「解約ボタンが見つからない」と消費者センターに通報された定期通販サイトの緊急改修

健康食品やサプリメントの定期通販では、「初回500円」「初回限定価格」「お試し価格」といった訴求がよく使われます。

しかし、初回価格を大きく表示する一方で、定期購入であること、2回目以降の価格、解約条件などを分かりにくく表示している場合、特定商取引法上の問題が生じる可能性があります。

特に、2022年6月に施行された改正特定商取引法により、通信販売の「最終確認画面」における表示義務は大きく強化されました。定期購入であることや解約条件を分かりにくくして購入率を上げるような画面設計は、現在では非常にリスクの高い運用です。

今回は、健康食品D2Cメーカーから相談を受けた事例をもとに、消費者センターから指導を受けた定期通販サイトの問題点と、カートシステムの改修対応について解説します。

相談内容:「解約できない」という相談が消費者センターに多数寄せられた

健康食品D2CメーカーのEC責任者であるJさんから、次のようなご相談を受けました。

当社では、「初回500円」のサプリメント定期コースを販売しています。
先日、消費者センターから連絡があり、「御社のサイトで申し込んだ高齢者から、解約の仕方が分からない、電話もつながらない、これは詐欺ではないかという相談が多数寄せられている」と指導を受けました。
解約方法はLINEまたは電話のみにしており、購入画面では「定期購入」の文字を小さく表示して、CVRを上げる工夫をしていました。
しかし、消費者センターの担当者からは「特商法違反の疑いがある。全額返金に応じるべきだ」と言われています。
当社のサイトは違法なのでしょうか。

Jさんとしては、「利用規約や特商法に基づく表記には定期購入と書いている」「解約方法も記載している」という認識でした。

しかし、通信販売では、単にどこかに記載していれば足りるわけではありません。
特に、注文確定直前の「最終確認画面」で、消費者が契約内容を容易に確認できるように表示しているかが重要です。

法的見解:現在の画面仕様は特商法違反となる可能性が高い

Jさんにカートの最終確認画面を見せてもらったところ、現在の画面仕様は、改正特定商取引法に違反する可能性が高いものでした。

改正特商法では、通信販売の最終確認画面において、消費者が注文確定の直前に、重要な契約条件を簡単に確認できるよう表示することが求められています。

表示すべき主な事項は、次の6項目です。

  1. 分量
    定期購入の場合は、定期コースであること、各回の数量、回数、総量など
  2. 販売価格・対価
    初回価格だけでなく、2回目以降の価格、送料、支払総額など
  3. 支払の時期・方法
    各回の請求時期、支払方法など
  4. 引渡し・提供時期
    初回発送時期、2回目以降の発送時期など
  5. 申込期間
    申込期限がある場合、その具体的な期間
  6. 申込みの撤回・解除に関する事項
    解約方法、解約期限、連絡先、違約金や不利益の有無など

消費者庁も、通信販売の最終確認画面では、分量、販売価格、支払時期、引渡時期、申込期間、申込みの撤回・解除に関する事項を簡単に最終確認できるよう表示する必要があり、表示していない場合や誤認させる表示をした場合は特商法違反となると説明しています。

問題点1:「定期購入」であることが分かりにくい

Jさんのサイトでは、ファーストビューに「初回500円」という表示が大きく出ていました。

一方で、「定期購入」「2回目以降も自動で商品が届く」「解約しない限り継続する」といった重要情報は、小さな文字で、画面下部に表示されていました。

このような画面設計では、消費者が「1回限りのお試し購入」と誤認するおそれがあります。

定期購入である以上、最終確認画面では、少なくとも次のような情報を明確に表示する必要があります。

  • 定期購入であること
  • 何回目まで購入義務があるのか
  • 回数縛りがない場合でも、解約しない限り継続すること
  • 各回の商品数量
  • 各回の発送予定
  • 支払総額または一定期間の支払額の目安

「規約に書いてある」「ページの下までスクロールすれば分かる」というだけでは不十分と評価される可能性があります。

問題点2:2回目以降の価格と支払総額が分かりにくい

今回のサイトでは、初回価格である「500円」が大きく強調されていました。

一方で、2回目以降の価格、送料、支払総額は、目立たない場所に小さく表示されていました。

定期通販では、初回価格が安くても、2回目以降の価格が高くなることが少なくありません。
そのため、最終確認画面では、初回価格だけでなく、2回目以降の価格や支払総額を消費者が容易に確認できるようにする必要があります。

例えば、次のような表示が望まれます。

初回:500円(税込)
2回目以降:6,980円(税込)
お届け回数:解約のお申し出がない限り継続
3回受け取った場合の支払総額:14,460円(税込)
送料:各回○○円

