【相談内容】
20代女性のCさんは、友人と遊びに行った際に撮影された写真を、本人の許可なく友人のInstagramの公開アカウントに投稿されました。
Cさんは、写真の写り方が気に入らないだけでなく、そもそもインターネット上に顔写真を出したくないと考えています。そこで友人に削除を求めましたが、友人は「風景の一部のようなもの」「もう『いいね』がついたから消したくない」と言って、削除に応じません。
このような場合、肖像権侵害として削除を求めたり、法的措置を取ったりできるのでしょうか。
【弁護士の回答】
結論として、Cさんの顔がはっきり写っており、知人が見ればCさんだと分かる写真であれば、肖像権侵害やプライバシー侵害を理由に、削除を求められる可能性があります。
総務省は、肖像権について、人格権の一部であり、他人から無断で写真を撮られたり、撮られた写真を無断で公表・利用されないように主張できる権利であると説明しています。また、肖像権はアーティストやタレントに限らず、誰にでも認められる権利です。
もっとも、写真に人が写っていれば直ちに違法というわけではありません。問題は、本人を特定できるか、写真の内容や公開範囲、投稿の目的、本人に生じる不利益などを踏まえて、社会生活上受忍すべき限度を超えているかです。
このページの目次
1 肖像権とは何か
肖像権とは、一般に、人がみだりに他人から写真を撮られたり、撮られた写真をみだりに公表・利用されない権利をいいます。
最高裁判例でも、人は承諾なしにみだりに容貌・姿態を撮影されない自由を有し、自己の容貌等を撮影された写真をみだりに公表されない人格的利益を有するとされています。
SNSに顔写真を投稿する行為は、単なる撮影とは別に「公表」の問題です。友人同士の記念写真として撮影に応じたとしても、それは必ずしもInstagramの公開アカウントに掲載することまで許したことにはなりません。
2 肖像権侵害になるかの判断基準
肖像権侵害になるかどうかは、具体的な事情を総合的に見て判断されます。
裁判例上、肖像権侵害に当たるかは、撮影された人の社会的地位、活動内容、撮影場所、撮影目的、撮影態様、撮影の必要性などを総合考慮し、社会生活上受忍すべき限度を超えるかによって判断されると整理されています。
SNS投稿では、特に次の点が重要です。
①個人を特定できるか
最も重要なのは、写真を見てCさんだと分かるかです。
顔がはっきり写っており、友人、知人、学校や職場の関係者が見れば本人だと分かる場合、肖像権侵害の可能性は高まります。反対に、後ろ姿、遠景、顔が小さい、ぼかしやスタンプで顔が隠れている、解像度が低く本人を判別できない場合には、侵害と認められにくくなります。
東京都の消費生活情報でも、写真や動画に写り込んだ人物が小さい、解像度が低い、ぼかしやモザイクが入っているなど、誰か特定できない場合には、肖像権侵害にはなりにくいと説明されています。
②公開範囲が広いか
Instagramの公開アカウントに投稿された場合、不特定多数が閲覧できます。身内だけの限定共有と比べると、本人の不利益は大きくなります。
特に、Cさんが普段から顔出しをしていない、SNS上で実名や顔を出さない方針を取っている、学校・職場・家族に見られたくない事情がある場合には、公開による不利益が大きいといえます。
③写り方や内容に不利益があるか
「変な顔で写っている」「酔っているように見える」「交友関係や居場所が分かる」「服装や状況を知られたくない」など、本人が恥ずかしさや不安を感じる事情がある場合、違法性の判断に影響します。
肖像権は、単に美しく写っているかどうかだけの問題ではありません。本人がネット上に顔を出したくないという意思も尊重されるべきです。
④写真の主たる被写体か、単なる写り込みか
観光地やイベント会場で、背景にたまたま小さく写り込んだだけであれば、肖像権侵害とはいえない場合があります。
一方、友人同士の写真でCさんがはっきり写っており、写真の主要な被写体の一人になっている場合、「風景の一部」とはいえません。
3 「撮影OK」と「SNS投稿OK」は別
友人がよく主張するのが、「写真を撮らせてくれたのだから、投稿してもよいはずだ」という理屈です。
しかし、これは正確ではありません。
撮影に応じることと、SNSで公開することは別の行為です。記念撮影のために写真に写ることは承諾していても、Instagramの公開アカウントに投稿され、不特定多数に見られることまで承諾したとは限りません。
総務省も、肖像権について「撮られた写真が無断で公表・利用されないように主張できる権利」と説明しています。つまり、撮影と公表は分けて考える必要があります。
また、「いいねがついたから消したくない」という理由は、Cさんの肖像権やプライバシーに優先するものではありません。投稿者の承認欲求やSNS上の反応は、本人の承諾なき顔写真公開を正当化する理由にはなりません。
4 まず取るべき対応
