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競合商品と比較した広告が「誹謗中傷」として問題になった場合の対応
自社商品の性能や価格をアピールするために、競合他社の商品と比較する広告は、多くの業界で利用されています。
比較広告は、消費者にとって商品選択の参考になる情報を提供する面があります。
そのため、日本では、比較広告そのものが一律に禁止されているわけではありません。
しかし、比較対象の選び方、データの引用方法、表現の仕方を誤ると、景品表示法上の不当表示や、不正競争防止法上の信用毀損行為として問題になる可能性があります。
今回は、家電メーカーから相談を受けた事例をもとに、競合他社から「根拠のない誹謗中傷である」と内容証明を受けた場合の対応と、適法な比較広告にするためのポイントを解説します。
相談内容:競合製品と比較した動画広告に対して内容証明が届いた
家電メーカーのマーケティング部長であるPさんから、次のようなご相談を受けました。
新発売の掃除機の性能をアピールするため、LPで競合他社であるQ社の製品と徹底的に比較しました。
広告では、「Q社製品は吸引力が弱い」「Q社は重くて使いにくい」といったデメリットを挙げ、当社製品の優位性を強調しました。
さらに、動画広告でも、Q社製品に大きなバツ印を付けるような演出を行いました。
すると、Q社から内容証明が届き、「根拠のない誹謗中傷であり、不正競争防止法違反の信用毀損行為にあたる。直ちに広告を停止し、謝罪広告を出せ。損害賠償も請求する」と記載されていました。
比較広告は消費者のためになる情報提供だと思うのですが、ここまで言われる筋合いがあるのでしょうか。
Pさんとしては、「競合商品との比較は広告手法として許されるはずだ」という認識でした。
確かに、比較広告自体は禁止されていません。
しかし、比較広告が許されるためには、一定のルールを守る必要があります。
比較広告自体は禁止されていない
景品表示法は、自社の商品・サービスを競争事業者の商品・サービスと比較すること自体を禁止しているわけではありません。
消費者庁も、景品表示法は競争事業者の商品・サービスとの比較そのものを禁止・制限するものではないと説明しています。
ただし、比較広告が不当表示にならないためには、一般消費者に誤認を与えないよう、次の3つの要件を満たす必要があります。
- 比較広告で主張する内容が客観的に実証されていること
- 実証されている数値や事実を正確かつ適正に引用していること
- 比較の方法が公正であること
この3要件は、比較広告の基本ルールです。
どれか1つでも欠けると、景品表示法上の優良誤認表示・有利誤認表示や、不正競争防止法上の問題が生じる可能性があります。
今回の広告の問題点
P社の広告を確認したところ、比較広告として大きく3つの問題がありました。
1. 比較対象が不公平だった
P社は、自社の最新モデルと、Q社の数年前の旧モデルを比較していました。
しかし、広告上は「P社製品とQ社製品の比較」とだけ表示されており、Q社製品が旧モデルであることは目立たない形でしか記載されていませんでした。
このような表示では、消費者は、現在販売されている同等グレードの最新モデル同士を比較していると誤認する可能性があります。
比較広告では、同等の条件にある商品を比較することが重要です。
自社の最新機種と他社の旧機種、自社の上位モデルと他社の下位モデルを比較する場合には、その違いを明確に表示しなければ、公正な比較とはいえません。
比較広告では、社会通念上同等のものとして認識されていない商品と比較し、あたかも同等の商品との比較であるかのように表示する場合、不当表示となるおそれがあります。
2. データの引用が不正確だった
P社は、「吸引力が強い」と表示していましたが、その根拠となる試験は、限定的な条件下で行われたものでした。
例えば、次のような問題がありました。
- 特定の床材でしか試験していない
- 新品フィルター装着時のみの結果だった
- 掃除機のモードが各社で同一条件ではなかった
- 試験回数が少なかった
- 第三者機関ではなく自社試験だった
- 試験条件を広告上で十分に表示していなかった
調査結果を引用する場合、その結果がどのような条件で得られたものなのかを明確にする必要があります。
限られた条件下での結果を、あたかもあらゆる使用環境で同じ結果が出るかのように表示すると、実証された数値や事実を正確かつ適正に引用したとはいえません。
比較広告で調査結果を引用する場合には、調査機関、調査時点、調査場所などの調査方法に関するデータも、広告中に表示することが望ましいとされています。
3. 相手を貶める表現が強すぎた
P社のLPや動画広告には、次のような表現がありました。
- Q社製品は吸引力が弱い
- Q社は重くて使いにくい
- もう古い掃除機に我慢する必要はありません
- Q社製品に大きなバツ印を付ける演出
- Q社製品を使ったユーザーが困っているような演出
- 「失敗しない掃除機選び」としてQ社製品を避けるべきかのような構成
「吸引力」「重量」のように客観的に測定できる項目であれば、適切な根拠と公正な比較条件があれば表示できる余地があります。
しかし、「使いにくい」「古い」「失敗」といった表現は、主観的評価や印象操作に近く、相手を不当に貶める表現になりやすいものです。
比較広告は、自社商品の特長を説明するための手段であり、競合商品を攻撃するためのものではありません。
表現が攻撃的になりすぎると、たとえ一部に根拠があっても、公正な比較広告とは評価されにくくなります。
不正競争防止法上の信用毀損行為とは
Q社が主張していたのは、不正競争防止法上の信用毀損行為です。
不正競争防止法では、競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、または流布する行為が、不正競争の一類型として規制されています。
信用毀損行為に該当するためには、主に次の要素が問題になります。
- 競争関係にあること
- 他人が特定されていること
- 営業上の信用を害する内容であること
- 虚偽の事実であること
- 告知または流布していること
P社とQ社は同じ掃除機市場で競合しているため、競争関係にあることは明らかです。
また、広告上でQ社名や製品名を明示していたため、他人の特定性も問題になりません。
LPや動画広告は不特定多数に配信されているため、「流布」に該当し得ます。
したがって、問題は、P社の表示が「虚偽の事実」といえるか、またQ社の営業上の信用を害するものかという点になります。
「使いにくい」は事実か評価か
信用毀損行為では、「虚偽の事実」が問題になります。
例えば、「Q社製品の重量は2.5kg」と表示したが実際は1.8kgだった場合、これは事実の誤りです。
一方、「使いにくい」「デザインが悪い」といった表現は、主観的評価の側面があります。
もっとも、主観的評価であっても、広告全体の文脈から、客観的事実があるかのように受け取られる場合には問題になります。
例えば、次のような表示は危険です。
- Q社製品は吸引力が弱く、掃除能力が低い
- Q社製品は重くて高齢者には不向き
- Q社製品はすぐ詰まる
- Q社製品は購入後に後悔する人が多い
これらの表示は、単なる感想ではなく、Q社製品の性能や品質に関する事実を示しているように受け取られる可能性があります。
そのため、客観的根拠がなければ、虚偽または根拠のない信用毀損的表示と評価されるリスクがあります。
景品表示法上のリスクもある
今回の広告は、不正競争防止法だけでなく、景品表示法上のリスクもありました。
P社の広告は、Q社製品よりもP社製品が著しく優れているように表示していました。
しかし、その比較は、旧モデルとの比較、限定条件下の試験、恣意的なデータ引用に基づくものでした。
そのため、消費者に対し、P社製品の性能が実際よりも著しく優良であると誤認させる可能性があります。
景品表示法上、自己の商品・サービスの内容について、実際のものよりも著しく優良であると示す表示や、競争事業者のものよりも著しく優良であると示す表示は、優良誤認表示として禁止されています。
Q社との民事紛争だけでなく、消費者庁から措置命令を受けるリスクもあったため、早急な対応が必要でした。
Q社への初動対応
Q社から内容証明が届いた後、P社が最初に取るべき対応は、広告内容の確認とリスクの切り分けです。
今回のケースでは、次の対応を行いました。
1. 問題広告の停止
まず、Q社製品を名指しして比較していたLP、動画広告、バナー広告、SNS投稿を一時停止しました。
これは、Q社の主張を全面的に認めるという意味ではありません。
しかし、掲載を継続したまま交渉すると、損害が拡大していると主張され、差止請求や仮処分のリスクが高まります。
不正競争防止法上、信用毀損行為によって営業上の利益を侵害され、または侵害されるおそれがある者は、侵害の停止または予防を請求できます。
そのため、紛争拡大を避けるためには、まず問題広告を停止することが合理的でした。
2. 表示ごとに根拠資料を確認
次に、広告上の各表示について、根拠資料の有無を確認しました。
確認した表示は、次のようなものです。
- 吸引力が弱い
- 重くて使いにくい
- 当社製品の方が清掃効率が高い
- Q社製品ではゴミが残りやすい
- 当社製品は短時間で掃除できる
- Q社製品は旧式
各表示について、次の観点で精査しました。
- 客観的事実か、主観的評価か
- 根拠となる試験データがあるか
- 試験方法は妥当か
- 比較対象は同等か
- 試験条件は広告上で明示されているか
- 表示内容とデータが対応しているか
- 誇張や切り取りがないか
この作業により、維持できる表示と撤回すべき表示を切り分けました。
3. 回答書を送付
Q社に対しては、弁護士名で回答書を送付しました。
回答書では、次のように整理しました。
- 比較広告自体は違法ではないこと
- 一部の表現について、広告上の表現が強く、誤解を招く可能性があったこと
- 紛争拡大を避けるため、当該広告を停止したこと
- ただし、P社がQ社に対し虚偽の事実を意図的に流布したとの評価は争うこと
- 謝罪広告および金銭賠償については、現時点では応じられないこと
- 今後、同種広告の再開にあたっては、客観的データに基づく表示に改めること
ここで重要なのは、全面的に責任を認める文言を安易に入れないことです。
謝罪広告や損害賠償に応じる前に、どの表示が問題で、どこまで法的責任があるのかを慎重に検討する必要があります。
和解交渉のポイント
Q社は、謝罪広告と損害賠償を求めていました。
しかし、Q社にとっても、裁判で性能比較の詳細が争われ、自社製品の弱点が公開されることは必ずしも望ましいものではありませんでした。
そこで、弁護士間での協議により、次の内容を中心に和解を進めました。
- 問題広告を再掲載しない
- 既存広告素材を廃棄する
- Q社製品を名指しする攻撃的な比較表現を行わない
- 将来比較広告を行う場合は、客観的根拠に基づく数値比較に限定する
- P社は謝罪広告を出さない
- P社は金銭賠償を行わない
- 双方が本件を外部に公表しない
最終的には、広告の停止・修正と再発防止の誓約を行うことで、金銭賠償なしで和解することができました。
適法な比較広告への転換
P社には、今後も比較広告を行う余地を残すため、比較広告の社内ルールを策定しました。
1. 比較対象を公正に選ぶ
比較対象は、原則として次のように設定します。
- 同時期に販売されている製品
- 同等価格帯の製品
- 同じ用途の製品
- 同じグレードの製品
- 一般消費者が比較対象として自然に認識する製品
旧モデルや下位モデルと比較する場合は、その旨を広告上で明確に表示します。
例えば、次のように表示します。
比較対象:Q社○○型(2023年発売モデル)
当社製品:P社○○型(2026年発売モデル)
※発売時期・価格帯が異なる製品の比較です。
このように表示しても、比較自体が不公正と評価される場合があるため、原則として同等モデル同士を比較すべきです。
2. 第三者機関の試験データを使う
吸引力、清掃効率、稼働時間、重量、騒音など、客観的に測定できる項目については、第三者機関による試験データを利用します。
試験データを使用する場合は、次の情報を保存・表示します。
- 試験機関
- 試験日
- 試験対象製品
- 試験方法
- 試験条件
- 試験回数
- 測定項目
- 測定結果
- 限界条件
- 試験結果の解釈
「当社調べ」と表示する場合でも、試験方法の妥当性、再現性、客観性を説明できる資料を保存しておく必要があります。
3. 主観的・攻撃的な表現を避ける
比較広告では、相手を貶める言い方を避ける必要があります。
避けるべき表現の例は、次のとおりです。
- 使いにくい
- ダサい
- 時代遅れ
- 買うと後悔する
- 低性能
- 失敗商品
- 掃除できない
- 役に立たない
代わりに、客観的な数値を淡々と示します。
例えば、次のように修正します。
修正前
Q社製品は重くて使いにくい。
修正後
本体重量:P社製品1.2kg、Q社製品1.8kg。
※2026年○月○日時点の各社公表値に基づきます。
修正前
Q社製品は吸引力が弱い。
修正後
○○試験条件下における吸引仕事率:P社製品○○W、Q社製品○○W。
※第三者試験機関○○による試験結果。実際の使用環境により性能は異なります。
4. 視覚表現にも注意する
比較広告では、文章だけでなく、画像や動画の演出も問題になります。
例えば、次のような演出は避けるべきです。
- 他社製品に大きなバツ印を付ける
- 他社製品を壊れたもののように描く
- 他社製品の利用者を困った表情で描く
- 他社ロゴを過度に目立たせて攻撃する
- 他社製品を暗い色、自社製品を明るい色で極端に対比する
- 根拠なく「旧式」「低性能」と印象付ける
消費者は、文章だけでなく広告全体の印象から判断します。
そのため、数値上は正しい比較でも、演出が攻撃的であれば問題になることがあります。
5. 広告公開前の審査フローを設ける
P社では、比較広告を出す前に、次の審査フローを導入しました。
- マーケティング部が広告案を作成
- 商品開発部が性能データを確認
- 法務部が景品表示法・不正競争防止法の観点で確認
- 根拠資料を広告ごとに保存
- 外部弁護士が高リスク広告を確認
- 最終承認後に公開
- 公開後も一定期間ごとに表示内容を確認
広告の制作を外部代理店に委託する場合でも、広告主自身が内容を確認する必要があります。
比較広告に虚偽や誤認を招く表示がある場合、広告代理店に任せていたというだけでは、広告主の責任を免れることは困難です。
比較広告のチェックポイント
比較広告を行う場合、少なくとも次の点を確認する必要があります。
- 比較対象は同等の商品・サービスか
- 旧モデルと最新モデルを比較していないか
- 上位モデルと下位モデルを比較していないか
- 比較項目は消費者にとって意味のある項目か
- 比較データは客観的に実証されているか
- 第三者機関の試験データがあるか
- 調査時点、調査方法、試験条件を表示しているか
- データの一部だけを恣意的に切り取っていないか
- 表示内容と根拠資料が対応しているか
- 相手を貶める表現になっていないか
- バツ印や攻撃的演出で誹謗中傷の印象を与えていないか
- 景品表示法上の優良誤認・有利誤認にあたらないか
- 不正競争防止法上の信用毀損行為にあたらないか
- 根拠資料を保存しているか
- 公開前に法務チェックを行っているか
まとめ:比較広告は「相手を下げる広告」ではなく「根拠を示す広告」
比較広告は、消費者にとって有益な情報提供になる場合があります。
しかし、競合商品を過度に貶めたり、不公平な条件で比較したり、根拠のないデメリットを強調したりすると、景品表示法上の不当表示や、不正競争防止法上の信用毀損行為として問題になります。
特に、競合他社を名指しする比較広告では、次の3点が重要です。
- 比較内容が客観的に実証されていること
- 実証された数値や事実を正確に引用していること
- 比較対象・比較方法が公正であること
比較広告は、自社商品の強みを伝えるための有効な手段ですが、法的リスクも高い広告手法です。
競合他社を攻撃するような広告ではなく、消費者が合理的に商品を選択できるよう、客観的なデータを分かりやすく示す広告にすることが重要です。

有森FA法律事務所は、「広告表現に不安があるけれど、何から始めていいか分からない」という方々の力になりたいと考えています。インターネット広告やSNSの普及で、広告に関する法律リスクも多様化してきました。広告チェックに関しては、全国からのご相談に対応しており、WEB会議や出張相談も可能です。地域を問わず、さまざまなエリアの事業者様からご相談をいただいています。身近な相談相手として、お気軽にご連絡ください。
夏期講習だけの受講生を合格実績に含めてよいのか
学習塾や予備校にとって、合格実績は生徒募集に大きな影響を与える重要な広告要素です。
「東大合格者数」「難関高校合格者数」「地域No.1の合格実績」といった表示は、保護者や生徒に強く訴求します。
その一方で、合格実績の表示方法を誤ると、景品表示法上の優良誤認表示や、業界の自主基準違反として問題になる可能性があります。
特に、短期講習だけを受講した生徒、模試だけを受けた生徒、他塾で主に学習していた生徒を合格実績に含めることは、慎重に判断する必要があります。
今回は、大手学習塾フランチャイズから相談を受けた事例をもとに、講習生を合格者数に含めてよいのか、「地域No.1」と表示してよいのか、広告をどのように修正すべきかを解説します。
相談内容:夏期講習だけ受けた生徒を「東大合格者数」に含めたい
大手学習塾フランチャイズのエリアマネージャーであるOさんから、次のようなご相談を受けました。
春の生徒募集に向けて、チラシとLPを作成しています。
昨年、当塾の夏期講習だけを数日間受講し、その後は別の予備校に通っていた生徒が、東大に合格しました。
この生徒を当塾の「東大合格者数」にカウントし、「地域No.1の合格実績」と大々的に宣伝したいと考えています。
部下から「それは公正競争規約や景品表示法上、問題があるのではないか」と指摘されました。
受講料をもらって教えていたのは事実ですし、他の塾もやっていると思うのですが、問題ないのでしょうか。
Oさんとしては、「有料の夏期講習を受講していたのだから、自塾の合格実績として表示してもよいのではないか」という認識でした。