初回価格だけを強調し、2回目以降の価格や総額を分かりにくくする画面は、定期購入トラブルの典型例です。

問題点3:解約条件が注文後にしか確認できない

最も問題だったのは、解約条件の表示です。

Jさんのサイトでは、「注文する」ボタンを押した後に、初めて解約条件のリンクが表示される仕様になっていました。

しかし、解約方法や解約期限は、注文確定前に消費者が確認できなければ意味がありません。
特に、定期購入では、解約できる時期、解約方法、連絡先、受付時間などが購入判断に直結します。

最終確認画面では、例えば次の情報を明確に表示する必要があります。

  • 解約は次回発送予定日の何日前までに行う必要があるか
  • 解約方法は電話、メール、マイページ、LINEなどのいずれか
  • 電話番号、受付時間
  • LINEでの解約手順
  • 解約時に違約金や追加費用が発生するか
  • 回数縛りがある場合、途中解約できるか

解約方法を電話やLINEに限定する場合には、その方法が実際に機能していることも重要です。
「電話がつながらない」「LINEの手続が複雑で完了できない」という状態では、表示上は解約可能に見えても、実質的には解約を妨げていると評価されるおそれがあります。

問題点4:「注文する」ボタンの文言が不明確

Jさんのサイトでは、最終確認画面のボタン文言が単に「申し込む」となっていました。

しかし、定期購入であることが分かりにくい画面で「申し込む」とだけ表示すると、消費者は「初回500円の商品を1回だけ申し込む」と誤認する可能性があります。

定期購入の場合には、注文ボタンの文言にも注意が必要です。

例えば、次のような文言に変更することが考えられます。

注文を確定する(定期購入)

または、

定期コースの注文を確定する

ボタン文言だけで全ての説明が足りるわけではありませんが、最終確認画面全体として、消費者が「定期購入を申し込む」と認識できる設計にすることが重要です。

消費者には取消権が認められる可能性がある

改正特商法では、最終確認画面の表示に不備があり、消費者が誤認して申込みをした場合、消費者が申込みの意思表示を取り消せる場合があります。

つまり、事業者が「返品不可」「定期購入なので解約は次回以降」「規約に同意している」と主張しても、最終確認画面の表示が不十分であれば、返金対応が必要になる可能性があります。

今回のケースでは、以下の事情が重なっていました。

  • 初回500円の表示が大きく、定期購入であることが分かりにくい
  • 2回目以降の価格が目立たない
  • 解約条件が注文確定前に十分表示されていない
  • 解約方法がLINEまたは電話に限定されている
  • 電話がつながりにくいという苦情が多数ある
  • 高齢者からの相談が複数寄せられている

このような状況では、消費者センターから返金対応を求められるリスクが高く、個別事案については誠実な解決を優先すべきと判断しました。

消費者センターへの対応:まずは誠実に是正方針を示す

消費者センターから指導を受けた場合、最初に重要なのは、感情的に反論しないことです。

「規約に書いてあるから返金しない」
「購入者が読んでいないだけだ」
「当社のカート仕様は以前からこの形だ」

このような対応をすると、消費者センターとの関係が悪化し、相談件数の増加、消費者庁や都道府県への情報提供、適格消費者団体による差止請求など、より大きな問題に発展するおそれがあります。

今回のケースでは、次の方針を助言しました。

  • 現在の最終確認画面に分かりにくい点があったことを認める
  • 問題となっている申込みについては、速やかに解約・返金に応じる
  • 電話がつながりにくい状況を改善する
  • 解約方法を複数用意する
  • カートシステムを改修する
  • 改修予定と再発防止策を消費者センターに報告する

ここで重要なのは、「返金するかどうか」だけではありません。
今後同じトラブルが発生しないよう、サイトの表示と運用を根本的に改善することです。

カートシステムの改修:最終確認画面で一目で分かる表示にする

根本的な解決のため、Jさんの会社では、カートシステムの最終確認画面を改修しました。

改修の中心は、次の3点です。

改修1:定期購入であることを明確に表示

修正前は、「初回500円」の表示が最も目立ち、「定期購入」の文字は小さく表示されていました。

修正後は、商品名欄や注文内容欄に、次のように明記しました。

商品名:サプリメント定期コース
初回500円、2回目以降6,980円で自動継続する定期購入です。
解約のお申し出がない限り、毎月1回商品をお届けします。

これにより、消費者が注文確定前に「定期購入であること」を認識できるようにしました。

改修2:2回目以降の価格・支払総額を表示

修正後の最終確認画面では、初回価格だけでなく、2回目以降の価格や一定期間の支払額を同じ画面内に表示しました。

初回:500円(税込)
2回目以降:6,980円(税込)
送料:各回○○円
3回受け取った場合の支払総額:14,460円(税込)
支払方法:クレジットカード決済
支払時期:各回の商品発送時に決済

