前回の記事では、メルマガやステップメールを配信する際に、まず確認すべき「特定電子メール法の対象」と「オプトイン規制」について解説しました。
もっとも、広告宣伝メールは、事前同意を取得すればそれで終わりではありません。
特定電子メール法では、適法に同意を得て送信する場合であっても、メール本文に一定事項を表示する義務があります。また、受信者が配信停止を希望した場合には、その意思に反してメールを送り続けることはできません。
さらに、事業者は、同意を取得したことを証明する記録を保存する必要があります。メール配信業務を外部業者に委託する場合でも、配信リストの適法性や配信停止対応を確認せずに任せきりにすることは危険です。
本記事では、メルマガやステップメールの運用段階で特に問題となる、表示義務、オプトアウト、同意記録の保存、委託先管理について解説します。
このページの目次
1 メール本文に必要な表示義務
特定電子メール法では、適法に同意を取得している場合であっても、メール本文中に一定事項を表示する義務があります。
実務上、メール本文の末尾などに、少なくとも次の事項を分かりやすく記載する必要があります。
①送信者の氏名または名称
法人であれば会社名、個人事業主であれば氏名または屋号を正確に表示します。ブランド名やサービス名だけでは、送信主体が明確でない場合があります。
②配信停止・受信拒否の方法
「配信停止はこちら」「メールの受信を希望されない方はこちら」といった導線を設け、受信者が容易に配信停止できるようにします。
③受信拒否の通知先
配信停止フォームのURL、受信拒否用メールアドレスなどを記載します。リンク切れ、ログイン必須、複雑な手続を要求する設計は避けるべきです。
④送信者の住所
メール本文またはリンク先ページで表示する方法が考えられます。ただし、リンク先で表示する場合でも、受信者が容易に確認できる必要があります。
⑤苦情・問い合わせ先
電話番号、メールアドレス、問い合わせフォームURLなど、苦情や問い合わせを受け付ける窓口を表示します。
表示義務については、「どこかに書いてあればよい」というものではありません。受信者が容易に認識できる場所に、分かりやすく表示する必要があります。
たとえば、極端に小さい文字、背景色と近い色、画像だけで表示してテキストとして確認できない形式、長いフッターの中に埋もれている表示などは、実務上問題となる可能性があります。
配信停止リンクについても、リンク先が分かりにくい、手続が複雑である、退会理由の入力を必須にしている、何度も確認画面を表示する、といった設計は避けるべきです。
2 オプトアウト後の送信は禁止
オプトインと並んで重要なのが、オプトアウト、すなわち受信拒否への対応です。
いったん適法に同意を取得していたとしても、その後、受信者が「配信停止」を申し出た場合には、以後、その意思に反して広告宣伝メールを送ることはできません。
実務上、次のようなケースは典型的なリスク場面です。
①配信停止リンクが機能していない
②配信停止処理が完了するまでに長期間を要する
③複数の配信リストの一部だけ停止され、別リストから配信が続く
④CRMとメール配信システムの同期不備により再登録される
⑤営業担当者が個別に送信するメールが停止対象から漏れる
⑥委託先に停止リストが共有されていない
⑦「重要なお知らせ」と称して実質的な広告メールを送る
特に、複数のシステムを利用している企業では、オプトアウト情報の一元管理が重要です。
ECカート、MAツール、CRM、SFA、問い合わせ管理システム、営業担当者の手元リストなどが分断されている場合、あるシステムでは配信停止済みであるにもかかわらず、別のシステムからメールが送信されることがあります。
配信停止の申出を受けた場合には、単にメール配信ツール上で「解除済み」にするだけでなく、企業全体として同じ相手に広告宣伝メールを送らない運用を構築する必要があります。
3 同意記録の保存義務
特定電子メール法では、オプトインの同意を取得するだけでなく、その同意を証する記録を保存する義務も定められています。
たとえば、Webフォームでメルマガ配信の同意を取得する場合、実務上は次のような記録を保存しておくことが考えられます。
