高まります。

不正競争防止法上、信用毀損行為によって営業上の利益を侵害され、または侵害されるおそれがある者は、侵害の停止または予防を請求できます。

そのため、紛争拡大を避けるためには、まず問題広告を停止することが合理的でした。

2. 表示ごとに根拠資料を確認

次に、広告上の各表示について、根拠資料の有無を確認しました。

確認した表示は、次のようなものです。

  • 吸引力が弱い
  • 重くて使いにくい
  • 当社製品の方が清掃効率が高い
  • Q社製品ではゴミが残りやすい
  • 当社製品は短時間で掃除できる
  • Q社製品は旧式

各表示について、次の観点で精査しました。

  • 客観的事実か、主観的評価か
  • 根拠となる試験データがあるか
  • 試験方法は妥当か
  • 比較対象は同等か
  • 試験条件は広告上で明示されているか
  • 表示内容とデータが対応しているか
  • 誇張や切り取りがないか

この作業により、維持できる表示と撤回すべき表示を切り分けました。

3. 回答書を送付

Q社に対しては、弁護士名で回答書を送付しました。

回答書では、次のように整理しました。

  • 比較広告自体は違法ではないこと
  • 一部の表現について、広告上の表現が強く、誤解を招く可能性があったこと
  • 紛争拡大を避けるため、当該広告を停止したこと
  • ただし、P社がQ社に対し虚偽の事実を意図的に流布したとの評価は争うこと
  • 謝罪広告および金銭賠償については、現時点では応じられないこと
  • 今後、同種広告の再開にあたっては、客観的データに基づく表示に改めること

ここで重要なのは、全面的に責任を認める文言を安易に入れないことです。
謝罪広告や損害賠償に応じる前に、どの表示が問題で、どこまで法的責任があるのかを慎重に検討する必要があります。

和解交渉のポイント

Q社は、謝罪広告と損害賠償を求めていました。

しかし、Q社にとっても、裁判で性能比較の詳細が争われ、自社製品の弱点が公開されることは必ずしも望ましいものではありませんでした。

そこで、弁護士間での協議により、次の内容を中心に和解を進めました。

  • 問題広告を再掲載しない
  • 既存広告素材を廃棄する
  • Q社製品を名指しする攻撃的な比較表現を行わない
  • 将来比較広告を行う場合は、客観的根拠に基づく数値比較に限定する
  • P社は謝罪広告を出さない
  • P社は金銭賠償を行わない
  • 双方が本件を外部に公表しない

最終的には、広告の停止・修正と再発防止の誓約を行うことで、金銭賠償なしで和解することができました。

適法な比較広告への転換

P社には、今後も比較広告を行う余地を残すため、比較広告の社内ルールを策定しました。

1. 比較対象を公正に選ぶ

比較対象は、原則として次のように設定します。

  • 同時期に販売されている製品
  • 同等価格帯の製品
  • 同じ用途の製品
  • 同じグレードの製品
  • 一般消費者が比較対象として自然に認識する製品

旧モデルや下位モデルと比較する場合は、その旨を広告上で明確に表示します。

例えば、次のように表示します。

比較対象:Q社○○型(2023年発売モデル)
当社製品:P社○○型(2026年発売モデル)
※発売時期・価格帯が異なる製品の比較です。

このように表示しても、比較自体が不公正と評価される場合があるため、原則として同等モデル同士を比較すべきです。

2. 第三者機関の試験データを使う

吸引力、清掃効率、稼働時間、重量、騒音など、客観的に測定できる項目については、第三者機関による試験データを利用します。

試験データを使用する場合は、次の情報を保存・表示します。

  • 試験機関
  • 試験日
  • 試験対象製品
  • 試験方法
  • 試験条件
  • 試験回数
  • 測定項目
  • 測定結果
  • 限界条件
  • 試験結果の解釈

