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美容クリニックのビフォーアフター写真は削除すべき?保健所から医療広告ガイドライン違反を指摘された場合の対応

2026-09-18

美容クリニックのホームページやInstagramでは、施術前後の変化を示す「ビフォーアフター写真」や症例写真が、集患上重要な役割を果たすことがあります。

しかし、ビフォーアフター写真は、医療広告ガイドライン上、特に注意が必要な広告表現です。
必要な説明が不足したまま掲載していると、保健所から「医療広告ガイドライン違反の疑いがある」として、修正指導や掲載中止を求められることがあります。

今回は、実際に美容外科クリニックから相談を受けた事例をもとに、ビフォーアフター写真を削除せず、医療広告ガイドラインに適合する形で掲載を継続するための対応方法を解説します。

相談内容:保健所から「ビフォーアフター写真を修正・削除するように」と指導された

美容外科クリニックを開業して3年になるI医師から、次のようなご相談を受けました。

ホームページやInstagramに、二重整形や鼻整形などの症例写真を多数掲載していました。
ところが先日、管轄の保健所から連絡があり、「医療広告ガイドライン違反の疑いがあるため、直ちに修正するか、掲載を中止してください」と指導を受けました。
特に「詳しい説明のないビフォーアフター写真は禁止です」と言われています。
しかし、症例写真をすべて削除すると、新規患者の問い合わせが大きく減ってしまうのではないかと不安です。
写真を残したまま、適法に修正する方法はないのでしょうか。

美容医療では、患者が施術を検討する際に症例写真を参考にするケースが多くあります。
そのため、ビフォーアフター写真をすべて削除することは、クリニックの集患に大きな影響を与えかねません。

もっとも、医療広告ガイドラインに違反した状態で掲載を続けると、行政指導にとどまらず、報告命令、立入検査、中止命令などにつながるリスクもあります。

ビフォーアフター写真は「全面禁止」ではない

医療広告ガイドラインでは、治療等の内容や効果について患者に誤認を与えるおそれのあるビフォーアフター写真は、原則として広告できないものとされています。

もっとも、ビフォーアフター写真がすべて禁止されているわけではありません。
術前・術後の写真に、通常必要とされる治療内容、費用、主なリスク・副作用等の詳細な説明を付すことで、広告として掲載できる場合があります。

つまり、問題は「ビフォーアフター写真を載せていること」自体ではなく、写真だけを掲載し、治療内容・費用・リスク・副作用などの重要情報を十分に説明していないことにあります。

今回の違反ポイント:写真の下に「二重埋没法」としか書かれていなかった

I医師のクリニックのホームページを確認したところ、症例写真の下には、次のような簡単な記載しかありませんでした。

二重埋没法

このような表示では、患者にとって次の情報が分かりません。

  • どのような施術なのか
  • 費用はいくらかかるのか
  • 治療期間や通院回数はどの程度か
  • どのようなリスクや副作用があるのか
  • 腫れや内出血、左右差などが生じる可能性があるのか

特に自由診療の美容医療では、費用やリスク・副作用に関する情報が不足すると、患者が施術内容や効果を誤認するおそれがあります。

そのため、写真の直下に施術名だけを記載する方法は、医療広告ガイドライン上、非常にリスクの高い掲載方法です。

解決策:症例写真ごとに必要情報を追記する

今回のケースでは、症例写真をすべて削除するのではなく、各症例写真の近くに必要な説明を追記する方針を取りました。

必要な情報を別ページにまとめて掲載するだけでは、患者が症例写真を見た際に十分な情報を確認できない可能性があります。
そのため、症例写真のすぐ近くに、患者が見落とさない形で情報を表示することが重要です。

具体的には、各症例写真の下に、以下のような項目を追加しました。

症例写真に併記すべき表示例

施術名

○○式二重埋没法

施術の説明

医療用の糸を使用して、まぶたに二重のラインを形成する施術です。切開を伴わず、患者様のまぶたの状態に応じてデザインを行います。

施術の価格

88,000円(税込)
※モニター価格を表示する場合には、通常価格・適用条件・追加費用の有無も併記します。

治療期間・回数

通常1回の施術です。
施術後の経過確認のため、必要に応じて再診を行う場合があります。

主なリスク・副作用

腫れ、内出血、痛み、感染、左右差、糸の露出、ラインの消失、再施術が必要となる可能性があります。
効果や経過には個人差があります。

ポイントは「リスク・副作用」を正直に書くこと

美容医療の広告では、どうしても「きれいになった」「変化が分かりやすい」といったメリットを前面に出しがちです。

しかし、医療広告ガイドライン上は、良い結果だけを強調し、リスクや副作用を小さく扱うことは問題となり得ます。
ビフォーアフター写真を掲載する場合には、治療内容や費用だけでなく、主なリスク・副作用も分かりやすく表示する必要があります。

特に美容医療では、以下のような記載漏れが起こりやすいため注意が必要です。

  • 「腫れ」「内出血」だけでなく、感染や左右差なども記載しているか
  • ダウンタイムの目安を記載しているか
  • 効果には個人差があることを記載しているか
  • 未承認医薬品・未承認医療機器を使用する場合に必要な説明をしているか
  • モニター価格を表示する場合に、通常価格や条件を明示しているか

「ネガティブな情報を書くと患者が離れるのではないか」と考えて記載を避けると、かえって医療広告ガイドライン違反のリスクが高まります。

InstagramやSNSの症例写真にも注意が必要

今回のクリニックでは、ホームページだけでなくInstagramにも多数の症例写真が掲載されていました。

SNS投稿であっても、医療機関名や施術内容が分かり、患者の来院を誘引する内容であれば、医療広告として規制対象になり得ます。

そのため、Instagramの症例投稿についても、少なくとも次の点を確認する必要があります。

  • 写真だけを掲載していないか
  • 施術内容、費用、治療期間・回数、リスク・副作用を記載しているか
  • 投稿文の中で効果を断定していないか
  • 「必ず変わる」「誰でも自然に仕上がる」などの誇大表現がないか
  • 写真を加工・修正していないか
  • ハッシュタグやプロフィール欄の記載を含めて、全体として誤認を招かないか

ホームページを修正しても、SNSに違反表示が残っていると、引き続き指導対象となる可能性があります。

サイト全体の広告表現も併せてチェック

保健所から指導を受けた場合、問題はビフォーアフター写真だけとは限りません。

今回も、ホームページ全体を確認したところ、次のような表現が見つかりました。

NG表現1:「地域No.1」「最高峰の技術」

「地域No.1」「最高峰」「トップクラス」「最高水準」などの表現は、他の医療機関と比較して自院が優れていると受け取られる可能性があります。

客観的な根拠がないまま使用すると、比較優良広告や誇大広告として問題となるおそれがあります。

修正例

修正前

地域No.1の美容外科クリニック
最高峰の技術で理想の二重を実現

修正後

二重施術に対応している美容外科クリニックです。
患者様のまぶたの状態やご希望を踏まえ、施術方法をご提案します。

NG表現2:「キャンペーン!今だけ半額」

「今だけ半額」「期間限定キャンペーン」「大幅割引」などの表現は、医療広告において慎重な検討が必要です。

価格の安さを過度に強調すると、患者の冷静な判断を妨げる広告と評価される可能性があります。
また、モニター価格やキャンペーン価格を掲載する場合には、通常価格、適用条件、期間、追加費用の有無などを明確に表示する必要があります。

修正例

修正前

今だけ半額キャンペーン実施中!