友人関係の問題でもあるため、最初から裁判に進む必要はありません。もっとも、削除を求める意思は明確に残すべきです。
①証拠を保存する
削除を求める前に、次の証拠を保存してください。
- 投稿画面のスクリーンショット
- 投稿URL
- 投稿日時
- アカウント名
- 写真全体
- Cさんの顔が分かる部分
- キャプション
- コメント欄
- 削除を求めたメッセージ
- 友人が削除を拒否したメッセージ
後に削除請求や慰謝料請求を検討する場合、どの写真が、いつ、どの範囲で公開されていたかを示す必要があります。
②友人に明確な削除要求を送る
口頭ではなく、LINEやDMなど記録が残る方法で、次のように伝えることが有効です。
私は、Instagramの公開アカウントに自分の顔写真を掲載することを承諾していません。顔が分かる状態で公開されることに強い抵抗があります。肖像権・プライバシーの問題になるため、〇月〇日までに投稿を削除するか、私の顔が分からないように加工してください。
ポイントは、感情的な言い争いではなく、「承諾していない」「公開を望まない」「削除または加工を求める」と明確に伝えることです。
③Instagramに報告する
友人が応じない場合、Instagramの通報機能を使って、本人の写真が無断で公開されていることを申告します。SNS運営者に権利侵害があったとして削除請求をすることも考えられると説明されています。
プラットフォームへの申告では、本人が写っていること、投稿を許可していないこと、公開アカウントであること、削除を求めたが拒否されたことを具体的に記載します。
④弁護士名で通知する
それでも削除されない場合は、弁護士名で削除要求の通知を送る方法があります。友人間のトラブルでは、弁護士名の通知だけで相手が問題の重大性を理解し、削除に応じることもあります。
通知では、肖像権・プライバシー権侵害を理由に、投稿の削除、再投稿の禁止、第三者への共有停止、必要に応じて慰謝料の支払いを求めます。
⑤仮処分や訴訟を検討する
写真が拡散している、悪意あるコメントがついている、学校や職場に知られた、何度も再投稿されるなど、被害が大きい場合には、裁判所を通じた削除仮処分や損害賠償請求を検討します。
肖像権侵害に対しては、民事上、侵害行為の差止めや損害賠償を求めることができます。
5 慰謝料請求はできるか
削除だけでなく、慰謝料請求が可能な場合もあります。
ただし、友人が無断で写真を1枚投稿したという事案では、慰謝料額は高額になりにくいのが通常です。写真の内容、公開期間、閲覧数、拡散の有無、本人が特定される程度、削除要求後の対応、悪意の有無などによって変わります。
たとえば、次のような事情があると、請求を検討しやすくなります。
- 顔がはっきり分かる
- 公開アカウントに掲載された
- 本人が削除を求めた後も放置した
- 写り方が本人にとって強い羞恥を伴う
- コメント欄でからかわれた
- 学校や職場の人に見られた
- ストーリーズや別SNSにも転載された
- 同じことを繰り返している
一方で、金銭的な解決よりも、まずは削除と再投稿防止を優先するのが現実的です。
6 投稿する側が気をつけるべきこと
この問題は、誰もが加害者側になり得ます。
SNSに友人や家族の写真を投稿する場合は、事前に許可を取るべきです。東京都の消費生活情報でも、無関係な人が写り込んでいる写真や動画は、特定できないようにぼかしやマスキングをしたり、トリミングして除外するなどの配慮が必要であり、一緒に写った人に事前に許可を得ることが望ましいとされています。
特に、公開アカウントでは、投稿後に誰が閲覧・保存・転載するか分かりません。友人同士の軽い投稿でも、本人にとっては大きな負担になることがあります。
7 まとめ
Cさんの顔がはっきり写っており、知人が見れば本人だと分かる写真を、承諾なくInstagramの公開アカウントに投稿した場合、肖像権侵害やプライバシー侵害に当たる可能性があります。
「写真撮影に応じたこと」と「SNSで公開すること」は別です。また、「いいねがついたから消したくない」という理由は、本人の肖像権を侵害してよい理由にはなりません。
まずは、投稿画面、URL、日時、削除要求のやり取りを保存してください。そのうえで、記録に残る形で削除または顔の加工を求め、応じない場合はInstagramへの通報、弁護士名での通知、必要に応じて削除仮処分や慰謝料請求を検討します。
SNSでは、「たかが写真」では済まないことがあります。顔写真はその人の人格やプライバシーに関わる情報です。本人が嫌だと言っている以上、投稿者は速やかに削除または加工に応じるべきです。
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

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