メタバース広告の法的リスク―知的財産・配信リスク・契約実務のチェックポイント

0 はじめに

前編では、メタバース広告に関する基本的な法的リスクとして、景品表示法・薬機法等の広告規制、アバター利用に伴う肖像権・パブリシティ権、仮想土地や仮想店舗に関する所有権の問題を解説しました。
後編では、さらに実務上問題となりやすい、著作権・商標権・不正競争防止法、スクリーンショットや動画配信によるブランド毀損リスク、そして契約で確認すべきポイントを整理します。
メタバース広告は、単に広告枠を購入して表示するだけのものではありません。3Dモデル、アバター、音楽、映像、ロゴ、建築物、ユーザー生成コンテンツなど、多数の素材と権利が重なり合う広告手法です。
そのため、企画段階から法務・知財・広報・マーケティング部門が連携し、リスクを整理しておくことが重要です。

1 著作権・商標権・不正競争防止法にも注意が必要

メタバース広告では、仮想空間上の背景、建物、商品、衣装、音楽、映像、キャラクター、ロゴなど、多数のコンテンツが利用されます。
そのため、著作権や商標権を中心とする知的財産権の処理が重要になります。
たとえば、次のようなケースでは、権利処理が問題となります。
①メタバース内のイベントで既存楽曲を流す
②他社のキャラクターに似たアバターを広告に登場させる
③実在するブランドロゴを仮想店舗内に表示する
④有名建築物や商業施設の外観を仮想空間上で再現する
⑤既存映画、漫画、ゲームの世界観に似た空間を広告に利用する
⑥ユーザーが制作した3Dアイテムを企業広告に転用する

著作権については、著作物と認められるものであれば、現実空間か仮想空間かを問わず保護対象となり得ます。
したがって、メタバース内で音楽、映像、キャラクター、イラスト、3Dモデル、テキスト、デザイン等を利用する場合には、現実世界と同様に、権利者から必要な許諾を得る必要があります。
また、現実空間の標識やブランドを仮想空間で使用する場合には、商標権や不正競争防止法が問題となります。
たとえば、現実世界で有名なブランドロゴを、仮想空間内の商品、店舗、アバター衣装、イベント装飾等に無断で使用すれば、商標権侵害や不正競争防止法上の問題が生じる可能性があります。

もっとも、メタバースでは、現行法による保護が及ぶ場面と、現行法では十分にカバーしきれない場面が混在します。
たとえば、現実世界の商品に関する商標登録が、仮想空間上のデジタルアイテムに当然に及ぶかどうかは、指定商品・指定役務の内容、使用態様、需要者の認識などによって検討が必要です。
そのため、ブランドを保有する企業は、将来的にメタバースやデジタルアイテムでの展開を予定している場合、商標出願の指定商品・指定役務を見直すことも検討すべきです。
広告は商業利用であり、権利侵害が認定された場合の損害額やレピュテーションリスクが大きくなりやすい領域です。
クリエイティブ制作会社、メタバースプラットフォーム、広告代理店、インフルエンサー、権利者との間で、権利処理の責任分担を契約上明確にしておくことが重要です。

2 スクリーンショット・動画配信・写り込みによるブランド毀損リスク

メタバース内の広告は、企業が想定した文脈でだけ表示されるとは限りません。
ユーザーは、自由にスクリーンショットを撮影したり、プレイ動画を配信したり、SNSに投稿したりします。
その結果、自社の広告が、意図しないイベント、過激なユーザー行動、公序良俗に反するコンテンツ、炎上中の場面の背景として映り込む可能性があります。
現実世界の広告看板であれば、掲出場所や周辺環境をある程度管理できます。
しかし、メタバースでは、ユーザーの行動、画角、配信内容、編集、拡散経路を企業が完全にコントロールすることは困難です。
一度SNSや動画プラットフォームで拡散されれば、広告主が後から削除や訂正を求めても、完全に回収することは容易ではありません。

広告主としては、単に広告枠の価格や表示回数だけでなく、次のような観点からプラットフォームの安全性を確認すべきです。
①ユーザーの迷惑行為や違法行為に対するモデレーション体制
②通報・削除・アカウント停止の運用
③未成年者保護の仕組み
④スクリーンショットや動画配信に関するルール
⑤広告が表示されるエリア、イベント、コンテンツの制限
⑥ブランド毀損が発生した場合の連絡窓口
⑦炎上時の広告停止、撤去、差替えの可否
⑧プラットフォーム側の補償・協力義務

特に、金融、医療、教育、子ども向け商品、公共性の高いサービスを扱う企業では、広告の表示環境そのものがブランド価値に直結します。
メタバース広告の出稿にあたっては、媒体審査と同様に、プラットフォーム審査、ワールド審査、イベント審査を行うべきです。
また、広告出稿後も、一定期間はSNSや動画配信プラットフォーム上での拡散状況をモニタリングし、問題が発生した場合に速やかに対応できる体制を整えることが望ましいといえます。

3 契約で確認すべき実務上のポイント

メタバース広告に関するリスクは、法律の解釈だけでなく、契約によってどこまでコントロールできるかが重要です。
特に、次の関係者との契約では、権利関係と責任分担を明確にしておく必要があります。
①プラットフォーム運営者
②広告代理店
③クリエイティブ制作会社
④3Dモデル制作者
⑤インフルエンサー
⑥タレント事務所
⑦音楽・映像・キャラクター等の権利者