修正後

モニター価格:88,000円(税込)
通常価格:132,000円(税込)
対象条件:症例写真の掲載に同意いただける方
適用期間:2026年○月○日から2026年○月○日まで
追加費用の有無:診察料・麻酔代を含みます。

NG表現3:患者の体験談をホームページに掲載している

美容医療では、患者の口コミや体験談を掲載したくなることがあります。

しかし、医療広告では、患者の主観または伝聞に基づく、治療等の内容または効果に関する体験談の広告は禁止されています。
仮に内容が事実であっても、治療効果に関する体験談を自院のホームページやSNSに掲載することは避けるべきです。

修正方針

  • 治療効果に関する体験談はホームページから削除する
  • 「二重になって人生が変わりました」などの主観的感想は掲載しない
  • 口コミサイトの内容を自院HPに転載しない
  • Googleマップ等の口コミへの誘導も、表示方法によっては慎重に検討する
  • 接遇や設備に関する一般的な感想であっても、治療効果と結び付かないよう注意する

保健所への改善報告も重要

ホームページやSNSの修正が完了した後は、保健所に対して改善内容を報告しました。

今回のケースでは、弁護士が以下の内容を整理した改善報告書を作成しました。

  • 指摘を受けた掲載箇所
  • 修正前の表示内容
  • 修正後の表示内容
  • 医療広告ガイドライン上の検討内容
  • 今後の再発防止策
  • SNS投稿を含めた確認体制

単に「修正しました」と伝えるだけではなく、法令・ガイドラインを理解したうえで、適切に対応したことを示すことが重要です。

その結果、今回のケースでは、追加の立入検査や中止命令に進むことなく、行政指導への対応を完了することができました。

美容クリニックが医療広告で注意すべきチェックポイント

美容クリニックのホームページやLP、SNSを運用する際には、少なくとも以下の点を確認する必要があります。

  • ビフォーアフター写真に、治療内容・費用・治療期間・回数・リスク・副作用を併記しているか
  • 症例写真の近くに必要情報を表示しているか
  • 費用を「○円〜」だけで表示していないか
  • リスクや副作用を小さすぎる文字で表示していないか
  • 写真の加工・修正により効果を強調していないか
  • 「No.1」「最高」「絶対安全」などの表現を使っていないか
  • 患者の体験談を掲載していないか
  • SNS投稿も医療広告ガイドラインに適合しているか
  • モニター価格やキャンペーン価格の条件を明確にしているか
  • 保健所から指導を受けた場合の対応記録を残しているか

まとめ:ビフォーアフター写真は「削除」ではなく「適法な表示設計」が重要

美容クリニックのビフォーアフター写真は、医療広告ガイドライン上、慎重な対応が必要です。

しかし、必要な情報を適切に表示すれば、症例写真を活用しながら、患者にとって有益な情報提供を行うことは可能です。

重要なのは、次の3点です。

  1. 写真ごとに、治療内容・費用・治療期間・回数・リスク・副作用を分かりやすく表示すること
  2. 「地域No.1」「最高峰」「今だけ半額」など、誤認や過度な誘引につながる表現を避けること
  3. 保健所から指導を受けた場合には、速やかに修正し、改善報告まで丁寧に行うこと

美容医療の広告は、集患上重要である一方、医療広告ガイドライン、医療法、景品表示法、薬機法など、複数の規制が関係します。

自己判断で対応すると、修正したつもりでも違反状態が残ってしまうことがあります。
ホームページ、LP、Instagram、リスティング広告などを制作・公開する段階から、広告法務に詳しい弁護士によるチェックを受けることが、クリニック経営の安定につながります。

リスティング広告で競合他社名をキーワード登録した事例

2026-09-13

1 相談内容

BtoBサービスを提供する会社のマーケティング担当者から、リスティング広告の運用について相談を受けた事例です。

同社では、検索連動型広告の運用において、競合会社であるH社の社名やサービス名をキーワードとして登録し、入札していました。H社のサービス名で検索したユーザーに自社広告を表示し、比較検討の候補に入れてもらうためです。

ところが、H社の代理人弁護士から内容証明郵便が届きました。そこには、「当社の登録商標を無断で使用しており、商標権侵害に当たる。直ちにキーワード登録を削除し、損害賠償を支払え」と記載されていました。

項目内容
相談者BtoBサービス提供会社のマーケティング担当者
問題となった広告Google広告等の検索連動型広告
登録したキーワード競合H社の社名・サービス名
相手方の主張商標権侵害、キーワード削除、損害賠償
相談者の認識競合名への入札はマーケティング上よくある手法
主な論点キーワード登録が商標法上の「使用」に当たるか

2 法的見解:キーワード登録だけなら、商標権侵害とはいえない可能性が高い

結論からいうと、競合他社の社名やサービス名を、リスティング広告の管理画面上でキーワードとして登録する行為だけで、直ちに商標権侵害が成立する可能性は高くありません。

検索連動型広告に関する裁判例では、他社の商標をキーワードとして検索した検索結果ページに広告を掲載する行為について、商標法上の「標章の使用」に該当すると認めることは難しいと判断された例があります。

その理由は、キーワード登録は広告配信の条件設定にすぎず、通常、ユーザーの画面上に他社商標が表示されるわけではないからです。商標法上問題となるのは、商標が商品・サービスの出所を示す表示として使用され、需要者に混同を生じさせるような場合です。

行為商標権侵害リスク
管理画面で競合名をキーワード登録するだけ原則として低い
競合名で検索したユーザーに自社広告を表示する広告内容次第
広告文に競合名を表示する高い
「公式」「提携」「認定」などと誤認させる非常に高い
リンク先ページで競合名を比較・批判的に使用する内容次第で商標法・不正競争防止法・景表法リスク
競合ロゴを無断使用する高い

