ECサイトで商品を購入した顧客、資料請求をした見込み顧客、展示会やセミナーで名刺交換をした相手に対して、新商品、キャンペーン、セール、ウェビナー、ホワイトペーパーなどの案内をメールで送ることは、多くの企業にとって重要なマーケティング施策です。
近年は、CRMツール、MAツール、メール配信システムの普及により、顧客属性や行動履歴に応じて、メルマガ、ステップメール、休眠顧客向けメール、カゴ落ちメール、アップセル・クロスセルメールなどを自動配信することも一般的になりました。
しかし、企業が「メールアドレスを持っている」ということと、「広告宣伝メールを送ってよい」ということは、法律上まったく別の問題です。
広告宣伝を目的とする電子メールについては、主に「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律」、いわゆる特定電子メール法による規制を受けます。同法は、原則として、あらかじめ同意した者に対してのみ広告宣伝メールの送信を認める「オプトイン方式」を採用しています。
「以前購入してくれた顧客だから大丈夫だろう」「名刺交換をしたから営業メールを送っても問題ないはず」「BtoBの法人宛メールだから規制対象外だろう」といった感覚で一斉配信を行うと、法令違反となる可能性があります。
違反した場合、行政上の措置命令の対象となるだけでなく、送信者情報を偽った送信や命令違反など一定の場合には、刑事罰が科される可能性もあります。
本記事では、企業がメルマガやステップメールを配信する際に、まず押さえておくべき「特定電子メール法の対象」と「オプトイン規制」について解説します。
このページの目次
1 特定電子メール法の対象となるメールとは
特定電子メール法が問題となるのは、主に「自己又は他人の営業につき広告又は宣伝を行うための手段として送信する電子メール」です。典型例は、商品・サービスの購入、契約、申込み、資料請求、セミナー参加などを促すメールです。
具体的には、次のようなメールが問題になり得ます。
①ECサイトの購入者に送る新商品・セール情報
②資料請求者に送るサービス紹介メール
③展示会で名刺交換した相手への営業メール
④ウェビナー参加者への有料サービス案内
⑤休眠顧客に対する再購入促進メール
⑥無料会員に対する有料プラン案内
⑦他社商品の広告を掲載したメール
⑧SMSによるキャンペーン案内
メール本文の形式が「お知らせ」「ニュースレター」「ご案内」「重要なお知らせ」となっていても、実質的に商品・サービスの広告宣伝を目的としていれば、特定電子メール法の規制対象となる可能性があります。
特に注意が必要なのは、取引連絡や事務連絡に広告宣伝を混在させるケースです。たとえば、購入完了メール、発送通知、契約更新案内など、取引上必要な連絡を主目的とするメールであっても、本文中にキャンペーン情報や関連商品の案内を大きく掲載する場合、広告宣伝メールとしての評価が問題となることがあります。
実務上は、「そのメールの主たる目的が何か」「広告宣伝部分が付随的といえるか」「受信者が広告宣伝メールとして受け取ることを予見できるか」を慎重に検討する必要があります。
2 原則はオプトイン―事前同意がなければ送れない
特定電子メール法の中心的なルールは、オプトイン規制です。
同法は、一定の例外を除き、あらかじめ特定電子メールの送信を求める旨、または送信に同意する旨を通知した者など以外に対して、特定電子メールを送信してはならないと定めています。
簡単にいえば、広告宣伝メールを送るには、原則として、受信者から事前に同意を取得しておく必要があります。
ここで重要なのは、単にメールアドレスを取得しただけでは足りないという点です。たとえば、次のような事情だけでは、直ちにメルマガ配信の同意があるとはいえません。
①商品購入時にメールアドレスを入力してもらった
②問い合わせフォームから連絡を受けた
③名刺交換をした
④セミナー申込時にメールアドレスを取得した
⑤展示会でアンケートに回答してもらった
⑥Web上に掲載されているメールアドレスを取得した
これらは、あくまで連絡先を取得した、または一定の取引・接点があったという事実にすぎません。広告宣伝メールを送るには、原則として「広告宣伝メールを受け取ること」についての同意が必要です。
3 同意取得フォームの設計
実務上、ECサイトや申込フォームでは、以下のような仕組みを設けることが一般的です。
「当社からの商品・サービスに関するお知らせ、キャンペーン情報、メールマガジンの配信を希望します。」
このような文言を表示したうえで、チェックボックス、ラジオボタン、同意ボタンなどにより、ユーザーが同意したことを記録できる形にしておく必要があります。
もっとも、同意取得の設計には注意が必要です。表示が小さすぎる、色が薄く目立たない、利用規約の末尾に埋め込まれている、何に同意しているのか分からない、といった場合には、受信者が広告宣伝メールの受信を認識して同意したとは評価されにくくなります。
オプトインの同意は、形式だけ整えればよいものではありません。受信者が「広告宣伝メールが送られてくること」を容易に認識できる表示であることが重要です。
また、同意の対象となるメールの範囲も明確にしておくべきです。たとえば、「メールマガジン」とだけ記載するのではなく、商品・サービスの案内、キャンペーン情報、セミナー案内、関連サービスの紹介など、どのような内容のメールが届くのかを可能な限り具体的に示すことが望ましいでしょう。
4 オプトインの例外――名刺交換・取引関係・公開アドレスの扱い
特定電子メール法には、事前同意がなくても送信できる一定の例外があります。
たとえば、自己の電子メールアドレスを通知した者、取引関係にある者、自己の電子メールアドレスを公表している団体または営業を営む個人などは、一定の場合に送信対象となり得ます。
このため、展示会や商談で名刺交換をした相手、既存の取引先、Webサイト上で問い合わせ用メールアドレスを公表している法人などについては、特定電子メール法上、一定の範囲で例外的に広告宣伝メールを送信できる場合があります。
しかし、ここで「例外があるから自由に送れる」と理解するのは危険です。
第一に、受信拒否の意思表示がある場合には送信できません。たとえば、名刺やWebサイトに「営業メールはお断りします」「広告メールの送信を希望しません」といった表示がある場合、それを無視して送信すれば法的リスクが高まります。
第二に、特定電子メール法以外の法律も問題になります。ECサイトや通信販売に関連する電子メール広告については、特定商取引法の規制も重なって適用される場合があります。
第三に、BtoBメールであっても、相手方の担当者個人に対する過度な営業メール、無差別な一斉送信、配信停止の意思表示を無視した送信は、企業の信用を大きく損ないます。法令違反の有無だけでなく、レピュテーションリスク、迷惑メール通報、ドメイン評価の低下、メール到達率の悪化といった実務上の不利益も無視できません。
したがって、例外に該当する可能性がある場合でも、実務上は、可能な限り明示的な同意を取得し、配信停止手段を明確に設け、配信対象を必要最小限に限定する運用が望ましいといえます。
5 まとめ
メールマーケティングを始める際に最初に確認すべきことは、「メールアドレスを持っているか」ではなく、「広告宣伝メールを送る法的根拠があるか」です。
特定電子メール法では、広告宣伝メールについて、原則として事前同意、すなわちオプトインが求められます。

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