成約済み物件を掲載し続けてしまった場合の対応

不動産仲介業では、SUUMO、LIFULL HOME’S、at homeなどの不動産ポータルサイトが集客の中心になっています。

そのため、ポータルサイトに掲載している物件情報の更新漏れは、単なる事務ミスでは済まないことがあります。
特に、既に成約済みの物件を掲載し続けてしまうと、「おとり広告」と判断され、不動産公正取引協議会による調査や処分、主要ポータルサイトへの掲載停止につながる可能性があります。

今回は、賃貸物件の仲介業者から相談を受けた事例をもとに、成約済み物件を掲載し続けてしまった場合の対応と、ポータルサイト掲載停止処分を回避するためのポイントを解説します。

相談内容:成約済み物件を1か月近く掲載し続けてしまった

賃貸物件を扱う不動産仲介業者の店長であるMさんから、次のようなご相談を受けました。

繁忙期で忙しく、SUUMOやHOME’Sに掲載していた物件情報の更新を怠ってしまいました。
その結果、既に申込みが入り、成約済みとなっていた人気物件を、1か月近く掲載し続けてしまいました。
その物件を見て来店したお客様から「釣り物件ではないか」と通報され、不動産公正取引協議会から「おとり広告の疑いで調査する」と連絡が来ています。
もしおとり広告と認定されると、主要ポータルサイトへの掲載が1か月以上停止されると聞きました。
ポータルサイトに掲載できなくなると、反響が止まり、店舗の売上が大きく落ちてしまいます。どう対応すればよいでしょうか。

Mさんとしては、「わざと残したわけではなく、繁忙期の更新漏れだった」という認識でした。

しかし、不動産広告の規制では、故意に客寄せをした場合だけでなく、成約済み物件の削除漏れによって、実際には取引できない物件を掲載し続けた場合も問題になります。

成約済み物件の掲載は「おとり広告」になり得る

不動産広告におけるおとり広告とは、実際には取引できない物件を、あたかも取引可能であるかのように広告することをいいます。

不動産のおとり広告については、景品表示法上の不当表示として指定されており、次のような表示が問題になります。

  1. 物件が存在しないため、実際には取引することができない物件の表示
  2. 物件は存在するが、実際には取引の対象となり得ない物件の表示
  3. 物件は存在するが、実際には取引する意思がない物件の表示

そのため、成約済み物件を掲載し続けることは、「物件は存在するが、実際には取引の対象となり得ない物件」の広告として、おとり広告に該当する可能性があります。

「うっかり」でも処分対象になる

Mさんが最も驚いていたのは、「故意ではなくても、おとり広告になるのか」という点でした。

結論としては、故意に客寄せをするつもりがなかったとしても、成約済み物件を相当期間掲載し続けていれば、おとり広告として問題になります。

実際、全日本不動産協会の解説でも、物件が既に契約済みで取引できなくなっているにもかかわらず、インターネット上で広告表示を続けることは、売ることのできない物件について広告することになり、おとり広告として禁止されるとされています。

また、インターネット広告は最新情報に更新しやすい媒体であるため、消費者から見ると、掲載中の物件は実際に取引できるものと受け止められます。
そのため、「忙しかった」「担当者が退職した」「更新を忘れていた」という事情だけでは、責任を免れることは困難です。

1か月近い掲載継続は重く見られる

今回のケースでは、成約済み物件が1か月近く掲載され続けていました。

数時間から1日程度のタイムラグであれば、システム上の反映遅延や実務上の更新タイミングとして説明できる場合もあります。
しかし、1か月近くとなると、単なる反映遅延とは言いにくく、物件情報の管理体制に重大な不備があったと評価される可能性が高くなります。

不動産公正取引協議会の資料でも、契約済みとなったにもかかわらず、長いもので3か月半以上、短いものでも28日間継続して広告していた事例について、厳重警告・違約金の措置が紹介されていますウェブ。

Mさんのケースでも、「約1か月」という期間は、厳しい評価を受けるおそれがある水準でした。

ポータルサイト掲載停止のリスク

不動産公正取引協議会による処分の中でも、実務上最も大きな影響を与えるのが、ポータルサイト掲載停止です。

協議会の資料によれば、公正競争規約違反については、注意、警告、厳重警告、厳重警告・違約金といった処分があり、厳重警告・違約金の場合には、事業者名や違反概要の公表、ポータルサイト掲載停止につながることがあります。

