不動産会社にとって、SUUMO、LIFULL HOME’S、at homeなどのポータルサイトや自社ウェブサイトへの物件掲載は、集客の中心的な手段です。特に賃貸仲介や売買仲介では、インターネット上の広告が問い合わせ数を大きく左右します。
しかし、不動産広告は、一般の広告よりも厳しい規制の対象になります。景品表示法、宅地建物取引業法に加え、不動産業界の自主ルールである「不動産の表示に関する公正競争規約」、いわゆる表示規約が適用されるためです。表示規約は、一般消費者の利益と不動産業界の公正な競争を確保するため、広告表示について細かなルールを定めています。
特に注意すべきなのが「おとり広告」です。実際には取引できない物件を掲載して問い合わせを集める行為は、消費者を誤認させるだけでなく、業界全体の信頼を損なう重大な違反です。「削除し忘れただけ」「担当者が忙しかった」という説明では済まされません。
このページの目次
1 不動産広告に適用される主なルール
不動産広告には、主に次の3つのルールが関係します。
第一に、景品表示法です。実際よりも著しく優良・有利であると一般消費者に誤認させる表示や、不動産のおとり広告に関する表示は、景品表示法上の不当表示として問題になります。
第二に、宅地建物取引業法です。宅建業法では、誇大広告等の禁止、広告開始時期の制限、取引態様の明示などが定められており、違反した場合には指示、業務停止、免許取消などの行政処分につながる可能性があります。
第三に、表示規約です。表示規約は、景品表示法に基づき公正取引委員会と消費者庁から認定を受けた不動産業界の自主規制ルールであり、広告開始時期、必要表示事項、表示基準、特定用語、おとり広告、二重価格表示などを細かく定めています。
これらの規制は、新聞折込チラシやパンフレットだけでなく、インターネット広告にも適用されます。表示規約上、必要な表示事項の規制を受ける媒体には、インターネット広告、SNS、掲示板等も含まれると説明されています。
2 「おとり広告」の3類型
表示規約では、次の3つの広告が「おとり広告」として禁止されています。
1つ目は、物件が存在しないため、実際には取引できない物件に関する表示です。たとえば、架空の好条件物件を掲載し、問い合わせた顧客に「その物件は埋まったので別の物件を紹介します」と誘導するケースです。
2つ目は、物件は存在するものの、実際には取引の対象となり得ない物件に関する表示です。典型例は、すでに成約済みの物件を「募集中」として掲載し続けるケースです。また、他人の不動産で、処分を委託されていない物件を掲載する場合も問題になります。表示規約の解説でも、成約済みの不動産や処分を委託されていない他人の不動産は、実際には取引の対象となり得ないものの例として挙げられています。
3つ目は、物件は存在するものの、実際には取引する意思がない物件に関する表示です。たとえば、広告に掲載しているにもかかわらず内見を拒否する、貸主・売主が取引する意思を失っている、広告上の条件では契約する意思がない、といった場合です。
これらは、いずれも消費者を呼び込むための不当な誘引になります。不動産公正取引協議会の資料でも、おとり広告として、契約済み物件の掲載が売買・賃貸ともに多い違反事例であることが指摘されています。
3 「消し忘れ」も重大なリスクになる
実務上最も多いのは、架空物件よりも、成約済み物件の掲載継続です。
ポータルサイトに多数の物件を掲載している場合、成約・申込み・募集停止・条件変更の情報が営業担当、管理会社、元付業者、広告担当者の間で共有されず、掲載情報が古いまま残ることがあります。しかし、消費者から見れば、掲載されている物件は「現在取引できる物件」と受け止められます。
不動産公正取引協議会の資料でも、おとり広告の原因として、「システムの不具合で契約済みのものを再度掲載してしまった」「掲載サイトのパスワードが不明で長期間掲載されてしまった」などの説明をするケースが増えていること、複数サイトに多数物件を掲載して管理できていないケースが急増していることが指摘されています。
つまり、「故意ではなかった」「管理が追いつかなかった」という事情があっても、広告管理体制の不備として評価されます。掲載開始よりも、掲載後のメンテナンスこそが重要です。
4 徒歩所要時間の表示ルール
不動産広告では、駅や施設までの距離・所要時間についても細かいルールがあります。
徒歩所要時間は、道路距離80メートルにつき1分として算出し、1分未満の端数が生じた場合は1分として切り上げて表示します。たとえば、道路距離が85メートルであれば、1分ではなく2分と表示しなければなりません。
また、徒歩時間は直線距離ではなく道路距離で計算します。マンションやアパートでは、2022年の改正により、起点は建物の出入口とされました。表示規約の資料でも、マンション・アパートの場合、施設から最も近い建物の出入口を起点として算出することが説明されています。
さらに、道路距離または所要時間を表示するときは、起点および着点を明示することが求められます。駅徒歩表示では、最寄駅名、物件から駅までの徒歩所要時間を正確に表示する必要があります。
注意すべきなのは、信号待ち、坂道、踏切待ち、混雑などは通常この計算に含まれない点です。したがって、広告上「徒歩5分」と表示できる場合でも、実際の体感時間とは異なることがあります。ただし、だからといって自社の感覚で「歩いてみたら短かった」といった理由で、規約より短い時間を表示することはできません。
5 特定用語の使用制限
不動産広告では、消費者に強い印象を与える用語についても制限があります。