そのため、本件でG社が行っていた「H社名をキーワードとして登録し、検索時にG社広告を表示させる」という行為だけをもって、H社の削除請求や損害賠償請求が当然に認められるとはいえません。

3 注意すべきは「広告文」と「リンク先ページ」

もっとも、キーワード登録が比較的安全だからといって、リスティング広告全体が無条件に安全というわけではありません。

実務上、最も問題になりやすいのは、検索結果画面に表示される広告文のタイトルや説明文です。他社商標を検索キーワードとして設定する行為自体は原則として商標権侵害には当たらないと解される一方で、広告文やリンク先ページで他社を装う表示、公式・正規・認定・提携などと誤認させる表示を行うことがリスクの核心とされています。

たとえば、次のような広告文は危険です。

危険な広告文問題点
H社公式パートナーはこちら提携・公式関係があるように誤認させる
H社より高機能なG社サービス他社商標を広告文で使用し、比較広告リスクもある
H社からの乗り換えならG社他社商標を誘引目的で使用している
H社導入をご検討の方へH社名を広告文で使用して集客している
H社代替サービスならG社比較・代替表示として商標・不競法・景表法上の検討が必要

一方で、次のような広告文であれば、H社名が表示されていないため、商標権侵害リスクは相対的に低くなります。

比較的安全な広告文留意点
BtoB業務管理ツールならG社他社名を出していない
業務効率化を支援するクラウドサービス一般的なサービス説明
導入実績多数の法人向けSaaS根拠資料は必要
無料トライアル受付中表示内容の正確性に注意

本件では、広告文を確認したところ、タイトル・説明文にはH社名やH社サービス名は含まれていませんでした。リンク先ページにもH社名、H社ロゴ、H社サービスとの比較表は掲載されていませんでした。そのため、少なくとも商標権侵害として損害賠償義務を負うリスクは高くないと判断しました。

4 自動挿入機能・動的広告には注意

G社では明示的にH社名を広告文に入れていませんでしたが、リスティング広告では、意図しない表示が発生することがあります。

特に注意すべきなのは、次のような機能です。

機能・設定リスク
キーワード挿入機能検索語句や登録キーワードが広告文に自動挿入されることがある
動的検索広告サイト内容に基づき広告見出しが自動生成されることがある
部分一致想定外の競合名・関連語句で広告が表示されることがある
自動作成アセット広告文が自動生成・補完されることがある
LP内比較ページ広告文に出なくてもリンク先で他社商標を使っている場合がある

リスティング広告では、部分一致の設定により、意図せず競合他社の商品名・サービス名で広告が表示される場合があります。

そのため、G社には、H社名やH社サービス名を広告文に表示させないだけでなく、自動挿入機能や動的広告の設定を確認し、必要に応じてH社名を除外キーワードや広告文禁止語として管理するよう助言しました。

5 H社への回答方針

H社代理人からの内容証明を無視することは避けるべきです。法的に反論可能な場合でも、無視すれば、相手方が広告プラットフォームに通報したり、SNSや業界内で問題化したり、訴訟前提の対応に進んだりする可能性があります。

そこで、G社には、弁護士名で次の趣旨の回答書を送付しました。

当社は、貴社商標を広告文、広告見出し、説明文またはリンク先ページにおいて、出所表示として使用しておりません。

検索連動型広告におけるキーワード設定は、広告配信条件の設定にすぎず、需要者に対して貴社商標を表示するものではありません。そのため、当該キーワード設定自体が商標法上の商標の使用に該当し、商標権侵害を構成するとの貴社主張には理由がないものと考えます。

また、当社広告は、貴社または貴社サービスと当社との間に、提携、代理、認定、公式関係その他の営業上の関係があるかのような表示をしておらず、出所の混同を生じさせるものではありません。

したがって、当社は、貴社のキーワード削除請求および損害賠償請求には応じかねます。

回答書では、必要以上に挑発的な表現は避けつつ、次の点を明確にしました。

  • キーワード登録自体は商標的使用ではないこと
  • 広告文にH社商標を表示していないこと
  • 出所混同を生じさせる表示はないこと
  • 損害賠償請求には応じられないこと
  • 今後も広告文にH社商標を使用しないよう管理すること

このように回答した結果、H社側は、法的請求としての追及を継続することは困難と判断し、損害賠償請求を取り下げました。

6 ただし、ビジネス上は「勝てばよい」とは限らない

法的には反論可能であっても、競合名への入札を続けることがビジネス上合理的かは別問題です。

G社がH社名に入札し続ければ、H社も対抗してG社名に入札する可能性があります。すると、両社のブランド名検索で広告枠の競争が発生し、クリック単価が上昇します。結果として、互いに本来安く獲得できた見込み顧客に高い広告費を支払うことになり、消耗戦になりがちです。

継続した場合のリスク内容
CPC高騰競合入札によりクリック単価が上がる
広告費の消耗比較検討層の奪い合いで費用対効果が悪化
相互報復H社もG社名に入札する
営業関係悪化業界団体、代理店、共通顧客との関係に影響
法務コスト警告書対応、プラットフォーム対応、訴訟リスク
ブランド毀損「競合に便乗している」と見られる可能性

広告運用の世界では、競合名入札は珍しい手法ではありません。しかし、BtoBサービスでは市場が狭く、顧客、代理店、業界団体、展示会などで競合と接点を持つことも多いため、法的に可能でも、長期的には得策でない場合があります。

7 紳士協定という解決策

最終的に、G社とH社は、弁護士を通じて次のような合意をしました。

合意内容目的
相互に相手方社名・サービス名を入札対象にしない広告費の消耗戦を避ける
相手方商標を広告文に使用しない商標・混同リスクを避ける
相手方名を除外キーワードに設定する意図しない表示を防ぐ
違反を発見した場合は、まず相手に通知するいきなり通報・訴訟に進まない
一定期間内に修正対応する運用ミスに対応する余地を残す

このような合意は、法的義務として当然に求められるものではありません。しかし、両社が広告費を無駄に消耗しないための実務的な解決策として有効です。

8 社内広告運用ルールの整備

G社には、今後のトラブルを避けるため、リスティング広告運用ルールを整備してもらいました。

チェック項目内容
競合名キーワード入札の可否を事前承認制にする
広告文他社商標・サービス名を原則使用禁止にする
比較広告法務確認なしに出稿しない
動的広告自動挿入・自動生成設定を確認する
除外キーワード競合名・誤認を招く語句を管理する
LP確認リンク先ページで他社商標を使っていないか確認する
証跡保存広告文、配信設定、変更履歴を保存する
警告書対応受領後すぐに法務・弁護士へ共有する

