SNSや動画配信、ブログなどによって、誰でも簡単に情報発信できる時代になりました。その一方で、「これは意見なのか、それとも誹謗中傷なのか」という境界が問われる場面も増えています。本記事では、誹謗中傷と表現の自由の法的な関係性を整理しつつ、裁判例を交えて解説いたします。
このページの目次
1 表現の自由の意義と限界
憲法21条は「表現の自由」を保障していますが、それは無制限ではありません。特定の個人や団体の名誉や権利を著しく害するような表現には、一定の法的制限が認められています。誹謗中傷が名誉毀損や侮辱、業務妨害に該当する場合、刑事責任や民事上の損害賠償責任が問われることになります。
2 意見か中傷か:判断基準
名誉毀損とならない「意見」や「論評」とされるためには、
①公共性があること(社会的関心を有する事柄)
②意見が前提とする事実が重要部分で真実であること
③表現が相当であること(表現方法が不必要に過激でない)
という要件を満たす必要があるとされています。
これらを満たせば、たとえ名誉を傷つける内容であっても違法とはされないことがあります。
3 裁判例:論評と名誉毀損の境界
ある裁判例では、新聞記者がある医療行為を批判的に取り上げた記事について、「公共性と相当性を欠く」として名誉毀損が成立し、損害賠償が命じられました。記事は意見・論評の体裁をとっていたものの、記載された事実の一部が虚偽であり、かつ、過度に感情的な表現があったことが問題とされました。
このように、「論評だから大丈夫」とは限らず、基礎となる事実の正確性と表現の節度が求められます。
4 ネット投稿と個人の責任
SNSなどにおける「個人の感想」も、対象者を特定しうる場合には、名誉毀損や侮辱として違法性を帯びる可能性があります。特に「バカ」「死ね」「犯罪者」などの侮蔑的な言葉は、単なる意見ではなく、違法と評価されるリスクが高いといえるでしょう。
また、拡散性の高いプラットフォームでの発信は、被害が広がる分だけ責任も重くなります。
発信の自由は重要な権利である一方、その裏には「他人の権利を不当に侵害してはいけない」という責任が伴います。誰かの行動や言動を批判したいときは、事実確認を徹底し、冷静で節度ある表現を心がけることが重要です。
また、投稿の文言が名誉毀損にあたるか不安な場合は、投稿前に専門家に相談することをお勧めします。