旅行代理店、宿泊施設、ツアー企画会社、観光PR事業者など、旅行・観光業界では「非日常」や「感動」をテーマにした広告が多く見られます。SNSや動画を活用した訴求が盛んであり、消費者の期待も高い分野ですが、その一方で、実態との乖離がある表現や誤認を招く価格表示は、景品表示法違反などの法的リスクを招く可能性があります。
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1 優良誤認表示の典型例:「体験談」「絶景」「ラグジュアリー」
観光業界では、視覚的な訴求力が重視され、「実際よりも良く見せたい」という誘惑に駆られがちです。ですが、過度に誇張された写真やキャッチコピーは、優良誤認表示に該当するおそれがあります。
たとえば以下のような表現には注意が必要です。
①加工した写真を使用し、実際の宿泊施設や景色と著しく異なる印象を与える
②期間限定の特別仕様(例:特別装飾や演出)を通年実施のように表示する
③「お客様満足度98%」「最高の思い出になりました!」といった体験談を広告に掲載しているが、裏付けとなるアンケート調査や実在性の確認がない
旅行広告では、感動を演出する体験談やレビューが多用されますが、これらが事実でなかったり、過度に一般化された「お客様の声」である場合は、消費者に誤認を与えるリスクがあります。
2 有利誤認表示の典型例:料金・キャンペーン表示
「〇月限定!今だけ30%OFF!」「3泊4日航空券・ホテル込みで29,800円!」など、価格訴求は非常に効果的ですが、実際の料金条件や適用範囲が小さく明記されているだけの場合、有利誤認表示に該当する可能性があります。
以下のようなケースが典型例です。
①「29,800円~」と表示しつつ、実際にはほとんどの日程でその価格のプランが存在しない
②表示価格に含まれない費用(例:空港税、入湯税、施設使用料など)が多く、総額との乖離がある
③「無料送迎」「朝食付き」と表示しているが、予約条件付き(例:◯泊以上)であることを目立たない場所に記載
旅行業界では、価格が決め手になることが多いため、価格表示は特に厳格な審査を経て表記する必要があります。
3 リーガルチェックのポイント
旅行業界では、景品表示法だけでなく、旅行業法・消費者契約法の適用もあります。広告における「取消料」や「キャンセルポリシー」などの表示内容が明確でないと、不当条項や情報不足による契約トラブルに発展することもあります。
チェックすべき主なポイントは以下のとおりです。
①写真や動画は実際の風景・施設と著しい乖離がないか
②「体験談」「レビュー」は実在する利用者の声かつ脚色されていないか
③表示価格に含まれる内容・除外される費用を明確に示しているか
④キャンペーンや特典表示は適用条件を大きくわかりやすく記載しているか
⑤キャンセル料・変更手数料などの条件が誤認なく説明されているか
旅行・観光業界の広告は、夢や非日常を売る仕事だからこそ、事実に即した誠実な情報提供が求められます。誤解を招かない、正確で信頼ある広告こそが、「また利用したい」というリピーターを生み、長期的なブランド価値に繋がるのです。 弊事務所では広告法務に関して総合的にサポートを提供しております。広告法務に関してお悩みの場合は、お気軽にご相談ください。