また、掲載停止措置については、賃貸・売買を問わず、表示規約の適用を受ける物件が対象となり、掲載停止期間は1か月以上とされています。

賃貸仲介業者にとって、繁忙期に主要ポータルサイトへ掲載できなくなることは、反響の大幅減少に直結します。
そのため、調査段階での弁明対応と再発防止策の提示が極めて重要です。

協議会への対応方針:故意性の否定と再発防止策の具体化

不動産公正取引協議会から調査の連絡を受けた場合、まず行うべきことは、事実関係の正確な整理です。

感情的に「わざとではない」「忙しかっただけだ」と主張しても、不十分です。
協議会が確認するのは、実際にどのような広告が、いつからいつまで掲載され、なぜ削除されなかったのか、今後同じことを防ぐ体制があるのかという点です。

今回のケースでは、弁護士がMさんの代理人として事情聴取に同行し、弁明書を提出しました。

ポイントは、次の2つです。

1. 故意に客寄せをしたものではないこと

まず、M社が「人気物件を残して集客しようとした」わけではないことを、客観的資料で説明しました。

具体的には、次の資料を整理しました。

  • 当該物件が成約済みとなった日
  • 成約情報が社内で共有された日時
  • ポータルサイトへの掲載開始日
  • 掲載削除が遅れた原因
  • 担当者の退職・異動や引継ぎ状況
  • 管理会社・元付業者とのやり取り
  • 来店客への説明内容
  • 通報後に直ちに削除した記録
  • 他の成約済み物件についての掲載状況

特に重要なのは、「問い合わせを得るために意図的に残した」という悪質性を否定することです。

ただし、故意でないことを強調するだけでは足りません。
過失による更新漏れであっても違反になり得るため、原因分析と再発防止策をセットで示す必要があります。

2. 再発防止策を具体的に示すこと

協議会対応で最も避けるべきなのは、「今後は気をつけます」という抽象的な説明にとどまることです。

おとり広告は、担当者の注意力だけに依存している限り、再発します。
そのため、仕組みとして防ぐ対策を示す必要があります。

今回、M社では次のような再発防止策を導入しました。

  • 毎日午前10時に、掲載中物件の空室確認を実施する
  • 管理会社・元付業者への確認履歴を記録する
  • 成約済み・申込み済みとなった物件は、当日中に全媒体から削除する
  • 営業担当者と広告担当者によるダブルチェック体制にする
  • 削除完了後のスクリーンショットを保存する
  • ポータルサイトごとの反映タイミングを管理表に記載する
  • 週1回、店長が掲載中物件のランダムチェックを行う
  • 退職・異動時には広告管理権限と担当物件の引継ぎリストを作成する
  • 物件管理システムを導入し、広告媒体との連携漏れを減らす
  • 全社員に不動産広告規制の研修を実施する

不動産広告では、物件情報の変動が早く、更新漏れが起こりやすい業務構造があります。
だからこそ、個人の注意ではなく、毎日の確認、記録化、ダブルチェック、システム導入によって再発防止を図ることが重要です。

弁明書で記載した主な内容

今回提出した弁明書では、次の内容を整理しました。

  • 本件物件が成約済みであったにもかかわらず掲載が残っていた事実
  • 掲載継続により来店者に誤解を与えたことへの謝罪
  • 故意に集客目的で掲載を残したものではないこと
  • 削除漏れが発生した具体的原因
  • 通報後、直ちに掲載を削除したこと
  • 来店者に謝罪し、他物件への強引な誘導を行っていないこと
  • 過去に同種の処分歴がないこと
  • 広告管理フローを見直したこと
  • システム導入と日次確認の運用を開始したこと
  • 今後、定期的に広告掲載状況を監査すること

