ロマンス詐欺にはご注意ください

はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介

本日は、近年、SNSやマッチングアプリの普及に伴い社会問題化している「ロマンス詐欺」について、特に「税関での荷物の差し止め」を口実にした卑劣な手口を詳しく解説いたします。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。被害者の方がどのような心理状況で陥りやすいのか、実務的な課題が示されています。

【相談者】

神奈川県内に住む50代の女性、A氏

【相談内容】

「数ヶ月前、SNSを通じてイエメンで国連の医師として勤務しているというイギリス人男性、B氏と知り合いました。毎日のように甘いメッセージが届き、将来は日本で一緒に暮らしたいと約束されました。ある日、B氏から『私の全財産と、君へのプレゼントを詰めた箱を日本へ送った。安全のために医師仲間のエージェントに預けた』と言われました。その後、ロンドンの運送会社を名乗る者からメールが届き、『箱の中身に多額の現金が含まれているため、日本の税関でマネーロンダリングの疑いをかけられ、差し止められた。解除するためには非テロ証明書の発行手数料として200万円が必要だ』と要求されました。B氏に相談すると『今すぐ払わないと箱が没収され、私も逮捕される。助けてくれ』と懇願されました。A氏はB氏を信じて送金しようとしていますが、本当に日本の税関でそのような手続きがあるのか、法的な助言を求めています」

このような事例は、国際的な物流知識の不足と、恋愛感情や信頼を巧みに利用した国際的詐欺グループによる典型的な手法です。ロマンス詐欺は、非常に巧妙な手口で被害者の心理を操り、多額の金銭を騙し取る悪質な犯罪です。本日は、税関実務と法的な観点から、この詐欺の嘘を暴き、被害を未然に防ぐための詳細な解説をいたします。

1 ロマンス詐欺の構造と刑法上の評価

ロマンス詐欺は、被害者の財産を不正に取得することを目的としており、日本の刑法においては「詐欺罪」に該当いたします。

(刑法第二百四十六条)

第一項 人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。

第二項 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。

この詐欺の典型的な流れは以下の四つのステップで構成されます。

一 SNSでの接触

詐欺師は、親切で魅力的な人物を装って接触してきます。例えば「自分は海外でビジネスをしている」や「軍人として紛争地で勤務中だ」というプロフィールが多いです。B氏のような国連医師や、米軍大尉、石油掘削エンジニアなどを名乗るケースが散見されます。

二 信頼関係の構築

数週間から数か月かけて、甘い言葉や親密な会話を通じて被害者の信頼を得ます。相手は結婚や将来の話題にまで触れることで、被害者に強い期待感を持たせ、心理的な依存状態を作り出します。

三 荷物を送ったという嘘

ある日、詐欺師は「あなたに感謝の気持ちとして貴重なプレゼントを送った」や「退職金や相続した多額の現金を君に預けたい」と伝えます。さらに、荷物には現金や貴金属、その他高価な品物が入っていると説明し、運送会社の追跡サイトを模した偽のURLを送付することもあります。

四 税関で荷物が止められたという虚偽の連絡

しばらくして、詐欺師またはその共犯者が「荷物が日本の税関で止められた」、「多額の金や手数料を支払わなければ荷物が処理されない」といった嘘の連絡をしてきます。A氏の事例のように「非テロ証明書」や「アンチ・マネーロンダリング・クリアランス」といった、実在しない名称の手数料を要求するのが特徴です。そして、「荷物を受け取るために」と称して、指定された個人名義の口座へ多額の金銭を送金するよう要求します。

2 税関実務から見た「嘘」の徹底解明

ここで強調したいのは、日本の税関がこのような金銭を要求することは絶対にないという点です。関税法に基づく正規の輸入手続きを理解すれば、詐欺師の言葉がいかに荒唐無稽であるかが分かります。

(一)税金の支払い方法

税関で輸入品に課される税金(関税および消費税)は、通常、輸入者本人が税関長に対して納税申告を行い、納付書に基づいて銀行等で支払うか、あるいは宅配業者や配送業者が立て替えて配達時に代金引換(代引き)の形で適切に請求されます。税務当局が直接的に個人の銀行口座(特に全く関係のない個人名の口座)に送金を求めることはまずありません。