特に、広告文で他社商標を使用する場合には、商標権だけでなく、不正競争防止法、景品表示法、比較広告ガイドライン、プラットフォーム規約の確認が必要です。

9 解決結果

本件では、G社の広告文・リンク先ページにH社名は表示されておらず、管理画面上のキーワード登録にとどまっていました。そのため、H社からの商標権侵害・損害賠償請求には応じない方針を取りました。

一方で、今後の相互入札による広告費高騰を避けるため、G社とH社は協議のうえ、互いの社名・サービス名を入札対象にしない運用に切り替えました。

対応結果
広告文の確認H社名の表示なし
リンク先ページの確認H社名・比較表・ロゴ表示なし
弁護士名で回答商標権侵害・損害賠償請求を否定
H社の請求実質的に取り下げ
今後の運用相互に競合名入札を停止
社内ルール競合名入札・広告文チェックを制度化

10 弁護士のコメント

リスティング広告で競合他社の社名やサービス名をキーワード登録することは、マーケティング実務では珍しくありません。法的にも、キーワード登録だけで直ちに商標権侵害になるとは限りません。

しかし、広告文やリンク先ページに他社商標を表示する場合は、話が大きく変わります。特に、「公式」「認定」「提携」「乗り換え」「比較」「代替」などの表現と他社商標が組み合わさると、商標権侵害、不正競争防止法違反、景品表示法上の誤認表示が問題になる可能性があります。

また、法的に勝てるとしても、競合入札は広告費の消耗戦になりやすい手法です。BtoBサービスでは、単に「違法ではないか」だけでなく、顧客獲得単価、ブランドイメージ、業界内の関係性、将来の提携可能性まで含めて判断する必要があります。

実務上は、次の整理が有効です。

  • 競合名をキーワード登録するだけなら、商標権侵害リスクは比較的低い
  • 広告文・見出し・説明文に競合名を出す場合は、法務確認が必要
  • 動的検索広告や自動挿入機能で意図せず競合名が表示されないようにする
  • 比較広告を行う場合は、根拠資料、公正な比較方法、誤認防止表示を準備する
  • 警告書を受けた場合は無視せず、広告設定を確認したうえで回答する
  • 必要に応じて、競合との相互不入札の合意も検討する

「広告管理画面の中だけの設定」と「ユーザーに見える広告表示」は、法的評価が大きく異なります。この違いを理解して運用することが、リスティング広告の商標トラブルを避ける基本です。

画像生成AIで作成した広告イラストが「人気アニメに似ている」と炎上した事例と対応

2026-09-08

1 相談内容

ゲームアプリ開発会社のプロデューサーから、新作ゲームのSNS広告に使用したAI生成イラストについて相談を受けた事例です。

同社は、新作ゲームのプロモーション用に画像生成AIを利用し、キャラクター風のイラストを作成しました。その画像をSNS広告として配信したところ、ユーザーから次のような指摘が相次ぎました。

  • 「人気アニメの〇〇のキャラにそっくり」
  • 「これはトレースではないか」
  • 「AIで既存キャラをパクったのでは」
  • 「ゲーム会社として権利意識が低すぎる」

プロデューサーとしては、特定の作品名やキャラクター名をプロンプトに入力したわけではなく、既存作品を模倣する意図もなかったため、「依拠性がない以上、著作権侵害ではないのではないか」と考えていました。

項目内容
相談者ゲームアプリ開発会社のプロデューサー
問題となった素材画像生成AIで作成したキャラクターイラスト
利用媒体SNS広告
発生した問題人気アニメのキャラクターに似ているとの指摘・炎上
会社側の認識特定作品を模倣する意図はなかった
主なリスク著作権侵害、差止請求、損害賠償、炎上、ブランド毀損

2 法的見解:AI生成物でも、著作権侵害の判断枠組みは変わらない

AI生成物であっても、人間が描いたイラストであっても、著作権侵害の基本的な判断枠組みは同じです。

文化庁の資料では、あるコンテンツの作成や利用が既存の著作物の著作権侵害となるかは、そのコンテンツを人が作成したか、AIにより生成されたかにかかわらず、既存の著作物との「類似性」と「依拠性」があるかによって判断されるとされています。

類似性とは、既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得できることをいいます。単に「雰囲気が似ている」「作風が似ている」「アイデアが共通している」というだけでは足りず、創作的表現が共通しているかが問題になります。

依拠性とは、既存の著作物に接して、それを自らの作品の中に用いることです。AI生成物についても、この要件は不要になるわけではありません。

要件意味本件での確認ポイント
類似性既存著作物の表現上の本質的特徴を直接感得できるかキャラの髪型、衣装、配色、ポーズ、装飾、表情等が創作的に共通するか
依拠性既存著作物に接して、それを利用したといえるかプロンプト、参考画像入力、担当者の認識、AI学習データ、生成過程
利用行為複製、公衆送信、翻案等に当たるかSNS広告として配信したこと
権利制限私的使用等に当たるか広告利用であり、通常は私的利用とはいえない

3 「AIが勝手に似せた」は安全な反論ではない

本件で最も注意すべきなのは、「AIが勝手に生成したので当社に責任はない」という説明が、法的にも広報的にも安全とはいえない点です。

文化庁の資料では、AI生成物の場合の依拠性について、次のように整理されています。

  1. AI利用者が既存の著作物を認識していた場合
  2. AI利用者は既存の著作物を認識していないが、当該既存著作物がAI学習に用いられていた場合
  3. AI利用者が既存著作物を認識しておらず、かつAI学習にも用いられていなかった場合

このうち、AI利用者が既存の著作物を認識していなくても、その著作物がAI学習に用いられていた場合には、通常、依拠性があると推認されるという考え方が示されています。

また、AI利用者が既存著作物を認識していたといえる事情として、既存の著作物そのものを画像入力する場合や、既存作品のタイトル・キャラクター名などの特定の固有名詞をプロンプトに入力する場合が挙げられています。

事情依拠性リスク
既存キャラ画像を画像入力した非常に高い
作品名・キャラ名・作家名をプロンプトに入れた高い
担当者が既存作品を参考資料として共有していた高い
生成物が既存作品と高度に類似している依拠性推認のリスク
AIの学習データに既存作品が含まれていた可能性依拠性が推認される可能性
プロンプトや生成過程を保存していない反論が困難
画像検索・類似性確認をしていない過失・管理不備と評価されやすい

そのため、会社側が「プロンプトでは指定していない」と説明できたとしても、それだけでリスクがなくなるわけではありません。少なくとも、生成過程、プロンプト、使用したAIサービス、参考資料、社内レビュー履歴を確認し、既存作品との類似性を慎重に検討する必要があります。

