「顧客満足度No.1」表示を競合他社から警告された事例

SaaS系IT企業の広報担当者から、自社サービスのランディングページに掲載しているNo.1表示について相談を受けた事例です。

同社は、自社サービスの広告LPで、次のような表示を使用していました。

  • 「顧客満足度No.1」
  • 「経営者が選ぶツールNo.1」
  • 「導入をおすすめしたいSaaS No.1」

これらの表示は、インターネット広告で見つけたリサーチ会社に約300万円を支払い、調査報告書を納品してもらったうえで掲載していたものでした。

ところが、競合他社の代理人弁護士から内容証明郵便が届きました。そこには、同社のNo.1表示は客観的根拠を欠く不当表示であり、景品表示法上の優良誤認表示に当たる可能性があるため、直ちに表示を停止しなければ消費者庁への通報を検討する、という趣旨の警告が記載されていました。

項目内容
相談者SaaS系IT企業の広報担当者
問題となった表示「顧客満足度No.1」「経営者が選ぶツールNo.1」等
調査費用約300万円
調査実施者外部リサーチ会社
警告者競合他社の代理人弁護士
主なリスク景品表示法違反、措置命令、課徴金、社名公表、広告停止による売上減少

相談者は、「リサーチ会社の調査結果があるのに、なぜ違法と言われるのか」「広告を止めるとリード獲得が落ちるので困る」と強く懸念していました。

1 法的見解:問題は「No.1」そのものではなく、根拠とのズレ

No.1表示自体が直ちに違法になるわけではありません。

しかし、No.1表示が合理的な根拠に基づかず、事実と異なる場合には、実際の商品・サービスよりも著しく優良または有利であると一般消費者に誤認されるおそれがあり、景品表示法上の不当表示として問題となります。

LegalOnナレッジでも、優良誤認表示とは、事業者が一般消費者に対して行う商品・サービスの品質、規格その他の内容に関する表示のうち、実際のものより著しく優良であると示すもの、または事実に相違して競争事業者のものより著しく優良であると示すもので、一般消費者の自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがある表示と整理されています。LegalOnナレッジ

本件で問題となったのは、No.1という表現そのものではなく、表示内容と調査内容が対応していなかったことです。

2 報告書を確認して判明した問題点

リサーチ会社の調査報告書を確認したところ、問題の原因はすぐに判明しました。

調査は、実際に同社サービスを利用した顧客を対象にしたものではありませんでした。調査対象者は、一般のWebモニターであり、同社サービスや競合サービスの利用経験を確認しないまま、各社のWebサイトを見せて印象を聞く形式でした。

つまり、実態は「サイトイメージ調査」でした。

表示消費者が受ける印象実際の調査内容問題点
顧客満足度No.1実際の顧客が利用後に満足度を評価したサイトを見た未利用者が印象で回答表示と調査が対応していない
経営者が選ぶツールNo.1経営者が実際に比較・選定した経営者属性の確認が不十分なWebモニター調査調査対象者が不適切
おすすめしたいSaaS No.1利用経験や専門的判断に基づく推奨LP閲覧後の印象回答客観的根拠が弱い
導入企業満足度No.1導入企業への調査結果導入経験を問わない一般調査実利用者調査ではない

消費者庁の実態調査報告書では、イメージ調査とは、対象商品・サービスや比較対象のWebサイトを閲覧させ、その印象に基づいて回答させる調査をいうと説明されています。そして、「満足度No.1」を訴求する表示の根拠としてイメージ調査のみが実施されているケースは、景品表示法上問題となるおそれがあるとされています。

また、「サイトイメージ調査」「本調査はサイトのイメージをもとにアンケートを実施しています」「本ブランドの利用有無は聴取していません」といった注記があっても、「顧客満足度No.1」という表示内容と調査結果が適切に対応していないことに変わりはなく、問題となるおそれがあるとされています。

