【相談内容】
会社員のAさんは、匿名掲示板に実名を出されたうえで、「本当に無能だ」「頭が悪いから関わらない方がいい」「バカ丸出し」など、人格を否定するような投稿を繰り返されました。
もっとも、「会社の金を横領している」「不倫している」といった具体的な事実が書かれているわけではありません。友人からは「具体的な事実がないと名誉毀損にはならないのでは」と言われ、不安に感じています。
このような、いわゆる「悪口」の投稿について、法的措置を取ることはできるのでしょうか。
【弁護士の回答】
結論として、具体的な事実の記載がない場合でも、法的措置を取れる可能性はあります。
たしかに、「Aは横領している」「Aは職場で不正をしている」といった具体的な事実を示して社会的評価を低下させる投稿でなければ、典型的な名誉毀損とは言いにくい場合があります。
しかし、「バカ」「無能」「関わらない方がいい」といった抽象的な罵倒であっても、公然と人を侮辱する内容であれば、刑事上は侮辱罪、民事上は名誉感情侵害として責任追及できる可能性があります。名誉毀損と侮辱罪は、事実を指摘しているかどうかが大きな違いであり、「バカ」「ブス」といった書き込みは、具体的事実ではなく主観的評価を示すものとして、侮辱罪の問題になり得ると説明されています。
このページの目次
1 名誉毀損と侮辱の違い
名誉毀損と侮辱の違いは、投稿の中に「具体的な事実」が示されているかどうかです。
名誉毀損とは、公然と事実を指摘して、人の社会的評価を低下させる行為をいいます。ここでいう「事実」は、真実か虚偽かを問いません。たとえば、「Aは会社の金を横領している」「Aは反社会的勢力と関係がある」「Aは不倫している」など、証拠によって真偽を確認できる内容が典型です。
これに対して、侮辱は、具体的な事実を示さずに、人を見下したり、人格を攻撃したりする行為です。たとえば、「バカ」「無能」「気持ち悪い」「関わる価値がない」といった表現は、事実の摘示というよりも、相手に対する否定的評価・罵倒です。
Aさんのケースでは、「横領している」などの具体的事実ではなく、「無能」「頭が悪い」「バカ丸出し」といった抽象的な悪口が中心です。そのため、名誉毀損よりも、侮辱または名誉感情侵害として検討するのが実務的です。
2 「単なる悪口」でも違法になる場合がある
もっとも、悪口であれば常に違法になるわけではありません。
民事上の名誉感情侵害は、単に不快だった、傷ついたというだけで当然に認められるものではなく、社会通念上許される限度を超える侮辱行為といえるかが問題になります。名誉感情侵害については、社会通念上許される限度を超える侮辱行為である場合に、人格的利益の侵害が認められ得るとされています。
裁判所が重視するのは、投稿の文言だけではありません。次のような事情を総合的に見ます。
- 実名を出しているか
- 投稿が公開掲示板やSNSなど不特定多数に見える場所でされたか
- 投稿回数が多いか
- 執拗に繰り返されているか
- 他の読者にもAさんのことだと分かるか
- 仕事や生活への影響があるか
- 容姿、能力、人格、家族関係など人格的価値を攻撃しているか
- 前後の投稿やスレッド全体の流れ
- 批判・意見の範囲を超えているか
単発で「バカ」と書かれただけの場合には、開示請求や損害賠償請求のハードルが高いこともあります。しかし、実名を出し、何度も人格攻撃を繰り返し、周囲の人に見られる場所で社会生活に影響するような投稿をしている場合には、違法な侮辱・名誉感情侵害と評価される可能性が高まります。
3 発信者情報開示請求は可能か
匿名掲示板の投稿者を特定するためには、発信者情報開示請求を検討します。
発信者情報開示請求とは、サイト管理者や接続プロバイダに対し、投稿者を特定するための情報開示を求める手続です。インターネット上の匿名投稿では、投稿者が誰か分からないことが多いため、損害賠償請求や刑事告訴をする前提として、まず投稿者の特定が必要になります。
発信者情報開示請求では、投稿内容が名誉権侵害、プライバシー侵害、名誉感情侵害などの民事上の違法行為に当たるかが問題になります。名誉感情侵害も、発信者情報開示請求の根拠となる権利侵害として扱われます。
手続の流れは、一般に次のようになります。
- 投稿の証拠を保存する
- サイト管理者に対して発信者情報開示命令などを申し立てる
- IPアドレスやタイムスタンプ等の情報を取得する
- アクセスプロバイダに対して発信者情報開示命令やログ保存を求める
- 投稿者の氏名・住所等を特定する
- 投稿者に対し、削除、損害賠償、謝罪、再発防止、刑事告訴等を検討する