(二)連絡の主体

税関が個人に直接電話やSNSで連絡を取り、金銭を要求することも非常に稀です。通常、貨物に不備がある場合の連絡は、運送会社(郵便局、国際宅急便業者)や通関業者を介して行われます。「税関職員」や「空港職員」を名乗って直接的に金銭の振り込みを迫る連絡を受けた場合、その時点で詐欺を確信すべきです。

(三)貨物の差し止め理由

関税法上、貨物が差し止められるのは、輸入が禁止されている物品(麻薬、銃砲、知的財産権侵害物品等)である場合や、申告内容に不備がある場合に限られます。

(関税法第六十七条 輸出又は輸入の許可)

貨物を輸出し、又は輸入しようとする者は、政令で定めるところにより、当該貨物の品名並びに数量及び価額その他必要な事項を税関長に申告し、当該申告に係る検査が必要と認められるものについては、その検査を受け、その許可を受けなければならない。

詐欺師が主張するような「多額の現金が入っているから罰金を払え」というロジックは、法的には成立いたしません。そもそも、多額の現金を無申告で持ち込もうとした場合、それは没収や刑事罰の対象となるものであり、個人間の送金で解決できる事務手続きではないからです。

3 正規の手続きと詐欺の手口の比較対照

被害者の方が冷静に判断できるよう、実務上の違いを以下の表にまとめました。ワードデータ等に貼り付けて、周囲の注意喚起にもご活用いただけます。

====================================

正規の税関手続とロマンス詐欺の手口の比較対照表

====================================

項目|正規の通関手続(税関・正規業者)|ロマンス詐欺(詐欺グループ)

--|----------------|----------------

連絡手段|ハガキ(通知書)または登録業者からの電話|LINE、メール、SNSのダイレクトメッセージ

送金先|国庫(日本銀行)への納付または代引き|個人名義の銀行口座、暗号資産(仮想通貨)

要求の名称|関税、輸入消費税、通関手数料|証明書発行代、罰金、賄賂、保険料、保管料

言葉のトーン|事務的、淡々とした説明|感情的、緊急性を強調、愛や恐怖を煽る

証明書の要求|インボイス、領収書等の客観的資料|非テロ証明、所有権移転証明等の架空書類

根拠法令|関税法、関税定率法等|「国際規定」「国連のルール」等の曖昧な表現

====================================

4 被害を回避するための具体的な法的チェックポイント

このような詐欺から身を守るためには、以下の点に注意してください。

(1)オンラインのみの関係に対する警戒

短期間で急に親密になろうとする相手や、一度も会ったことがないのに多額の贈り物を約束する相手には、最初から警戒すべきです。特に、相手のプロフィール画像がインターネット上のフリー素材や他人の盗用であるケースが非常に多いため、画像検索などで確認することも有効です。

(2)絶対に「個人名義の口座」に送金しない

理由が何であれ、直接的な送金要求には応じないことが重要です。日本の公的機関や正規の物流会社が、代表者でもない個人の銀行口座への振り込みを指示することは、コンプライアンス上あり得ません。

(3)税関への直接確認

税関に関する連絡内容に疑義がある場合、必ず各地の税関の窓口(税関相談官)に直接問い合わせて真偽を確認してください。その際、詐欺師から教えられた電話番号ではなく、税関の公式サイトに掲載されている代表番号に掛けるようにしてください。

(4)外国為替及び外国貿易法(外為法)の視点

海外へ送金する場合、一定の金額を超える場合には、銀行から送金の目的を厳しく問われることになります。これはマネーロンダリング防止のための法的な義務です。

(外国為替及び外国貿易法第十六条)

主務大臣は、我が国が締結した条約その他の国際約束を誠実に履行するため必要があると認めるとき、又は我が国の国際収支の均衡を維持するため特に必要があると認めるときは、居住者若しくは非居住者による支払(中略)をしようとする者に対し、許可を受ける義務を課することができる。

