昔の投稿でも訴えられる?ログ保存期間と発信者特定の実務上の限界

「投稿からかなり時間が経っているが、今からでも投稿者を特定できるのか」
「昔の投稿が最近になって拡散されている」
「法律上の時効にはまだ余裕があるはずなのに、弁護士から急ぐように言われた」

ネット上の誹謗中傷では、民事上の損害賠償請求や刑事告訴の期限だけでなく、投稿者を特定するためのアクセスログの保存期間が極めて重要です。
前回は、民事上の損害賠償請求の時効、名誉毀損罪・侮辱罪の公訴時効、告訴期間について解説しました。
本日は、実務上最も早く問題になる「ログ保存期間」と、数年前の投稿でも対応できる可能性があるケースについて解説します。

1 法律上の時効より怖い「ログ保存期間」

ネット誹謗中傷の対応で最も注意すべきなのは、民事の3年・20年、刑事の3年といった法律上の期間よりも、アクセスログの保存期間です。
発信者情報開示請求では、SNS、掲示板、口コミサイトなどのコンテンツプロバイダからIPアドレス等の情報を取得し、その後、インターネット接続プロバイダから契約者情報の開示を受けるという流れになることがあります。
現在は、発信者情報開示命令制度により、従来よりも手続の迅速化が図られています。
しかし、どれだけ制度が整備されても、投稿者を特定するためのログがすでに消えていれば、発信者の特定は困難です。
実務上、アクセスログの保存期間は3か月から6か月程度といわれることが多く、事業者によってはそれより短い場合もあります。

そのため、投稿から半年以上経過している場合には、発信者情報開示請求を行っても、すでにログが残っていない可能性があります。

2 ログが消えると何が困るのか

匿名投稿の投稿者を特定するためには、通常、複数の情報をたどる必要があります。
たとえば、SNSや掲示板に投稿された場合、まず投稿時に使われたIPアドレスやタイムスタンプを取得します。
次に、そのIPアドレスを管理しているインターネット接続プロバイダに対し、その時刻にそのIPアドレスを利用していた契約者情報の開示を求めます。
このとき、プロバイダ側に接続ログが残っていなければ、「その日時にそのIPアドレスを使っていた契約者」が分かりません。

つまり、ログが消えてしまうと、投稿者を特定するための手がかりが途切れてしまうのです。
法律上、損害賠償請求権がまだ時効にかかっていなかったとしても、相手を特定できなければ、現実に請求することは困難です。
この意味で、ネット誹謗中傷では、法律上の時効よりもアクセスログの保存期間のほうが、実務上のタイムリミットとして厳しく機能することがあります。

3 発信者情報開示請求は時間との勝負

発信者情報開示請求には、一定の準備が必要です。
投稿内容が権利侵害に当たるかを検討し、投稿のURLや日時を特定し、証拠を整理し、裁判所に提出する資料を準備する必要があります。
相手方となる事業者の選定も重要です。SNS事業者、掲示板管理者、サーバー管理者、インターネット接続プロバイダなど、どの事業者に対してどの情報の開示を求めるかを誤ると、手続が遅れてしまうおそれがあります。

また、ログイン型のSNSでは、投稿時のIPアドレスではなく、ログイン時のIPアドレスが問題になることがあります。この場合、どの期間のログイン情報を対象にするかなど、請求内容の設計にも注意が必要です。
そのため、発信者情報開示請求は、単に「開示してください」と申し立てればよいものではありません。投稿内容、媒体の仕組み、ログの保存状況、裁判手続の選択を踏まえて、迅速かつ正確に進める必要があります。

4 数年前の投稿でも対応できる場合

投稿から時間が経っている場合でも、すべてのケースで対応が不可能になるわけではありません。
数年前の投稿であっても、次のような場合には、法的措置を検討できることがあります。
【投稿者がすでに分かっている場合】
元交際相手、元従業員、取引先関係者、同業者、知人など、投稿者が誰であるかを具体的に把握している場合には、発信者情報開示請求による特定が不要なことがあります。
この場合、アクセスログが消えていても、投稿者を被告として損害賠償請求を検討できる可能性があります。

もっとも、相手が本当に投稿したことを立証できるかが問題になります。
アカウント名だけでなく、過去のやり取り、投稿内容の特徴、本人しか知り得ない情報、投稿端末やアカウントの管理状況など、証拠関係を丁寧に整理する必要があります。

【再投稿・転載・拡散がある場合】
古い投稿そのものについてログが消えていても、最近になって第三者が再投稿、転載、引用、リポスト、まとめサイトへの掲載などを行っている場合には、その新たな行為を対象として対応できる可能性があります。
たとえば、数年前の投稿が最近になってまとめサイトに転載され、検索結果で上位表示されるようになった場合、その転載行為や掲載継続について削除請求や損害賠償請求を検討する余地があります。
また、SNS上で過去の投稿が再拡散され、新たな被害が生じている場合には、元投稿だけでなく、再拡散したアカウントの行為も検討対象になります。