3 「リサーチ会社に頼んだから大丈夫」ではない

相談者が最も驚いたのは、リサーチ会社に高額な費用を支払い、調査報告書まで受け取っていたにもかかわらず、広告主側に法的責任が残るという点でした。

消費者庁の調査でも、多くの広告主が、調査会社がインターネット上でアンケートを実施していることは把握していた一方で、どのような質問をしていたか、比較対象となる競合他社がどのように選ばれていたか、回答者がどの範囲を見てイメージを回答したか等を十分に把握していなかったことが指摘されています。

No.1表示を行う事業者は、調査会社の報告書を受け取るだけでは足りません。広告主自身が、表示内容に見合う合理的根拠があるかを確認する必要があります。

確認項目確認すべき内容
調査対象者実際の利用者か、属性確認は適切か
比較対象主要な競合サービスが含まれているか
質問内容誘導的・恣意的な質問になっていないか
調査時期表示時点と整合しているか
表示との対応「満足度」「顧客」「経営者」等の文言と調査内容が合っているか
注記一般消費者に明瞭か、主表示の誤認を打ち消せるか
根拠資料行政や競合から求められた際に提出できるか

消費者庁は、不当なNo.1表示等の防止に向けて、表示の根拠となる情報の確認、共有、管理担当者の設定、事後確認のための措置、不当表示が明らかになった場合の迅速かつ適切な対応など、事業者が講ずべき管理上の措置を徹底すべきとしています。

4 競合他社への回答戦略

競合他社からの内容証明郵便を放置すれば、実際に消費者庁や公正取引協議会等へ通報される可能性があります。また、競合他社がプレスリリースや訴訟を検討する可能性も否定できません。

そこで、まずは問題となるNo.1表示を一時停止するよう助言しました。売上への影響は懸念されましたが、措置命令や社名公表に発展した場合のレピュテーションリスクの方が大きいと判断したためです。

そのうえで、相手方弁護士に対し、次のようなトーンで回答しました。

回答方針内容
違法性の全面自認は避ける将来の損害賠償請求や行政対応への影響を抑える
指摘を真摯に受け止める紛争拡大・通報を抑止する
調査方法を再確認した旨を伝える社内対応を行ったことを示す
表示を自主的に停止した旨を通知行政処分リスクを低減する
今後の表示改善を説明再発防止姿勢を示す

回答書では、「貴職のご指摘を受け、当社において表示内容および調査方法を再検証した結果、一般消費者に誤認を与える可能性を慎重に考慮し、当該表示を自主的に停止しました」という表現を用いました。

重要なのは、全面的に景表法違反を認めるのではなく、紛争予防と消費者保護の観点から自主的に対応したという建付けにすることです。これにより、相手方の通報意欲を下げ、行政処分に発展する前に事態を沈静化させることを目指しました。

5 適法な広告表示への切り替え

広告を止めたままではリード獲得に影響が出るため、No.1表示に代わる訴求表現を検討しました。

まずは、外部調査に頼らず、自社で客観的に裏付けられる実績データに基づく表現へ切り替えました。

従前の表示問題点切替後の表現例
顧客満足度No.1イメージ調査に基づく可能性継続率○%
経営者が選ぶツールNo.1調査対象者の属性確認が不十分導入企業○社突破
おすすめしたいSaaS No.1利用経験のない回答者の印象調査月間利用ユーザー数○万人
サポート満足度No.1実利用者調査ではない平均初回返信時間○分
業界人気No.1比較対象が不明確○○業界の導入企業○社

このように、主観的評価によるNo.1表示から、導入社数、継続率、利用者数、対応時間など、検証可能なファクトベースの表示に変更しました。

ただし、これらの表現も、根拠資料が必要です。たとえば「導入企業数○社」と表示する場合は、集計基準、対象期間、有料契約のみか無料トライアルを含むかなどを明確にしておく必要があります。

6 真正な第三者調査を行う場合のチェックポイント

将来的にNo.1表示を再開したい場合には、表示内容に対応した適切な調査を行う必要があります。

消費者庁の報告書では、主観的評価によるNo.1表示が合理的根拠と認められるためには、比較対象となる商品・サービスの適切な選定、調査対象者の適切な選定、公平な調査方法、表示内容と調査結果の適切な対応が必要と整理されています。

