【相談内容】
大学生のBさんは、SNS上で口論になった相手から、過去の投稿写真などをもとに身元を特定され、掲示板に本名、大学名、実家の住所を書き込まれました。
さらに、「家に突撃しよう」といった趣旨の煽り文句も投稿されており、Bさんは自分だけでなく家族に危害が及ばないか強い不安を感じています。
悪口や虚偽の事実が書かれているわけではなく、個人情報が掲載されただけの場合でも、法律上問題になるのでしょうか。また、すぐに削除できるのでしょうか。
【弁護士の回答】
結論として、本名、大学名、実家住所を本人の同意なく掲示板に投稿する行為は、プライバシー権侵害に当たる可能性が高いです。特に住所は、私生活の平穏や身体の安全に直結する情報であり、「悪口が書かれていないから問題ない」とはいえません。
法務省の削除依頼に関する手引きでも、本人の同意なく個人情報を公開し、私生活の平穏を侵害する場合には、民法709条の不法行為としてプライバシー権侵害が問題になるとされています。
さらに、「家に突撃しよう」といった投稿が添えられている場合、単なるプライバシー侵害にとどまらず、身の危険を感じる事案です。法務省の手引きでも、投稿によってストーカー被害に遭うおそれがある場合や、危害を加えるような脅しの言葉が書き込まれている場合には、ためらわず警察に相談するよう案内されています。
このページの目次
1 住所・本名・大学名の掲載はプライバシー侵害になり得る
プライバシー侵害は、名誉毀損とは異なります。
名誉毀損は、社会的評価を低下させる事実を摘示した場合に問題になります。これに対し、プライバシー侵害は、たとえ情報が真実であっても、本人が公開を望まない私生活上の情報を無断で公開した場合に成立し得ます。
特に、次の情報はプライバシー性が高い情報です。
- 自宅住所
- 実家住所
- 電話番号
- 学校名と本名の組合せ
- 勤務先
- 顔写真
- 家族構成
- 最寄り駅や生活圏
- 病歴、交際関係、過去のトラブル
「過去の投稿写真から調べれば分かる情報だった」と反論されることがあります。しかし、断片的な情報を収集・照合し、「この人の本名はこれ、大学はここ、実家住所はここ」と特定して掲示板に晒す行為は、単なる公開情報の引用とはいえません。本人が想定していない形で個人情報を結び付け、危害を誘発し得る状態に置く点で、プライバシー権侵害として評価される可能性が高いです。
ネット上で住所などの私生活情報が無断公開された場合、削除請求、発信者情報開示請求、損害賠償請求のいずれも検討可能です。プライバシー侵害は、内容が真実であっても成立する点が名誉毀損と異なると整理されています。
2 最優先は削除と拡散防止
Bさんのケースで最優先すべきなのは、投稿の削除です。
住所が掲示板に残っている限り、第三者に保存・転載・拡散される危険があります。特に「家に突撃しよう」といった煽りがある場合、放置すると実害に発展する可能性があります。
削除対応は、一般に次の順序で進めます。
①証拠を保存する
削除依頼の前に、必ず証拠を保存してください。削除されると投稿自体は消えますが、投稿者の責任追及に必要な証拠も失われることがあります。
保存すべきものは次のとおりです。
- 投稿のURL
- 掲示板名・スレッド名
- 投稿番号
- 投稿日時
- 投稿者名・ID
- 本文
- 本名・大学名・住所が表示されている部分
- 「突撃しよう」など危害を示唆する文言
- 前後の投稿
- スクリーンショット
- 可能であればページ全体のPDF保存
法務省の手引きでも、削除依頼では該当ページURL、依頼内容、侵害された権利や理由を示すことが想定されています。
②サイトやSNSの削除フォームから申請する
多くの掲示板やSNSでは、個人情報の晒し、住所の掲載、嫌がらせ、危害を促す投稿を禁止しています。まずは公式の削除申請フォームから、プライバシー侵害を理由に削除を求めます。
このとき、「本名」「大学名」「実家住所」が掲載されていること、「家に突撃しよう」という危害を誘発する文言があること、本人と家族の安全に関わることを明確に記載します。
③送信防止措置依頼を行う
サイト側が任意削除に応じない場合、プロバイダや掲示板管理者に対して、送信防止措置依頼を行います。ネット中傷対策実務では、削除の方法として送信防止措置依頼や削除仮処分が用いられると説明されています。
削除依頼では、掲示板全体ではなく、問題のある投稿のURLや投稿番号を特定することが重要です。掲示板の場合、どの番号の書き込みが問題かを指定する必要があるとされています。
④裁判所に削除仮処分を申し立てる
任意の削除で対応されない場合や緊急性が高い場合は、裁判所に削除仮処分を申し立てます。プライバシー権侵害を理由とする削除仮処分では、プライバシー権という被保全権利と、放置すれば著しい損害や急迫の危険があるという保全の必要性を示すことが重要です。
Bさんのように、実家住所と危害をあおる文言が同時に投稿されているケースでは、削除の緊急性は高いと考えられます。
3 身の危険を感じる場合は警察にも相談する