弁明では、違反を否定し切ろうとするよりも、事実を正確に認めたうえで、悪質性が低いことと、再発防止策が実効的であることを示す方が有効な場合があります。

ポータルサイト掲載停止を回避するための交渉

M社にとって最も重要だったのは、ポータルサイト掲載停止を回避することでした。

そのため、弁明書では、厳重警告・違約金相当ではなく、より軽い措置にとどめるべき事情として、次の点を強調しました。

  • 初めての違反であること
  • 問題発覚後、直ちに掲載を削除したこと
  • 当該顧客に謝罪し、強引な営業をしていないこと
  • 故意に客寄せ目的で掲載を残した証拠がないこと
  • 削除漏れの原因が特定されていること
  • 日次確認・ダブルチェック・システム導入という具体的改善策を既に実施していること
  • 店舗全体で広告規制の研修を実施したこと
  • 今後、第三者による定期監査を受けること

その結果、今回は、初犯であること、直ちに削除・謝罪を行ったこと、具体的な改善策を実施したことが考慮され、掲載停止を伴わない軽い措置にとどめることができました。

社内体制の抜本改革

今回の件を受けて、M社では広告管理体制を抜本的に見直しました。

特に、次の3つの仕組みを導入しました。

1. 掲載中物件の毎日チェック

掲載中の全物件について、毎日、取引可能性を確認する体制にしました。

確認項目は、次のとおりです。

  • 申込みの有無
  • 成約の有無
  • 募集停止の有無
  • 賃料・管理費の変更
  • 初期費用の変更
  • 写真・間取りの正確性
  • 取引態様の表示
  • 広告媒体ごとの掲載状況

確認結果は、担当者名、確認日時、確認先を含めて記録します。

2. 成約時の即時削除フロー

成約済みとなった物件については、営業担当者が広告担当者に連絡するのではなく、システム上で削除依頼が自動通知されるフローに変更しました。

また、削除後は、各媒体から実際に非掲載になっていることを確認し、スクリーンショットを保存する運用にしました。

「削除依頼を出した」だけではなく、「実際に削除された」ことまで確認する点が重要です。

3. 第三者による広告監査

M社では、毎月、掲載中物件の一部をランダムに抽出し、外部の専門家が広告表示を確認する体制を導入しました。

監査項目は、次のとおりです。

  • 成約済み物件が掲載されていないか
  • 取引条件に誤りがないか
  • 賃料・管理費・初期費用が正確か
  • 「駅徒歩」「築年数」「専有面積」などの表示が正確か
  • 特定用語や禁止表現を使っていないか
  • 写真や間取りが実際の物件と一致しているか
  • リフォーム済み表示に時期・内容が記載されているか

監査結果は店長と本部に共有し、改善履歴を残すことにしました。

不動産会社が確認すべき広告管理チェックポイント

不動産仲介業者は、少なくとも次の点を確認する必要があります。

  • 成約済み物件を当日中に削除するルールがあるか
  • 掲載中物件について毎日または定期的に空室確認しているか
  • 確認日時・確認者・確認先を記録しているか
  • 営業担当者と広告担当者の情報共有フローがあるか
  • 担当者の退職・異動時に広告管理の引継ぎをしているか
  • ポータルサイトごとの反映タイミングを把握しているか
  • 削除依頼後、実際に非掲載になったことを確認しているか
  • 管理会社・元付業者からの情報を定期的に確認しているか
  • 広告表現に関する社内研修を実施しているか
  • 店長や本部による抜き打ちチェックを行っているか
  • 不動産公正取引協議会から連絡が来た場合の対応フローがあるか

まとめ:おとり広告は「削除漏れ」でも会社を揺るがす

不動産広告において、成約済み物件を掲載し続けることは、単なる更新漏れでは済まされません。

物件が実在していても、既に成約済みで取引できない状態であれば、おとり広告として問題になります。
故意に客寄せをした場合はもちろん、過失による削除漏れであっても、掲載期間が長く、管理体制が不十分であれば、処分対象となる可能性があります。

特に、主要ポータルサイトへの掲載停止は、不動産仲介業者にとって売上に直結する重大なリスクです。

重要なのは、次の3点です。

  1. 成約済み物件を発見したら、直ちに全媒体から削除すること
  2. 不動産公正取引協議会への対応では、故意性の否定と具体的な再発防止策を示すこと
  3. 担当者任せではなく、日次確認、記録化、ダブルチェック、システム化によって再発を防ぐこと

不動産広告は、集客のための道具であると同時に、法令・規約違反のリスクが常にある業務です。
クリーンな広告運用を徹底することが、ポータルサイト掲載停止や信用失墜を避け、長く事業を続けるための最も確実な方法です。

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