発信者情報開示請求では、投稿から時間が経ちすぎていないことも重要です。接続プロバイダのログ保存期間は限られており、投稿からおおむね3か月から6か月程度で開示が困難になることがあるとされています。
4 慰謝料はどの程度認められるか
慰謝料額は、名誉毀損か、名誉感情侵害か、投稿の悪質性、拡散範囲、投稿回数、実生活への影響などによって変わります。
一般に、具体的な事実を示して社会的評価を低下させた名誉毀損の方が、慰謝料額は高くなりやすい傾向があります。他方で、名誉感情侵害は、主観的な人格的利益の侵害として扱われるため、慰謝料は比較的低額にとどまることが少なくありません。名誉感情侵害の慰謝料については、事案にもよるものの数万円から10万円程度が基本と説明されることがあります。
もっとも、実名を出して執拗に攻撃した、長期間にわたり投稿を続けた、職場や友人関係に実害が出た、削除後も再投稿した、といった事情があれば、慰謝料額が増える可能性があります。また、発信者情報開示に要した費用についても、損害として一定額が認められる裁判例があります。法務省の調査報告書でも、開示請求等費用について、高等裁判所の裁判例では認容範囲に差はあるものの一定の考慮がされている状況が紹介されています。
そのため、金銭的な回収だけを目的にすると、弁護士費用との関係で費用倒れになる可能性があります。他方で、「相手を特定したい」「投稿を削除させたい」「二度と書かせたくない」「謝罪や示談を求めたい」という目的がある場合には、法的措置を取る意味があります。
5 刑事告訴も検討できる
悪質な投稿については、刑事上の侮辱罪として告訴を検討できる場合があります。
名誉毀損罪と侮辱罪はいずれも親告罪であり、刑事処罰を求めるには、原則として被害者による告訴が必要です。刑事告訴をする場合、加害者が分かっていれば加害者名を記載しますが、加害者不明のまま告訴することも可能とされています。
ただし、警察がどの程度捜査するかは、投稿の悪質性、回数、被害の程度、証拠の有無などに左右されます。民事上の発信者情報開示請求と並行して、刑事告訴の可否を検討することになります。
6 まず行うべき証拠保存
Aさんがまず行うべきことは、投稿の証拠を確実に保存することです。
最低限、次の情報を残してください。
- 投稿が掲載されているURL
- スレッド名・掲示板名
- 投稿番号
- 投稿日時
- 投稿者名・ID・アカウント名
- 投稿本文
- Aさんの実名が表示されている部分
- 前後の投稿
- スクリーンショット
- 可能であればページ全体のPDF保存
- 投稿を見た第三者がいる場合、その状況
スクリーンショットだけでは、URLや日時が分かりにくい場合があります。画面上にURL、投稿日時、投稿番号が表示される形で保存することが重要です。
また、投稿者に直接反論したり、感情的に言い返したりすることは避けるべきです。言い争いの経緯があると、相手方から「単なる口論だった」「双方の応酬だった」と反論される可能性があります。証拠を保存したうえで、削除請求、開示請求、損害賠償請求、刑事告訴の順に冷静に検討することが重要です。
7 まとめ
Aさんのケースでは、「横領している」などの具体的な事実が書かれていないため、典型的な名誉毀損としては難しい面があります。
しかし、「無能」「頭が悪い」「バカ丸出し」といった投稿であっても、実名を出し、匿名掲示板で多数の人が閲覧できる状態で、人格攻撃を繰り返しているのであれば、侮辱罪や民事上の名誉感情侵害として法的措置を取れる可能性があります。
特に重要なのは、投稿の回数、文言の強さ、実名の有無、公開範囲、生活や仕事への影響です。単なる一言の悪口では難しい場合もありますが、執拗な誹謗中傷であれば、発信者情報開示請求、削除請求、損害賠償請求、刑事告訴を検討できます。
まずは、投稿のURL、日時、投稿番号、本文、前後の流れを保存してください。発信者情報は保存期間が限られているため、投稿から時間が経っていないうちに対応を始めることが大切です。
【お問合せは、こちらから】
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所では、インターネット上の誹謗中傷や名誉毀損、プライバシー・著作権に関するトラブルなど、ネットにまつわる様々なお悩みに対応しています。スマートフォンやSNSが日常に溶け込んだ今、ネット上の問題は誰にとっても身近なリスクとなっています。東京都をはじめ全国からのご相談に対応しており、WEB会議によるご相談も可能です。ひとりで抱え込まず、まずはお気軽にご相談ください。
