口コミ・体験談広告の法的リスク:消費者庁の見解と事業者がすべき対応

インターネット通販やSNSマーケティングにおいて、「お客様の声」や「使用者の体験談」といった口コミ形式の広告は、消費者の信頼を得る上で非常に強力なツールです。

しかし、その信頼性の高さゆえに、景品表示法(景表法)による規制の対象となりやすく、特に法務担当者にとっては注意が必要です。

1 リスク1:優良誤認表示となるケース

口コミ・体験談広告が優良誤認表示(景表法第5条第1号)となるのは、その体験談が商品の品質や効果について、実際よりも著しく優れていると消費者に誤認させる場合です。

これは、体験談が「個人の感想」であるかどうかにかかわらず、事業者が広告として利用する以上、表示責任を負うという原則に基づきます。

(1)根拠のない「最高の効果」の事例

特定の個人が「たった1日で5kg痩せた」「アトピーが完全に治った」といった過度な効果を主張する体験談を、事業者がそのまま広告に利用する場合、優良誤認と判断されます。

【判断のポイント】

①裏付けとなる合理的根拠の有無:事業者は、その体験談の内容が、科学的・客観的な根拠(データ)によって裏付けられる範囲内の効果であるかを、事前に確認する義務があります。

②例外的な効果の強調:多数の人が得られない極めて例外的な効果を、あたかも誰でも得られるかのように強調して表示することは、消費者の誤認を招きます。

(2)打消し表示の限界

優良誤認のリスクを回避するために、「※個人の感想であり、効果・効能を保証するものではありません」といった打消し表示を付記することが一般的に行われています。

しかし、前回の記事でも解説した通り、メインの体験談が過度な効果を謳っている場合、片隅に小さな文字で打消し表示をしても、消費者の誤認が解消されないと判断されれば、優良誤認表示として規制されます。打消し表示は、あくまで誤認を招く可能性を減らすための補完的な措置であり、広告内容の根拠の欠如を補うものではありません。

2 リスク2:ステマ規制となるケース

2023年10月に施行されたステマ規制(景表法上の指定告示)は、口コミ・体験談広告に対しても大きな影響を与えます。

(1)報酬が発生している場合の明示義務

企業がインフルエンサーやモニターに対して金銭や商品の提供(報酬)を行い、その対価として商品の使用感や体験談を投稿してもらう場合、その投稿は事業者の広告(宣伝)と見なされます。

このような場合、インフルエンサーなどの投稿者は、その投稿が「広告」「PR」「プロモーション」であることを、消費者が容易に判別できる位置に明記する義務があります。この明記がない場合、事業者はステマ規制違反として責任を問われます。

(2)自作自演・第三者装い型

事業者自身や、その従業員が、一般の消費者や匿名アカウントを装って自社商品・サービスの体験談を投稿する行為は、典型的なステマ規制違反です。

これは、事業者による表示であることを隠しているため、消費者がその意見を「公平な第三者の声」と誤認してしまい、「判別が困難な表示」に該当します。

3 投稿内容のモニタリングとエビデンス管理

外部委託先の投稿が、契約通りに広告表示の明記を行っているかを公開後も継続的にモニタリングしましょう。

また、広告に使用する全ての体験談について、その元の投稿内容、投稿者とのやり取り、報酬の有無などのエビデンス(証拠)を、措置命令を受けた際に提示できるよう適切に管理・保管しておくことが、事後的な対応において非常に重要となります。

口コミの力を借りる場合でも、最終的な責任は広告主である事業者が負います。「お客様の声だから大丈夫」という安易な考えは捨て、全ての体験談に「広告責任」が伴うことを認識する必要があります。

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