しかし、合格実績の表示は、単に「一度でも受講料を支払ったか」で判断されるものではありません。
夏期講習だけの短期受講生を正規の合格者数に含めるのは危険
今回のケースでは、当該生徒は、受験直前期に継続的に通塾していたわけではなく、夏期講習を数日間受講しただけでした。
このような生徒を、通年在籍していた塾生と同じように「東大合格者数」に含めると、保護者や生徒は、「この塾の通常指導によって東大合格に導いた」と受け取る可能性があります。
しかし、実際には、その生徒は主に別の予備校に通っており、当該塾の関与は限定的です。
そのような実績を正規の合格者数に含めることは、合格実績を実際よりも著しく優良に見せる表示として問題になる可能性があります。
景品表示法上、自己の供給する商品・サービスの内容について、実際よりも著しく優良であると示し、一般消費者の合理的な選択を阻害するおそれがある表示は、優良誤認表示として禁止されています。また、優良誤認表示は、故意に偽った場合だけでなく、誤って表示してしまった場合でも規制対象になるため注意が必要です。
合格実績に含められる生徒の基準
学習塾業界では、合格実績の表示について、公益社団法人全国学習塾協会が自主基準を定めています。
2024年7月に改定された基準では、合格実績に含めることのできる生徒について、概ね次のような考え方が示されています。
- 受験直前の6か月間のいずれかに在籍していること
- 同期間に受講契約に基づく30時間以上の受講実態があること
- または、継続して3か月以上の受講実態があること
- 在籍とは、入塾申込書等の契約書面があり、有料講座への料金納入が証明できること
- 体験授業、体験講習、無料講習、自習、補習、模試のみの受験は対象に含めないこと
全国学習塾協会の実施細則でも、合格実績の対象生徒は、受験直前の6か月間のいずれかに在籍し、同期間に受講契約に基づく30時間以上の受講実態がある生徒、または継続して3か月以上の受講実態がある生徒とされています。また、体験授業・体験講習・無料講習・自習・補習、単に教室内にいただけの自習時間などは含まれないとされています。
今回の「夏期講習を数日間だけ受講した生徒」が、30時間以上の受講実態も、継続3か月以上の受講実態も満たしていないのであれば、正規の合格実績に含めることは避けるべきです。
「受講料をもらっていた」だけでは足りない
Oさんは、「有料で授業をしたのだから、当塾の生徒といえるのではないか」と考えていました。
しかし、合格実績として表示できるかどうかは、有料か無料かだけで決まるものではありません。
重要なのは、保護者や生徒がその表示を見たときに、どのように受け取るかです。
「東大合格者○名」と大きく表示されていれば、多くの保護者は、その塾の継続的な指導を受けた生徒の実績だと理解します。
その中に、数日間だけ講習を受けた生徒を含めると、実績の意味が実態よりも強く見えてしまいます。
特に、難関校の合格実績は、塾選びに大きな影響を与える表示です。
そのため、短期受講生や講習生を含める場合には、通常の塾生の合格実績とは明確に区別する必要があります。
「地域No.1」表示はさらにリスクが高い
今回の広告案では、夏期講習だけの受講生を含めたうえで、「地域No.1の合格実績」と表示する予定でした。
これは二重に危険です。
第一に、合格者数自体が水増しされていれば、その数値を根拠にしたNo.1表示も虚偽または不当な表示になります。
第二に、仮に合格者数の集計が適正であったとしても、「地域No.1」と表示するには、客観的かつ合理的な根拠が必要です。
全国学習塾協会の実施細則でも、「日本一」「全国一」「ナンバーワン」「最高」「最大」などの最高級の優位性または唯一性を意味する用語は、客観的事実に基づく数値または確実な根拠なしに使用しないものとされています。
また、学習塾に関するNo.1表示については、合理的な根拠がないとして、消費者庁が景品表示法上の優良誤認表示に該当すると判断した事例もあります。
No.1表示に必要な根拠
「地域No.1」「合格実績No.1」「満足度No.1」などを表示する場合、少なくとも次の点を確認する必要があります。
- 比較対象となる塾の範囲
- 地域の範囲
- 調査時期
- 調査主体
- 調査方法
- 比較した項目
- 対象校や対象学年
- 合格者数の集計基準
- 実人数か延べ人数か
- 自社と他社で同じ基準により比較しているか
- 調査結果と広告表示の内容が対応しているか
例えば、「地域No.1」と表示する場合でも、地域を恣意的に狭く設定したり、一部の競合だけを除外したり、古いデータを使ったりしていると、客観的な根拠があるとはいえません。
また、「自社調べ」と書けばよいわけでもありません。
調査の前提が不適切であれば、No.1表示は優良誤認表示として問題になります。
チラシ・LPの修正方針
今回のケースでは、弁護士として、チラシとLPの内容を全面的に修正するよう助言しました。
修正のポイントは、次の3つです。
1. 合格者数を正規塾生のみで再集計する
まず、合格実績の対象となる生徒を、基準に沿って再集計しました。
確認した項目は、次のとおりです。
- 入塾申込書や契約書面の有無
- 有料講座の受講料納入記録
- 受験直前6か月間の在籍状況
- 受講時間数
- 継続受講期間
- 対面授業・オンライン授業・映像授業の受講記録
- 講習のみの受講か、通常授業も受講していたか
- 模試のみ、体験授業のみ、自習のみではないか
- 他校舎との重複カウントがないか
その結果、夏期講習を数日間だけ受講した生徒は、正規の合格者数から除外しました。
2. 講習生の実績は別枠で表示する
短期講習だけを受講した生徒の実績を一切表示できないわけではありません。
ただし、通常の合格者数と混同されないよう、明確に区別する必要があります。
例えば、次のような表示が考えられます。
2026年度 大学入試 合格実績
正規塾生の合格実績:○○大学 ○名
※正規塾生とは、受験直前6か月間に在籍し、受講契約に基づく30時間以上の受講実態がある生徒、または継続して3か月以上の受講実態がある生徒をいいます。
※上記人数には、体験授業、模試のみ、短期講習のみの受講生は含みません。
どうしても短期講習生の合格実績に触れる場合は、例えば次のように、主たる合格者数とは別枠にします。
参考情報:夏期講習のみを受講した生徒の合格報告として、東京大学1名があります。
※上記は正規塾生の合格実績には含めていません。
ただし、このような表示でも、見せ方によっては誤認を招く可能性があります。
本文より大きく強調したり、正規実績と同列に見せたりすることは避けるべきです。
3. 「地域No.1」表示は削除する
今回のケースでは、第三者調査や客観的な比較データがありませんでした。
また、正規塾生のみで再集計すると、地域No.1といえる根拠もありませんでした。
そのため、「地域No.1」「圧倒的合格実績」「地域最多」といった表現は削除しました。
代わりに、客観的に示せる実績を正確に表示しました。
2026年度 大学入試 合格実績
東京大学 ○名
早稲田大学 ○名
慶應義塾大学 ○名
※当塾○○エリア内の正規塾生のみを対象に集計しています。
※合格者数は実人数であり、同一生徒の重複カウントはしていません。
※短期講習のみ、模試のみ、体験授業のみの生徒は含みません。
このように、数値を大きく見せるよりも、集計基準を明確にした方が、保護者からの信頼につながります。
合格実績表示で注意すべきポイント
学習塾が合格実績を広告に表示する場合、次の点に注意が必要です。
1. 実人数か延べ人数か
一人の生徒が複数の学校に合格した場合、それをすべて合算すると、実際の合格者数よりも大きな数字になります。
「合格者数」と表示する場合は、実人数なのか、延べ合格件数なのかを明確にする必要があります。
例えば、次のように分けて表示します。
合格者実人数:○名
延べ合格件数:○件
2. 対象範囲を明示する
合格実績が、どの範囲の実績なのかを明示する必要があります。
- 全国全校舎の実績
- 特定エリアの実績
- 当該校舎のみの実績
- フランチャイズ全体の実績
- 提携塾を含む実績
全国学習塾協会の実施細則でも、合格実績の広告表示にあたり、合格実績が「事業主体の全部」「分教室の一部」「チェーンシステムにおける同名塾全体または一部」「提携塾の全体または一部」のいずれかに該当するかを明示することが求められています。
特定校舎のLPに、グループ全体の合格者数を大きく表示すると、その校舎単独の実績であるかのように誤認されるおそれがあります。
3. 重複カウントを避ける
同じ生徒が複数校舎に在籍していた場合や、グループ内の複数ブランドを利用していた場合、グループ全体の合格者数として重複カウントすることは避ける必要があります。
実施細則でも、同一の生徒がグループ内の複数の学習塾でカウント要件を満たした場合、グループ全体での合格者数を表示する際に重複してカウントすることはできないとされています。
4. 入試区分を混同しない
中学受験、高校受験、大学受験の実績を混在させると、消費者に誤解を与える可能性があります。
特に、中高一貫校について「○○中学・高校 ○名合格」と合算表示するような方法は、実績の中身が分かりにくくなります。
実施細則でも、同一系列校の小学校受験・中学校受験・高校受験・大学受験の内訳を明示せずに合計表示することはできないとされていますウェブ。
5. 年度を明示する
合格実績が当年度のものなのか、過年度を含む累積実績なのかを明確に表示する必要があります。
例えば、次のような表示は誤解を招きやすくなります。
東大合格者100名
この場合、2026年度だけの実績なのか、過去10年の累計なのか、全国全校舎の実績なのかが分かりません。
適切には、次のように表示します。
2026年度 大学入試 合格実績
東京大学 ○名
※○○塾全体の正規塾生を対象に集計しています。
※過年度累計ではありません。
公正取引協議会・業界団体から指摘を受けた場合の対応
合格実績表示について、業界団体や行政から問い合わせを受けた場合は、速やかに事実関係を整理する必要があります。
対応のポイントは、次のとおりです。
- 問題となったチラシ・LPを保存する
- 表示していた期間を確認する
- 配布部数や閲覧数を確認する
- 合格者数の集計資料を確認する
- 各生徒の在籍期間・受講時間・契約書面を確認する
- 誤表示がある場合は速やかに停止・修正する
- 原因を分析する
- 再発防止策を文書化する
- 必要に応じて弁明書や改善報告書を提出する
今回のケースでは、チラシ配布前・LP公開前の段階で部下から指摘があったため、実際に不適切表示を出さずに済みました。
もし既に配布・公開していた場合には、修正告知や再発防止報告が必要になった可能性があります。
社内研修と集計マニュアルの整備
今回の根本的な原因は、エリアマネージャー層が、合格実績表示に関するルールを十分に理解していなかったことでした。
そこで、O社では、全校舎責任者向けに、景品表示法と合格実績表示に関する研修を実施しました。
研修では、次の内容を扱いました。
- 景品表示法の優良誤認表示
- 合格実績表示の基本ルール
- 合格者数に含めてよい生徒の基準
- 短期講習生・模試生・体験生の扱い
- 実人数と延べ人数の違い
- 校舎別実績とグループ全体実績の違い
- No.1表示の根拠資料
- チラシ・LP公開前の審査フロー
- 違反事例
- 保護者から問い合わせを受けた場合の回答方法
あわせて、合格実績の集計マニュアルも策定しました。
合格実績の集計マニュアルに入れるべき項目
合格実績の集計マニュアルには、少なくとも次の事項を定める必要があります。
- 合格実績に含める生徒の定義
- 在籍の確認方法
- 受講時間の確認方法
- 有料受講の確認方法
- 講習生の扱い
- 模試のみの生徒の扱い
- 体験授業のみの生徒の扱い
- 複数校舎在籍者の扱い
- 兄弟校・提携校の扱い
- 実人数と延べ人数の表示方法
- 年度表示の方法
- 合格証明の確認方法
- 広告掲載前の承認者
- 根拠資料の保存期間
- No.1表示の審査基準
属人的に「この生徒はうちの実績でよいだろう」と判断するのではなく、資料に基づいて一貫した集計を行う体制が必要です。
学習塾広告のチェックポイント
学習塾がチラシ、LP、パンフレット、SNS広告を作成する際は、少なくとも次の点を確認する必要があります。
- 合格実績の年度を明示しているか
- 合格者数が実人数か延べ人数かを明示しているか
- 正規塾生の定義を明示しているか
- 短期講習のみ、模試のみ、体験授業のみの生徒を含めていないか
- 講習生の実績を表示する場合、正規塾生の実績と区別しているか
- 校舎単位か、グループ全体かを明示しているか
- 複数校舎での重複カウントをしていないか
- 入試区分を混同していないか
- No.1表示に客観的な根拠があるか
- 調査主体、調査時期、調査方法、比較対象を示せるか
- 「圧倒的」「最高」「最大」などの表現に根拠があるか
- 合格体験記や生徒写真について本人・保護者の同意を得ているか
- 公開前に法務・本部・責任者による審査を行っているか
まとめ:合格実績は「数」よりも「数え方」が重要
学習塾にとって、合格実績は重要な広告要素です。
しかし、短期講習だけを受講した生徒や、模試だけを受けた生徒を、通常の塾生と同じように合格者数に含めると、保護者や生徒に誤解を与える可能性があります。
特に、難関校の合格実績や「地域No.1」表示は、入塾判断に大きな影響を与えるため、景品表示法上の優良誤認表示として問題になりやすい分野です。
重要なのは、次の3点です。
- 合格実績に含める生徒の基準を明確にすること
- 短期講習生や模試のみの生徒を、正規塾生の実績に混ぜないこと
- No.1表示をする場合は、客観的で合理的な根拠を用意すること
教育ビジネスにおいて、合格実績の水増しは、短期的には集客につながるように見えても、長期的には保護者からの信頼を大きく損ないます。
正確で透明性のある実績表示こそが、教育機関としての信頼を守る最も重要な広告戦略です。

有森FA法律事務所は、「広告表現に不安があるけれど、何から始めていいか分からない」という方々の力になりたいと考えています。インターネット広告やSNSの普及で、広告に関する法律リスクも多様化してきました。広告チェックに関しては、全国からのご相談に対応しており、WEB会議や出張相談も可能です。地域を問わず、さまざまなエリアの事業者様からご相談をいただいています。身近な相談相手として、お気軽にご連絡ください。
「絶対に儲かる」と書いていなくても違法?投資ツールのLP表記が問題視された事例
FX自動売買ツール、投資シグナル配信、株式投資スクール、暗号資産の売買ノウハウなど、投資関連サービスの広告では、実績や期待収益を強調したLPがよく使われます。
しかし、投資商品・投資関連サービスの広告では、利益を保証するような表現や、将来の収益が確実であると誤認させる表現は、金融商品取引法、景品表示法、消費者契約法などの観点から問題となる可能性があります。
「絶対に儲かる」と明記していなくても、LP全体の構成によっては、断定的判断の提供や誇大広告にあたると指摘されることがあります。
今回は、FX自動売買ツール販売会社から相談を受けた事例をもとに、財務局から「断定的判断の提供の疑いがある」と指摘された場合の対応と、投資関連LPを適法化するポイントを解説します。
相談内容:「絶対に儲かる」とは書いていないのに財務局から連絡が来た
FX自動売買ツールを販売するN社の社長から、次のような相談を受けました。
当社では、FXの自動売買プログラムを販売しています。
LPで「月利20%を目指せる」「過去の実績では勝率90%」と宣伝していたところ、財務局から「断定的判断の提供の疑いがある」と連絡が来ました。
私は「絶対に儲かる」とは一言も書いていません。
LPには「投資は自己責任です」という注釈も入れています。
それなのに違法だと言われるのは納得できません。どう反論すればよいのでしょうか。
N社としては、「利益保証はしていない」「自己責任の注釈を入れている」という認識でした。
しかし、投資関連広告では、個別の文言だけでなく、LP全体として、消費者や投資家にどのような印象を与えるかが問題になります。
断定的判断の提供とは何か
断定的判断の提供とは、不確実な事項について、確実であるかのように告げる行為をいいます。
金融商品取引の分野では、相場の変動、利益の発生、損失の有無、将来の利回りなどは、いずれも不確実な事項です。
そのため、顧客に対して、将来の利益が確実であるかのように伝えることは問題になります。
第二種金融商品取引業協会の用語解説でも、断定的判断の提供等とは、不確実な事項について断定的判断を提供し、または確実であると誤認させるおそれがあることを告げる行為をいうとされています。
つまり、問題になるのは、「絶対」「確実」という言葉を使ったかどうかだけではありません。
投資家が「このツールを使えば高確率で利益が出る」「損をする可能性は低い」と誤認するような広告全体の作りになっていれば、断定的判断の提供や誇大表示と評価される可能性があります。
「絶対」と書かなくても問題になる表示
N社のLPには、確かに「絶対に儲かる」「元本保証」といった直接的な表現はありませんでした。
しかし、LP全体を見ると、次のような問題がありました。
- 右肩上がりの利益グラフだけを大きく掲載している
- 損失が出た期間のデータを表示していない
- 「負けなし」「常勝」「プロ級の利益を自動で狙う」といった表現がある
- 「月利20%を目指せる」という表示の根拠が不明確
- 「勝率90%」の集計期間や取引回数が記載されていない
- 最大ドローダウンや連敗期間が表示されていない
- リスク説明が極端に小さい文字で表示されている
- 背景色と同化して注釈が読みにくい
- 「投資は自己責任です」という一文だけで、具体的なリスク説明がない
これらを総合すると、LPを見た一般消費者は、「このツールを使えば高い確率で利益が出る」と受け止める可能性があります。
将来の投資成果は不確実です。
それにもかかわらず、利益が安定的に得られるかのような印象を与えるLPは、たとえ「絶対」という言葉を使っていなくても、問題となり得ます。
「投資は自己責任です」と書けばよいわけではない
N社は、LPの下部に「投資は自己責任です」と記載していました。
しかし、その記載は非常に小さく、背景色に近いグレー文字で表示されていました。