4 商用広告での利用はリスクが高い

今回のAI生成画像は、社内検討用ではなく、SNS広告として外部に配信されていました。

文化庁の資料でも、AI生成物の生成自体が適法に行える場合でも、生成物をさらに利用しようとする場合には、著作権侵害を生じさせないか確認する必要があるとされています。特に、生成物の利用段階では、インターネットを介した送信等が既存著作物の権利侵害となり得ます。

ゲーム会社の広告画像は、単なる社内利用よりも、次の点でリスクが大きくなります。

リスク内容
拡散性SNS広告は短時間で広範囲に拡散する
商用性ゲームの集客・売上に直結する
権利者の反応アニメ・ゲーム業界ではキャラクター権利管理が厳格
ユーザー感情ファンコミュニティが敏感に反応する
証拠化炎上投稿や広告画像がスクリーンショットで残る
二次被害不買運動、レビュー荒らし、メディア報道につながる

5 炎上対応:法的反論より先に広告を止めるべき

本件では、法的に著作権侵害が成立するかどうかの判断には時間がかかります。一方で、炎上は即時に拡大します。

ユーザーが「そっくりだ」と感じ、SNS上で比較画像が拡散されている状態で、会社が「法的には問題ありません」と強気に反論すると、かえって「開き直っている」「反省していない」と受け止められるおそれがあります。

そこで、F社には、次の対応を助言しました。

  1. 問題のSNS広告を即時停止する
  2. 広告画像を公式サイト・LP・アプリ内告知等からも削除する
  3. プロンプト、生成履歴、社内レビュー資料を保全する
  4. 類似性について社内外で再確認する
  5. 必要に応じて権利者側への説明・連絡を検討する
  6. 公式リリースで再発防止策を示す

この段階では、侵害を全面的に認める必要はありません。しかし、少なくとも、既存作品との類似性を指摘されたことを重く受け止め、ユーザーや関係者に不安・不快感を与えたことについて説明する必要があります。

6 謝罪・説明リリースの方針

F社には、次のトーンでリリースを作成するよう助言しました。

記載事項内容
事実関係プロモーション画像に画像生成AIを使用したこと
意図の説明特定の作品・キャラクターを模倣する意図はなかったこと
類似性指摘への対応指摘を受け、広告配信を停止したこと
チェック体制の不備既存作品との類似性確認が十分でなかったこと
謝意・お詫びユーザーおよび関係者に不快感・不安を与えたことへの謝罪
再発防止AI生成物の利用ルール、確認フロー、レビュー体制を整備すること
今後の対応当該画像を使用しないこと、キャラクターデザインを変更すること

7 リリース文案

当社が配信した新作ゲームのプロモーション画像について、既存作品のキャラクターとの類似性を指摘するご意見を多数いただいております。

当該画像は、制作工程の一部に画像生成AIを利用して作成したものです。当社として、特定の作品またはキャラクターを模倣する意図はなく、社内確認においてもそのような指示を行った事実は確認されておりません。

もっとも、広告素材として公開するにあたり、既存作品との類似性に関する確認が十分でなかった点は否定できず、ユーザーの皆様および関係者の皆様にご不安・ご不快の念をおかけしたことをお詫び申し上げます。

当社は、当該画像を使用した広告配信を停止し、今後当該画像を使用いたしません。また、対象キャラクターのビジュアルについては改めて制作・確認を行います。

今後は、生成AIを利用した素材制作に関する社内ガイドラインを整備し、既存作品との類似性確認、制作過程の記録保存、法務確認を徹底することで、再発防止に努めてまいります。

このようなリリースは、著作権侵害を全面的に自認するものではありません。一方で、ユーザーの懸念を軽視せず、会社として広告停止と再発防止に動いていることを示すものです。

8 強気に出る場合のリスク

F社が「法的に問題ない」と強く主張し続けた場合、次のリスクがありました。

リスク内容
炎上拡大ユーザーから「開き直り」と受け止められる
権利者対応権利者が差止請求・警告書・声明を出す可能性
メディア化ゲームメディアやまとめサイトで拡散
不買運動事前登録・課金意欲の低下
採用・取引影響イラストレーター、声優、IPホルダーとの関係悪化
訴訟リスク類似性・依拠性が争点化し、長期化
証拠不利プロンプトや生成過程を保存していない場合、説明が困難

特にゲーム・アニメ領域では、法的結論だけでなく、ファンコミュニティの信頼が重要です。たとえ最終的に著作権侵害とまでは認定されない場合でも、炎上対応を誤ると、作品や会社のブランドに長期的なダメージが残ります。

9 今後のAI利用ガイドライン

F社では、今後も生成AIを活用したい意向があったため、社内ガイドラインを策定しました。

(1)禁止事項

禁止事項理由
既存作品名・キャラクター名・作家名をプロンプトに入れる依拠性を推認されやすい
既存キャラクター画像を画像入力する依拠性・類似性リスクが高い
「〇〇風」「特定作家風」等の指定をする作風・表現模倣トラブルの原因
生成物を確認せず広告・SNSに使用する類似性・権利侵害を見落とす
プロンプトや生成履歴を削除する後日説明できなくなる
主要キャラクターやキービジュアルにAI生成物をそのまま使う権利関係・著作物性・ブランド面のリスクが高い

(2)利用時の必須フロー

ステップ内容
1利用目的を分類する:社内検討用か、外部公開用か
2使用するAIサービスの利用規約・商用利用条件を確認する
3プロンプト、生成日時、生成結果、編集履歴を保存する
4生成物をGoogle画像検索、SNS検索、画像類似検索で確認する
5法務・知財担当が既存作品との類似性を確認する
6広告・キービジュアル等の重要素材は人間のイラストレーターに再制作させる
7公開後の指摘窓口と削除判断フローを決めておく

(3)AI利用を避けるべき素材

素材理由
メインキャラクター作品の核となるため、権利帰属・独自性が重要
キービジュアル広告露出が大きく、炎上時の影響が大きい
課金アイテム画像商用利用性が高く、紛争時の損害が大きい
コラボ企画素材他社IPとの関係で特に慎重な確認が必要
長期利用予定の素材将来の権利関係が不安定になりやすい

10 解決結果

F社は、問題となったSNS広告を即時停止し、当該画像を今後使用しないことを決定しました。あわせて、公式リリースで、AI生成画像を使用した事実、特定作品を模倣する意図はなかったこと、類似性確認が不十分だったこと、再発防止策を公表しました。

結果として、一定の批判は残ったものの、「悪意あるパクリ」としての炎上は沈静化し、ゲーム本体への影響を最小限に抑えることができました。その後、問題となったキャラクタービジュアルは人間のイラストレーターにより再制作し、社内の法務・知財レビューを経て公開しました。