要件実務上の確認ポイント
比較対象の適切性市場における主要競合を除外していないか
調査対象者の適切性実際の利用者を対象にしているか
公平な調査方法自社に有利な選択肢順、誘導質問、途中終了がないか
表示との対応「顧客満足度」と表示するなら実顧客の満足度調査か
調査会社の独立性利害関係や調査設計の透明性に問題がないか
証拠保全調査票、回答データ、集計方法、競合選定資料を保存しているか
注記の明瞭性調査時期、対象者、比較対象、調査機関を明瞭に表示しているか

特に、「顧客満足度No.1」と表示する場合は、少なくとも対象サービスを実際に利用したことがある者でなければ、そのサービスに満足したかどうかを適切に判断できません。対象サービスを利用したことがない者や、利用経験の有無を確認せずに調査対象者を選定している場合は、合理的根拠に基づくとはいえないとされています。

7 リサーチ会社への対応

本件では、リサーチ会社が「景表法上問題のないNo.1表示が可能」と説明していたにもかかわらず、実際の調査内容は広告表示に耐えるものではありませんでした。

そこで、同社に対しては、契約内容、提案資料、営業時の説明、納品された報告書、調査設計の妥当性を確認し、調査費用の返還または一部返金を求める交渉を開始しました。

検討事項内容
契約上の義務景表法適合性についてどのような説明・保証があったか
説明義務違反調査の限界や使用可能な表示範囲を説明していたか
報告書の品質表示内容に対応する調査設計だったか
損害広告停止、修正費用、弁護士費用、信用低下リスク
返金交渉調査費用の全部または一部返還を請求できるか

なお、景品表示法上、直接処分を受ける中心は広告主ですが、調査会社の責任が一切問題にならないわけではありません。特に、景表法に適合する調査であるかのように説明して契約を獲得していた場合には、契約上・民事上の責任を検討する余地があります。

8 解決結果

同社は、問題となるNo.1表示を速やかに停止し、競合他社への回答書を送付しました。その結果、競合他社からの追加警告や消費者庁への通報は確認されず、措置命令や社名公表に至ることなく事態を収束させることができました。

広告面では、No.1表示を一時的に取り下げたうえで、継続率、導入社数、利用者数、サポート対応実績など、客観的な社内データに基づく訴求に切り替えました。その結果、LPの訴求力を一定程度維持しながら、景品表示法リスクを大きく下げることができました。

解決内容結果
No.1表示の一時停止行政通報リスクを低減
競合他社への回答紛争拡大を回避
表示内容の修正ファクトベースの訴求へ変更
社内審査フロー広告公開前の法務チェックを導入
調査会社対応調査費用返還交渉を開始
行政処分措置命令・社名公表なし

9 弁護士のコメント

「お金を払ってリサーチ会社に調査してもらったから大丈夫」という考え方は、現在のNo.1表示規制では非常に危険です。

特に、「顧客満足度No.1」「人気No.1」「おすすめしたいNo.1」といった表示は、消費者に対して、実際の利用者や適切な属性の回答者による評価であるとの印象を与えます。にもかかわらず、実態がサイトイメージ調査にすぎない場合、表示内容と調査結果が対応しておらず、優良誤認表示として問題になる可能性があります。

No.1表示を使う場合は、少なくとも次の点を確認すべきです。

  • 表示文言と調査項目が対応しているか
  • 実際の利用者を対象にしているか
  • 比較対象となる主要競合が適切に含まれているか
  • 回答を誘導する設計になっていないか
  • 調査対象者、調査時期、調査機関、比較対象を明瞭に注記しているか
  • 調査票、集計データ、競合選定資料を保存しているか
  • 調査会社の営業文句を鵜呑みにせず、自社で根拠を確認しているか

No.1表示は、短期的には強い広告効果があります。しかし、根拠の弱いNo.1表示は、競合からの警告、消費者庁への通報、措置命令、課徴金、社名公表という大きなリスクを伴います。

広告表現は、止めるか出すかの二択ではありません。適法な根拠に基づく表現へ組み替えれば、売上への影響を抑えながらリスクを下げることができます。No.1表示を使う前に、調査設計と表示文言が景品表示法上耐えられるかを確認することが、結果的には最もコストの低いリスク管理です。

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