また、LP全体では利益実績や成功イメージが大きく強調されており、リスク説明は目立たない位置に置かれていました。
このような場合、形式的に注釈を入れていても、リスク告知として十分とはいえません。
投資関連広告では、次のようなリスクを、投資家が認識できる形で明瞭に表示する必要があります。
- 元本割れのリスク
- 為替変動リスク
- レバレッジにより損失が拡大するリスク
- 過去の実績が将来の成果を保証しないこと
- 自動売買プログラムが相場急変時に損失を出す可能性
- バックテストと実運用結果が異なる可能性
- システム障害や通信障害のリスク
- 証拠金維持率低下によるロスカットの可能性
「自己責任」という一文だけでは、投資家が具体的なリスクを理解したとはいえません。
財務局への初動対応
金融庁・財務局から連絡が来た場合、最初の対応が非常に重要です。
ここで、根拠なく強く反論したり、問題のLPを掲載し続けたりすると、当局から「改善意思がない」と見られるおそれがあります。
今回のケースでは、まず次の対応を行いました。
1. 問題LPの公開停止
財務局から指摘を受けたLPについては、直ちに公開を停止しました。
あわせて、同様の表現を使っていた広告、SNS投稿、メールマガジン、アフィリエイト記事も確認し、問題のある表示を一時停止しました。
2. 表示内容の棚卸し
N社が使用している広告素材を一覧化しました。
確認対象は、次のとおりです。
- LP
- バナー広告
- SNS広告
- YouTube広告
- メールマガジン
- セミナー資料
- アフィリエイト広告
- 販売代理店用の営業資料
- 購入者向け説明資料
投資関連サービスでは、LPだけを修正しても、他の広告媒体に同じ問題表現が残っていると、再度指摘を受ける可能性があります。
3. 財務局への報告
弁護士が代理人として、財務局に対し、次の内容を報告しました。
- 指摘を受けたLPを直ちに停止したこと
- 問題表示の原因は広告審査体制の不備にあったこと
- 意図的に利益保証を行う趣旨ではなかったこと
- 広告表示を全面的に見直すこと
- 今後、社内審査フローを整備すること
- 必要に応じて登録の要否を検討すること
当局対応では、「違法ではないはずだ」と感情的に争うのではなく、問題点を整理し、改善方針を具体的に示すことが重要です。
LPの適法化:実績表示を正確にする
販売再開に向けて、LPを全面的に改修しました。
まず見直したのは、実績表示です。
「勝率90%」という表示をする場合、少なくとも次の情報を併記する必要があります。
- 集計期間
- 対象通貨ペア
- 取引回数
- 勝ち取引・負け取引の件数
- 平均利益
- 平均損失
- 最大損失
- 最大ドローダウン
- バックテストか実運用か
- スプレッド・手数料を考慮しているか
- ロスカットの有無
- 運用資金額
- レバレッジ条件
- 過去実績は将来の成果を保証しないこと
例えば、修正前の表示は次のようなものでした。
過去実績 勝率90%
月利20%を目指せる自動売買ツール
これを、次のように修正しました。
過去のバックテスト結果では、2023年1月から2025年12月までの期間において、対象通貨ペア○○、取引回数○○回、勝率○○%という結果が確認されています。
ただし、バックテストは過去データに基づく検証であり、将来の利益を保証するものではありません。実際の運用では、相場変動、スプレッド、約定環境、通信状況等により、損失が発生する可能性があります。
重要なのは、数字を消すことではなく、数字の意味と限界を正確に表示することです。
「月利20%を目指せる」の見直し
「月利20%を目指せる」という表現も問題になりました。
「目指せる」という言葉は、一見すると保証ではないように見えます。
しかし、根拠がないまま高い利回りを示すと、投資家に過度な期待を抱かせるおそれがあります。
特に、次のような表示は危険です。
- 月利20%も夢ではない
- 初心者でも毎月安定収益
- 放置するだけで資産形成
- 副業感覚で自動収入
- プロ並みの運用を完全自動化
- 勝てるロジックを搭載
- もう裁量トレードで悩まない
今回のLPでは、「月利20%」という数値を前面に出す構成をやめ、ロジックの説明、リスク、利用条件を中心にした表示に変更しました。
修正後は、次のような構成にしました。
- ツールの機能説明
- 売買ロジックの概要
- バックテストの前提条件
- 実運用との違い
- リスク説明
- 適した利用者・適さない利用者
- 損失が発生するケース
- サポート内容
- 料金体系
投資ツールの広告では、「どれだけ儲かるか」よりも、「どのような仕組みで、どのようなリスクがあるか」を中心に説明する必要があります。
リスク告知を明瞭に表示する
リスク説明は、LPの末尾に小さく入れるだけでは不十分です。
今回の改修では、LPの複数箇所にリスク告知を入れ、購入ボタンの直前にも重要リスクを表示しました。
例えば、次のような表示です。
本ツールは、FX取引における売買判断を自動化するためのプログラムです。
FX取引は為替相場の変動により損失が発生する可能性があり、元本は保証されません。
相場急変時、スプレッド拡大時、通信障害時、ロスカット発生時には、想定を超える損失が生じる可能性があります。
過去の運用結果、バックテスト結果、シミュレーション結果は、将来の利益を保証するものではありません。
また、購入ボタンの直前に、次の確認項目を設けました。
- 元本保証がないことを確認しました
- 過去実績が将来の利益を保証しないことを確認しました
- 損失が発生する可能性があることを確認しました
- 自己の判断と責任で取引を行うことを確認しました
形式的なチェックボックスだけでは足りませんが、重要事項を購入直前に認識してもらう導線は有効です。
金融商品取引業の登録が必要かを確認する
今回、広告表示以上に重要だったのが、N社の事業モデルそのものです。
N社は「自動売買ツールを販売しているだけ」と説明していました。
しかし、実際には次のようなサービスも行っていました。
- 会員向けに売買ロジックのアップデートを提供している
- 相場状況に応じた設定変更を案内している
- 利用者に推奨通貨ペアや稼働タイミングを知らせている
- LINEグループで運用アドバイスをしている
- 月額課金でシグナル配信を行っている
- 購入者ごとに運用設定を提案している
このような場合、単なるソフトウェア販売ではなく、投資助言・代理業に該当する可能性があります。
自動売買ソフトの販売についても、誰でも自由に購入でき、単独で機能する売り切り型ソフトであれば投資助言・代理業に該当しない方向で整理されることがありますが、継続課金で投資情報を提供する場合や、継続的に投資情報データ・サポート等を提供する場合には、登録が必要となる可能性がありますウェブ。
また、投資助言・代理業者は、広告規制、断定的判断の提供の禁止、誠実公正義務、業務管理体制整備などの規制に服しますウェブ。
無登録営業のリスク
もし、登録が必要な投資助言・代理業に該当するにもかかわらず、無登録でサービスを提供していた場合、広告表示の問題にとどまりません。
無登録営業として、行政処分、警告、刑事罰のリスクが生じます。
特に、FX、暗号資産、株式、バイナリーオプション、自動売買ツールなどの分野では、当局の監視も厳しくなっています。
そのため、今回のケースでは、LPの修正と並行して、N社のサービスを次の観点から精査しました。
- ツールは売り切りか、継続課金か
- 購入後に投資情報を提供しているか
- 個別銘柄・通貨ペア・売買タイミングを助言しているか
- 利用者ごとに設定提案をしているか
- 自社が顧客資金を預かっていないか
- FX業者への送客や紹介報酬があるか
- 登録業者との提携の実態があるか
- 名義貸しに該当するおそれがないか
その結果、N社の一部サービスは投資助言・代理業に該当する可能性が高いと判断されました。
そこで、販売スキームを一時停止し、登録業者との適法な提携、または自社での登録取得を検討することになりました。
登録業者との提携にも注意が必要
「登録業者と組めばよい」と考える会社もありますが、提携の実態によっては、名義貸しや無登録営業と評価されるリスクがあります。
登録業者の名前だけを借り、実際には無登録会社が顧客対応、助言、広告、販売を行っているような場合は危険です。
提携する場合には、少なくとも次の点を明確にする必要があります。
- 誰が顧客に投資助言を行うのか
- 誰が広告審査を行うのか
- 顧客との契約主体は誰か
- 報酬は誰が受け取るのか
- 苦情・紛争対応は誰が行うのか
- 登録業者の内部管理体制が実際に機能しているか
- 無登録会社が助言行為を行っていないか
形式的な提携ではなく、実態として金商法に適合した運用が必要です。
投資ツールLPのチェックポイント
FX自動売買ツールや投資関連サービスの広告では、少なくとも次の点を確認する必要があります。
- 「必ず儲かる」「絶対勝てる」「元本保証」などの表現を使っていないか
- 「月利○%」「勝率○%」の根拠を明示しているか
- 集計期間、取引回数、対象条件を表示しているか
- 最大ドローダウンや損失期間を表示しているか
- バックテストと実運用を区別しているか
- 過去実績が将来の成果を保証しないことを明示しているか
- リスク説明が小さすぎないか
- 利益グラフだけを強調していないか
- 利用者の成功体験だけを掲載していないか
- アフィリエイト広告でも同じルールを守らせているか
- 投資助言・代理業の登録が必要なスキームになっていないか
- 登録業者との提携が名義貸しになっていないか
- 財務局から連絡が来た場合の対応フローがあるか
まとめ:投資関連広告は「絶対」と書かなければ安全、ではない
投資関連サービスの広告では、「絶対に儲かる」と書いていなければ安全というわけではありません。
LP全体として、消費者や投資家に「高確率で利益が出る」「損をする可能性は低い」「自動で安定収益が得られる」と誤認させる構成になっていれば、断定的判断の提供や誇大広告として問題になる可能性があります。
特に、FX自動売買ツールでは、次の点が重要です。
- 利益実績や勝率を表示する場合は、前提条件とリスクを明確にすること
- リスク説明を小さな注釈に押し込めず、投資家が認識できる形で表示すること
- 継続的なシグナル配信や設定助言を行う場合、投資助言・代理業の登録要否を確認すること
金融ビジネスでは、「知らなかった」「広告代理店に任せていた」「他社も同じ表現をしている」という説明は通用しにくい分野です。
LP制作、広告配信、アフィリエイト運用、販売スキームの設計段階から、金融商品取引法、景品表示法、消費者契約法を踏まえたリーガルチェックを行うことが不可欠です。

有森FA法律事務所は、「広告表現に不安があるけれど、何から始めていいか分からない」という方々の力になりたいと考えています。インターネット広告やSNSの普及で、広告に関する法律リスクも多様化してきました。広告チェックに関しては、全国からのご相談に対応しており、WEB会議や出張相談も可能です。地域を問わず、さまざまなエリアの事業者様からご相談をいただいています。身近な相談相手として、お気軽にご連絡ください。
成約済み物件を掲載し続けてしまった場合の対応
不動産仲介業では、SUUMO、LIFULL HOME’S、at homeなどの不動産ポータルサイトが集客の中心になっています。
そのため、ポータルサイトに掲載している物件情報の更新漏れは、単なる事務ミスでは済まないことがあります。
特に、既に成約済みの物件を掲載し続けてしまうと、「おとり広告」と判断され、不動産公正取引協議会による調査や処分、主要ポータルサイトへの掲載停止につながる可能性があります。
今回は、賃貸物件の仲介業者から相談を受けた事例をもとに、成約済み物件を掲載し続けてしまった場合の対応と、ポータルサイト掲載停止処分を回避するためのポイントを解説します。
相談内容:成約済み物件を1か月近く掲載し続けてしまった
賃貸物件を扱う不動産仲介業者の店長であるMさんから、次のようなご相談を受けました。
繁忙期で忙しく、SUUMOやHOME’Sに掲載していた物件情報の更新を怠ってしまいました。
その結果、既に申込みが入り、成約済みとなっていた人気物件を、1か月近く掲載し続けてしまいました。
その物件を見て来店したお客様から「釣り物件ではないか」と通報され、不動産公正取引協議会から「おとり広告の疑いで調査する」と連絡が来ています。
もしおとり広告と認定されると、主要ポータルサイトへの掲載が1か月以上停止されると聞きました。
ポータルサイトに掲載できなくなると、反響が止まり、店舗の売上が大きく落ちてしまいます。どう対応すればよいでしょうか。
Mさんとしては、「わざと残したわけではなく、繁忙期の更新漏れだった」という認識でした。
しかし、不動産広告の規制では、故意に客寄せをした場合だけでなく、成約済み物件の削除漏れによって、実際には取引できない物件を掲載し続けた場合も問題になります。
成約済み物件の掲載は「おとり広告」になり得る
不動産広告におけるおとり広告とは、実際には取引できない物件を、あたかも取引可能であるかのように広告することをいいます。
不動産のおとり広告については、景品表示法上の不当表示として指定されており、次のような表示が問題になります。
- 物件が存在しないため、実際には取引することができない物件の表示
- 物件は存在するが、実際には取引の対象となり得ない物件の表示
- 物件は存在するが、実際には取引する意思がない物件の表示
そのため、成約済み物件を掲載し続けることは、「物件は存在するが、実際には取引の対象となり得ない物件」の広告として、おとり広告に該当する可能性があります。
「うっかり」でも処分対象になる
Mさんが最も驚いていたのは、「故意ではなくても、おとり広告になるのか」という点でした。
結論としては、故意に客寄せをするつもりがなかったとしても、成約済み物件を相当期間掲載し続けていれば、おとり広告として問題になります。
実際、全日本不動産協会の解説でも、物件が既に契約済みで取引できなくなっているにもかかわらず、インターネット上で広告表示を続けることは、売ることのできない物件について広告することになり、おとり広告として禁止されるとされています。
また、インターネット広告は最新情報に更新しやすい媒体であるため、消費者から見ると、掲載中の物件は実際に取引できるものと受け止められます。
そのため、「忙しかった」「担当者が退職した」「更新を忘れていた」という事情だけでは、責任を免れることは困難です。
1か月近い掲載継続は重く見られる
今回のケースでは、成約済み物件が1か月近く掲載され続けていました。
数時間から1日程度のタイムラグであれば、システム上の反映遅延や実務上の更新タイミングとして説明できる場合もあります。
しかし、1か月近くとなると、単なる反映遅延とは言いにくく、物件情報の管理体制に重大な不備があったと評価される可能性が高くなります。
不動産公正取引協議会の資料でも、契約済みとなったにもかかわらず、長いもので3か月半以上、短いものでも28日間継続して広告していた事例について、厳重警告・違約金の措置が紹介されていますウェブ。
Mさんのケースでも、「約1か月」という期間は、厳しい評価を受けるおそれがある水準でした。
ポータルサイト掲載停止のリスク
不動産公正取引協議会による処分の中でも、実務上最も大きな影響を与えるのが、ポータルサイト掲載停止です。
協議会の資料によれば、公正競争規約違反については、注意、警告、厳重警告、厳重警告・違約金といった処分があり、厳重警告・違約金の場合には、事業者名や違反概要の公表、ポータルサイト掲載停止につながることがあります。
また、掲載停止措置については、賃貸・売買を問わず、表示規約の適用を受ける物件が対象となり、掲載停止期間は1か月以上とされています。
賃貸仲介業者にとって、繁忙期に主要ポータルサイトへ掲載できなくなることは、反響の大幅減少に直結します。
そのため、調査段階での弁明対応と再発防止策の提示が極めて重要です。
協議会への対応方針:故意性の否定と再発防止策の具体化
不動産公正取引協議会から調査の連絡を受けた場合、まず行うべきことは、事実関係の正確な整理です。
感情的に「わざとではない」「忙しかっただけだ」と主張しても、不十分です。
協議会が確認するのは、実際にどのような広告が、いつからいつまで掲載され、なぜ削除されなかったのか、今後同じことを防ぐ体制があるのかという点です。
今回のケースでは、弁護士がMさんの代理人として事情聴取に同行し、弁明書を提出しました。
ポイントは、次の2つです。
1. 故意に客寄せをしたものではないこと
まず、M社が「人気物件を残して集客しようとした」わけではないことを、客観的資料で説明しました。
具体的には、次の資料を整理しました。
- 当該物件が成約済みとなった日
- 成約情報が社内で共有された日時
- ポータルサイトへの掲載開始日
- 掲載削除が遅れた原因
- 担当者の退職・異動や引継ぎ状況
- 管理会社・元付業者とのやり取り
- 来店客への説明内容
- 通報後に直ちに削除した記録
- 他の成約済み物件についての掲載状況
特に重要なのは、「問い合わせを得るために意図的に残した」という悪質性を否定することです。
ただし、故意でないことを強調するだけでは足りません。
過失による更新漏れであっても違反になり得るため、原因分析と再発防止策をセットで示す必要があります。
2. 再発防止策を具体的に示すこと
協議会対応で最も避けるべきなのは、「今後は気をつけます」という抽象的な説明にとどまることです。
おとり広告は、担当者の注意力だけに依存している限り、再発します。
そのため、仕組みとして防ぐ対策を示す必要があります。
今回、M社では次のような再発防止策を導入しました。
- 毎日午前10時に、掲載中物件の空室確認を実施する
- 管理会社・元付業者への確認履歴を記録する
- 成約済み・申込み済みとなった物件は、当日中に全媒体から削除する
- 営業担当者と広告担当者によるダブルチェック体制にする
- 削除完了後のスクリーンショットを保存する
- ポータルサイトごとの反映タイミングを管理表に記載する
- 週1回、店長が掲載中物件のランダムチェックを行う
- 退職・異動時には広告管理権限と担当物件の引継ぎリストを作成する
- 物件管理システムを導入し、広告媒体との連携漏れを減らす
- 全社員に不動産広告規制の研修を実施する