「当社調べ」と表示する場合でも、試験方法の妥当性、再現性、客観性を説明できる資料を保存しておく必要があります。

3. 主観的・攻撃的な表現を避ける

比較広告では、相手を貶める言い方を避ける必要があります。

避けるべき表現の例は、次のとおりです。

  • 使いにくい
  • ダサい
  • 時代遅れ
  • 買うと後悔する
  • 低性能
  • 失敗商品
  • 掃除できない
  • 役に立たない

代わりに、客観的な数値を淡々と示します。

例えば、次のように修正します。

修正前

Q社製品は重くて使いにくい。

修正後

本体重量:P社製品1.2kg、Q社製品1.8kg。
※2026年○月○日時点の各社公表値に基づきます。

修正前

Q社製品は吸引力が弱い。

修正後

○○試験条件下における吸引仕事率:P社製品○○W、Q社製品○○W。
※第三者試験機関○○による試験結果。実際の使用環境により性能は異なります。

4. 視覚表現にも注意する

比較広告では、文章だけでなく、画像や動画の演出も問題になります。

例えば、次のような演出は避けるべきです。

  • 他社製品に大きなバツ印を付ける
  • 他社製品を壊れたもののように描く
  • 他社製品の利用者を困った表情で描く
  • 他社ロゴを過度に目立たせて攻撃する
  • 他社製品を暗い色、自社製品を明るい色で極端に対比する
  • 根拠なく「旧式」「低性能」と印象付ける

消費者は、文章だけでなく広告全体の印象から判断します。
そのため、数値上は正しい比較でも、演出が攻撃的であれば問題になることがあります。

5. 広告公開前の審査フローを設ける

P社では、比較広告を出す前に、次の審査フローを導入しました。

  • マーケティング部が広告案を作成
  • 商品開発部が性能データを確認
  • 法務部が景品表示法・不正競争防止法の観点で確認
  • 根拠資料を広告ごとに保存
  • 外部弁護士が高リスク広告を確認
  • 最終承認後に公開
  • 公開後も一定期間ごとに表示内容を確認

広告の制作を外部代理店に委託する場合でも、広告主自身が内容を確認する必要があります。
比較広告に虚偽や誤認を招く表示がある場合、広告代理店に任せていたというだけでは、広告主の責任を免れることは困難です。

比較広告のチェックポイント

比較広告を行う場合、少なくとも次の点を確認する必要があります。

  • 比較対象は同等の商品・サービスか
  • 旧モデルと最新モデルを比較していないか
  • 上位モデルと下位モデルを比較していないか
  • 比較項目は消費者にとって意味のある項目か
  • 比較データは客観的に実証されているか
  • 第三者機関の試験データがあるか
  • 調査時点、調査方法、試験条件を表示しているか
  • データの一部だけを恣意的に切り取っていないか
  • 表示内容と根拠資料が対応しているか
  • 相手を貶める表現になっていないか
  • バツ印や攻撃的演出で誹謗中傷の印象を与えていないか
  • 景品表示法上の優良誤認・有利誤認にあたらないか
  • 不正競争防止法上の信用毀損行為にあたらないか
  • 根拠資料を保存しているか
  • 公開前に法務チェックを行っているか

まとめ:比較広告は「相手を下げる広告」ではなく「根拠を示す広告」

比較広告は、消費者にとって有益な情報提供になる場合があります。

しかし、競合商品を過度に貶めたり、不公平な条件で比較したり、根拠のないデメリットを強調したりすると、景品表示法上の不当表示や、不正競争防止法上の信用毀損行為として問題になります。

特に、競合他社を名指しする比較広告では、次の3点が重要です。

  1. 比較内容が客観的に実証されていること
  2. 実証された数値や事実を正確に引用していること
  3. 比較対象・比較方法が公正であること

比較広告は、自社商品の強みを伝えるための有効な手段ですが、法的リスクも高い広告手法です。
競合他社を攻撃するような広告ではなく、消費者が合理的に商品を選択できるよう、客観的なデータを分かりやすく示す広告にすることが重要です。

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