対応結果
SNS広告停止炎上拡大を抑制
公式リリース意図の否定と再発防止を説明
画像差替え類似性リスクを排除
プロンプト等の保全将来の説明資料を確保
社内ガイドライン策定AI利用のルールを明確化
法務レビュー導入外部公開素材の事前確認を義務化

11 弁護士のコメント

生成AIは、ゲーム開発や広告制作において強力なツールです。しかし、特にキャラクターイラストの領域では、既存作品との類似性が問題になりやすく、法的リスクと炎上リスクが重なります。

「AIが勝手に作った」「プロンプトで指定していない」という説明だけでは、十分な防御になりません。文化庁の整理でも、AI生成物については、既存著作物との類似性と依拠性があれば、通常の著作権侵害と同様に問題となり得ます。

企業がAI生成物を外部公開・広告利用する場合には、少なくとも次の対応が必要です。

  • プロンプトと生成履歴を保存する
  • 特定作品名・キャラ名・作家名を入力しない
  • 既存画像を画像入力しない
  • 画像検索・類似性チェックを行う
  • 主要ビジュアルは人間のクリエイターによる制作・修正を入れる
  • 法務・知財部門の確認を経てから公開する
  • 炎上時の停止・説明・差替えフローを事前に決めておく

AIは便利ですが、商用利用する以上、「AIだから責任が軽くなる」わけではありません。むしろ、生成過程が見えにくいからこそ、企業側には記録保存、確認体制、説明責任が求められます。

楽天市場で二重価格表示を指摘された事例

2026-09-03

1 相談内容

ECサイト運営会社の店長から、楽天市場の商品ページで行った二重価格表示について相談を受けた事例です。

同社は楽天スーパーセールに合わせ、目玉商品として、次のような表示を行いました。

通常価格10,000円
セール価格5,000円
50%OFF

ところが、楽天のコンプライアンス部門から「不当な二重価格表示の疑いがある」と警告を受け、商品ページが削除されました。店長は、最悪の場合、違反点数の付与、商品掲載制限、アカウント停止、退店処分につながるのではないかと不安を抱き、相談に来られました。

項目内容
相談者ECサイト運営会社の店長
出店先楽天市場
問題となった表示「通常価格10,000円→セール価格5,000円(50%OFF)」
指摘者楽天コンプライアンス部門
楽天側の対応商品ページ削除
主なリスク有利誤認表示、モール内ペナルティ、措置命令、課徴金
相談者の認識他店も同様の表示をしているのに、なぜ自社だけ指摘されたのか

2 法的見解:販売実績のない「通常価格」は使えない

二重価格表示とは、販売価格と、これより高い価格を併記して、販売価格の安さを強調する表示です。二重価格表示それ自体が直ちに違法になるわけではありません。

しかし、比較対照価格として表示する「通常価格」「当店通常価格」「セール前価格」などが実態と異なる場合、消費者に「通常より大幅に安い」と誤認させるおそれがあり、景品表示法上の不当表示、特に有利誤認表示として問題になります。

消費者庁は、価格表示は商品・サービス選択上最も重要な情報の一つであり、価格表示が適正に行われない場合には消費者の選択を誤らせることになるとして、二重価格表示に関する考え方を示しています。ウェブ

価格表示ガイドラインでは、同一の商品について「最近相当期間にわたって販売されていた価格」を比較対照価格とする場合には、不当表示に該当するおそれはない一方で、そのような価格とはいえない価格を比較対照価格に用いる場合には、内容を正確に表示しない限り、不当表示に該当するおそれがあるとされています。ウェブ

本件で問題となったのは、10,000円という「通常価格」に実績がなかったことです。

3 8週間ルールと2週間要件

過去の販売価格を比較対照価格として使う場合、実務上重要なのが、いわゆる「8週間ルール」です。

一般に、セール開始時点からさかのぼる直近8週間のうち、過半の期間、すなわち4週間以上、その価格で販売されていた場合には、「最近相当期間にわたって販売されていた価格」と評価されやすいとされています。ウェブ

また、これに加えて、当該価格での販売期間が通算2週間以上あること、最後にその価格で販売された日から2週間以上経過していないことも重要です。ウェブ

要件内容
直近8週間の過半セール開始前8週間のうち、過半の期間その価格で販売していたこと
通算2週間以上比較対照価格での販売期間が通算2週間以上あること
最終販売日から2週間以内その価格で最後に販売した日から2週間以上経過していないこと
同一商品であること比較対象価格は同一商品の価格であること
実際の販売価格であること架空の価格や一時的な見せかけ価格ではないこと

楽天市場でも、「当店通常価格」は、最近相当期間にわたって楽天市場のショップにおいて販売されていた価格を指し、直近2週間でその価格での販売実績があることに加え、過去8週間のうち合計4週間その価格で販売実績がある、または販売期間が8週間未満の場合には販売期間の過半かつ2週間以上の販売実績があることが条件と説明されています。ウェブ

4 本件の問題点

E社に販売履歴を確認したところ、10,000円で販売していたのは、セール直前の1週間だけでした。それ以前は、実際には6,000円前後で販売されており、10,000円で継続的に販売していた実績はありませんでした。

つまり、10,000円は実質的には「セール用に作った元値」であり、景品表示法上も、楽天市場のルール上も、比較対照価格として表示するには極めて危険な価格でした。

確認事項実際の状況評価
10,000円での販売期間セール直前の1週間のみ通算2週間要件を満たさない
直近8週間での販売実績過半に満たない8週間ルールを満たさない
通常販売価格実際は6,000円前後10,000円を通常価格とする根拠が弱い
50%OFF表示10,000円を前提に算出消費者に過大な割引感を与える
楽天側対応商品ページ削除モール規約違反として扱われる可能性

このような表示を見た消費者は、「通常は10,000円で販売されている商品が、今だけ5,000円で買える」と理解します。しかし、実際には10,000円で販売されていた実績が十分でなければ、その割引率は実態よりも大きく見せていることになります。

5 「他店もやっている」は理由にならない

相談者は、「他の店舗も同じような表示をしている」と話していました。

しかし、他店が同じような表示をしているように見えても、実際には販売実績を満たしている可能性があります。また、仮に他店も違反しているとしても、自社の違反が免責されるわけではありません。

ECモールでは、競合店からの通報、ユーザーからの問い合わせ、モール側の自動検知、セール前審査などによって、不当表示が発見されることがあります。特に大型セール時は、モール側も行政処分や消費者トラブルを避けるため、監視を強化する傾向があります。

したがって、「業界慣行」「他店もやっている」「売上のために必要」という理由で、実績のない通常価格を表示することは非常に危険です。

6 楽天への弁明と改善報告

楽天市場などのプラットフォームでは、景品表示法違反の疑いがある表示に対して、行政処分に至る前に自主的に商品ページの削除、掲載制限、違反点数、契約解除等の対応を行うことがあります。

