「数年前の書き込みを見つけてしまった」
「昔の炎上が、今になって検索結果やSNSで蒸し返されている」
「投稿者を特定して責任追及したいが、もう遅いのではないか」
インターネット上の投稿は、削除されない限り長期間残り続けます。SNS、掲示板、口コミサイト、まとめサイト、ブログ記事などに一度掲載された情報は、検索エンジンに表示され続けたり、第三者によって転載・拡散されたりすることもあります。
もっとも、投稿が残っているからといって、いつまでも同じように法的責任を追及できるわけではありません。損害賠償請求には民法上の消滅時効があり、刑事責任を求める場合には公訴時効や告訴期間が問題になります。
この記事では、ネット上の誹謗中傷・名誉毀損・侮辱について、まず前編として、民事上の損害賠償請求と刑事告訴の期限を解説します。
このページの目次
1 民事上の損害賠償請求には時効がある
ネット上の投稿によって名誉や信用を傷つけられた場合、投稿者に対して慰謝料などの損害賠償を請求できる可能性があります。
法律上は、不法行為に基づく損害賠償請求として整理されるのが一般的です。
不法行為に基づく損害賠償請求権については、原則として次の期間制限があります。
①被害者が「損害及び加害者」を知った時から3年
②不法行為の時から20年
この2つの期間のいずれかが経過すると、相手方から時効を主張されることにより、損害賠償請求が認められなくなる可能性があります。
たとえば、匿名掲示板に名誉を傷つける投稿がされた場合、投稿から20年を経過すると、たとえ投稿者が後から判明したとしても、損害賠償請求は困難になります。
一方で、投稿から数年が経過していても、投稿者が誰か分かっていなかった場合には、「損害及び加害者を知った時から3年」の期間がまだ始まっていないと考えられることがあります。
2 「加害者を知った時」とはいつか
ネット誹謗中傷で特に問題になるのが、「加害者を知った時」がいつかという点です。
実名で投稿されている場合や、投稿者が元交際相手、知人、取引先などであることが明らかな場合には、投稿を見た時点または早い段階で加害者を知ったと評価される可能性があります。
これに対して、匿名アカウントや匿名掲示板の投稿では、被害者は投稿を見つけた時点では投稿者の氏名や住所を知りません。
そのため、通常は、発信者情報開示請求などによって投稿者の氏名・住所等が判明した時点が、3年の時効の起算点として問題になります。
つまり、匿名投稿の場合、投稿を発見しただけで直ちに「加害者を知った」と評価されるとは限りません。投稿者を特定できて初めて、損害賠償請求を現実的に行える状態になることが多いからです。
もっとも、ここで注意すべきなのは、「加害者が分からない間は放置してよい」という意味ではないことです。
投稿から20年という長期の期限は、投稿者の特定の有無にかかわらず進行します。また、後編で解説するように、投稿者を特定するための通信記録、いわゆるアクセスログは、20年どころか数か月で消えてしまうことが少なくありません。
3 「投稿から20年以内なら大丈夫」とはいえない
民事上の時効だけを見ると、「投稿から20年以内であれば、まだ損害賠償請求の余地がある」と考えたくなるかもしれません。
しかし、ネット上の誹謗中傷では、損害賠償請求をする前提として、まず投稿者を特定しなければならないケースが多くあります。
匿名投稿の投稿者を特定するためには、通常、サイト管理者やSNS事業者、インターネット接続プロバイダに対して、発信者情報開示請求を行います。
しかし、投稿者を特定するために必要なアクセスログは、永久に保存されているわけではありません。
そのため、法律上の損害賠償請求権がまだ時効にかかっていなくても、ログが消えてしまえば投稿者の特定が困難になり、結果として責任追及ができなくなる可能性があります。
4 刑事責任を求める場合の時効
ネット上の誹謗中傷については、民事上の損害賠償請求だけでなく、刑事事件として対応を求めることもあります。
代表的な犯罪類型としては、名誉毀損罪と侮辱罪があります。
名誉毀損罪は、公然と事実を摘示して人の名誉を毀損した場合に成立し得る犯罪です。
たとえば、インターネット上で「○○は不正をしている」「○○は犯罪者だ」など、具体的な事実を示して社会的評価を低下させる投稿をした場合には、名誉毀損罪が問題になることがあります。
一方、侮辱罪は、事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した場合に成立し得る犯罪です。
たとえば、「バカ」「無能」「消えろ」など、具体的な事実を示さない罵倒表現については、侮辱罪が問題になることがあります。
刑事事件では、民事上の消滅時効とは別に、公訴時効が問題になります。公訴時効とは、一定期間が経過すると検察官が起訴できなくなる制度です。
5 名誉毀損罪・侮辱罪の公訴時効
名誉毀損罪の公訴時効は3年です。
また、侮辱罪についても、現在は公訴時効が3年と整理されます。
以前は、侮辱罪の法定刑が軽かったため、公訴時効を1年と説明する記事や解説もありました。しかし、侮辱罪は2022年に厳罰化され、法定刑が引き上げられました。その結果、現在では侮辱罪の公訴時効も3年と考えられます。
そのため、古い情報を見て「侮辱罪は1年で時効になる」と理解している場合には注意が必要です。
もっとも、これは「3年間は何もしなくてよい」という意味ではありません。刑事責任を求める場合には、公訴時効だけでなく、告訴期間も問題になるからです。
6 名誉毀損罪・侮辱罪では「告訴期間」にも注意
名誉毀損罪や侮辱罪は、原則として、被害者の告訴がなければ起訴できない親告罪です。
そして、告訴は、原則として犯人を知った日から6か月以内に行う必要があります。
ここでいう「犯人を知った日」とは、単に「このアカウントが怪しい」と思った日ではなく、告訴が可能な程度に犯人を特定した日が問題になります。
匿名投稿の場合には、発信者情報開示請求によって投稿者の氏名・住所等が判明した時点が問題になることが多いでしょう。
つまり、刑事責任を求める場合には、次の2つの期限を意識する必要があります。
①犯罪行為からの公訴時効
②犯人を知った日からの告訴期間
投稿者を特定できた後も、「まだ公訴時効まで時間がある」と考えて放置していると、告訴期間を過ぎてしまうおそれがあります。
刑事告訴を検討する場合には、投稿内容が名誉毀損罪や侮辱罪に該当するか、証拠が足りるか、告訴状をどのように構成するかを早期に検討する必要があります。
7 まとめ
ネット誹謗中傷に対する責任追及には、法律上の期限があります。
民事上の損害賠償請求については、原則として次の2つの期間が問題になります。
①損害及び加害者を知った時から3年
②不法行為の時から20年
匿名投稿の場合、投稿者を特定できて初めて3年の時効が進み始めると考えられることがあります。
一方で、刑事責任を求める場合には、名誉毀損罪・侮辱罪の公訴時効に加え、犯人を知った日から6か月以内という告訴期間にも注意が必要です。

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