【相談内容】
ネット掲示板で執拗な嫌がらせを受けています。被害者としては、投稿者を特定し、警察に逮捕してもらい、前科を付けてほしいという思いがあります。また、精神的苦痛に対する慰謝料も十分に支払わせたいと考えています。
この場合、まず警察に行くべきなのでしょうか。それとも弁護士に相談すべきなのでしょうか。警察に相談すれば、投稿者の特定から慰謝料請求まで対応してくれるのでしょうか。
【弁護士の回答】
結論として、刑事処罰を求める手続と、慰謝料を請求する手続は別です。
警察は、名誉毀損罪、侮辱罪、脅迫罪、業務妨害罪などの犯罪が疑われる場合に、捜査や刑事処分につなげる役割を担います。一方で、慰謝料や損害賠償の請求、示談交渉、削除請求、発信者情報開示請求は、基本的に民事の領域であり、弁護士が中心となって進める手続です。
警察庁も、インターネット上の誹謗中傷等への対応として、問題ある書き込みの削除方法と、相手方の処罰を望む場合の警察への通報・相談を分けて案内しています。また、投稿者を特定できた後は、損害賠償請求や刑事告訴を行うのが通常であり、これらの手続も弁護士に継続的に依頼することが有益と説明されています。
したがって、「処罰も求めたい」「慰謝料も取りたい」という場合は、警察と弁護士の役割を分けて考え、両方を使い分ける必要があります。
このページの目次
1 警察ができること・できないこと
警察が対応するのは、刑事事件です。
たとえば、投稿内容が次のような場合には、警察への相談や刑事告訴を検討します。
- 「殺す」「家に行く」などの脅迫
- 実名を出して虚偽の犯罪歴や不正行為を書かれた
- 侮辱的な投稿が執拗に繰り返されている
- 勤務先や事業への信用を害する虚偽投稿がある
- 住所や電話番号を晒され、危害を示唆されている
- ストーカー的な嫌がらせが続いている
警察に刑事告訴をすることで、加害者に対する捜査、送致、起訴・不起訴の判断、罰金や拘禁刑などの刑事処分につながる可能性があります。刑事告訴とは、被害者などが犯罪被害を申告し、加害者の処罰を求める手続です。
ただし、警察は、被害者の代理人として慰謝料を請求してくれる機関ではありません。警察が投稿者に「慰謝料を払いなさい」と命じたり、示談金の交渉を代行したりすることはありません。
つまり、警察に相談して刑事処分が進んだとしても、それだけで被害者に慰謝料が支払われるわけではありません。お金の回収や謝罪、再発防止の合意は、別途、民事手続で対応する必要があります。
2 弁護士ができること・できないこと
弁護士が中心となって行うのは、民事上の対応です。
具体的には、次のような対応が可能です。
- 投稿内容の違法性判断
- 証拠保全の助言
- 削除請求
- 発信者情報開示請求
- 投稿者の氏名・住所の特定
- 損害賠償請求
- 慰謝料請求
- 謝罪文の要求
- 再投稿禁止・接触禁止の合意
- 示談交渉
- 刑事告訴状の作成支援
発信者情報開示請求とは、インターネット上の違法な書き込みについて、サイト管理者や接続プロバイダに対し、投稿者の情報開示を求める手続です。開示に成功すれば、投稿者に対して損害賠償請求や刑事告訴を行うことが可能になります。
もっとも、弁護士には逮捕権はありません。投稿者を逮捕したり、刑務所に入れたりする権限はありません。刑事処罰を求める場合は、警察・検察の手続に進める必要があります。
3 まず何をすべきか
実務上は、緊急性がある場合を除き、まず弁護士に相談して、証拠保全と発信者情報開示請求を急ぐことが多いです。
理由は、投稿者を特定するための通信ログには保存期間があるためです。大手接続プロバイダのログ保存期間は約3か月から6か月とされ、早く発信者情報開示請求を行わなければ開示不可となることがあります。また、アクセスログの保存期間はおおむね3か月であり、その期間内にコンテンツプロバイダから開示を受け、ISPに開示請求まで行う必要があると説明されています。
総務省の会議資料でも、誹謗中傷被害では、被害相談の決断まで時間がかかることが多く、ログ保存期間との関係で非常に厳しくなること、発信者情報開示手続で犯人を特定してから警察に告訴等を進めることが多いことが指摘されています。
そのため、「警察が動いてくれるか様子を見る」「相手が飽きるまで待つ」という対応は危険です。時間が経つと、投稿者を特定できなくなる可能性があります。
4 例外的に、すぐ警察へ行くべきケース
もっとも、次のような場合は、弁護士相談と並行して、直ちに警察へ相談すべきです。
- 殺害予告がある
- 自宅や実家の住所を晒されている
- 「会いに行く」「待ち伏せする」などの投稿がある
- 性的画像や盗撮画像を拡散されている
- ストーカー行為が疑われる