①同意したメールアドレス
②同意取得日時
③同意取得ページのURL
④同意取得時のチェックボックス文言
⑤同意取得画面のスクリーンショット
⑥同意取得時の利用規約・プライバシーポリシーの版
⑦IPアドレスやユーザーIDなどのログ
⑧ダブルオプトインを採用している場合の確認メール送信・クリック履歴
保存期間については、特定電子メール法上は、広告宣伝メールを最後に送信した日から1か月が一つの目安となります。ただし、特定電子メール法に基づく措置命令を受けた場合には、より長期の保存が必要となる場合があります。
また、ECサイトや通信販売に関連する電子メール広告の場合には、特定商取引法上の記録保存義務が問題となり、3年間の保存が必要となる場合があります。
したがって、実務上は「特定電子メール法では1か月だから、1か月で削除してよい」と短絡的に判断するのではなく、自社のメールが特定商取引法上の電子メール広告にも該当しないかを確認する必要があります。
特にECサイト、サブスクリプションサービス、オンライン講座、デジタルコンテンツ販売などでは、3年間保存を前提に運用設計する方が安全です。
また、保存義務期間を過ぎた後も、クレーム対応や紛争予防の観点から、必要な範囲で記録を保持することが望ましい場合があります。
他方で、メールアドレスや行動履歴は個人情報に該当し得るため、不要な個人情報を漫然と保持し続けることにもリスクがあります。個人情報保護法上の安全管理措置、利用目的、保存期間との整合性も含めて検討すべきです。
4 委託先にメール配信を任せる場合の注意点
メール配信業務は、外部のメール配信会社、広告代理店、マーケティング支援会社、営業代行会社などに委託されることが少なくありません。
しかし、外部業者に委託したからといって、広告主・依頼企業が法的責任から当然に解放されるわけではありません。
実務上、委託先管理で確認すべき事項は多岐にわたります。
①配信リストの取得経路は適法か
②オプトインの同意記録が保存されているか
③配信停止者がリストから除外されているか
④配信停止情報が委託元・委託先間で共有されるか
⑤メール本文に必要な表示事項が入っているか
⑥送信者名・Fromアドレスを偽装していないか
⑦架空アドレス宛の送信を行っていないか
⑧苦情・問い合わせ対応の窓口と責任分担が明確か
⑨委託終了後のリスト削除・返還が定められているか
⑩再委託先がある場合、その管理体制が確認されているか
契約書上も、メール配信委託契約、広告運用委託契約、MA運用支援契約などにおいて、特定電子メール法、特定商取引法、個人情報保護法を遵守する義務を明記することが重要です。
さらに、配信リストの適法性保証、同意記録の提供義務、オプトアウト情報の即時反映、苦情対応、損害賠償、再委託制限、監査権限などを定めておくべきです。
特に、外部業者が保有するリストを利用して配信する場合には、そのリストがどのように取得されたものか、広告宣伝メールの受信について適法な同意があるのかを慎重に確認する必要があります。
「業者が大丈夫と言っている」「過去にも使われているリストだから問題ない」といった説明だけで利用すると、違法配信に関与したと評価されるリスクがあります。
6 特定商取引法・個人情報保護法との関係
メールマーケティングでは、特定電子メール法だけを見ていれば足りるわけではありません。
まず、ECサイトや通信販売に関する電子メール広告については、特定商取引法の規制が重なる場合があります。
特定電子メール法は、主に電子メールの送受信上の支障防止を目的とする法律です。これに対し、特定商取引法は、消費者保護や取引の公正を目的とする法律です。目的や規制対象が異なるため、同じメールについて両方の法律が問題となる場合があります。
特定商取引法が適用される場合には、請求・承諾のない者に対する電子メール広告の禁止、記録の作成・保存義務、受信拒否者への送信禁止、表示義務などを確認する必要があります。
次に、メールアドレスや氏名、購入履歴、閲覧履歴、問い合わせ履歴などは、個人情報または個人関連情報として個人情報保護法上の検討対象となります。