楽天市場の二重価格表示に関する解説でも、違反がある場合、ランキング掲載制限、検索順位低下、媒体掲載制限、一時的な改装中措置、違反金徴収、契約解除などにつながり得るとされています。ウェブ

本件では、楽天側に対して、言い訳を重ねるのではなく、事実を認めたうえで、原因分析と再発防止策を提出する方針を取りました。

対応項目内容
事実確認販売履歴を確認し、10,000円での販売実績が不足していたことを認定
違反可能性の認識二重価格表示ルールの理解不足を説明
原因分析担当者の知識不足、販売実績確認フローの不存在を整理
即時対応問題表示の削除、同種表示の全件点検
改善計画二重価格表示チェックシートの導入
再発防止セール前に法務・責任者承認を必須化
証跡保存販売履歴、価格変更履歴、承認記録を保存

楽天側への報告では、次のようなトーンを取りました。

当社において販売実績を再確認した結果、当該商品について比較対照価格として表示した10,000円の販売実績が、貴社ルールおよび価格表示ガイドライン上求められる水準を満たしていない可能性があることを確認しました。
当社の確認体制が不十分であったことを重く受け止め、当該表示を停止し、同種商品の表示についても全件点検を行います。
今後は、二重価格表示チェックシートに基づき、販売実績を確認できた商品に限り、責任者承認を経てセール表示を行う運用に改めます。

ポイントは、「知らなかった」「他店もやっている」と反論するのではなく、モール側が安心できる具体的な改善策を示すことです。

7 行政処分リスク

今回は楽天からの警告で済みましたが、同じ表示が消費者庁や都道府県の調査対象になれば、措置命令や課徴金納付命令のリスクがあります。

景品表示法に違反した場合、措置命令により、一般消費者に与えた誤認の排除、再発防止策、同様の違反行為を行わないことなどが命じられる可能性があります。また、課徴金納付命令の対象となる場合、課徴金対象期間の売上額に一定率を乗じた金額が課されることがあります。ウェブ

2024年10月施行の改正景品表示法では、確約手続の導入、課徴金制度の見直し、優良誤認表示や有利誤認表示に対する直罰規定の新設なども整備されています。

EC事業者にとって、景品表示法違反は単なる広告表現の問題にとどまりません。モール内評価、検索順位、セール参加資格、アカウント継続、社名公表、課徴金に直結し得る重大なリスクです。

8 二重価格表示チェックシートの導入

E社には、今後、セール前に必ず確認するチェックシートを導入しました。

チェック項目確認内容
商品同一性比較対照価格とセール価格の商品が同一か
比較対照価格の種類当店通常価格、メーカー希望小売価格、参考小売価格等のどれか
販売履歴直近8週間の価格推移を確認したか
販売期間比較対照価格で過半期間販売していたか
2週間要件通算2週間以上その価格で販売していたか
最終販売日最後にその価格で販売した日から2週間以上経過していないか
セール期間二重価格表示を継続できる期間を確認したか
証跡保存RMS販売履歴、価格変更ログ、スクリーンショットを保存したか
承認者店長または法務担当が承認したか
代替表現要件を満たさない場合の別表現を検討したか

あわせて、セール後も二重価格表示を継続しすぎないよう、セール期間中も8週間ルールを満たし続けているかを確認する運用にしました。セール開始時点で条件を満たしていても、長期間セールを続けると、過去8週間の過半がセール価格での販売期間になり、通常価格を比較対照価格として表示し続けることが難しくなるためです。ウェブ

9 二重価格に頼らない販促表現への転換

E社には、今後のセール戦略として、二重価格表示に過度に依存しない販促方法を提案しました。

危険な表示例問題点代替表現例
通常価格10,000円→5,000円通常価格の実績が必要スーパーセール期間中 5,000円
50%OFF元値の根拠が必要期間限定特別価格
当店通常価格より半額通常価格の販売実績が必要クーポン利用で5,000円
メーカー希望小売価格10,000円公表された希望小売価格が必要ポイント○倍対象
業界最安値競合価格調査が必要送料無料・即日発送

二重価格表示を使わなくても、販促手法はあります。

  • クーポン配布
  • ポイント還元
  • 送料無料
  • セット販売
  • 期間限定特別価格
  • 数量限定販売
  • レビュー特典
  • リピーター限定割引
  • メルマガ限定クーポン
  • ポイントアップキャンペーン

これらの表現も景品表示法やモール規約に注意する必要はありますが、販売実績のない通常価格を作って「50%OFF」と表示するより、リスクを大幅に下げられます。

10 解決結果

本件では、E社が速やかに問題表示を削除し、楽天側に対して販売実績不足を認めたうえで、具体的な改善計画を提出しました。その結果、退店処分には至らず、当該商品ページの削除と改善指導にとどめる方向で収束しました。

さらに、E社ではセール前の広告表示チェックを顧問弁護士と行う運用に切り替え、販促カレンダー、クーポン企画、ポイント施策、LP表現を事前に確認する体制を整えました。

対応結果
問題表示の削除即時対応
楽天への改善報告再発防止策を提出
退店処分回避
同種商品の点検全商品ページを確認
チェックシート導入セール前の確認を義務化
販促戦略二重価格依存からクーポン・ポイント施策へ移行
顧問契約広告表示・セール企画を継続的に確認

11 弁護士のコメント

EC事業者にとって、「通常価格10,000円→5,000円」「50%OFF」という表示は非常に強い訴求力があります。しかし、その元値に販売実績がなければ、消費者に実際以上のお得感を与える表示になり、景品表示法上もモール規約上も大きなリスクになります。

特に楽天市場などのモールでは、景品表示法違反の疑いがある店舗を放置すれば、モール全体の信頼にも関わります。そのため、モール側は出店者に対して厳格なチェックとペナルティを課します。

「他店もやっている」「セールでは普通」という感覚ではなく、販売履歴を根拠に説明できるかが重要です。二重価格表示を行う場合は、必ず販売実績、価格変更履歴、販売期間、スクリーンショットを保存し、社内で承認を取ってから掲載すべきです。

一方で、売上を作るために必ず二重価格表示を使わなければならないわけではありません。クーポン、ポイント還元、期間限定特別価格、送料無料など、法的リスクを抑えながら訴求できる方法はあります。

EC事業では、広告表現の一つのミスが、商品ページ削除、セール参加停止、アカウント停止に直結します。セール前の表示チェックを仕組み化することが、売上を守るための最も現実的なリスク管理です。