不動産広告では、物件情報の変動が早く、更新漏れが起こりやすい業務構造があります。
だからこそ、個人の注意ではなく、毎日の確認、記録化、ダブルチェック、システム導入によって再発防止を図ることが重要です。
弁明書で記載した主な内容
今回提出した弁明書では、次の内容を整理しました。
- 本件物件が成約済みであったにもかかわらず掲載が残っていた事実
- 掲載継続により来店者に誤解を与えたことへの謝罪
- 故意に集客目的で掲載を残したものではないこと
- 削除漏れが発生した具体的原因
- 通報後、直ちに掲載を削除したこと
- 来店者に謝罪し、他物件への強引な誘導を行っていないこと
- 過去に同種の処分歴がないこと
- 広告管理フローを見直したこと
- システム導入と日次確認の運用を開始したこと
- 今後、定期的に広告掲載状況を監査すること
弁明では、違反を否定し切ろうとするよりも、事実を正確に認めたうえで、悪質性が低いことと、再発防止策が実効的であることを示す方が有効な場合があります。
ポータルサイト掲載停止を回避するための交渉
M社にとって最も重要だったのは、ポータルサイト掲載停止を回避することでした。
そのため、弁明書では、厳重警告・違約金相当ではなく、より軽い措置にとどめるべき事情として、次の点を強調しました。
- 初めての違反であること
- 問題発覚後、直ちに掲載を削除したこと
- 当該顧客に謝罪し、強引な営業をしていないこと
- 故意に客寄せ目的で掲載を残した証拠がないこと
- 削除漏れの原因が特定されていること
- 日次確認・ダブルチェック・システム導入という具体的改善策を既に実施していること
- 店舗全体で広告規制の研修を実施したこと
- 今後、第三者による定期監査を受けること
その結果、今回は、初犯であること、直ちに削除・謝罪を行ったこと、具体的な改善策を実施したことが考慮され、掲載停止を伴わない軽い措置にとどめることができました。
社内体制の抜本改革
今回の件を受けて、M社では広告管理体制を抜本的に見直しました。
特に、次の3つの仕組みを導入しました。
1. 掲載中物件の毎日チェック
掲載中の全物件について、毎日、取引可能性を確認する体制にしました。
確認項目は、次のとおりです。
- 申込みの有無
- 成約の有無
- 募集停止の有無
- 賃料・管理費の変更
- 初期費用の変更
- 写真・間取りの正確性
- 取引態様の表示
- 広告媒体ごとの掲載状況
確認結果は、担当者名、確認日時、確認先を含めて記録します。
2. 成約時の即時削除フロー
成約済みとなった物件については、営業担当者が広告担当者に連絡するのではなく、システム上で削除依頼が自動通知されるフローに変更しました。
また、削除後は、各媒体から実際に非掲載になっていることを確認し、スクリーンショットを保存する運用にしました。
「削除依頼を出した」だけではなく、「実際に削除された」ことまで確認する点が重要です。
3. 第三者による広告監査
M社では、毎月、掲載中物件の一部をランダムに抽出し、外部の専門家が広告表示を確認する体制を導入しました。
監査項目は、次のとおりです。
- 成約済み物件が掲載されていないか
- 取引条件に誤りがないか
- 賃料・管理費・初期費用が正確か
- 「駅徒歩」「築年数」「専有面積」などの表示が正確か
- 特定用語や禁止表現を使っていないか
- 写真や間取りが実際の物件と一致しているか
- リフォーム済み表示に時期・内容が記載されているか
監査結果は店長と本部に共有し、改善履歴を残すことにしました。
不動産会社が確認すべき広告管理チェックポイント
不動産仲介業者は、少なくとも次の点を確認する必要があります。
- 成約済み物件を当日中に削除するルールがあるか
- 掲載中物件について毎日または定期的に空室確認しているか
- 確認日時・確認者・確認先を記録しているか
- 営業担当者と広告担当者の情報共有フローがあるか
- 担当者の退職・異動時に広告管理の引継ぎをしているか
- ポータルサイトごとの反映タイミングを把握しているか
- 削除依頼後、実際に非掲載になったことを確認しているか
- 管理会社・元付業者からの情報を定期的に確認しているか
- 広告表現に関する社内研修を実施しているか
- 店長や本部による抜き打ちチェックを行っているか
- 不動産公正取引協議会から連絡が来た場合の対応フローがあるか
まとめ:おとり広告は「削除漏れ」でも会社を揺るがす
不動産広告において、成約済み物件を掲載し続けることは、単なる更新漏れでは済まされません。
物件が実在していても、既に成約済みで取引できない状態であれば、おとり広告として問題になります。
故意に客寄せをした場合はもちろん、過失による削除漏れであっても、掲載期間が長く、管理体制が不十分であれば、処分対象となる可能性があります。
特に、主要ポータルサイトへの掲載停止は、不動産仲介業者にとって売上に直結する重大なリスクです。
重要なのは、次の3点です。
- 成約済み物件を発見したら、直ちに全媒体から削除すること
- 不動産公正取引協議会への対応では、故意性の否定と具体的な再発防止策を示すこと
- 担当者任せではなく、日次確認、記録化、ダブルチェック、システム化によって再発を防ぐこと
不動産広告は、集客のための道具であると同時に、法令・規約違反のリスクが常にある業務です。
クリーンな広告運用を徹底することが、ポータルサイト掲載停止や信用失墜を避け、長く事業を続けるための最も確実な方法です。

有森FA法律事務所は、「広告表現に不安があるけれど、何から始めていいか分からない」という方々の力になりたいと考えています。インターネット広告やSNSの普及で、広告に関する法律リスクも多様化してきました。広告チェックに関しては、全国からのご相談に対応しており、WEB会議や出張相談も可能です。地域を問わず、さまざまなエリアの事業者様からご相談をいただいています。身近な相談相手として、お気軽にご連絡ください。
TikTokでバズった曲を使ったら警告文が届いた場合の対応
TikTokやInstagramリールでは、流行している楽曲に合わせて店舗紹介や商品紹介を行う動画が多く投稿されています。
美容室、飲食店、アパレルショップ、クリニックなどでも、スタッフが踊る動画、施術風景を見せる動画、ビフォーアフターを見せる動画などに人気曲を付けて投稿し、集客につなげているケースがあります。
しかし、アプリ内で選べる楽曲であっても、企業アカウントが自社の宣伝目的で使用する場合には、著作権や原盤権の問題が生じることがあります。
今回は、美容室チェーンから相談を受けた事例をもとに、TikTokやInstagramリールで商用利用不可の音源を使用してしまった場合の対応と、今後のSNS運用で注意すべきポイントを解説します。
相談内容:アプリ内の曲を使っただけなのに、権利者から内容証明が届いた
美容室チェーンの広報担当であるLさんから、次のようなご相談を受けました。
TikTokやInstagramリールで、お店の宣伝動画を投稿しています。
流行っているJ-POPや洋楽に合わせてスタッフが踊ったり、カットモデルを見せたりする動画がバズり、集客につながっていました。
ところが先日、音楽著作権管理団体やレコード会社から内容証明が届き、「商用利用における無断使用である。過去の動画も含めて使用料と損害賠償を支払え」と請求されました。
TikTokのアプリ内にある曲を使っただけなのに、なぜ違反になるのでしょうか。
みんな使っていると思うのですが、当社だけ問題になるのでしょうか。
Lさんとしては、「TikTokやInstagramのアプリ内で選べる曲だから、自由に使ってよい」と考えていました。
しかし、SNS上で楽曲を利用する場合、個人の非営利利用と、企業の広告・宣伝利用では、権利処理の考え方が大きく異なります。
企業アカウントの投稿は「商用利用」と評価されやすい
今回の最大の問題は、美容室チェーンの公式アカウントで、自社店舗の宣伝動画として楽曲を使用していた点です。
個人ユーザーが、趣味でダンス動画や日常動画を投稿する場合と、企業が集客・採用・ブランディングのために動画を投稿する場合では、利用目的が異なります。
企業アカウントが次のような目的で動画を投稿する場合、商用利用と評価されやすくなります。
- 店舗やサービスの宣伝
- 商品・メニューの紹介
- 来店予約への誘導
- 採用広報
- キャンペーン告知
- ブランド認知の向上
- 広告配信や投稿のブースト
TikTokの公式ヘルプでも、一般的な音楽ライブラリを商用利用することはできず、動画広告、ブランドコンテンツ、商業的なオーガニック投稿には商用音楽ライブラリを使用する必要があると説明されていますウェブ。
つまり、アプリ内で選べる楽曲であっても、「個人が楽しむ投稿」と「企業が宣伝に使う投稿」では、使える範囲が異なるということです。
「アプリ内で選べる曲」でも広告利用まで許されるとは限らない
TikTokやInstagramなどのプラットフォームは、JASRACやNexToneなどの著作権管理団体と包括的な利用許諾契約を結んでいる場合があります。
そのため、一定の範囲では、ユーザーが個別にJASRAC等へ申請しなくても、アプリ内の楽曲を使って動画を投稿できる仕組みになっています。
しかし、この仕組みには限界があります。
第一に、包括契約がカバーするのは、主に作詞家・作曲家の著作権です。
市販のCD音源や配信音源には、著作権とは別に、レコード会社や実演家が持つ原盤権・著作隣接権が関係します。
第二に、プラットフォーム上で使える楽曲であっても、企業の広告・宣伝利用までは許諾されていない場合があります。
JASRACが管理するのは作詞者・作曲者の著作権であり、レコード会社が持つ原盤権や実演家の権利は別の権利です。市販音源を動画に使う場合には、JASRAC等への手続だけでは足りず、レコード会社などへの許諾が必要になることがありますウェブ。
そのため、「アプリ内にある曲だから使ってよい」という理解は危険です。
著作権と原盤権は別の権利
音楽利用で特に誤解が多いのが、著作権と原盤権の違いです。
楽曲には、少なくとも次のような権利が関係します。
1. 楽曲の著作権
作詞家や作曲家が持つ権利です。
歌詞やメロディーなど、音楽の著作物そのものに関する権利です。
LegalOnナレッジでも、音楽の著作物は、音によって表現されている著作物であり、楽曲や楽曲を伴う歌詞等が含まれると整理されていますLegalOnナレッジ。
2. 原盤権・著作隣接権
レコード会社やアーティスト、演奏者などが持つ権利です。
同じ楽曲でも、どの音源を使うかによって、原盤権者が異なります。
例えば、同じ曲であっても、次のように権利関係は変わります。
- 有名アーティストのCD音源
- ライブ音源
- カラオケ音源
- 自社で演奏・録音した音源
- ロイヤリティフリー音源
- 商用楽曲ライブラリの音源
JASRAC等に著作権の利用許諾を得ても、市販音源をそのまま使う場合には、原盤権者から別途許諾を得る必要があることがあります。
今回のように、J-POPや洋楽の市販音源を美容室の宣伝動画に使った場合、権利者から見れば「自社の楽曲・音源を無断でCMに使われた」と受け止められる可能性があります。
権利者からの請求に対する初動対応
Lさんの会社に届いた内容証明では、過去の動画を含めて、使用料と損害賠償が請求されていました。
このような通知が届いた場合、最初に行うべきことは、次の対応です。
1. 指摘された動画を確認する
まず、どの動画が、どの楽曲・音源について、どの権利者から問題視されているのかを確認します。
確認すべき事項は、次のとおりです。
- 投稿したSNS
- 投稿日時
- アカウントの種類
- 使用した楽曲名
- 使用した音源の出所
- 再生回数
- 広告配信の有無
- 商品・店舗・サービスの宣伝性
- 権利者が主張している権利の内容
- 請求額の算定根拠
通知書に書かれている金額をそのまま受け入れるのではなく、請求の根拠を精査する必要があります。
2. 問題動画を速やかに削除・非公開にする
権利侵害の可能性がある動画については、早急に削除または非公開にします。
今回のケースでは、指摘された動画だけでなく、過去に投稿した動画のうち、J-POP、洋楽、市販音源、流行曲を使っているものをすべて確認し、権利処理が確認できないものは削除しました。
著作権侵害がある場合、権利者は侵害の停止や予防を求めることができます。LegalOnナレッジでも、著作権者や著作隣接権者は、侵害者または侵害のおそれがある者に対し、侵害の停止または予防を請求できると整理されていますLegalOnナレッジ。
したがって、問題がある動画を放置したまま交渉することは避けるべきです。
3. 過去動画を棚卸しする
SNS運用では、過去に投稿した動画がそのまま残っていることが多くあります。
そのため、1本だけ対応しても、同じ問題が別動画で再発する可能性があります。
今回のケースでは、過去投稿を次のように分類しました。
- 商用利用可能な音源を使っている動画
- アプリ内の一般楽曲を使っている企業宣伝動画
- 外部から取り込んだ市販音源を使っている動画
- 流行曲に合わせたスタッフのダンス動画
- 広告配信に利用した動画
- 他SNSへ転用した動画
権利処理が確認できない動画は、削除または差し替え対象としました。
使用料・損害賠償請求への交渉
届いた請求書には、再生回数などを前提とした高額な使用料が記載されていました。
そこで、弁護士が代理人として介入し、次の観点から交渉を行いました。
1. 故意に無断利用したものではないこと
Lさんの会社は、楽曲を無断で使ってよいと開き直っていたわけではなく、アプリ内で選択できる楽曲であることから、商用利用も許されると誤認していました。
もちろん、誤認があれば責任を免れるとは限りません。
しかし、悪質な権利侵害ではないこと、指摘後直ちに削除したこと、再発防止策を講じたことは、和解交渉上重要な事情になります。
2. テレビCMと同じレートで算定することが相当か
権利者側は、企業の宣伝利用であることを理由に、高額な広告利用料を前提とした請求をしていました。
しかし、SNS投稿の実態、投稿期間、広告配信の有無、再生回数、地域性、店舗規模などを踏まえると、テレビCMと同じようなレートで算定することが相当とは限りません。
そこで、Web動画広告としての相場、投稿実態、早期削除、再発防止策などを踏まえ、包括的な和解金での解決を提案しました。
3. 再発防止策を提示する
権利者との交渉では、単に金額を争うだけでなく、今後同じ問題を起こさない体制を示すことも重要です。
今回のケースでは、次の再発防止策を提示しました。
- 商用利用不可音源を使った過去動画の削除
- 企業アカウントで使用できる音源ルールの策定
- 投稿前チェックフローの導入
- 商用楽曲ライブラリまたは権利処理済み音源のみ使用する運用への変更
- スタッフ向けSNS研修の実施
- 外部制作会社との契約条項の見直し
その結果、当初請求額から大幅に減額された和解金で解決することができました。
今後はTikTokの商用楽曲ライブラリを使う
TikTokで企業が音楽を使えないわけではありません。
TikTokには、企業やブランドが商用利用できる楽曲を集めた「商用音楽ライブラリ」が用意されています。TikTokの公式ヘルプでも、商用音楽ライブラリは商用利用が許可された多数の楽曲を集めたライブラリであり、動画広告、ブランドコンテンツ、商業的な投稿では商用音楽ライブラリを使用する必要があると説明されていますウェブ。
そのため、L社には、今後のTikTok運用について次のルールを設けるよう助言しました。
- 企業アカウントでは、原則として商用楽曲ライブラリ内の音源のみ使用する
- 一般楽曲ライブラリの流行曲は使用しない
- スタッフ個人の感覚で音源を選ばない
- 広告配信に使う動画は、必ず事前に法務・広報責任者が確認する
- TikTokで使える音源を、InstagramやYouTubeショートにそのまま転用しない
- 他SNSにも投稿する場合は、プラットフォーム横断で使える権利処理済み音源を使用する
特に注意すべきなのは、TikTokで商用利用できる音源であっても、そのままInstagramやYouTubeショートで使えるとは限らない点です。
プラットフォームごとに音源のライセンス条件は異なるため、1本の動画を複数SNSに投稿する場合は、最初から複数媒体で利用可能な音源を選ぶ必要があります。
Instagramリールでも同様に注意が必要
Instagramでも、ビジネスアカウントや企業の宣伝投稿では、利用できる楽曲が制限されることがあります。
Instagramの音楽機能も、個人利用と商用利用で扱いが異なります。
ビジネスアカウントで一般の人気楽曲を使った投稿を行うと、動画のミュート、削除、アカウント制限、権利者からの請求につながる可能性があります。
Instagramで企業が音楽を利用する場合は、次のような対応が必要です。
- Instagram上で商用利用可能な音源を選ぶ
- Metaの提供する商用利用可能な音源を確認する
- 外部のロイヤリティフリー音源を使用する
- 自社で制作したオリジナル音源を使用する
- 有名曲を使う場合は、著作権・原盤権の許諾を個別に取得する
「TikTokで使えたからInstagramでも使える」という運用は避けるべきです。
有料素材サイトやオリジナル音源の活用
企業アカウントで安全にSNS動画を運用するには、次のような音源を使うことが現実的です。
1. 商用利用可能なSNS公式ライブラリ
TikTokであれば商用音楽ライブラリを利用します。
InstagramやFacebookでは、ビジネス利用に対応した公式音源やサウンドコレクションを確認します。
ただし、利用できる範囲は各プラットフォーム内に限定される場合があります。
2. 有料素材サイトの音源
Audiostock、Artlist、Epidemic Soundなど、商用利用ライセンスが明確な音源サービスを利用する方法です。
この場合も、次の点を確認する必要があります。
- SNS投稿に使えるか
- Web広告に使えるか
- 店舗広告に使えるか
- 複数媒体で使えるか
- 利用期間の制限があるか
- クレジット表記が必要か
- 二次利用や編集が認められるか
「ロイヤリティフリー」と書かれていても、利用範囲に制限があることがあります。
3. 自社オリジナル音源
最も安全性が高いのは、自社でオリジナル音源を制作する方法です。