(1)広告表示の内容・場所・期間・方法

まず、広告表示の内容・場所・期間・方法を明確にすることが重要です。
メタバース広告では、広告枠の概念が現実の媒体と異なるため、単に「広告を掲載する」と定めるだけでは不十分です。
少なくとも、次の事項を具体化すべきです。
①どのワールドに表示されるのか
②どのエリア、建物、イベント会場に表示されるのか
③どのサイズ、形式、解像度で表示されるのか
④静止画か、動画か、3Dオブジェクトか
⑤表示期間はいつからいつまでか
⑥表示回数や接触人数の計測方法
⑦広告の差替えや停止が可能か

(2)広告クリエイティブの権利処理

次に、広告クリエイティブの権利処理です。
3Dモデル、アバター、音楽、ロゴ、背景、モーション、エフェクトなどについて、誰が権利を保有し、広告主がどの範囲で利用できるのかを明記すべきです。
特に、次の利用が許諾範囲に含まれているかを確認する必要があります。
①商用利用
②メタバース内での表示
③SNS投稿での利用
④動画配信での利用
⑤広告主サイトでの二次利用
⑥改変利用
⑦複数プラットフォームでの利用
⑧利用期間終了後のアーカイブ掲載

(3)ユーザー投稿・配信への対応

メタバース広告では、ユーザーの投稿や配信に広告が映り込むことがあります。
そのため、広告が第三者の動画や投稿に映り込むことを許容するのか、問題がある投稿についてプラットフォーム側が削除協力するのか、広告主が削除要請を行えるのかを整理しておくべきです。
また、キャンペーンとしてユーザーにスクリーンショット投稿や動画投稿を促す場合には、応募規約や投稿ガイドラインを整備する必要があります。
サービス終了・仕様変更・利用停止時の取扱い
仮想店舗や広告枠は、所有権ではなく利用権である可能性が高いため、プラットフォーム側の都合でサービスが終了した場合や仕様が変更された場合の取扱いを確認する必要があります。
具体的には、次の事項が重要です。
①サービス終了時の事前通知期間
②未経過期間分の返金
③代替広告枠の提供
④データの返還・エクスポート
⑤他プラットフォームへの移行支援
⑥アカウント停止時の異議申立て手続
⑦広告主に帰責性がない場合の補償

(4)法令違反・権利侵害・炎上時の責任分担

最後に、炎上、権利侵害、法令違反が発生した場合の責任分担です。
広告表現が景品表示法や薬機法に違反した場合、アバターや音楽が第三者の権利を侵害した場合、ユーザー行動によってブランド毀損が発生した場合に、誰がどの範囲で責任を負うのかを明確にしておく必要があります。
契約上は、次の条項を検討すべきです。
①表明保証条項権利非侵害保証
②法令遵守義務
③補償条項
④免責条項
⑤広告停止・削除条項
⑥緊急時対応条項
⑦協議・通知義務
⑧準拠法・裁判管轄

4 メタバース広告は「法整備がないから自由」ではない

メタバースは、現在も発展途上の領域です。法制度が十分に整備されていない部分があることは事実です。
しかし、それは「何をしてもよい」という意味ではありません。むしろ、既存の法律がそのまま適用される領域、解釈により適用される可能性がある領域、現行法では十分に保護されないため契約で補うべき領域を切り分けることが重要です。
広告表示については、景品表示法、薬機法、特定商取引法、金融商品取引法などの業法規制が問題となります。アバターについては、肖像権、パブリシティ権、名誉毀損、プライバシー権、著作権が問題となります。
仮想店舗や広告枠については、所有権ではなく契約上の利用権として把握する必要があります。
コンテンツ利用については、著作権、商標権、不正競争防止法の検討が不可欠です。
さらに、スクリーンショットや動画配信を通じた拡散リスク、ブランド毀損リスクにも備える必要があります。
メタバース広告は、従来の広告法務、知的財産法務、IT法務、プラットフォームビジネス法務、エンターテインメント法務が重なり合う分野です。

新しい技術や表現手法を活用するためには、法的リスクを過度に恐れるのではなく、事前に整理し、契約・運用・モニタリングの仕組みを整えることが重要です。

5 まとめ

メタバース広告を安全に実施するためには、広告表現の審査だけでは不十分です。
知的財産権の処理、ユーザー投稿や動画配信による拡散リスク、プラットフォーム依存リスク、サービス終了時の対応、炎上時の責任分担まで含めて、総合的に検討する必要があります。
特に、メタバース内の仮想店舗や広告枠は、現実の不動産や看板のような「所有物」ではなく、契約上の利用権にとどまる場合が多い点に注意が必要です。
企業がメタバース広告に取り組む際には、少なくとも次の三つの視点を持つべきです。

第一に、広告表現そのものが法令に適合しているかという視点です。バーチャル空間であっても、消費者に誤認を与える表示や、根拠のない効能効果表示は許されません。

第二に、広告に利用する素材、人物、アバター、ブランドの権利処理ができているかという視点です。メタバースでは、クリエイティブの自由度が高い分、他人の権利を取り込んでしまうリスクも高まります。

第三に、プラットフォーム依存リスクを契約でどこまで管理できているかという視点です。仮想空間上の店舗や広告枠は、プラットフォームの仕様、規約、運営方針に大きく左右されます。契約上の利用権にすぎないことを前提に、終了時、変更時、トラブル時の対応を定めておく必要があります。

メタバースは「未開の地」ではありますが、無法地帯ではありません。

企業が新たな経済圏で信頼を獲得するためには、技術と表現の可能性を活かしながら、法的リスクを丁寧に管理する姿勢が不可欠です。

keyboard_arrow_up

0358774099 問い合わせバナー 無料法律相談について