詐欺師は、この銀行のチェックを逃れるために、少額に分けて送金させたり、暗号資産を利用させたりしようとします。不自然な送金指示そのものが、違法行為の兆候です。

5 被害に遭ってしまった場合の救済と民事上の責任

もし金銭を振り込んでしまった場合、迅速な対応が必要です。

(一)振込先の銀行および警察への連絡

「振り込め詐欺救済法」に基づき、口座の凍結を行うことで、残高がある場合には一部でも取り戻せる可能性があります。

(二)不法行為に基づく損害賠償

詐欺師が特定できた場合(非常に困難ではありますが)、民法第七百九条に基づき、損害賠償を請求することが可能です。

(民法第七百九条 不法行為による損害賠償)

故意又は過失によつて他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによつて生じた損害を賠償する責任を負う。

(三)専門家への相談

被害に遭ってしまった場合は、速やかに警察や弁護士に相談してください。一人で悩むことは、精神的な二次被害を拡大させるだけでなく、法的手段を講じる貴重な時間を奪うことになります。

6 「非テロ証明書」等の架空の証明書の正体

詐欺師がよく用いる「非テロ証明書(Anti-Terrorism Certificate)」や「マネーロンダリング回避証明書」といった書類は、国際貿易の実務には存在いたしません。これらは、テロ資金供与や犯罪収益の移転を防ぐための「国際的な監視」があるという事実を逆手に取り、被害者を不安にさせるために捏造されたものです。

実際には、テロ資金等の疑いがある貨物は、証明書一枚でお金で解決できるようなものではなく、捜査当局による厳格な捜査対象となります。したがって、「お金を払えば解決する」という申し出自体が、国際的な法秩序に反する詐欺の証拠なのです。

7 不適切な情報管理に伴うさらなるリスク

詐欺師に自分の住所、電話番号、パスポートのコピー、免許証の画像などを送ってしまうと、それらが別の詐欺の「なりすまし」に悪用されたり、闇名簿に掲載されたりする恐れがあります。個人情報は、物理的な金銭と同様に、あるいはそれ以上に慎重に扱うべき財産です。一度送ってしまった情報は取り戻すことができないため、相手を信じ切る前に、必ず第三者の冷静な意見を取り入れるべきです。

8 輸入ビジネスにおける他法令との関連性と適正な通関

本件はロマンス詐欺という文脈ですが、輸入実務全般において、「他法令」の確認は非常に重要です。

(関税法第七十条 証明又は確認)

他の法令の規定により輸出又は輸入に関して許可、承認その他の処分又は検査、検定その他の手続を必要とする貨物については、第六十七条の申告の際、当該許可、承認等を受けていること又は当該検査、検定等を終了していることを税関に証明し、その確認を受けなければならない。

正規の輸入であれば、食品衛生法や薬機法、植物防疫法などの確認が必要になることがありますが、これらは日本の公的な制度として運用されており、不透明な手数料の支払いでパスできるものではありません。正しい法令知識に基づき、一つひとつの取引を精査すること。その地道な努力が、貴社のグローバルビジネスを安定させ、不測の事態から会社を守ることに繋がります。当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮して、安定した海外展開をサポートし続けます。適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です。

9 まとめ:冷静な事実確認が自分を守る盾となる

ロマンス詐欺は、非常に巧妙な手口で被害者の心理を操り、多額の金銭を騙し取る悪質な犯罪です。「税関で荷物が止められている」というシナリオが典型的な手口ですので、このような話を持ち掛けられたら即座に疑うべきです。企業としては、輸入する貨物の内容や取引相手の意向のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。通関手続きや貨物の運送などの手続き面について、専門家に任せることは非常に有用ですが、個人であっても企業であっても、それらの点について最低限の知識を持ち、各手続において重要な点については逐一確認をとる等の対応が必要です。

【お問合せは、こちらから】

・・・・・・・・・・・

執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

 

無料相談ご予約・お問い合わせ

 

ページの上部へ戻る

トップへ戻る

03-5877-4099電話番号リンク 問い合わせバナー