学習塾・予備校の合格実績広告と景品表示法上の注意点

学習塾や予備校にとって、「東大○名合格」「医学部合格者○名」「地域No.1の合格実績」といった広告は、保護者や生徒に強く訴求する重要な情報です。塾選びでは、授業料や立地だけでなく、合格実績が大きな判断材料になるためです。

しかし、合格実績は、表示方法を誤ると景品表示法上の優良誤認表示に該当する可能性があります。消費者庁も、景品表示法上の優良誤認表示の例として、予備校の合格実績広告について、実際には他校と異なる方法で数値化し、適正な比較をしていないにもかかわらず、あたかも「大学合格実績No.1」であるかのように表示する例を挙げています

学習塾の広告では、「何人合格したか」だけでなく、「誰を合格者として数えたのか」「どの年度の実績なのか」「正規塾生だけなのか、講習生や模試受験者を含むのか」を明確にしなければなりません。数字が正しくても、集計方法が不適切であれば、保護者・生徒を誤認させる広告になります。

1 合格実績広告が問題になりやすい理由

合格実績は、学習塾の指導力や教育サービスの質を示すものとして受け止められます。そのため、実際よりも多く見せる、他塾より優れているように見せる、比較条件を明示しないといった表示は、保護者や生徒の塾選びに大きな影響を与えます。

景品表示法では、商品・サービスの品質、規格その他の内容について、実際のものや競争事業者のものより著しく優良であると一般消費者に誤認される表示が、優良誤認表示として禁止されています。

学習塾の場合、合格実績、合格率、成績向上率、利用者満足度、講師の質、料金比較などが、いずれも広告上の重要な表示になります。近年も、学習塾やオンライン家庭教師サービスについて、「利用者満足度No.1」や料金比較表示が景品表示法上問題となり、措置命令の対象となった事例が紹介されています。

2 「合格者」として数えられる生徒の範囲

合格実績を表示する場合には、対象となる生徒の範囲を明示し、その年度の実績なのか、過年度を含む累計なのかを明らかにする必要があります。

学習塾業界の自主基準では、合格実績を表示する場合、対象となる生徒の範囲を明示し、当年度実績か過年度の累計・積算かを明示するものとされています。また、塾生徒の範囲を決定する基準として、受験直前の6か月間のうち、継続的に3か月を超える期間その学習塾に在籍し、通常の学習指導を受けた者とする旨が示されています。

この考え方からすると、次のような生徒を、何の注記もなく正規の合格実績に含めることは避けるべきです。

  • 体験授業を1回受けただけの生徒
  • 模試だけを受けた生徒
  • 短期講習だけを受講した生徒
  • 合格実績作りのために名義だけ登録した生徒
  • 実質的な通常授業を受けていない特待生
  • 他塾で主に指導を受けていた生徒
  • 通信教材を一部購入しただけの生徒
  • イベントや説明会に参加しただけの生徒

もちろん、講習生や模試受験者を一切広告に出せないという意味ではありません。しかし、その場合には「本科生のみ」「講習生を含む」「模試受験者を含まない」「○○講座受講生を含む」など、集計範囲を明確に区別して表示する必要があります。

最も危険なのは、正規塾生の合格実績であるかのように見せながら、実際には短期講習生、模試受験者、無料特待生などを広く含めているケースです。保護者は、その塾の通常指導によって合格した人数だと理解する可能性が高いためです。

3 合格実績を表示する際の必須チェック項目

合格実績を広告に掲載する際は、少なくとも次の項目を確認してください。

  • 対象年度
  • 対象校・学部・学科
  • 現役生のみか、既卒生を含むか
  • 正規塾生のみか、講習生を含むか
  • オンライン受講生を含むか
  • グループ校・提携校の実績を含むか
  • 他地域校舎の実績を含むか
  • 同一生徒の複数合格をどのように数えるか
  • 補欠合格・繰上合格を含むか
  • 合格確認資料が保存されているか
  • 生徒本人・保護者の同意を得ているか