美容室チェーンであれば、ブランドイメージに合う短いジングルやBGMを制作し、TikTok、Instagram、YouTube、Web広告で共通利用することも考えられます。
ただし、外部作曲家や制作会社に依頼する場合は、契約書で次の点を明確にしておく必要があります。
- 著作権の譲渡または利用許諾の範囲
- 原盤権の帰属
- SNS、Web広告、店内放送などでの利用可否
- 利用期間
- 利用地域
- 改変・編集の可否
- 第三者権利を侵害していないことの保証
「踊ってみた」動画には振付の権利も関係する
音源だけでなく、振付にも注意が必要です。
スタッフが流行曲に合わせて踊る動画では、楽曲の権利だけでなく、振付が著作物として保護される可能性があります。
特に、有名アーティストのダンス、ミュージックビデオの振付、ダンスチャレンジとして広まっている振付を、企業アカウントが店舗宣伝に使う場合には、次の点を確認する必要があります。
- 振付が創作性のある著作物と評価される可能性
- 振付師や所属事務所が利用を管理しているか
- 商用利用が許諾されているか
- 企業広告での利用が禁止されていないか
- 楽曲だけでなくダンス自体がブランドの宣伝に使われていないか
「みんなが踊っているから使ってよい」とは限りません。
個人の投稿として黙認されているものでも、企業広告として使うと権利者から問題視される可能性があります。
外部制作会社に依頼する場合の注意点
SNS動画の制作を外部会社に依頼している場合でも、権利侵害が起きれば、企業アカウントの運営者である広告主が請求を受けることがあります。
そのため、制作委託契約では、少なくとも次の内容を定める必要があります。
- 使用する楽曲・効果音・画像・映像素材は権利処理済みのものに限定する
- 商用利用可能な範囲を事前に確認する
- TikTok、Instagram、YouTube、広告配信など利用媒体を明記する
- 第三者の著作権、著作隣接権、肖像権、パブリシティ権を侵害しないことを保証させる
- 権利者から請求を受けた場合の対応・補償義務を定める
- 納品時に利用素材一覧とライセンス情報を提出させる
「制作会社に任せていた」という説明だけでは、権利者への対応として不十分になることがあります。
企業SNS運用で確認すべきチェックポイント
企業がTikTokやInstagramリールで動画を投稿する場合、少なくとも次の点を確認する必要があります。
- 企業アカウントで一般楽曲ライブラリの人気曲を使っていないか
- 商用利用可能な音源であることを確認しているか
- TikTokの商用音楽ライブラリ内の楽曲を使っているか
- InstagramやYouTubeへ転用してもよい音源か
- 市販音源やCD音源を外部から取り込んでいないか
- JASRAC等の著作権だけでなく原盤権も確認しているか
- 広告配信やキャンペーン投稿に使用していないか
- スタッフが個人感覚で流行曲を選んでいないか
- 振付やダンスにも権利リスクがないか
- 投稿前のチェックフローがあるか
- 過去動画の棚卸しを行っているか
- 外部制作会社との契約で権利保証を取っているか
- 権利者から通知が届いた場合の対応フローがあるか
まとめ:企業SNSでは「アプリで選べる曲=自由に使える曲」ではない
TikTokやInstagramでは、多くの楽曲がアプリ内で簡単に選べるため、自由に使えるように見えます。
しかし、企業アカウントが店舗や商品の宣伝のために楽曲を使う場合、それは商用利用と評価される可能性があります。
個人ユーザーの非営利投稿では問題になりにくい利用でも、企業の広告・宣伝投稿では、著作権、原盤権、著作隣接権、振付の権利などが問題になります。
特に注意すべきポイントは、次の3つです。
- アプリ内で選べる楽曲でも、企業の広告利用まで許されているとは限らない
- JASRAC等の著作権処理だけでは足りず、原盤権の許諾が必要になる場合がある
- TikTokで使える音源を、InstagramやYouTubeなど他のSNSに転用できるとは限らない
SNS運用を個人の感覚で行うと、後から権利者から高額な請求を受けることがあります。
企業アカウントで動画を投稿する場合は、商用利用可能な音源を使う、投稿前に権利チェックを行う、外部制作会社との契約で権利処理を明確にするなど、プロとしての権利管理体制を整えることが重要です。

有森FA法律事務所は、「広告表現に不安があるけれど、何から始めていいか分からない」という方々の力になりたいと考えています。インターネット広告やSNSの普及で、広告に関する法律リスクも多様化してきました。広告チェックに関しては、全国からのご相談に対応しており、WEB会議や出張相談も可能です。地域を問わず、さまざまなエリアの事業者様からご相談をいただいています。身近な相談相手として、お気軽にご連絡ください。
アフィリエイターが勝手に「癌が治る」と書いた場合、広告主も薬機法違反の責任を問われるのか
健康食品やサプリメントの販売では、アフィリエイト広告を活用して集客を行うケースが多くあります。
アフィリエイト広告は、成果報酬型で販売促進を行える便利な仕組みです。
一方で、広告主が直接作成していない記事やLPであっても、過激な効能効果表現が使われた場合、薬機法や景品表示法上の責任を問われるリスクがあります。
特に、健康食品について「癌が治る」「医者も驚く効果」「血糖値が正常化する」など、医薬品的な効能効果を標ぼうする表示は、薬機法違反として刑事事件に発展する可能性があります。
今回は、サプリメント販売会社から相談を受けた事例をもとに、アフィリエイターが作成した違法記事について、広告主が警察から事情聴取を求められた場合の対応を解説します。
相談内容:面識のないアフィリエイターの記事について大阪府警から連絡が来た
サプリメント販売会社の社長であるKさんから、次のようなご相談を受けました。
大阪府警から電話があり、当社の商品を紹介しているアフィリエイトサイトについて事情聴取したいと言われました。
確認すると、当社とは面識のないアフィリエイターが勝手に作ったサイトで、「癌が消えた」「医者も驚く効果」といったデタラメな体験談とともに、当社の商品が紹介されていました。
警察は「広告主である御社の指示ではないか」と疑っていますが、私は本当に指示していません。
ASPを通しているだけで、誰が記事を書いたのかも知りません。
それでも、広告主である私が逮捕されるのでしょうか。
Kさんとしては、「アフィリエイターが勝手に書いた記事であり、自社は関係ない」という認識でした。
しかし、現在の広告規制実務では、「アフィリエイターが勝手にやった」「ASPに任せていた」という説明だけでは十分とはいえません。
アフィリエイト広告でも薬機法違反になり得る
薬機法では、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器などの効能効果に関する虚偽・誇大広告が禁止されています。
また、未承認医薬品について効能効果を広告することも禁止されています。
健康食品やサプリメントは、原則として医薬品ではありません。
そのため、健康食品について「癌が治る」「肝臓病が改善する」「糖尿病に効く」など、疾病の治療・予防効果をうたうと、未承認医薬品の広告と評価されるおそれがあります。
今回の記事では、次のような表示が使われていました。
- 癌が消えた
- 医者も驚く効果
- 末期でも改善した
- 薬に頼らず治った
- 利用者の体験談として、病気が治ったかのように記載している
これらは、健康食品の広告表現として極めて危険です。
「アフィリエイターが勝手に書いた」では済まない理由
かつては、広告主側が「アフィリエイターが勝手に作った記事であり、当社は関与していない」と主張するケースも少なくありませんでした。
しかし、現在では、アフィリエイト広告に対する行政・警察の見方は厳しくなっています。
アフィリエイト広告では、広告主がASPを通じて商品紹介を依頼し、成果に応じて報酬を支払う仕組みになっています。
広告主が記事の細部を直接作成していなくても、自社商品の販売促進のために広告ネットワークを利用している以上、広告主が全く責任を負わないとは限りません。
つまり、「直接書いていない」というだけでは、広告主の責任を否定する決定的な理由にはなりません。
ステラ漢方事件以降、警察の見方は厳しくなっている
アフィリエイト広告と薬機法違反の関係で特に重要なのが、いわゆるステラ漢方事件です。
この事件では、健康食品について、医薬品として承認されていないにもかかわらず、「肝臓疾患の予防に効果がある」などと広告した疑いで、広告主である健康食品販売会社の従業員だけでなく、広告代理店や制作会社の関係者も薬機法違反容疑で逮捕されましたウェブ。
報道では、問題となった広告はアフィリエイト広告であり、第三者の体験談を装った記事風広告で、「脂肪肝が正常値に」「肝臓が半年で復活」といった医薬品的な効果が表示されていたとされていますウェブ。
この事件が広告業界に与えた影響は大きく、広告主、代理店、制作会社、アフィリエイターのいずれも、薬機法違反の責任を問われ得ることが明確になりました。
警察が見るポイントは「認識」と「黙認」
警察が広告主の関与を調べる際に重視するのは、単に記事を誰が書いたかだけではありません。
重要なのは、広告主が違法な広告の存在や内容を認識し、それを黙認または承認していたといえるかどうかです。
例えば、次のような事情があると、広告主の関与を疑われる可能性があります。
- ASPの管理画面で、問題サイトからの流入や獲得件数を確認していた
- 違法表現を含む記事のURLを社内で共有していた
- 「表現は強いが獲得できているので止めない」といったメールやチャットがある
- アフィリエイターに特別単価を出していた
- 過去に同様の違法表現を指摘されていたのに放置していた
- 広告代理店やASPに対して、強い訴求を求める指示をしていた
- 記事内容を事前に確認し、修正指示を出していた
- 苦情や行政指導を受けた後も掲載停止しなかった
このような証拠がある場合、「広告主は知らなかった」という説明は通りにくくなります。
特に、違法な表現で獲得が伸びていることを認識しながら放置していた場合、明示的な指示がなくても、黙示の共謀が疑われるリスクがあります。
まず行うべきこと:関与していないことを客観的に整理する
警察から事情聴取を求められた場合、最初に行うべきことは、事実関係の整理です。
感情的に「知らない」「関係ない」と主張するだけでは不十分です。
K社が違法記事の作成や掲載に関与していなかったことを、客観的資料に基づいて説明できるようにする必要があります。
今回のケースでは、次の資料を確認しました。
- ASPとの契約書
- 広告代理店との契約書
- アフィリエイト運用に関するメール・チャット
- ASP管理画面の閲覧権限やログ
- 成果承認のフロー
- 広告審査ルール
- 社内の広告チェック記録
- 過去にASPへ送付した法令遵守依頼
- 問題サイトを認識した日時
- 認識後に行った提携解除・掲載停止依頼の記録
- 当該アフィリエイターとの直接連絡の有無
- 特別単価交渉の有無
重要なのは、「知らなかった」という主張を、時系列と証拠で裏付けることです。
警察への対応方針:弁護士意見書で関与の不存在を説明
今回のケースでは、弁護士が意見書を作成し、警察に対して次の点を説明しました。
- K社は、ASPに対して法令遵守を求める契約・運用ルールを設けていた
- 問題となったアフィリエイトサイトの作成者とは直接の接点がなかった
- K社は、当該記事の内容を事前に確認・承認していなかった
- K社が「癌が治る」などの表現を指示した事実はない
- 問題サイトを認識した後、直ちにASPに掲載停止と提携解除を依頼した
- 同様の再発防止策として、アフィリエイト広告の審査体制を強化した
警察対応では、捜査機関に対して不必要に敵対的な姿勢を取るべきではありません。
一方で、事実と異なる疑いに対しては、証拠に基づいて明確に反論する必要があります。
刑事事件を回避できても、行政処分リスクは残る
仮に刑事事件として不起訴になったとしても、それで全てが終わるわけではありません。
薬機法、景品表示法、健康増進法などの広告規制では、行政からの指導、広告中止命令、措置命令、課徴金などのリスクが残ります。
特に景品表示法では、自社が供給する商品の表示について、広告主が責任を問われやすい構造になっています。
アフィリエイト広告であっても、自社商品の販売促進に使われている以上、表示管理体制が不十分であれば、広告主が行政対応を迫られる可能性があります。
また、薬機法についても、健康食品について医薬品的効能効果をうたう広告が出ていた場合、広告主としての管理体制が問題視される可能性があります。
そのため、警察対応と並行して、行政処分リスクを見据えた再発防止策を整える必要があります。
広告主に求められる管理体制
アフィリエイト広告を運用する広告主には、単にASPに任せるだけでなく、実効的な管理体制が求められます。
今回のケースでは、次のような体制を整備しました。
1. アフィリエイト広告の事前審査制
アフィリエイターが自由に記事を公開する方式を改め、事前に広告内容を確認する制度に変更しました。
具体的には、次のルールを設けました。
- アフィリエイターが作成した記事・LPは、公開前にK社へ提出する
- K社または弁護士が薬機法・景品表示法の観点から確認する
- 承認済みの広告だけを掲載可能とする
- 未承認広告から発生した成果は承認しない
- 違反広告を掲載したアフィリエイターは提携解除の対象とする
特に健康食品、サプリメント、化粧品、医薬部外品などは、表現規制が厳しい分野です。
成果報酬型だからといって、広告内容を事後確認だけにする運用は危険です。
2. 禁止表現リストの整備
アフィリエイター向けに、使用禁止表現のリストを作成しました。
例えば、サプリメント広告では、次のような表現を禁止しました。
- 癌が治る
- 糖尿病に効く
- 血圧が下がる
- 医師も認めた治療効果
- 薬をやめられる
- 病院に行かずに改善
- ○日で完治
- 副作用なし
- 体験談として疾病の改善を示す表現
- 医薬品と誤認させる表現
禁止表現リストは、契約書や管理画面に載せるだけでなく、アフィリエイターが実際に理解できる形で配布することが重要です。
3. 定期的なパトロール
公開後の広告についても、定期的に巡回監視を行う体制を構築しました。
具体的には、次の方法を組み合わせました。
- 商品名での検索
- 広告主名での検索
- ASP管理画面上の高成果メディアの確認
- SNSや動画サイトでの商品紹介の確認
- 外部業者による広告パトロール
- 違反疑義サイトのスクリーンショット保存
- 違反発見時の削除依頼・提携解除記録の保存
重要なのは、単に「監視している」と言うだけでなく、監視記録を残すことです。
後に行政や警察から説明を求められた際、いつ、どの範囲を確認し、どのような対応をしたのかを示せるようにしておく必要があります。
4. ASP・代理店との契約改訂
ASPや広告代理店との契約も見直しました。
新たに、次のような条項を追加しました。
- 薬機法、景品表示法、健康増進法、特定商取引法等を遵守する義務
- アフィリエイターにも同等の遵守義務を課す義務
- 広告素材・記事・LPの事前提出義務
- 未承認広告の掲載禁止
- 違反発覚時の即時削除義務
- 違反アフィリエイターの提携解除義務
- 違反広告から発生した成果報酬の不払い
- 広告主が被った損害、弁護士費用、調査費用の賠償義務
- 調査協力義務
- 掲載媒体・アフィリエイター情報の開示義務
契約で責任分担を明確にしておくことは、違反発生時の対応だけでなく、平時の抑止力としても重要です。
5. 成果承認フローの見直し
従来は、売上が発生すれば機械的に成果承認していました。
しかし、違法広告から発生した売上に報酬を支払ってしまうと、違法広告を事実上後押ししていたと評価されるおそれがあります。
そこで、次のような成果承認フローに変更しました。
- 高成果メディアは成果承認前に広告内容を確認する
- 未承認記事からの成果は保留する
- 違反表現が確認された場合は成果否認する
- 違反が重大な場合は提携解除する
- 成果承認・否認の理由を記録する
「成果が出ているから放置する」という運用は、最も危険です。
むしろ、成果が急増している広告ほど、表現が過激になっていないか確認する必要があります。
今回の解決:不起訴となったが、運用体制を全面的に見直し
今回のケースでは、K社が違法記事の作成に関与していなかったこと、当該サイトを認識した後に速やかに掲載停止を求めたこと、ASPに対して法令遵守を求める運用をしていたことなどを説明し、結果としてK社長は不起訴となりました。
もっとも、警察から事情聴取を受けること自体、経営者にとって大きな負担です。
また、不起訴になったからといって、アフィリエイト広告の管理を従来どおりに戻すことはできません。
K社では、その後、アフィリエイト広告を全面的に見直し、事前審査、定期パトロール、契約改訂、成果承認フローの変更を実施しました。
アフィリエイト広告を運用する企業のチェックポイント
サプリメント、健康食品、化粧品、医薬部外品などを扱う企業は、少なくとも次の点を確認する必要があります。
- アフィリエイターが作成する記事を事前に確認しているか
- ASPや代理店に任せきりになっていないか
- 薬機法・景品表示法上の禁止表現リストを整備しているか
- 「癌が治る」「医師も認めた」などの疾病・治療効果表現を禁止しているか
- 高成果メディアの広告内容を定期的に確認しているか
- 違反広告を発見した場合の削除・提携解除フローがあるか
- 違反対応の記録を残しているか
- ASP・代理店契約に法令遵守義務や損害賠償条項を入れているか
- 未承認広告からの成果を否認できる仕組みがあるか
- 広告審査を弁護士や専門部署が確認する体制があるか
- 警察・行政から連絡があった場合の初動対応フローがあるか
まとめ:アフィリエイト広告は「任せる広告」ではなく「管理する広告」
アフィリエイト広告は、広告主が直接記事を書かなくても、多数の媒体で商品を紹介してもらえる強力な広告手法です。
しかし、その一方で、アフィリエイターが成果を上げるために過激な表現を使うリスクがあります。
特に健康食品やサプリメントについて、疾病の治療・予防効果をうたう表現が使われると、薬機法違反として刑事事件に発展する可能性があります。
「アフィリエイターが勝手に書いた」
