IT・SaaS業界の広告と法的リスク

クラウドサービス、業務システム、アプリケーションなど、IT・SaaS業界の広告は、デジタル領域の拡大とともにますます活発化しています。導入実績や機能の優位性、コスト削減効果など、企業の経営層や担当者の目を引くような訴求がなされる一方で、根拠のない実績表示や誤解を招く機能比較などは、景品表示法違反につながるリスクがあるため注意が必要です。

1 主とした法規制

IT・SaaS業界で広告に関わる主な法律は、以下のとおりです。

①景品表示法(優良誤認・有利誤認表示)

②不正競争防止法(誤認惹起表示・営業秘密の不正使用)

③特定商取引法(BtoC向けの継続課金型サービスなど)

2 リスクのある広告表現

たとえば、次のような広告表現はリスクがあります。

①「導入社数10,000社突破!」→ 実際は無料トライアル登録を含む数字で、有償契約数ではない

②「業界No.1」「国内シェア1位」→ 出典不明、調査主体・調査方法が非公開

③「年間100時間の業務削減に成功!」→ 自社ユーザー1社の事例であり、一般的な効果ではない

④「競合より安く、高機能」→ 他社製品の機能比較が客観的でなく、根拠の提示がない

これらはいずれも、優良誤認表示や有利誤認表示に該当する可能性がある広告例です。SaaSの特性上、サービスの実体が目に見えないため、広告上の表現がユーザーの判断材料のほとんどを占めることになります。そのため、表現の裏付けとなる合理的根拠資料(エビデンス)を準備し、開示できる状態にしておくことが重要です。

さらに、よくあるトラブルとして、利用規約に記載された条件と広告表示の齟齬があります。たとえば「いつでも解約可能」と広告で訴求しているにもかかわらず、実際は年間契約のみ、途中解約は不可とされている場合、消費者から「詐欺的」と批判されるだけでなく、景表法違反または特商法違反の対象になる可能性があります。

3 リーガルチェックのポイント

SaaS業界における広告のチェックポイントは、以下のとおりです。

①実績表示(導入数、満足度、業界シェア等)は出典・調査方法・調査時期を明示しているか

②利用条件(価格、機能制限、解約条件など)は、広告上で正確かつ明確に表示されているか

③比較広告を行う場合、客観性と公平性が確保されているか

④他社名・ロゴを無断使用していないか(著作権・不正競争防止法への配慮)

⑤ユーザーの声・体験談が実在するものかつ脚色されていないか

また、最近ではYouTubeやオウンドメディア、比較サイトを使ったマーケティングも盛んですが、それらが広告であるにもかかわらず「中立レビュー」を装っている場合、ステマ規制の対象となる可能性もあります。

IT・SaaS業界では、製品そのものの“見た目”で差別化することが難しいからこそ、「広告で信頼を築く」姿勢が、契約継続や評判維持に直結します。

弊事務所では広告法務に関して総合的にサポートを提供しております。広告法務に関してお悩みの場合は、お気軽にご相談ください。

keyboard_arrow_up

0358774099 問い合わせバナー 無料法律相談について