「家に突撃しよう」という投稿がある以上、民事上の削除請求だけで対応を終えるべきではありません。
次のような事情がある場合は、速やかに警察へ相談してください。
- 実家住所が書かれている
- 家族が住んでいる住所である
- 「突撃」「行こう」「待ち伏せ」などの文言がある
- 投稿者がBさんに執着している
- 過去にも嫌がらせがある
- 投稿が拡散されている
- 実際に不審者や電話、郵便物などの異変がある
法務省の手引きでも、身の危険を感じる場合や脅迫されている場合は、警察相談専用電話「#9110」やサイバー犯罪相談窓口への相談が案内されています。
警察に行く際は、スクリーンショットを印刷し、URL、投稿日時、投稿番号、投稿内容、SNS上の口論の経緯、相手方アカウントが分かる資料を持参するとよいでしょう。実家にも状況を共有し、インターホン対応、郵便物、来訪者への注意、大学への相談も検討してください。
4 投稿者を特定する発信者情報開示請求
削除だけでなく、投稿者を特定して責任追及したい場合は、発信者情報開示請求を行います。
発信者情報開示請求とは、インターネット上でプライバシー侵害などの権利侵害を受けた被害者が、掲示板管理者や通信事業者などに対して、投稿者の情報開示を求める手続です。
匿名掲示板では、掲示板管理者が投稿者の氏名や住所を直接把握していないことが多いため、通常は次のような流れになります。
- 掲示板管理者に対し、IPアドレス、タイムスタンプ、ポート番号などの開示を求める
- その情報をもとにアクセスプロバイダを特定する
- アクセスプロバイダに対し、契約者の氏名、住所、メールアドレス、電話番号などの開示を求める
- 投稿者を特定した後、損害賠償請求、謝罪要求、再発防止の合意、刑事告訴などを検討する
匿名掲示板では、発信者の氏名・住所までは把握されていないことが多く、第1段階でIPアドレスやタイムスタンプ等のアクセスログ情報を取得し、第2段階でアクセスプロバイダに氏名・住所等の開示を求める流れが説明されています。
発信者情報開示請求は時間との勝負です。通信ログの保存期間は限られており、ログ保存期間の制約から、投稿者の特定を目指すなら早期対応が必要とされています。
5 損害賠償として請求できる可能性があるもの
投稿者が特定できた場合、民法709条に基づき、不法行為として損害賠償請求を検討します。
住所晒しのようなプライバシー侵害では、次のような損害が問題になり得ます。
- 慰謝料
- 削除対応に要した費用
- 発信者情報開示請求に要した費用
- 弁護士費用の一部
- 引っ越しを余儀なくされた場合の転居費用
- 防犯対策費用
- 通院が必要になった場合の治療費
- 学業やアルバイトに支障が出た場合の損害
もっとも、どこまで損害として認められるかは、投稿内容、危険の程度、拡散状況、実害の有無、転居の必要性、証拠の有無によって変わります。
実務上は、住所という秘匿性の高い情報が公開され、危害をあおる文言まである場合、単なる氏名掲載よりも悪質性が高いと評価されやすいでしょう。
6 被害者側の住所をさらに晒さない工夫も必要
Bさんのケースでは、すでに実家住所が公開されています。そのため、削除請求や開示請求の手続を進める際にも、Bさん自身の連絡先や現住所を不用意に相手方へ知らせない工夫が必要です。
裁判外の通知や交渉では、弁護士に依頼することで法律事務所を連絡窓口にできます。また、裁判手続では、ストーカー被害や危害のおそれがある事案で、住所等の秘匿措置を検討できる場合があります。発信者情報開示請求では、被害者自身のプライバシーを守る工夫も重要であり、弁護士名での通知や秘匿措置の活用が紹介されています。
7 まとめ
Bさんの本名、大学名、実家住所を掲示板に投稿する行為は、悪口がなくてもプライバシー権侵害に当たる可能性が高いです。特に実家住所は、本人だけでなく家族の安全にも関わる情報であり、「家に突撃しよう」という文言がある以上、緊急性の高い事案です。
まずは、投稿のURL、日時、投稿番号、本文、前後の投稿を保存してください。そのうえで、サイトの削除フォーム、送信防止措置依頼、削除仮処分を使って、早急に投稿の削除を求めます。
同時に、身の危険を感じる場合は警察へ相談してください。法務省の手引きでも、危害を加えるような脅しの言葉が書き込まれている場合には、ためらわず警察に相談するよう案内されています。
削除後は、発信者情報開示請求により投稿者を特定し、損害賠償請求や再発防止の対応を検討します。通信ログには保存期間があるため、様子を見るのではなく、できるだけ早く動くことが重要です。
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所では、インターネット上の誹謗中傷や名誉毀損、プライバシー・著作権に関するトラブルなど、ネットにまつわる様々なお悩みに対応しています。スマートフォンやSNSが日常に溶け込んだ今、ネット上の問題は誰にとっても身近なリスクとなっています。東京都をはじめ全国からのご相談に対応しており、WEB会議によるご相談も可能です。ひとりで抱え込まず、まずはお気軽にご相談ください。