「ASPに任せていた」
「広告主は記事を作っていない」
このような説明だけでは、広告主の責任を免れるには不十分です。
広告主としては、アフィリエイト広告を開始する段階から、事前審査、禁止表現リスト、定期パトロール、契約条項、成果承認フローを整備し、違法広告を発生させない仕組みを作る必要があります。
「売れれば何でもいい」という広告運用は、もはや通用しません。
アフィリエイト広告は、強力な集客手段であると同時に、管理を誤れば刑事事件や行政処分につながる諸刃の剣です。
サプリメントや健康食品の広告主は、薬機法・景品表示法に適合した管理体制の下で、慎重に運用することが重要です。

有森FA法律事務所は、「広告表現に不安があるけれど、何から始めていいか分からない」という方々の力になりたいと考えています。インターネット広告やSNSの普及で、広告に関する法律リスクも多様化してきました。広告チェックに関しては、全国からのご相談に対応しており、WEB会議や出張相談も可能です。地域を問わず、さまざまなエリアの事業者様からご相談をいただいています。身近な相談相手として、お気軽にご連絡ください。
「解約ボタンが見つからない」と消費者センターに通報された定期通販サイトの緊急改修
健康食品やサプリメントの定期通販では、「初回500円」「初回限定価格」「お試し価格」といった訴求がよく使われます。
しかし、初回価格を大きく表示する一方で、定期購入であること、2回目以降の価格、解約条件などを分かりにくく表示している場合、特定商取引法上の問題が生じる可能性があります。
特に、2022年6月に施行された改正特定商取引法により、通信販売の「最終確認画面」における表示義務は大きく強化されました。定期購入であることや解約条件を分かりにくくして購入率を上げるような画面設計は、現在では非常にリスクの高い運用です。
今回は、健康食品D2Cメーカーから相談を受けた事例をもとに、消費者センターから指導を受けた定期通販サイトの問題点と、カートシステムの改修対応について解説します。
相談内容:「解約できない」という相談が消費者センターに多数寄せられた
健康食品D2CメーカーのEC責任者であるJさんから、次のようなご相談を受けました。
当社では、「初回500円」のサプリメント定期コースを販売しています。
先日、消費者センターから連絡があり、「御社のサイトで申し込んだ高齢者から、解約の仕方が分からない、電話もつながらない、これは詐欺ではないかという相談が多数寄せられている」と指導を受けました。
解約方法はLINEまたは電話のみにしており、購入画面では「定期購入」の文字を小さく表示して、CVRを上げる工夫をしていました。
しかし、消費者センターの担当者からは「特商法違反の疑いがある。全額返金に応じるべきだ」と言われています。
当社のサイトは違法なのでしょうか。
Jさんとしては、「利用規約や特商法に基づく表記には定期購入と書いている」「解約方法も記載している」という認識でした。
しかし、通信販売では、単にどこかに記載していれば足りるわけではありません。
特に、注文確定直前の「最終確認画面」で、消費者が契約内容を容易に確認できるように表示しているかが重要です。
法的見解:現在の画面仕様は特商法違反となる可能性が高い
Jさんにカートの最終確認画面を見せてもらったところ、現在の画面仕様は、改正特定商取引法に違反する可能性が高いものでした。
改正特商法では、通信販売の最終確認画面において、消費者が注文確定の直前に、重要な契約条件を簡単に確認できるよう表示することが求められています。
表示すべき主な事項は、次の6項目です。
- 分量
定期購入の場合は、定期コースであること、各回の数量、回数、総量など - 販売価格・対価
初回価格だけでなく、2回目以降の価格、送料、支払総額など - 支払の時期・方法
各回の請求時期、支払方法など - 引渡し・提供時期
初回発送時期、2回目以降の発送時期など - 申込期間
申込期限がある場合、その具体的な期間 - 申込みの撤回・解除に関する事項
解約方法、解約期限、連絡先、違約金や不利益の有無など
消費者庁も、通信販売の最終確認画面では、分量、販売価格、支払時期、引渡時期、申込期間、申込みの撤回・解除に関する事項を簡単に最終確認できるよう表示する必要があり、表示していない場合や誤認させる表示をした場合は特商法違反となると説明しています。
問題点1:「定期購入」であることが分かりにくい
Jさんのサイトでは、ファーストビューに「初回500円」という表示が大きく出ていました。
一方で、「定期購入」「2回目以降も自動で商品が届く」「解約しない限り継続する」といった重要情報は、小さな文字で、画面下部に表示されていました。
このような画面設計では、消費者が「1回限りのお試し購入」と誤認するおそれがあります。
定期購入である以上、最終確認画面では、少なくとも次のような情報を明確に表示する必要があります。
- 定期購入であること
- 何回目まで購入義務があるのか
- 回数縛りがない場合でも、解約しない限り継続すること
- 各回の商品数量
- 各回の発送予定
- 支払総額または一定期間の支払額の目安
「規約に書いてある」「ページの下までスクロールすれば分かる」というだけでは不十分と評価される可能性があります。
問題点2:2回目以降の価格と支払総額が分かりにくい
今回のサイトでは、初回価格である「500円」が大きく強調されていました。
一方で、2回目以降の価格、送料、支払総額は、目立たない場所に小さく表示されていました。
定期通販では、初回価格が安くても、2回目以降の価格が高くなることが少なくありません。
そのため、最終確認画面では、初回価格だけでなく、2回目以降の価格や支払総額を消費者が容易に確認できるようにする必要があります。
例えば、次のような表示が望まれます。
初回:500円(税込)
2回目以降:6,980円(税込)
お届け回数:解約のお申し出がない限り継続
3回受け取った場合の支払総額:14,460円(税込)
送料:各回○○円
初回価格だけを強調し、2回目以降の価格や総額を分かりにくくする画面は、定期購入トラブルの典型例です。
問題点3:解約条件が注文後にしか確認できない
最も問題だったのは、解約条件の表示です。
Jさんのサイトでは、「注文する」ボタンを押した後に、初めて解約条件のリンクが表示される仕様になっていました。
しかし、解約方法や解約期限は、注文確定前に消費者が確認できなければ意味がありません。
特に、定期購入では、解約できる時期、解約方法、連絡先、受付時間などが購入判断に直結します。
最終確認画面では、例えば次の情報を明確に表示する必要があります。
- 解約は次回発送予定日の何日前までに行う必要があるか
- 解約方法は電話、メール、マイページ、LINEなどのいずれか
- 電話番号、受付時間
- LINEでの解約手順
- 解約時に違約金や追加費用が発生するか
- 回数縛りがある場合、途中解約できるか
解約方法を電話やLINEに限定する場合には、その方法が実際に機能していることも重要です。
「電話がつながらない」「LINEの手続が複雑で完了できない」という状態では、表示上は解約可能に見えても、実質的には解約を妨げていると評価されるおそれがあります。
問題点4:「注文する」ボタンの文言が不明確
Jさんのサイトでは、最終確認画面のボタン文言が単に「申し込む」となっていました。
しかし、定期購入であることが分かりにくい画面で「申し込む」とだけ表示すると、消費者は「初回500円の商品を1回だけ申し込む」と誤認する可能性があります。
定期購入の場合には、注文ボタンの文言にも注意が必要です。
例えば、次のような文言に変更することが考えられます。
注文を確定する(定期購入)
または、
定期コースの注文を確定する
ボタン文言だけで全ての説明が足りるわけではありませんが、最終確認画面全体として、消費者が「定期購入を申し込む」と認識できる設計にすることが重要です。
消費者には取消権が認められる可能性がある
改正特商法では、最終確認画面の表示に不備があり、消費者が誤認して申込みをした場合、消費者が申込みの意思表示を取り消せる場合があります。
つまり、事業者が「返品不可」「定期購入なので解約は次回以降」「規約に同意している」と主張しても、最終確認画面の表示が不十分であれば、返金対応が必要になる可能性があります。
今回のケースでは、以下の事情が重なっていました。
- 初回500円の表示が大きく、定期購入であることが分かりにくい
- 2回目以降の価格が目立たない
- 解約条件が注文確定前に十分表示されていない
- 解約方法がLINEまたは電話に限定されている
- 電話がつながりにくいという苦情が多数ある
- 高齢者からの相談が複数寄せられている
このような状況では、消費者センターから返金対応を求められるリスクが高く、個別事案については誠実な解決を優先すべきと判断しました。
消費者センターへの対応:まずは誠実に是正方針を示す
消費者センターから指導を受けた場合、最初に重要なのは、感情的に反論しないことです。
「規約に書いてあるから返金しない」
「購入者が読んでいないだけだ」
「当社のカート仕様は以前からこの形だ」
このような対応をすると、消費者センターとの関係が悪化し、相談件数の増加、消費者庁や都道府県への情報提供、適格消費者団体による差止請求など、より大きな問題に発展するおそれがあります。
今回のケースでは、次の方針を助言しました。
- 現在の最終確認画面に分かりにくい点があったことを認める
- 問題となっている申込みについては、速やかに解約・返金に応じる
- 電話がつながりにくい状況を改善する
- 解約方法を複数用意する
- カートシステムを改修する
- 改修予定と再発防止策を消費者センターに報告する
ここで重要なのは、「返金するかどうか」だけではありません。
今後同じトラブルが発生しないよう、サイトの表示と運用を根本的に改善することです。
カートシステムの改修:最終確認画面で一目で分かる表示にする
根本的な解決のため、Jさんの会社では、カートシステムの最終確認画面を改修しました。
改修の中心は、次の3点です。
改修1:定期購入であることを明確に表示
修正前は、「初回500円」の表示が最も目立ち、「定期購入」の文字は小さく表示されていました。
修正後は、商品名欄や注文内容欄に、次のように明記しました。
商品名:サプリメント定期コース
初回500円、2回目以降6,980円で自動継続する定期購入です。
解約のお申し出がない限り、毎月1回商品をお届けします。
これにより、消費者が注文確定前に「定期購入であること」を認識できるようにしました。
改修2:2回目以降の価格・支払総額を表示
修正後の最終確認画面では、初回価格だけでなく、2回目以降の価格や一定期間の支払額を同じ画面内に表示しました。
初回:500円(税込)
2回目以降:6,980円(税込)
送料:各回○○円
3回受け取った場合の支払総額:14,460円(税込)
支払方法:クレジットカード決済
支払時期:各回の商品発送時に決済
価格を大きく見せる工夫よりも、誤認を防ぐ表示を優先することが重要です。
改修3:解約方法・期限・連絡先を最終確認画面に表示
修正前は、解約条件が注文後のリンクでしか確認できませんでした。
修正後は、最終確認画面内に次のような情報を表示しました。
解約をご希望の場合は、次回発送予定日の10日前までに、マイページ、メール、電話またはLINEからお手続きください。
電話番号:○○-○○○○-○○○○
受付時間:平日10時から17時まで
LINEで解約する場合は、メニュー内の「定期コース解約」からお手続きください。
解約手数料はかかりません。
また、電話がつながらないという苦情が出ていたため、電話以外の解約手段も整備しました。
解約方法を分かりやすくすることは、短期的には解約率を上げるように見えるかもしれません。
しかし、解約できないことによるクレーム、チャージバック、SNS炎上、行政対応のコストを考えると、長期的には事業者にとっても有益です。
注文ボタンの文言を変更
注文ボタンについても、単なる「申し込む」から、次のように変更しました。
注文を確定する(定期購入)
さらに、ボタンの直前に、以下の確認文を追加しました。
上記の定期購入条件、2回目以降の価格、解約方法を確認しました。
これにより、消費者が注文確定前に重要事項を確認しやすい構成にしました。
CVRよりも、クレームを生まない購入体験を優先する
改修にあたり、Jさんは次のように懸念していました。
これだけ定期購入だと大きく書くと、CVRが落ちるのではないでしょうか。
確かに、定期購入であることや2回目以降の価格を明確に表示すれば、短期的には購入率が下がる可能性があります。
しかし、分かりにくい表示で購入数を増やしても、後から大量の解約・返金・チャージバックが発生すれば、事業としては不安定になります。
さらに、消費者センターへの相談が増えれば、行政指導や処分、適格消費者団体からの差止請求、決済代行会社の審査落ちなど、事業継続に直結するリスクが生じます。
定期通販で本当に重要なのは、誤認による購入を増やすことではありません。
商品内容、価格、解約条件に納得した顧客に購入してもらい、長期的な信頼関係を築くことです。
改修後の変化:クレームとチャージバックが減少
カートシステムの改修後、一時的にCVRは低下しました。
しかし、その後、次のような改善が見られました。
- 「定期購入だと思わなかった」という苦情が減少
- 「解約できない」という消費者センターへの相談が減少
- 電話窓口へのクレームが減少
- チャージバックやカード会社への不正利用申請が減少
- 決済代行会社の審査が通りやすくなった
- 顧客対応にかかる社内工数が減少
また、弁護士監修のもとで「特定商取引法に基づく表記」や返品・解約ポリシーも見直し、広告、LP、カート、注文確認メールの表示を統一しました。
これにより、サイト全体として、消費者が契約内容を理解しやすい導線に改善することができました。
定期通販サイトが確認すべきチェックポイント
健康食品、化粧品、サプリメントなどの定期通販を運営する場合、少なくとも次の点を確認する必要があります。
- 最終確認画面に「定期購入」であることを明確に表示しているか
- 初回価格だけでなく、2回目以降の価格を表示しているか
- 支払総額または一定期間の支払額の目安を表示しているか
- 各回の支払時期を表示しているか
- 初回と2回目以降の発送時期を表示しているか
- 解約方法、解約期限、連絡先を注文確定前に表示しているか
- 解約方法が実際に機能しているか
- 電話がつながらない状態を放置していないか
- LINE解約の手続が複雑すぎないか
- 「初回500円」「お試し」などの表示で1回限りと誤認させていないか
- 注文ボタンの文言が定期購入であることと矛盾していないか
- 特商法に基づく表記、利用規約、LP、カート表示の内容が一致しているか
- 注文確認メールにも契約条件を分かりやすく記載しているか
まとめ:定期通販は「解約しやすさ」まで含めて設計する必要がある
定期通販ビジネスでは、初回価格を下げて新規顧客を獲得する手法がよく使われます。
しかし、「定期購入であることを分かりにくくする」「2回目以降の価格を目立たなくする」「解約方法を複雑にする」といった方法で購入率を上げようとすると、特商法違反のリスクが高まります。
特に、最終確認画面では、消費者が注文確定前に次の情報を容易に確認できるようにする必要があります。
- 定期購入であること
- 初回・2回目以降の価格
- 支払時期・方法
- 発送時期
- 申込期間
- 解約方法・解約期限・連絡先
定期通販において、解約のしやすさは単なる顧客サービスではありません。
法令遵守と事業継続のために不可欠な要素です。
小手先のカート設計で購入率を上げても、後から返金、行政対応、決済停止、炎上対応に追われるようでは意味がありません。
健康食品、化粧品、サプリメントなどのD2C通販を運営する事業者は、LP制作やカート改修の段階から、特定商取引法に適合した表示設計になっているかを確認することが重要です。

有森FA法律事務所は、「広告表現に不安があるけれど、何から始めていいか分からない」という方々の力になりたいと考えています。インターネット広告やSNSの普及で、広告に関する法律リスクも多様化してきました。広告チェックに関しては、全国からのご相談に対応しており、WEB会議や出張相談も可能です。地域を問わず、さまざまなエリアの事業者様からご相談をいただいています。身近な相談相手として、お気軽にご連絡ください。
美容クリニックのビフォーアフター写真は削除すべき?保健所から医療広告ガイドライン違反を指摘された場合の対応
美容クリニックのホームページやInstagramでは、施術前後の変化を示す「ビフォーアフター写真」や症例写真が、集患上重要な役割を果たすことがあります。
しかし、ビフォーアフター写真は、医療広告ガイドライン上、特に注意が必要な広告表現です。
必要な説明が不足したまま掲載していると、保健所から「医療広告ガイドライン違反の疑いがある」として、修正指導や掲載中止を求められることがあります。
今回は、実際に美容外科クリニックから相談を受けた事例をもとに、ビフォーアフター写真を削除せず、医療広告ガイドラインに適合する形で掲載を継続するための対応方法を解説します。
相談内容:保健所から「ビフォーアフター写真を修正・削除するように」と指導された
美容外科クリニックを開業して3年になるI医師から、次のようなご相談を受けました。
ホームページやInstagramに、二重整形や鼻整形などの症例写真を多数掲載していました。
ところが先日、管轄の保健所から連絡があり、「医療広告ガイドライン違反の疑いがあるため、直ちに修正するか、掲載を中止してください」と指導を受けました。
特に「詳しい説明のないビフォーアフター写真は禁止です」と言われています。
しかし、症例写真をすべて削除すると、新規患者の問い合わせが大きく減ってしまうのではないかと不安です。
写真を残したまま、適法に修正する方法はないのでしょうか。
美容医療では、患者が施術を検討する際に症例写真を参考にするケースが多くあります。
そのため、ビフォーアフター写真をすべて削除することは、クリニックの集患に大きな影響を与えかねません。
もっとも、医療広告ガイドラインに違反した状態で掲載を続けると、行政指導にとどまらず、報告命令、立入検査、中止命令などにつながるリスクもあります。