価格を大きく見せる工夫よりも、誤認を防ぐ表示を優先することが重要です。

改修3:解約方法・期限・連絡先を最終確認画面に表示

修正前は、解約条件が注文後のリンクでしか確認できませんでした。

修正後は、最終確認画面内に次のような情報を表示しました。

解約をご希望の場合は、次回発送予定日の10日前までに、マイページ、メール、電話またはLINEからお手続きください。
電話番号:○○-○○○○-○○○○
受付時間:平日10時から17時まで
LINEで解約する場合は、メニュー内の「定期コース解約」からお手続きください。
解約手数料はかかりません。

また、電話がつながらないという苦情が出ていたため、電話以外の解約手段も整備しました。

解約方法を分かりやすくすることは、短期的には解約率を上げるように見えるかもしれません。
しかし、解約できないことによるクレーム、チャージバック、SNS炎上、行政対応のコストを考えると、長期的には事業者にとっても有益です。

注文ボタンの文言を変更

注文ボタンについても、単なる「申し込む」から、次のように変更しました。

注文を確定する(定期購入)

さらに、ボタンの直前に、以下の確認文を追加しました。

上記の定期購入条件、2回目以降の価格、解約方法を確認しました。

これにより、消費者が注文確定前に重要事項を確認しやすい構成にしました。

CVRよりも、クレームを生まない購入体験を優先する

改修にあたり、Jさんは次のように懸念していました。

これだけ定期購入だと大きく書くと、CVRが落ちるのではないでしょうか。

確かに、定期購入であることや2回目以降の価格を明確に表示すれば、短期的には購入率が下がる可能性があります。

しかし、分かりにくい表示で購入数を増やしても、後から大量の解約・返金・チャージバックが発生すれば、事業としては不安定になります。
さらに、消費者センターへの相談が増えれば、行政指導や処分、適格消費者団体からの差止請求、決済代行会社の審査落ちなど、事業継続に直結するリスクが生じます。

定期通販で本当に重要なのは、誤認による購入を増やすことではありません。
商品内容、価格、解約条件に納得した顧客に購入してもらい、長期的な信頼関係を築くことです。

改修後の変化:クレームとチャージバックが減少

カートシステムの改修後、一時的にCVRは低下しました。

しかし、その後、次のような改善が見られました。

  • 「定期購入だと思わなかった」という苦情が減少
  • 「解約できない」という消費者センターへの相談が減少
  • 電話窓口へのクレームが減少
  • チャージバックやカード会社への不正利用申請が減少
  • 決済代行会社の審査が通りやすくなった
  • 顧客対応にかかる社内工数が減少

また、弁護士監修のもとで「特定商取引法に基づく表記」や返品・解約ポリシーも見直し、広告、LP、カート、注文確認メールの表示を統一しました。

これにより、サイト全体として、消費者が契約内容を理解しやすい導線に改善することができました。

定期通販サイトが確認すべきチェックポイント

健康食品、化粧品、サプリメントなどの定期通販を運営する場合、少なくとも次の点を確認する必要があります。

  • 最終確認画面に「定期購入」であることを明確に表示しているか
  • 初回価格だけでなく、2回目以降の価格を表示しているか
  • 支払総額または一定期間の支払額の目安を表示しているか
  • 各回の支払時期を表示しているか
  • 初回と2回目以降の発送時期を表示しているか
  • 解約方法、解約期限、連絡先を注文確定前に表示しているか
  • 解約方法が実際に機能しているか
  • 電話がつながらない状態を放置していないか
  • LINE解約の手続が複雑すぎないか
  • 「初回500円」「お試し」などの表示で1回限りと誤認させていないか
  • 注文ボタンの文言が定期購入であることと矛盾していないか
  • 特商法に基づく表記、利用規約、LP、カート表示の内容が一致しているか
  • 注文確認メールにも契約条件を分かりやすく記載しているか

まとめ:定期通販は「解約しやすさ」まで含めて設計する必要がある

定期通販ビジネスでは、初回価格を下げて新規顧客を獲得する手法がよく使われます。

しかし、「定期購入であることを分かりにくくする」「2回目以降の価格を目立たなくする」「解約方法を複雑にする」といった方法で購入率を上げようとすると、特商法違反のリスクが高まります。

特に、最終確認画面では、消費者が注文確定前に次の情報を容易に確認できるようにする必要があります。

  1. 定期購入であること
  2. 初回・2回目以降の価格
  3. 支払時期・方法
  4. 発送時期
  5. 申込期間
  6. 解約方法・解約期限・連絡先

定期通販において、解約のしやすさは単なる顧客サービスではありません。
法令遵守と事業継続のために不可欠な要素です。

小手先のカート設計で購入率を上げても、後から返金、行政対応、決済停止、炎上対応に追われるようでは意味がありません。
健康食品、化粧品、サプリメントなどのD2C通販を運営する事業者は、LP制作やカート改修の段階から、特定商取引法に適合した表示設計になっているかを確認することが重要です。

keyboard_arrow_up

0358774099 問い合わせバナー 無料法律相談について