特に大学受験では、1人の生徒が複数大学・複数学部に合格することがあります。「合格者数」と「合格件数」は意味が異なります。たとえば、1人が3学部に合格した場合に「3名合格」と表示すると、実際より多くの生徒が合格したかのように受け止められる可能性があります。広告では、「合格者数」なのか「延べ合格件数」なのかを明確にしましょう。

4 「No.1」表示には客観的根拠が必要

「地域No.1」「合格実績No.1」「満足度No.1」「口コミ人気度第1位」といった表示は、強い訴求力があります。その反面、景品表示法上のリスクも高い表現です。

消費者庁は、No.1表示について、表示内容に見合った調査が行われていない場合、景品表示法上の不当表示として問題となるとしています。近時のNo.1表示に関する違反事例も、表示内容に見合った調査が行われていなかったことなどを理由に違反と認められた点で共通すると説明されています。

学習塾や予備校がNo.1表示を使う場合には、少なくとも次の事項を明確にする必要があります。

  • 比較対象の範囲
  • 地域の範囲
  • 調査期間
  • 調査主体
  • 調査方法
  • 調査対象者
  • 比較項目
  • 合格者数なのか、合格率なのか
  • 満足度なのか、認知度なのか
  • 調査結果と広告表現が対応しているか

たとえば、「地域No.1」と表示する場合、「○○市内の学習塾における2025年度高校受験の○○高校合格者数No.1」なのか、「保護者満足度No.1」なのかでは意味が全く異なります。表示を見た人が、何についてNo.1なのか分からない広告は危険です。

また、調査会社に依頼したからといって安全とは限りません。消費者庁のNo.1表示に関する調査報告書では、広告主が調査会社を信頼していた、調査内容を把握していなかった、他社も同じ調査会社を使っていたので問題ないと思っていた、といった実態が紹介されています。しかし、広告主は、自社が使う調査結果の中身を確認する責任があります。

5 利用者満足度No.1表示の危険性

学習塾・オンライン家庭教師の広告では、「利用者満足度No.1」「口コミ人気度第1位」といった表示がよく使われます。しかし、この種の表示は、調査対象者や調査方法が広告表現と一致しているかが厳しく問われます。

実際に、オンライン個別学習指導に関する広告で、「オンライン家庭教師で利用者満足度No.1に選ばれました」などと表示していた事業者について、調査が同種サービスの利用者満足度を客観的に調査したものではなかったため、優良誤認表示と判断された事例が紹介されています。

つまり、「利用者満足度No.1」と表示するのであれば、実際にそのサービスおよび比較対象サービスを利用した者を対象に、合理的な方法で満足度を調査している必要があります。単にウェブサイトを見せて印象を聞いたイメージ調査をもって「利用者満足度No.1」と表示することは、広告表現と調査実態が一致しない可能性があります。

6 合格体験記・生徒の声の注意点

合格体験記や生徒・保護者の声も、学習塾広告では非常に重要です。しかし、これらにも法的リスクがあります。

まず、実在しない生徒の体験談を掲載することは当然できません。また、実在する生徒のコメントであっても、塾側が内容を大きく書き換え、本人が述べていない成果や感想を述べたかのように見せることは問題です。

たとえば、実際には「先生が親切でした」と書いただけのコメントを、「この塾のおかげで偏差値が20上がり、志望校に合格できました」と改変すれば、広告を見た保護者・生徒に誤認を与えます。

また、生徒の氏名、写真、映像、画像、文章を広告に掲載する場合には、本人および保護者の同意が必要です。学習塾業界の自主基準でも、生徒の氏名を公表する場合には保護者の同意も得ること、生徒の写真・映像・画像・文章等を公表する場合も同様であることが定められています。

