原産地規則の基礎知識と実務における法的留意点について

0 はじめに

当事務所には、輸入実務における原産地認定に関するご相談が数多く寄せられております。まずは、実際に起こり得るトラブル事例をご紹介いたします。

【相談者】

大阪市内でアパレル輸入商社を経営している株式会社C 代表取締役 D氏

【相談内容】

当社は昨年度から、経済連携協定(EPA)を活用してベトナムから綿製のTシャツを輸入しています。ベトナムの輸出者からは、現地の商工会議所が発行した原産地証明書を受け取っており、それを通関業者に提出することで、これまでは関税無税の適用を受けてきました。ところが、先日の輸入申告において、税関から原産地規則に関する詳細な照会を受けました。 具体的には、Tシャツに使用されている糸が中国製である場合、ベトナムでの縫製作業だけでベトナム産と認められるのか、という点です。税関からは、製品の関税番号(HSコード)の変化が規定を満たしていない可能性があると指摘されました。もしベトナム産と認められない場合、過去に遡って多額の関税を支払わなければならないのでしょうか。原産地証明書さえあれば安心だと思っていましたが、実務上どのような法的根拠を確認すべきだったのか教えてください。

このような事例は、近年の自由貿易ネットワークの拡大に伴い、非常に増えています。原産地証明書はあくまで一つの証拠書類に過ぎず、その前提となる原産地規則を輸入者自身が正しく理解しているかどうかが、法的リスク管理の鍵となります。

 

1 原産地規則の本質と輸入実務における役割

原産地規則とは、輸入又は輸出される貨物の原産地(原産地とは、ひとまず、貨物の国籍のこととイメージいただければ大丈夫です)を決定するために用いられるルールのことです。 このような原産地規則は貨物を輸入する際には非常に重要なルールとなりますが、輸入者は、輸入通関手続を通常通関業者に委任することが多いので、このような原産地規則までは理解していないことがほとんどであるものと思います。もっとも、何かトラブルが発生した場合には輸入者自身が対応する必要が生じる場合もありますので、概要程度であっても原産地規則を理解しておいた方がよいものと考えられます。

 

2 原産地規則の分類とそれぞれの法的根拠

政策目的に応じて、原産地規則は、以下の1及び2のとおり大別されます。

(1)原産地規則

原産地規則とは、輸入品に特恵関税を付与するために利用する規則で、以下の(ア)及び(イ)に分類されます。

(ア)一般特恵関税(GSP)を適用するための原産地規則

開発途上国に対する一般特恵関税制度に基づく税率の適用対象となる貨物であるかどうかを決定するための規則のことを指します。

(イ)自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)の税率を適用するための規則

自由貿易協定(FTA)とは、特定の国や地域の間で、物品の関税やサービス貿易の障壁等を削減・撤廃することを目的とする協定のことを指します。他方で、経済連携協定(EPA)とは、貿易の自由化に加え、投資、人の移動、知的財産の保護や競争政策におけるルール作り、様々な分野での協力の要素等を含む幅広い経済関係の強化を目的とする協定のことを指します。

日本が自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)を締結している国や地域は、シンガポール、メキシコ、マレーシア、チリ、タイ、インドネシア、ブルネイ、ASEAN全体、フィリピン、スイス、ベトナム、インド、ペルー、オーストラリア、モンゴル、イギリス、欧州連合(EU)、米国、RCEP参加国など、多岐にわたります。

これら各協定に基づく原産地規則の法的運用については、経済連携協定の実施等に関する法律が基本となります。

(2)非特恵原産地規則

非特恵原産地規則とは、1以外の目的のために利用されるもので、例えば、WTO協定税率の適用や貿易統計計上等のための規則等があります。 こちらの根拠法令は、主に関税法に関連します。

 

3 原産地を認定するための具体的な3つの基準

実務上、貨物が原産品として認められるためには、主に以下の3つの基準のいずれかを満たす必要があります。これらは輸入者にとって最も重要な判断指標となります。

(1)完全生産品基準(WO)

その国において完全に生産された物品です。例えば、その国で収穫された農産物、その国で生まれ育った家畜、その国の領海内で採捕された水産物などが該当します。

(2)実質的変更基準

二か国以上にわたって生産された場合に、最終製品に実質的な変更を加える作業が行われた国を原産地とする基準です。これには主に3つの手法があります。

(ア)関税番号変更基準(CTC)

原材料のHSコード(関税番号)と、完成品のHSコードが一定の桁数で変化していることを求める基準です。例えば4桁(項)の変化を求めるものをCTHと呼びます。冒頭の相談事例のように、糸からTシャツへの加工がこれに該当するかどうかが争点となります。