メールマーケティングにおいては、次の点も確認が必要です。
①メールアドレスの取得時に利用目的を適切に通知・公表しているか
②広告宣伝目的で利用することが利用目的の範囲内か
③共同利用や第三者提供がある場合に必要な措置を講じているか
④外部委託先に対する安全管理措置・監督を行っているか
⑤配信停止後の個人情報の取扱いが整理されているか
⑥行動履歴に基づくターゲティング配信について説明しているか
特定電子メール法上の同意と、個人情報保護法上の同意・利用目的の問題は、似ているようで別の論点です。
メルマガ配信についてオプトインを取得していても、個人情報の利用目的や第三者提供の整理が不十分であれば、別途問題となる可能性があります。
6 実務で整備すべきチェックリスト
企業がメールマーケティングを適法に運用するためには、法務部門、マーケティング部門、情報システム部門、営業部門、外部委託先が連携して、少なくとも以下の点を確認する必要があります。
(1)配信前の確認
①広告宣伝メールに該当するか
②特定電子メール法の適用対象か
③特定商取引法の電子メール広告にも該当するか
④配信対象者から事前同意を取得しているか
⑤例外に依拠する場合、その根拠が明確か
⑥受信拒否者が除外されているか
⑦配信リストの取得経路が適法か
⑧外部リストを利用する場合、同意の内容を確認しているか
(2)フォーム・同意取得画面の確認
①メルマガ配信に同意する旨が明確に表示されているか
②同意文言が小さすぎたり分かりにくかったりしないか
③同意の対象となるメールの種類が明確か
④チェックボックスや同意ボタンのログが残るか
⑤同意取得時の画面構成を保存しているか
⑥利用規約・プライバシーポリシーとの整合性があるか
(3)メール本文の確認
①送信者の氏名または名称を表示しているか
②住所を表示しているか、または容易に確認できるリンクを設けているか
③配信停止方法を分かりやすく表示しているか
④受信拒否通知先のメールアドレスまたはURLを表示しているか
⑤苦情・問い合わせ先を表示しているか
⑥From名や送信元アドレスが誤認を招かないか
⑦配信停止リンクが正常に機能するか
(4)配信後の確認
①配信停止申出が即時または合理的期間内に反映されるか
②複数システム間でオプトアウト情報が同期されるか
③営業担当者による個別送信にも停止情報が反映されるか
④苦情・問い合わせへの対応フローがあるか
⑤同意記録・配信記録を保存しているか
⑥委託先から必要な記録の提供を受けられるか
7 まとめ
広告宣伝メールは、事前同意を取得すれば自由に送れるものではありません。
メール本文には、送信者情報、配信停止方法、住所、問い合わせ先などを分かりやすく表示する必要があります。また、受信者が配信停止を申し出た場合には、その意思に反してメールを送り続けることはできません。
さらに、同意を取得したことを証明する記録を保存し、必要に応じて説明できる状態にしておくことが重要です。ECサイトや通信販売に関連するメールでは、特定商取引法上の記録保存義務も併せて確認すべきです。
メール配信を外部業者に委託する場合も、委託先に任せきりにするのではなく、配信リストの適法性、表示義務、配信停止対応、記録保存、個人情報管理について契約上・運用上の管理体制を整える必要があります。
メールマーケティングは、適切に運用すれば顧客との関係構築に有効な手段です。他方で、法令対応を軽視すれば、行政処分、刑事罰、苦情対応、信用低下につながりかねません。
メルマガやステップメールの配信体制に不安がある場合には、配信開始前に、同意取得画面、メールテンプレート、配信停止フロー、委託契約、個人情報管理体制を総合的に確認することが重要です。

有森FA法律事務所は、「広告表現に不安があるけれど、何から始めていいか分からない」という方々の力になりたいと考えています。インターネット広告やSNSの普及で、広告に関する法律リスクも多様化してきました。広告チェックに関しては、全国からのご相談に対応しており、WEB会議や出張相談も可能です。地域を問わず、さまざまなエリアの事業者様からご相談をいただいています。身近な相談相手として、お気軽にご連絡ください。