【投稿が現在も掲載され続けている場合】

損害賠償請求や刑事告訴には期間制限がありますが、投稿が現在も掲載され続けている場合には、削除請求を検討できることがあります。
削除請求は、現在も続いている権利侵害を除去するための手段です。
特に、検索結果に表示され続けている投稿、口コミサイトに残り続けている虚偽投稿、まとめサイトに転載された記事などは、現在も被害を生じさせている可能性があります。
もっとも、削除が認められるかどうかは、投稿内容が違法といえるか、公共性・公益目的・真実性または相当性が問題になるか、表現の自由との関係で削除が相当かなど、個別事情によって判断されます。

5 削除請求と発信者特定は順番に注意

ネット誹謗中傷の対応では、削除請求と発信者情報開示請求の順番にも注意が必要です。
被害者としては、まず問題の投稿を消したいと考えるのが自然です。
しかし、投稿が削除されると、投稿内容、URL、投稿日時、アカウント情報などの証拠が失われることがあります。また、事案によっては、発信者情報開示請求に必要な情報の確認が難しくなることもあります。
そのため、削除を急ぐべき事案なのか、まず発信者情報開示請求を優先すべき事案なのかを判断する必要があります。
たとえば、企業の信用を大きく毀損する投稿が検索上位に表示されている場合には、被害拡大を防ぐために削除を急ぐ必要があります。
一方で、投稿者に対する損害賠償請求や刑事告訴を重視する場合には、証拠保全やログ保存を優先すべき場合があります。
この判断を誤ると、投稿は消えたものの投稿者を特定できなくなる、あるいは証拠が不足して損害賠償請求が難しくなるといった事態が起こり得ます。

6 時効が迫っている場合に取るべき初動

ネット誹謗中傷を発見した場合、最初に行うべきことは証拠の確保です。
投稿が削除された後では、投稿内容や掲載状況を立証することが難しくなることがあります。
特に、以下の情報を保存しておくことが重要です。
①投稿本文
②投稿のURL
③投稿日時
④アカウント名、ユーザーID、プロフィール
⑤返信、引用、リポスト、コメント欄
⑥投稿が表示されている検索結果
⑦画像、動画、添付ファイル
⑧被害状況が分かる資料
⑨売上減少、問い合わせ、取引停止などの実害がある場合の資料

スクリーンショットを撮る場合には、画面の一部だけでなく、URLや日時、投稿者情報が分かる形で保存することが望ましいです。
可能であれば、証拠保全の方法について弁護士に相談したうえで、公証役場での事実実験公正証書、証拠保全サービス、タイムスタンプなどの利用を検討することもあります。
次に、投稿者の特定が必要かどうかを判断します。

相手が匿名の場合には、発信者情報開示請求やログ保存の手続を早急に検討する必要があります。
さらに、刑事告訴を検討する場合には、名誉毀損罪・侮辱罪の要件、告訴期間、公訴時効、証拠の十分性を確認する必要があります。

7 「もう遅いかも」と思っても確認すべきポイント

投稿から時間が経っている場合でも、次の点を確認することで、まだ対応可能な手段が見つかることがあります。
①投稿者の氏名・住所がすでに分かっているか
②投稿が現在も閲覧可能か
③最近、再投稿・転載・引用・拡散があったか
④まとめサイトや検索結果に新たに表示されているか
⑤投稿内容が虚偽事実か、意見論評か
⑥名誉毀損、侮辱、プライバシー侵害、業務妨害、信用毀損のいずれが問題になるか
⑦証拠が残っているか
⑧損害が具体的に発生しているか
⑨刑事告訴を希望するのか、削除・損害賠償を優先するのか

ネット上の誹謗中傷対応では、削除請求、発信者情報開示請求、損害賠償請求、刑事告訴をどの順番で進めるかが重要です。
先に削除を求めると、証拠やログの確保に影響することがあります。
一方で、放置すると拡散が進み、検索結果に定着することもあります。
そのため、投稿を見つけたら、まず証拠を保存し、そのうえで、削除を急ぐべきか、発信者情報開示を優先すべきか、刑事告訴を視野に入れるべきかを判断する必要があります。

8 まとめ

ネット誹謗中傷の実務で最も早く問題になるのは、発信者情報開示に必要なアクセスログの保存期間です。法律上、民事の損害賠償請求権がまだ時効にかかっていなくても、ログが消えてしまえば投稿者を特定できず、現実の責任追及が難しくなることがあります。
投稿から時間が経っている場合でも、投稿者が分かっている場合、再投稿や転載がある場合、現在も投稿が掲載されている場合には、まだ取り得る手段が残っていることがあります。
「昔の投稿だから無理だろう」と諦める前に、次の点を確認してください。
①投稿は現在も残っているか
②投稿者を特定できる事情はあるか
③最近の再拡散や転載はあるか
④証拠は保存できているか
⑤削除、発信者情報開示、損害賠償、刑事告訴のどれを優先すべきか

重要なのは、気づいた時点で証拠を確保し、できるだけ早く対応方針を決めることです。
時効やログ保存期間が迫っている場合でも、事案によっては緊急の保全措置や発信者情報開示手続によって間に合う可能性があります。

過去の書き込みであっても、諦める前に、投稿内容、掲載場所、投稿時期、拡散状況、投稿者特定の可能性を整理し、早めに弁護士へ相談することをおすすめします。

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