(イ)付加価値基準(VA)

その国で付け加えられた価値(価格)が、完成品の価格の一定割合以上であることを求める基準です。RVC(域内原産地割合)などの計算式が用いられます。

(ウ)特定工程基準(SP)

特定の製造工程(例:化学反応、特定の紡績工程など)がその国で行われたことを求める基準です。

これらの基準は協定ごとに、あるいは製品のHSコードごとに細かく指定されています。以下の表に、主要な概念を整理いたしました。

【原産地認定基準の比較整理表】

基準の種類|判定のポイント|主な対象物品|

完全生産品(WO)|他国由来の材料を一切含まない|農産物、鉱物、水産物|

関税番号変更(CTC)|加工によりHSコードが変化したか|工業製品、アパレル|

付加価値(VA)|加工によりいくらの価値が増えたか|機械類、精密機器|

特定工程(SP)|指定された特定の工程を経たか|化学品、繊維製品|

 

4 原産地規則を理解しないことによる法的リスク

輸入者が原産地規則を軽視した場合、以下のような深刻なペナルティを課される可能性があります。

(1)特恵税率の否認と追徴課税

税関事後調査において、原産地基準を満たしていないと判断された場合、輸入時に免除されていた関税を遡って支払う必要があります。これには延滞税も付加されるため、企業の資金繰りに大きな影響を与えます。

(2)虚偽申告としての処罰

故意に誤った原産地を申告した場合、関税法上の重加算税や、最悪の場合は刑事罰の対象となります。

関税法第110条(関税を免れる罪

偽りその他不正の行為により、関税を免れ、又は関税の還付を受けた者は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

(3)事後確認(検認)への対応負担

協定によっては、日本の税関が輸出国の政府や輸出者に対して、直接情報の提供を求める事後確認(ベリフィケーション)が行われます。この際、輸入者が適切な説明を行えないと、特恵適用が取り消されます。

 

5 実務上の対策:輸入者が取るべき行動指針

具体的なビジネスの内容を踏まえて、どのような内容を特に注意すべきかを把握した上で、輸入関連の法令に照らして適切となるように、日々のビジネスの内容を精査していくといった作業が必要となります。

第一に、インボイス価格だけでなく、製品の構成材料の原産地を確認することです。特に多国籍なサプライチェーンを持つ製品の場合、単なる組み立て国が原産地になるとは限りません。

第二に、各協定の品目別規則(PSR)を照合することです。税関のホームページ等に掲載されている、最新のPSR一覧表を確認し、自社製品のHSコードに課せられたハードルを把握してください。

第三に、事前教示制度の活用です。輸入を開始する前に、税関に対して書面で原産地の照会を行うことで、法的な法的拘束力のある回答を得ることができます。これにより、輸入後のトラブルを未然に防ぐことが可能です。

 

6 弁護士へのご相談をご希望の方へ

当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する国家資格である通関士資格を有しており、輸出入トラブルや通関トラブルに関するご相談を幅広くお受けしております。

弁護士でありながら通関士の専門知識を持つことで、単なる契約書の作成に留まらず、関税評価や原産地認定という極めてテクニカルな分野においても、税関当局の視点を踏まえた実効性の高いアドバイスが可能です。

具体的には、以下のようなサポートを提供しております。

①EPA活用時における原産地基準(CTC、VA等)の適合性判定

②輸出者との間での原産地情報開示に関する契約条項の整備

③税関からの原産地照会や事後確認(検認)に対する法的抗弁の作成

④自己申告制度(自己証明制度)導入に伴う社内管理体制の構築支援

原産地規則に関する問題をはじめ、輸出入トラブルや通関トラブルでお悩みの方、ご不明な点やご不安な点等ございましたら、お気軽に当事務所までご相談ください。

 

7 まとめ:原産地規則はビジネスの根幹

原産地規則は、単なる通関上の手続きではなく、グローバルビジネスの収益性を左右する戦略的な法規制です。特恵税率を活用してコスト競争力を高めるためには、その適用の正当性を裏付ける法的根拠を、自社でしっかりと把握しておく必要があります。

企業としては、輸入する貨物の内容や取引相手に支払う代金のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。

通関手続きや貨物の運送などの手続き面について、専門家に任せることは非常に有用ですが、企業としてもそれらの点について最低限の知識を持ち、各手続において重要な点については逐一確認をとる等の対応が必要です。

 

【お問合せは、こちらから】

 

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

 

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

 

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