表示規約では、抽象的な用語や他物件・他社と比較するような用語について、具体的・客観的事実に基づく場合などを除き、原則として使用が禁止されています。
たとえば、次のような表現には注意が必要です。
- 「完全」
- 「完璧」
- 「絶対」
- 「万全」
- 「日本一」
- 「業界一」
- 「当社だけ」
- 「他に類を見ない」
- 「抜群」
- 「特選」
- 「厳選」
- 「最高」
- 「最高級」
- 「格安」
- 「掘出物」
- 「激安」
- 「破格」
これらの用語は、根拠資料を保有していることや、根拠となる事実を併せて表示することが求められる場合があります。たとえば、「完全」「完ぺき」「絶対」「日本一」「業界一」「特選」「厳選」などは、合理的な根拠を示す資料が必要な特定用語として整理されています。
また、「最高」「最高級」「極」「特級」などの品質を示す表現や、「格安」「激安」「掘出物」など価格の有利性を示す表現については、根拠となる事実を併せて表示する必要があるとされています。
リフォーム物件でも注意が必要です。「フルリフォーム済み」「完全リノベーション」などと表示する場合は、どの部分をいつ、どの程度改修したのかを具体的に示すべきです。壁紙だけを張り替えたにもかかわらず、全面的な改修をしたかのように表示すれば、不当表示と評価される可能性があります。
6 二重価格表示にも注意
「通常賃料10万円のところ、今だけ8万円」「旧価格3,000万円から値下げ」などの二重価格表示も、慎重に扱う必要があります。
過去に実際にその価格で販売・募集していた実績がないにもかかわらず、値下げしたように見せる表示は、消費者に有利な条件であると誤認させるおそれがあります。表示規約では、不当な二重価格表示も禁止事項として位置付けられています。
二重価格表示を行う場合は、旧価格での募集期間、旧価格の公表日、値下げ時期、現在価格の根拠などを確認し、規約に沿って表示する必要があります。単に「お得感」を出すために、根拠のない旧価格を設定することは避けてください。
7 違反した場合のペナルティ
不動産広告の違反は、単なる注意で済まないことがあります。
景品表示法違反の場合、消費者庁による指導や措置命令の対象となり得ます。宅建業法違反の場合には、指示、業務停止、免許取消などの行政処分につながる可能性があります。また、表示規約違反の場合には、不動産公正取引協議会から、注意、警告、厳重警告、違約金課徴などの措置を受けることがあります。違約金は、初回50万円以下、2回目以降は最大500万円とされ、事業者名等を公表できる規定もあります。
さらに実務上大きいのが、ポータルサイトへの掲載停止です。主要ポータルサイトから一定期間掲載を停止されると、新規問い合わせが激減し、実質的に営業活動に大きな支障が出ます。不動産広告の違反は、法的処分だけでなく、集客基盤そのものを失うリスクを伴います。
8 社内で整備すべき広告管理体制
おとり広告や誤表示を防ぐには、担当者任せにせず、社内で広告管理体制を整備する必要があります。
少なくとも、次の対応を行うべきです。
- 掲載物件ごとに広告責任者を定める
- 掲載開始前に物件の募集状況・取引条件を確認する
- 成約・申込・募集停止の情報を広告担当へ即時共有する
- ポータルサイトごとの掲載状況を一覧管理する
- 定期的に掲載物件を棚卸しする
- 成約済み物件は即日削除する
- 徒歩所要時間は道路距離で再計算する
- 価格、賃料、敷金、礼金、管理費、保証料を最新情報に更新する
- 特定用語を使う場合は根拠資料を保存する
- 二重価格表示を行う場合は旧価格の実績を確認する
- 広告掲載前にダブルチェックを行う
- 規約改正時に広告テンプレートを見直す
広告掲載数が多い会社ほど、掲載後の削除・更新フローが重要です。複数のポータルサイトに同じ物件を掲載している場合、1つのサイトだけ削除して他サイトに残るというミスが起きやすいため、掲載媒体ごとの管理表を作成することが必要です。
9 まとめ
不動産広告では、集客効果を高めたいあまり、実際には取引できない物件や、条件が変更された物件を掲載し続けることが重大なリスクになります。表示規約上、おとり広告は、①実在しない物件、②実在するが取引対象にならない物件、③実在するが取引する意思がない物件の広告として禁止されています。
特に多いのは、成約済み物件の掲載継続です。これは「削除し忘れ」であっても、おとり広告として問題になり得ます。不動産公正取引協議会の資料でも、契約済み物件の掲載は売買・賃貸ともに多い違反事例とされています。
また、徒歩所要時間は道路距離80メートルを1分として計算し、1分未満の端数は切り上げる必要があります。「完全」「絶対」「日本一」「特選」「最高級」「格安」などの特定用語も、根拠なく使用することはできません。
違反した場合には、景品表示法・宅建業法上の処分に加え、表示規約に基づく警告、違約金、事業者名公表、ポータルサイト掲載停止など、営業上重大な影響が生じます。広告は「出して終わり」ではなく、常に最新かつ正確な状態に維持する管理体制が不可欠です。
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所は、「広告表現に不安があるけれど、何から始めていいか分からない」という方々の力になりたいと考えています。インターネット広告やSNSの普及で、広告に関する法律リスクも多様化してきました。広告チェックに関しては、全国からのご相談に対応しており、WEB会議や出張相談も可能です。地域を問わず、さまざまなエリアの事業者様からご相談をいただいています。身近な相談相手として、お気軽にご連絡ください。