ビフォーアフター写真は「全面禁止」ではない
医療広告ガイドラインでは、治療等の内容や効果について患者に誤認を与えるおそれのあるビフォーアフター写真は、原則として広告できないものとされています。
もっとも、ビフォーアフター写真がすべて禁止されているわけではありません。
術前・術後の写真に、通常必要とされる治療内容、費用、主なリスク・副作用等の詳細な説明を付すことで、広告として掲載できる場合があります。
つまり、問題は「ビフォーアフター写真を載せていること」自体ではなく、写真だけを掲載し、治療内容・費用・リスク・副作用などの重要情報を十分に説明していないことにあります。
今回の違反ポイント:写真の下に「二重埋没法」としか書かれていなかった
I医師のクリニックのホームページを確認したところ、症例写真の下には、次のような簡単な記載しかありませんでした。
二重埋没法
このような表示では、患者にとって次の情報が分かりません。
- どのような施術なのか
- 費用はいくらかかるのか
- 治療期間や通院回数はどの程度か
- どのようなリスクや副作用があるのか
- 腫れや内出血、左右差などが生じる可能性があるのか
特に自由診療の美容医療では、費用やリスク・副作用に関する情報が不足すると、患者が施術内容や効果を誤認するおそれがあります。
そのため、写真の直下に施術名だけを記載する方法は、医療広告ガイドライン上、非常にリスクの高い掲載方法です。
解決策:症例写真ごとに必要情報を追記する
今回のケースでは、症例写真をすべて削除するのではなく、各症例写真の近くに必要な説明を追記する方針を取りました。
必要な情報を別ページにまとめて掲載するだけでは、患者が症例写真を見た際に十分な情報を確認できない可能性があります。
そのため、症例写真のすぐ近くに、患者が見落とさない形で情報を表示することが重要です。
具体的には、各症例写真の下に、以下のような項目を追加しました。
症例写真に併記すべき表示例
施術名
○○式二重埋没法
施術の説明
医療用の糸を使用して、まぶたに二重のラインを形成する施術です。切開を伴わず、患者様のまぶたの状態に応じてデザインを行います。
施術の価格
88,000円(税込)
※モニター価格を表示する場合には、通常価格・適用条件・追加費用の有無も併記します。
治療期間・回数
通常1回の施術です。
施術後の経過確認のため、必要に応じて再診を行う場合があります。
主なリスク・副作用
腫れ、内出血、痛み、感染、左右差、糸の露出、ラインの消失、再施術が必要となる可能性があります。
効果や経過には個人差があります。
ポイントは「リスク・副作用」を正直に書くこと
美容医療の広告では、どうしても「きれいになった」「変化が分かりやすい」といったメリットを前面に出しがちです。
しかし、医療広告ガイドライン上は、良い結果だけを強調し、リスクや副作用を小さく扱うことは問題となり得ます。
ビフォーアフター写真を掲載する場合には、治療内容や費用だけでなく、主なリスク・副作用も分かりやすく表示する必要があります。
特に美容医療では、以下のような記載漏れが起こりやすいため注意が必要です。
- 「腫れ」「内出血」だけでなく、感染や左右差なども記載しているか
- ダウンタイムの目安を記載しているか
- 効果には個人差があることを記載しているか
- 未承認医薬品・未承認医療機器を使用する場合に必要な説明をしているか
- モニター価格を表示する場合に、通常価格や条件を明示しているか
「ネガティブな情報を書くと患者が離れるのではないか」と考えて記載を避けると、かえって医療広告ガイドライン違反のリスクが高まります。
InstagramやSNSの症例写真にも注意が必要
今回のクリニックでは、ホームページだけでなくInstagramにも多数の症例写真が掲載されていました。
SNS投稿であっても、医療機関名や施術内容が分かり、患者の来院を誘引する内容であれば、医療広告として規制対象になり得ます。
そのため、Instagramの症例投稿についても、少なくとも次の点を確認する必要があります。
- 写真だけを掲載していないか
- 施術内容、費用、治療期間・回数、リスク・副作用を記載しているか
- 投稿文の中で効果を断定していないか
- 「必ず変わる」「誰でも自然に仕上がる」などの誇大表現がないか
- 写真を加工・修正していないか
- ハッシュタグやプロフィール欄の記載を含めて、全体として誤認を招かないか
ホームページを修正しても、SNSに違反表示が残っていると、引き続き指導対象となる可能性があります。
サイト全体の広告表現も併せてチェック
保健所から指導を受けた場合、問題はビフォーアフター写真だけとは限りません。
今回も、ホームページ全体を確認したところ、次のような表現が見つかりました。
NG表現1:「地域No.1」「最高峰の技術」
「地域No.1」「最高峰」「トップクラス」「最高水準」などの表現は、他の医療機関と比較して自院が優れていると受け取られる可能性があります。
客観的な根拠がないまま使用すると、比較優良広告や誇大広告として問題となるおそれがあります。
修正例
修正前
地域No.1の美容外科クリニック
最高峰の技術で理想の二重を実現
修正後
二重施術に対応している美容外科クリニックです。
患者様のまぶたの状態やご希望を踏まえ、施術方法をご提案します。
NG表現2:「キャンペーン!今だけ半額」
「今だけ半額」「期間限定キャンペーン」「大幅割引」などの表現は、医療広告において慎重な検討が必要です。
価格の安さを過度に強調すると、患者の冷静な判断を妨げる広告と評価される可能性があります。
また、モニター価格やキャンペーン価格を掲載する場合には、通常価格、適用条件、期間、追加費用の有無などを明確に表示する必要があります。
修正例
修正前
今だけ半額キャンペーン実施中!
修正後
モニター価格:88,000円(税込)
通常価格:132,000円(税込)
対象条件:症例写真の掲載に同意いただける方
適用期間:2026年○月○日から2026年○月○日まで
追加費用の有無:診察料・麻酔代を含みます。
NG表現3:患者の体験談をホームページに掲載している
美容医療では、患者の口コミや体験談を掲載したくなることがあります。
しかし、医療広告では、患者の主観または伝聞に基づく、治療等の内容または効果に関する体験談の広告は禁止されています。
仮に内容が事実であっても、治療効果に関する体験談を自院のホームページやSNSに掲載することは避けるべきです。
修正方針
- 治療効果に関する体験談はホームページから削除する
- 「二重になって人生が変わりました」などの主観的感想は掲載しない
- 口コミサイトの内容を自院HPに転載しない
- Googleマップ等の口コミへの誘導も、表示方法によっては慎重に検討する
- 接遇や設備に関する一般的な感想であっても、治療効果と結び付かないよう注意する
保健所への改善報告も重要
ホームページやSNSの修正が完了した後は、保健所に対して改善内容を報告しました。
今回のケースでは、弁護士が以下の内容を整理した改善報告書を作成しました。
- 指摘を受けた掲載箇所
- 修正前の表示内容
- 修正後の表示内容
- 医療広告ガイドライン上の検討内容
- 今後の再発防止策
- SNS投稿を含めた確認体制
単に「修正しました」と伝えるだけではなく、法令・ガイドラインを理解したうえで、適切に対応したことを示すことが重要です。
その結果、今回のケースでは、追加の立入検査や中止命令に進むことなく、行政指導への対応を完了することができました。
美容クリニックが医療広告で注意すべきチェックポイント
美容クリニックのホームページやLP、SNSを運用する際には、少なくとも以下の点を確認する必要があります。
- ビフォーアフター写真に、治療内容・費用・治療期間・回数・リスク・副作用を併記しているか
- 症例写真の近くに必要情報を表示しているか
- 費用を「○円〜」だけで表示していないか
- リスクや副作用を小さすぎる文字で表示していないか
- 写真の加工・修正により効果を強調していないか
- 「No.1」「最高」「絶対安全」などの表現を使っていないか
- 患者の体験談を掲載していないか
- SNS投稿も医療広告ガイドラインに適合しているか
- モニター価格やキャンペーン価格の条件を明確にしているか
- 保健所から指導を受けた場合の対応記録を残しているか
まとめ:ビフォーアフター写真は「削除」ではなく「適法な表示設計」が重要
美容クリニックのビフォーアフター写真は、医療広告ガイドライン上、慎重な対応が必要です。
しかし、必要な情報を適切に表示すれば、症例写真を活用しながら、患者にとって有益な情報提供を行うことは可能です。
重要なのは、次の3点です。
- 写真ごとに、治療内容・費用・治療期間・回数・リスク・副作用を分かりやすく表示すること
- 「地域No.1」「最高峰」「今だけ半額」など、誤認や過度な誘引につながる表現を避けること
- 保健所から指導を受けた場合には、速やかに修正し、改善報告まで丁寧に行うこと
美容医療の広告は、集患上重要である一方、医療広告ガイドライン、医療法、景品表示法、薬機法など、複数の規制が関係します。
自己判断で対応すると、修正したつもりでも違反状態が残ってしまうことがあります。
ホームページ、LP、Instagram、リスティング広告などを制作・公開する段階から、広告法務に詳しい弁護士によるチェックを受けることが、クリニック経営の安定につながります。

有森FA法律事務所は、「広告表現に不安があるけれど、何から始めていいか分からない」という方々の力になりたいと考えています。インターネット広告やSNSの普及で、広告に関する法律リスクも多様化してきました。広告チェックに関しては、全国からのご相談に対応しており、WEB会議や出張相談も可能です。地域を問わず、さまざまなエリアの事業者様からご相談をいただいています。身近な相談相手として、お気軽にご連絡ください。
リスティング広告で競合他社名をキーワード登録した事例
1 相談内容
BtoBサービスを提供する会社のマーケティング担当者から、リスティング広告の運用について相談を受けた事例です。
同社では、検索連動型広告の運用において、競合会社であるH社の社名やサービス名をキーワードとして登録し、入札していました。H社のサービス名で検索したユーザーに自社広告を表示し、比較検討の候補に入れてもらうためです。
ところが、H社の代理人弁護士から内容証明郵便が届きました。そこには、「当社の登録商標を無断で使用しており、商標権侵害に当たる。直ちにキーワード登録を削除し、損害賠償を支払え」と記載されていました。
| 項目 | 内容 |
| 相談者 | BtoBサービス提供会社のマーケティング担当者 |
| 問題となった広告 | Google広告等の検索連動型広告 |
| 登録したキーワード | 競合H社の社名・サービス名 |
| 相手方の主張 | 商標権侵害、キーワード削除、損害賠償 |
| 相談者の認識 | 競合名への入札はマーケティング上よくある手法 |
| 主な論点 | キーワード登録が商標法上の「使用」に当たるか |
2 法的見解:キーワード登録だけなら、商標権侵害とはいえない可能性が高い
結論からいうと、競合他社の社名やサービス名を、リスティング広告の管理画面上でキーワードとして登録する行為だけで、直ちに商標権侵害が成立する可能性は高くありません。
検索連動型広告に関する裁判例では、他社の商標をキーワードとして検索した検索結果ページに広告を掲載する行為について、商標法上の「標章の使用」に該当すると認めることは難しいと判断された例があります。
その理由は、キーワード登録は広告配信の条件設定にすぎず、通常、ユーザーの画面上に他社商標が表示されるわけではないからです。商標法上問題となるのは、商標が商品・サービスの出所を示す表示として使用され、需要者に混同を生じさせるような場合です。
| 行為 | 商標権侵害リスク |
| 管理画面で競合名をキーワード登録するだけ | 原則として低い |
| 競合名で検索したユーザーに自社広告を表示する | 広告内容次第 |
| 広告文に競合名を表示する | 高い |
| 「公式」「提携」「認定」などと誤認させる | 非常に高い |
| リンク先ページで競合名を比較・批判的に使用する | 内容次第で商標法・不正競争防止法・景表法リスク |
| 競合ロゴを無断使用する | 高い |
そのため、本件でG社が行っていた「H社名をキーワードとして登録し、検索時にG社広告を表示させる」という行為だけをもって、H社の削除請求や損害賠償請求が当然に認められるとはいえません。
3 注意すべきは「広告文」と「リンク先ページ」
もっとも、キーワード登録が比較的安全だからといって、リスティング広告全体が無条件に安全というわけではありません。
実務上、最も問題になりやすいのは、検索結果画面に表示される広告文のタイトルや説明文です。他社商標を検索キーワードとして設定する行為自体は原則として商標権侵害には当たらないと解される一方で、広告文やリンク先ページで他社を装う表示、公式・正規・認定・提携などと誤認させる表示を行うことがリスクの核心とされています。
たとえば、次のような広告文は危険です。
| 危険な広告文 | 問題点 |
| H社公式パートナーはこちら | 提携・公式関係があるように誤認させる |
| H社より高機能なG社サービス | 他社商標を広告文で使用し、比較広告リスクもある |
| H社からの乗り換えならG社 | 他社商標を誘引目的で使用している |
| H社導入をご検討の方へ | H社名を広告文で使用して集客している |
| H社代替サービスならG社 | 比較・代替表示として商標・不競法・景表法上の検討が必要 |
一方で、次のような広告文であれば、H社名が表示されていないため、商標権侵害リスクは相対的に低くなります。
| 比較的安全な広告文 | 留意点 |
| BtoB業務管理ツールならG社 | 他社名を出していない |
| 業務効率化を支援するクラウドサービス | 一般的なサービス説明 |
| 導入実績多数の法人向けSaaS | 根拠資料は必要 |
| 無料トライアル受付中 | 表示内容の正確性に注意 |
本件では、広告文を確認したところ、タイトル・説明文にはH社名やH社サービス名は含まれていませんでした。リンク先ページにもH社名、H社ロゴ、H社サービスとの比較表は掲載されていませんでした。そのため、少なくとも商標権侵害として損害賠償義務を負うリスクは高くないと判断しました。
4 自動挿入機能・動的広告には注意
G社では明示的にH社名を広告文に入れていませんでしたが、リスティング広告では、意図しない表示が発生することがあります。
特に注意すべきなのは、次のような機能です。
| 機能・設定 | リスク |
| キーワード挿入機能 | 検索語句や登録キーワードが広告文に自動挿入されることがある |
| 動的検索広告 | サイト内容に基づき広告見出しが自動生成されることがある |
| 部分一致 | 想定外の競合名・関連語句で広告が表示されることがある |
| 自動作成アセット | 広告文が自動生成・補完されることがある |
| LP内比較ページ | 広告文に出なくてもリンク先で他社商標を使っている場合がある |
リスティング広告では、部分一致の設定により、意図せず競合他社の商品名・サービス名で広告が表示される場合があります。
そのため、G社には、H社名やH社サービス名を広告文に表示させないだけでなく、自動挿入機能や動的広告の設定を確認し、必要に応じてH社名を除外キーワードや広告文禁止語として管理するよう助言しました。
5 H社への回答方針
H社代理人からの内容証明を無視することは避けるべきです。法的に反論可能な場合でも、無視すれば、相手方が広告プラットフォームに通報したり、SNSや業界内で問題化したり、訴訟前提の対応に進んだりする可能性があります。
そこで、G社には、弁護士名で次の趣旨の回答書を送付しました。
当社は、貴社商標を広告文、広告見出し、説明文またはリンク先ページにおいて、出所表示として使用しておりません。
検索連動型広告におけるキーワード設定は、広告配信条件の設定にすぎず、需要者に対して貴社商標を表示するものではありません。そのため、当該キーワード設定自体が商標法上の商標の使用に該当し、商標権侵害を構成するとの貴社主張には理由がないものと考えます。
また、当社広告は、貴社または貴社サービスと当社との間に、提携、代理、認定、公式関係その他の営業上の関係があるかのような表示をしておらず、出所の混同を生じさせるものではありません。
したがって、当社は、貴社のキーワード削除請求および損害賠償請求には応じかねます。
回答書では、必要以上に挑発的な表現は避けつつ、次の点を明確にしました。
- キーワード登録自体は商標的使用ではないこと
- 広告文にH社商標を表示していないこと
- 出所混同を生じさせる表示はないこと
- 損害賠償請求には応じられないこと
- 今後も広告文にH社商標を使用しないよう管理すること
このように回答した結果、H社側は、法的請求としての追及を継続することは困難と判断し、損害賠償請求を取り下げました。
6 ただし、ビジネス上は「勝てばよい」とは限らない
法的には反論可能であっても、競合名への入札を続けることがビジネス上合理的かは別問題です。
G社がH社名に入札し続ければ、H社も対抗してG社名に入札する可能性があります。すると、両社のブランド名検索で広告枠の競争が発生し、クリック単価が上昇します。結果として、互いに本来安く獲得できた見込み顧客に高い広告費を支払うことになり、消耗戦になりがちです。
| 継続した場合のリスク | 内容 |
| CPC高騰 | 競合入札によりクリック単価が上がる |
| 広告費の消耗 | 比較検討層の奪い合いで費用対効果が悪化 |
| 相互報復 | H社もG社名に入札する |
| 営業関係悪化 | 業界団体、代理店、共通顧客との関係に影響 |
| 法務コスト | 警告書対応、プラットフォーム対応、訴訟リスク |
| ブランド毀損 | 「競合に便乗している」と見られる可能性 |
広告運用の世界では、競合名入札は珍しい手法ではありません。しかし、BtoBサービスでは市場が狭く、顧客、代理店、業界団体、展示会などで競合と接点を持つことも多いため、法的に可能でも、長期的には得策でない場合があります。
7 紳士協定という解決策
最終的に、G社とH社は、弁護士を通じて次のような合意をしました。
| 合意内容 | 目的 |