実務上は、次の対応が必要です。

  • 掲載前に本人・保護者の書面同意を取得する
  • 掲載媒体を明示する
  • 掲載期間を明示する
  • 氏名、学校名、顔写真の掲載可否を個別に確認する
  • コメントを改変する場合は本人確認を取る
  • 退塾後・卒業後の掲載継続について同意範囲を確認する
  • 同意書を保管する

個人情報保護と肖像権の観点からも、合格体験記の管理は慎重に行うべきです。

7 使ってはいけない表現

学習塾広告では、次のような表現に注意が必要です。

  • 「必ず合格」
  • 「全員合格」
  • 「誰でも成績アップ」
  • 「偏差値20アップ確実」
  • 「合格率100%」とだけ表示する
  • 「地域No.1」とだけ表示する
  • 「日本一の指導力」
  • 「最高の講師陣」
  • 「絶対に成績が上がる」
  • 「完全個別指導」と表示しながら実態は集団指導
  • 「追加費用なし」と表示しながら教材費・管理費が別途必要

学習塾業界の自主基準でも、「日本一」「全国一」「ナンバーワン」「最高」「最大」などの最高級の優位性または唯一性を意味する用語は、客観的事実に基づく数値または確実な根拠なしに使用しないこと、「完全」「100%」「絶対」等の完璧性を意味する用語は使用しないこと、「全員合格」「○○点上昇確実」等、生徒の将来を保証するような表示は使用しないことが定められています。

成果は、生徒本人の努力、学力、受験校、家庭環境、受講期間などに左右されます。したがって、塾の指導だけで必ず結果が出るかのような表示は避けるべきです。

8 広告表示の社内監査体制

学習塾の広告は、新年度募集、春期講習、夏期講習、冬期講習、受験直後など、短期間で大量に制作される傾向があります。そのため、広告ごとに現場判断で数字や表現が使われると、誤表示が起きやすくなります。

社内では、少なくとも次の体制を整えるべきです。

  • 合格実績の集計基準を文書化する
  • 正規塾生、講習生、模試受験者を区別する
  • 合格者数と延べ合格件数を区別する
  • 校舎別実績と全社実績を区別する
  • 実績の根拠資料を保存する
  • No.1表示は法務・コンプライアンス部門の事前承認制にする
  • 合格体験記は同意書の取得を必須にする
  • 広告公開前にダブルチェックを行う
  • 公開後も定期的に表示内容を確認する
  • 過年度実績を最新実績のように見せない
  • 措置命令事例を社内研修で共有する

消費者庁の景品表示法資料でも、事業者が講ずべき表示管理上の措置として、表示等に関する情報の確認、情報共有、表示管理担当者の設置、表示根拠となる情報を事後的に確認するための措置、不当表示が明らかになった場合の迅速かつ適切な対応などが挙げられています。

9 まとめ

学習塾・予備校の合格実績広告は、保護者や生徒の意思決定に大きく影響します。そのため、合格者数、合格率、No.1表示、合格体験記を表示する際には、景品表示法と業界自主基準に沿った厳格な管理が必要です。

合格実績に含める生徒は、原則として、受験直前の6か月間のうち継続的に3か月を超えて在籍し、通常の学習指導を受けた者を基準に考えるべきです。体験授業のみ、模試のみ、短期講習のみ、名義だけの登録といった生徒を、正規塾生の合格実績であるかのように表示すると、優良誤認表示となるリスクがあります。

また、「地域No.1」「満足度No.1」といった表示には、客観的かつ合理的な根拠が必要です。調査会社に依頼した場合でも、調査対象、調査方法、比較対象、調査期間が広告表現と一致しているかを広告主自身が確認しなければなりません。

教育機関である学習塾が広告で誤認を招く表示を行えば、法的リスクだけでなく、教育事業者としての信頼を大きく損ないます。合格実績を公表する前に、集計基準、根拠資料、同意書、No.1表示の根拠を毎年点検し、法務担当者または外部専門家による広告監査を行うことが重要です。

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

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