- 家族や勤務先に危害が及ぶおそれがある
- すでに現実の接触や脅迫がある
このような場合は、民事上の損害賠償よりも、まず身体・生活の安全確保が優先です。証拠を持参して、最寄りの警察署、サイバー犯罪相談窓口、警察相談専用電話に相談してください。
5 刑事と民事の違い
刑事と民事は、目的が異なります。
| 手続 | 目的 | 主な担当 | 結果 |
| 刑事 | 加害者を処罰する | 警察・検察・裁判所 | 罰金、拘禁刑、前科など |
| 民事 | 被害回復を図る | 被害者・弁護士・裁判所 | 慰謝料、損害賠償、削除、謝罪、再発防止合意 |
刑事事件で加害者が罰金を払っても、そのお金は被害者に支払われるものではありません。被害者が慰謝料を受け取るには、民事上の請求や示談交渉が必要です。
一方で、民事手続で慰謝料を受け取っても、当然に前科が付くわけではありません。前科を付けるには、刑事事件として捜査・起訴され、有罪判決や略式命令等に至る必要があります。
6 「民事先行」が有効な理由
刑事処罰と慰謝料請求の両方を考える場合、民事の発信者情報開示請求で投稿者を特定し、その後に刑事告訴や損害賠償請求へ進む方法が実務上よく使われます。
主な理由は次のとおりです。
①投稿者特定を主導できる
匿名掲示板では、警察がすぐに捜査を開始するとは限りません。緊急性や悪質性が高い事案でなければ、まず証拠を整理し、投稿者特定の見通しを立てる必要があります。
発信者情報開示請求で投稿者を特定できれば、その後の損害賠償請求や刑事告訴が進めやすくなります。
②ログ保存期間に対応しやすい
投稿者特定は時間との勝負です。弁護士に依頼すれば、投稿内容を確認し、開示請求の相手方、必要な情報、ログ保存の要否、削除との順序を判断できます。
削除請求を先に行うと、投稿の証拠や通信ログに影響が出る場合もあるため、損害賠償請求を予定している場合は、証拠を残し、弁護士に確認を受けたうえで進めることが重要です。
③刑事告訴を見据えた証拠整理ができる
刑事告訴では、投稿内容、日時、URL、投稿者特定資料、被害状況、犯罪構成要件との関係を整理する必要があります。
誹謗中傷の刑事告訴では、告訴状の作成・受理・捜査対応に専門的な知識が求められ、ネット誹謗中傷では発信者情報開示という前段階も伴うため、早期に弁護士へ相談することが望ましいとされています。
④示談交渉を有利に進められることがある
投稿者を特定した後、相手が刑事告訴を避けたいと考える場合、謝罪、慰謝料、再投稿禁止、接触禁止などを含む示談交渉が進むことがあります。
もっとも、「金を払わなければ刑事告訴する」といった伝え方は、表現を誤ると別のトラブルになり得ます。刑事告訴を交渉材料にする場合も、弁護士を通じて慎重に進めるべきです。
7 最初に準備すべき証拠
警察に行く場合でも、弁護士に相談する場合でも、証拠が重要です。
最低限、次の資料を保存してください。
- 投稿のURL
- 掲示板名・スレッド名
- 投稿番号
- 投稿日時
- 投稿者名・ID
- 投稿本文
- 前後の投稿
- スクリーンショット
- 可能であればページ全体のPDF
- 被害状況のメモ
- 削除依頼や相手とのやり取り
- 生活・仕事・健康への影響を示す資料
刑事告訴の流れでも、まず投稿内容をスクリーンショットや印刷で保全し、URL、日時、投稿者名、本文を記録することが重要とされています。
8 まとめ
警察は、加害者を捜査し、刑事処罰につなげるための機関です。慰謝料請求や示談交渉を代行してくれるわけではありません。
弁護士は、発信者情報開示請求で投稿者を特定し、削除請求、慰謝料請求、示談交渉、再発防止の合意、刑事告訴状の作成支援を行います。ただし、弁護士自身が加害者を逮捕したり、刑務所に入れたりすることはできません。
したがって、刑事処罰も慰謝料も求めたい場合は、まず証拠を保存し、早急に弁護士へ相談して投稿者特定を進めることが重要です。そのうえで、投稿内容が悪質な場合は、警察への刑事告訴を並行または後続して行います。
殺害予告、住所晒し、ストーカー的投稿など身の危険がある場合は、弁護士相談を待たず、直ちに警察へ相談してください。
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所では、インターネット上の誹謗中傷や名誉毀損、プライバシー・著作権に関するトラブルなど、ネットにまつわる様々なお悩みに対応しています。スマートフォンやSNSが日常に溶け込んだ今、ネット上の問題は誰にとっても身近なリスクとなっています。東京都をはじめ全国からのご相談に対応しており、WEB会議によるご相談も可能です。ひとりで抱え込まず、まずはお気軽にご相談ください。