| 相互に相手方社名・サービス名を入札対象にしない | 広告費の消耗戦を避ける |
| 相手方商標を広告文に使用しない | 商標・混同リスクを避ける |
| 相手方名を除外キーワードに設定する | 意図しない表示を防ぐ |
| 違反を発見した場合は、まず相手に通知する | いきなり通報・訴訟に進まない |
| 一定期間内に修正対応する | 運用ミスに対応する余地を残す |
このような合意は、法的義務として当然に求められるものではありません。しかし、両社が広告費を無駄に消耗しないための実務的な解決策として有効です。
8 社内広告運用ルールの整備
G社には、今後のトラブルを避けるため、リスティング広告運用ルールを整備してもらいました。
| チェック項目 | 内容 |
| 競合名キーワード | 入札の可否を事前承認制にする |
| 広告文 | 他社商標・サービス名を原則使用禁止にする |
| 比較広告 | 法務確認なしに出稿しない |
| 動的広告 | 自動挿入・自動生成設定を確認する |
| 除外キーワード | 競合名・誤認を招く語句を管理する |
| LP確認 | リンク先ページで他社商標を使っていないか確認する |
| 証跡保存 | 広告文、配信設定、変更履歴を保存する |
| 警告書対応 | 受領後すぐに法務・弁護士へ共有する |
特に、広告文で他社商標を使用する場合には、商標権だけでなく、不正競争防止法、景品表示法、比較広告ガイドライン、プラットフォーム規約の確認が必要です。
9 解決結果
本件では、G社の広告文・リンク先ページにH社名は表示されておらず、管理画面上のキーワード登録にとどまっていました。そのため、H社からの商標権侵害・損害賠償請求には応じない方針を取りました。
一方で、今後の相互入札による広告費高騰を避けるため、G社とH社は協議のうえ、互いの社名・サービス名を入札対象にしない運用に切り替えました。
| 対応 | 結果 |
| 広告文の確認 | H社名の表示なし |
| リンク先ページの確認 | H社名・比較表・ロゴ表示なし |
| 弁護士名で回答 | 商標権侵害・損害賠償請求を否定 |
| H社の請求 | 実質的に取り下げ |
| 今後の運用 | 相互に競合名入札を停止 |
| 社内ルール | 競合名入札・広告文チェックを制度化 |
10 弁護士のコメント
リスティング広告で競合他社の社名やサービス名をキーワード登録することは、マーケティング実務では珍しくありません。法的にも、キーワード登録だけで直ちに商標権侵害になるとは限りません。
しかし、広告文やリンク先ページに他社商標を表示する場合は、話が大きく変わります。特に、「公式」「認定」「提携」「乗り換え」「比較」「代替」などの表現と他社商標が組み合わさると、商標権侵害、不正競争防止法違反、景品表示法上の誤認表示が問題になる可能性があります。
また、法的に勝てるとしても、競合入札は広告費の消耗戦になりやすい手法です。BtoBサービスでは、単に「違法ではないか」だけでなく、顧客獲得単価、ブランドイメージ、業界内の関係性、将来の提携可能性まで含めて判断する必要があります。
実務上は、次の整理が有効です。
- 競合名をキーワード登録するだけなら、商標権侵害リスクは比較的低い
- 広告文・見出し・説明文に競合名を出す場合は、法務確認が必要
- 動的検索広告や自動挿入機能で意図せず競合名が表示されないようにする
- 比較広告を行う場合は、根拠資料、公正な比較方法、誤認防止表示を準備する
- 警告書を受けた場合は無視せず、広告設定を確認したうえで回答する
- 必要に応じて、競合との相互不入札の合意も検討する
「広告管理画面の中だけの設定」と「ユーザーに見える広告表示」は、法的評価が大きく異なります。この違いを理解して運用することが、リスティング広告の商標トラブルを避ける基本です。

有森FA法律事務所は、「広告表現に不安があるけれど、何から始めていいか分からない」という方々の力になりたいと考えています。インターネット広告やSNSの普及で、広告に関する法律リスクも多様化してきました。広告チェックに関しては、全国からのご相談に対応しており、WEB会議や出張相談も可能です。地域を問わず、さまざまなエリアの事業者様からご相談をいただいています。身近な相談相手として、お気軽にご連絡ください。
画像生成AIで作成した広告イラストが「人気アニメに似ている」と炎上した事例と対応
1 相談内容
ゲームアプリ開発会社のプロデューサーから、新作ゲームのSNS広告に使用したAI生成イラストについて相談を受けた事例です。
同社は、新作ゲームのプロモーション用に画像生成AIを利用し、キャラクター風のイラストを作成しました。その画像をSNS広告として配信したところ、ユーザーから次のような指摘が相次ぎました。
- 「人気アニメの〇〇のキャラにそっくり」
- 「これはトレースではないか」
- 「AIで既存キャラをパクったのでは」
- 「ゲーム会社として権利意識が低すぎる」
プロデューサーとしては、特定の作品名やキャラクター名をプロンプトに入力したわけではなく、既存作品を模倣する意図もなかったため、「依拠性がない以上、著作権侵害ではないのではないか」と考えていました。
| 項目 | 内容 |
| 相談者 | ゲームアプリ開発会社のプロデューサー |
| 問題となった素材 | 画像生成AIで作成したキャラクターイラスト |
| 利用媒体 | SNS広告 |
| 発生した問題 | 人気アニメのキャラクターに似ているとの指摘・炎上 |
| 会社側の認識 | 特定作品を模倣する意図はなかった |
| 主なリスク | 著作権侵害、差止請求、損害賠償、炎上、ブランド毀損 |
2 法的見解:AI生成物でも、著作権侵害の判断枠組みは変わらない
AI生成物であっても、人間が描いたイラストであっても、著作権侵害の基本的な判断枠組みは同じです。
文化庁の資料では、あるコンテンツの作成や利用が既存の著作物の著作権侵害となるかは、そのコンテンツを人が作成したか、AIにより生成されたかにかかわらず、既存の著作物との「類似性」と「依拠性」があるかによって判断されるとされています。
類似性とは、既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得できることをいいます。単に「雰囲気が似ている」「作風が似ている」「アイデアが共通している」というだけでは足りず、創作的表現が共通しているかが問題になります。
依拠性とは、既存の著作物に接して、それを自らの作品の中に用いることです。AI生成物についても、この要件は不要になるわけではありません。
| 要件 | 意味 | 本件での確認ポイント |
| 類似性 | 既存著作物の表現上の本質的特徴を直接感得できるか | キャラの髪型、衣装、配色、ポーズ、装飾、表情等が創作的に共通するか |
| 依拠性 | 既存著作物に接して、それを利用したといえるか | プロンプト、参考画像入力、担当者の認識、AI学習データ、生成過程 |
| 利用行為 | 複製、公衆送信、翻案等に当たるか | SNS広告として配信したこと |
| 権利制限 | 私的使用等に当たるか | 広告利用であり、通常は私的利用とはいえない |
3 「AIが勝手に似せた」は安全な反論ではない
本件で最も注意すべきなのは、「AIが勝手に生成したので当社に責任はない」という説明が、法的にも広報的にも安全とはいえない点です。
文化庁の資料では、AI生成物の場合の依拠性について、次のように整理されています。
- AI利用者が既存の著作物を認識していた場合
- AI利用者は既存の著作物を認識していないが、当該既存著作物がAI学習に用いられていた場合
- AI利用者が既存著作物を認識しておらず、かつAI学習にも用いられていなかった場合
このうち、AI利用者が既存の著作物を認識していなくても、その著作物がAI学習に用いられていた場合には、通常、依拠性があると推認されるという考え方が示されています。
また、AI利用者が既存著作物を認識していたといえる事情として、既存の著作物そのものを画像入力する場合や、既存作品のタイトル・キャラクター名などの特定の固有名詞をプロンプトに入力する場合が挙げられています。
| 事情 | 依拠性リスク |
| 既存キャラ画像を画像入力した | 非常に高い |
| 作品名・キャラ名・作家名をプロンプトに入れた | 高い |
| 担当者が既存作品を参考資料として共有していた | 高い |
| 生成物が既存作品と高度に類似している | 依拠性推認のリスク |
| AIの学習データに既存作品が含まれていた可能性 | 依拠性が推認される可能性 |
| プロンプトや生成過程を保存していない | 反論が困難 |
| 画像検索・類似性確認をしていない | 過失・管理不備と評価されやすい |
そのため、会社側が「プロンプトでは指定していない」と説明できたとしても、それだけでリスクがなくなるわけではありません。少なくとも、生成過程、プロンプト、使用したAIサービス、参考資料、社内レビュー履歴を確認し、既存作品との類似性を慎重に検討する必要があります。
4 商用広告での利用はリスクが高い
今回のAI生成画像は、社内検討用ではなく、SNS広告として外部に配信されていました。
文化庁の資料でも、AI生成物の生成自体が適法に行える場合でも、生成物をさらに利用しようとする場合には、著作権侵害を生じさせないか確認する必要があるとされています。特に、生成物の利用段階では、インターネットを介した送信等が既存著作物の権利侵害となり得ます。
ゲーム会社の広告画像は、単なる社内利用よりも、次の点でリスクが大きくなります。
| リスク | 内容 |
| 拡散性 | SNS広告は短時間で広範囲に拡散する |
| 商用性 | ゲームの集客・売上に直結する |
| 権利者の反応 | アニメ・ゲーム業界ではキャラクター権利管理が厳格 |
| ユーザー感情 | ファンコミュニティが敏感に反応する |
| 証拠化 | 炎上投稿や広告画像がスクリーンショットで残る |
| 二次被害 | 不買運動、レビュー荒らし、メディア報道につながる |
5 炎上対応:法的反論より先に広告を止めるべき
本件では、法的に著作権侵害が成立するかどうかの判断には時間がかかります。一方で、炎上は即時に拡大します。
ユーザーが「そっくりだ」と感じ、SNS上で比較画像が拡散されている状態で、会社が「法的には問題ありません」と強気に反論すると、かえって「開き直っている」「反省していない」と受け止められるおそれがあります。
そこで、F社には、次の対応を助言しました。
- 問題のSNS広告を即時停止する
- 広告画像を公式サイト・LP・アプリ内告知等からも削除する
- プロンプト、生成履歴、社内レビュー資料を保全する
- 類似性について社内外で再確認する
- 必要に応じて権利者側への説明・連絡を検討する
- 公式リリースで再発防止策を示す
この段階では、侵害を全面的に認める必要はありません。しかし、少なくとも、既存作品との類似性を指摘されたことを重く受け止め、ユーザーや関係者に不安・不快感を与えたことについて説明する必要があります。
6 謝罪・説明リリースの方針
F社には、次のトーンでリリースを作成するよう助言しました。
| 記載事項 | 内容 |
| 事実関係 | プロモーション画像に画像生成AIを使用したこと |
| 意図の説明 | 特定の作品・キャラクターを模倣する意図はなかったこと |
| 類似性指摘への対応 | 指摘を受け、広告配信を停止したこと |
| チェック体制の不備 | 既存作品との類似性確認が十分でなかったこと |
| 謝意・お詫び | ユーザーおよび関係者に不快感・不安を与えたことへの謝罪 |
| 再発防止 | AI生成物の利用ルール、確認フロー、レビュー体制を整備すること |
| 今後の対応 | 当該画像を使用しないこと、キャラクターデザインを変更すること |
7 リリース文案
当社が配信した新作ゲームのプロモーション画像について、既存作品のキャラクターとの類似性を指摘するご意見を多数いただいております。
当該画像は、制作工程の一部に画像生成AIを利用して作成したものです。当社として、特定の作品またはキャラクターを模倣する意図はなく、社内確認においてもそのような指示を行った事実は確認されておりません。
もっとも、広告素材として公開するにあたり、既存作品との類似性に関する確認が十分でなかった点は否定できず、ユーザーの皆様および関係者の皆様にご不安・ご不快の念をおかけしたことをお詫び申し上げます。
当社は、当該画像を使用した広告配信を停止し、今後当該画像を使用いたしません。また、対象キャラクターのビジュアルについては改めて制作・確認を行います。
今後は、生成AIを利用した素材制作に関する社内ガイドラインを整備し、既存作品との類似性確認、制作過程の記録保存、法務確認を徹底することで、再発防止に努めてまいります。
このようなリリースは、著作権侵害を全面的に自認するものではありません。一方で、ユーザーの懸念を軽視せず、会社として広告停止と再発防止に動いていることを示すものです。
8 強気に出る場合のリスク
F社が「法的に問題ない」と強く主張し続けた場合、次のリスクがありました。
| リスク | 内容 |
| 炎上拡大 | ユーザーから「開き直り」と受け止められる |
| 権利者対応 | 権利者が差止請求・警告書・声明を出す可能性 |
| メディア化 | ゲームメディアやまとめサイトで拡散 |
| 不買運動 | 事前登録・課金意欲の低下 |
| 採用・取引影響 | イラストレーター、声優、IPホルダーとの関係悪化 |
| 訴訟リスク | 類似性・依拠性が争点化し、長期化 |
| 証拠不利 | プロンプトや生成過程を保存していない場合、説明が困難 |
特にゲーム・アニメ領域では、法的結論だけでなく、ファンコミュニティの信頼が重要です。たとえ最終的に著作権侵害とまでは認定されない場合でも、炎上対応を誤ると、作品や会社のブランドに長期的なダメージが残ります。
9 今後のAI利用ガイドライン
F社では、今後も生成AIを活用したい意向があったため、社内ガイドラインを策定しました。
(1)禁止事項
| 禁止事項 | 理由 |
| 既存作品名・キャラクター名・作家名をプロンプトに入れる | 依拠性を推認されやすい |
| 既存キャラクター画像を画像入力する | 依拠性・類似性リスクが高い |
| 「〇〇風」「特定作家風」等の指定をする | 作風・表現模倣トラブルの原因 |
| 生成物を確認せず広告・SNSに使用する | 類似性・権利侵害を見落とす |
| プロンプトや生成履歴を削除する | 後日説明できなくなる |
| 主要キャラクターやキービジュアルにAI生成物をそのまま使う | 権利関係・著作物性・ブランド面のリスクが高い |
(2)利用時の必須フロー
| ステップ | 内容 |
| 1 | 利用目的を分類する:社内検討用か、外部公開用か |
| 2 | 使用するAIサービスの利用規約・商用利用条件を確認する |
| 3 | プロンプト、生成日時、生成結果、編集履歴を保存する |
| 4 | 生成物をGoogle画像検索、SNS検索、画像類似検索で確認する |
| 5 | 法務・知財担当が既存作品との類似性を確認する |
| 6 | 広告・キービジュアル等の重要素材は人間のイラストレーターに再制作させる |
| 7 | 公開後の指摘窓口と削除判断フローを決めておく |
(3)AI利用を避けるべき素材
| 素材 | 理由 |
| メインキャラクター | 作品の核となるため、権利帰属・独自性が重要 |
| キービジュアル | 広告露出が大きく、炎上時の影響が大きい |
| 課金アイテム画像 | 商用利用性が高く、紛争時の損害が大きい |
| コラボ企画素材 | 他社IPとの関係で特に慎重な確認が必要 |
| 長期利用予定の素材 | 将来の権利関係が不安定になりやすい |
10 解決結果
F社は、問題となったSNS広告を即時停止し、当該画像を今後使用しないことを決定しました。あわせて、公式リリースで、AI生成画像を使用した事実、特定作品を模倣する意図はなかったこと、類似性確認が不十分だったこと、再発防止策を公表しました。
結果として、一定の批判は残ったものの、「悪意あるパクリ」としての炎上は沈静化し、ゲーム本体への影響を最小限に抑えることができました。その後、問題となったキャラクタービジュアルは人間のイラストレーターにより再制作し、社内の法務・知財レビューを経て公開しました。
| 対応 | 結果 |
| SNS広告停止 | 炎上拡大を抑制 |
| 公式リリース | 意図の否定と再発防止を説明 |
| 画像差替え | 類似性リスクを排除 |
| プロンプト等の保全 | 将来の説明資料を確保 |
| 社内ガイドライン策定 | AI利用のルールを明確化 |
| 法務レビュー導入 | 外部公開素材の事前確認を義務化 |
11 弁護士のコメント
生成AIは、ゲーム開発や広告制作において強力なツールです。しかし、特にキャラクターイラストの領域では、既存作品との類似性が問題になりやすく、法的リスクと炎上リスクが重なります。
「AIが勝手に作った」「プロンプトで指定していない」という説明だけでは、十分な防御になりません。文化庁の整理でも、AI生成物については、既存著作物との類似性と依拠性があれば、通常の著作権侵害と同様に問題となり得ます。
企業がAI生成物を外部公開・広告利用する場合には、少なくとも次の対応が必要です。
- プロンプトと生成履歴を保存する
- 特定作品名・キャラ名・作家名を入力しない
- 既存画像を画像入力しない
- 画像検索・類似性チェックを行う
- 主要ビジュアルは人間のクリエイターによる制作・修正を入れる
- 法務・知財部門の確認を経てから公開する
- 炎上時の停止・説明・差替えフローを事前に決めておく
AIは便利ですが、商用利用する以上、「AIだから責任が軽くなる」わけではありません。むしろ、生成過程が見えにくいからこそ、企業側には記録保存、確認体制、説明責任が求められます。

有森FA法律事務所は、「広告表現に不安があるけれど、何から始めていいか分からない」という方々の力になりたいと考えています。インターネット広告やSNSの普及で、広告に関する法律リスクも多様化してきました。広告チェックに関しては、全国からのご相談に対応しており、WEB会議や出張相談も可能です。地域を問わず、さまざまなエリアの事業者様からご相談をいただいています。身近な相談相手として、お気軽にご連絡ください。