ホームページ画像の無断使用を指摘された事例

2026-08-29

1 相談内容

不動産会社の広報担当者から、自社ホームページに掲載している画像について、写真家を名乗る人物の代理人弁護士から内容証明郵便が届いたという相談を受けた事例です。

内容証明には、「当社のホームページに、写真家が著作権を有する写真が無断で掲載されている。広告目的で使用されているため、損害賠償金として100万円を支払うよう求める」と記載されていました。

相談者としては、ホームページ制作は前年にフリーランスのデザイナーへ依頼しており、画像についても「商用利用可能なフリー素材を使用している」と説明を受けていたため、自社が無断使用をしたという認識はありませんでした。ところが、そのデザイナーとは連絡が取れなくなっており、画像の入手元や利用条件を確認できない状態でした。

項目内容
相談者不動産会社の広報担当
問題となった媒体自社ホームページ
請求者写真家の代理人弁護士
請求内容写真の無断使用を理由とする損害賠償100万円
制作経緯フリーランスデザイナーにHP制作を外注
相談者の認識商用利用可能なフリー素材と聞いていた
問題点デザイナーと連絡が取れず、権利処理の証拠がない

2 法的見解:まず画像は速やかに削除すべき

最初に行うべき対応は、問題の画像を速やかに削除することです。

仮に、後で「自社に過失がない」と主張できる余地があるとしても、権利者から具体的な指摘を受けた後に掲載を続けると、故意または少なくとも過失があると評価されるリスクが高まります。

写真は著作物として保護されます。インターネット上で簡単に取得できる画像であっても、撮影者の著作物であり、無断で使用すると差止請求や損害賠償請求に発展する可能性があります。

そのため、D社には、相手方への反論・交渉とは別に、まず該当画像をホームページから削除し、キャッシュ、SNS投稿、広告バナー、過去のLP、チラシPDFなど、同じ画像を使用している可能性がある媒体を洗い出すよう助言しました。

3 「デザイナーに任せていた」は万能の免責理由ではない

相談者は、「騙されたのは当社であり、悪いのはデザイナーではないか」と疑問を持っていました。

この感覚は自然です。しかし、著作権者から見れば、自分の写真がD社のホームページに掲載され、広告として利用されているという事実が重要です。制作会社やデザイナーに外注していたという事情は、D社とデザイナーとの内部関係にすぎません。

もっとも、広告主が常に必ず損害賠償責任を負うとまではいえません。損害賠償請求では、原則として故意または過失が問題となるためです。実際に、広告主が広告制作会社から提供を受けた写真を使用した事案で、広告主に過失がないとして損害賠償責任を否定した裁判例も紹介されています。

他方で、広告主側の責任が肯定された裁判例もあります。たとえば、商品パッケージのデザインを外部委託したところ、第三者のイラストに依拠したデザインが使われた事案では、販売会社が業として商品を販売していた以上、イラスト作成経過を確認するなどして権利侵害を回避すべきであったとして過失が認められています。

つまり、ポイントは「外注していたかどうか」ではなく、D社がどの程度確認すべき立場にあり、実際にどのような確認をしていたかです。

事情D社に有利に働く可能性D社に不利に働く可能性
デザイナーに制作を外注専門業者に任せたとの主張が可能丸投げで確認していないと評価され得る
商用利用可能と聞いていたデザイナーの説明を信頼した事情口頭のみで証拠がないと弱い
素材の出典リストがない権利確認体制が不十分と見られやすい
広告・営業目的で掲載商用利用として損害額が高くなりやすい
指摘後すぐ削除損害拡大防止の姿勢を示せる削除前の掲載期間は問題として残る
同種画像を多数使用管理体制全体の問題と見られる可能性

4 相手方の100万円請求はそのまま受け入れるべきではない

次に、相手方が主張する100万円という金額が妥当かを検討しました。

著作権侵害の損害額は、実務上、当該写真を正規に使用した場合のライセンス料相当額、逸失利益、掲載態様、掲載期間、媒体の性質、商用利用の程度などを踏まえて検討されます。

著作権侵害の損害額については、請求額と裁判所が認める金額に大きな差が出ることがあります。たとえば、著作権侵害を理由に高額請求がされた事案でも、裁判所が認めた賠償額は大幅に低くなるケースがあるため、請求額をそのまま鵜呑みにせず交渉することが重要とされています。

写真のWeb掲載に関する裁判例でも、原告が高額な損害賠償を請求したのに対し、裁判所は、掲載期間、使用目的、商業的価値、使用料の逓減などを考慮し、請求額より大幅に低い損害額を認定した例があります。

そこで、本件でも次の事情を整理し、相手方の請求額を精査しました。

減額交渉で確認した事項確認内容
写真の権利者性請求者が本当に著作権者か、権利譲渡・管理権限があるか
写真の同一性D社掲載画像が相手方写真と同一または実質的に同一か
掲載期間いつからいつまで掲載されていたか
掲載場所トップページか、下層ページか、広告LPか
画像サイズメインビジュアルか、装飾的な小画像か
商用性直接集客に使われたか、単なる背景素材か
使用料相場ストックフォト、同種写真、写真家の通常料金
クレジット表示氏名表示が必要な素材だったか
故意・過失権利処理済みと聞いていた事情があるか
指摘後対応削除、謝罪、再発防止策の有無

5 交渉方針:早期削除と謝罪を前提に、適正額での和解を目指す

本件では、D社が画像の入手元やライセンス証跡を示せない以上、全面的に争うよりも、早期に削除し、権利者に謝意を示したうえで、金額を適正水準まで下げる交渉が現実的と判断しました。

ただし、相手方の100万円という金額は、1枚の画像使用として高額である可能性がありました。そこで、相手方に対し、権利者性と損害額の根拠資料の開示を求めつつ、D社側の事情を説明しました。

交渉上の主張内容
故意ではないフリー素材と説明を受けていた
指摘後速やかに削除損害拡大防止に努めた
使用態様は限定的掲載場所・サイズ・期間を確認し過大評価を争う
使用料相当額を基準にすべき懲罰的な高額請求は妥当でない
早期解決の意向訴訟ではなく和解で解決する意思を示す
再発防止策素材管理フローを整備することを説明

その結果、D社は100万円全額を支払うのではなく、掲載期間や使用態様を踏まえた一定の和解金を支払う方向で交渉を進めました。

6 デザイナーへの求償・責任追及

権利者との関係ではD社が対応せざるを得ないとしても、最終的な原因がデザイナーの無断使用や不適切な権利処理にある場合、D社はデザイナーに対して求償や損害賠償請求を検討できます。

特に、契約書、メール、見積書、チャット履歴などに「商用利用可能なフリー素材を使用する」「権利処理済み素材を使用する」といった記載が残っていれば、デザイナーの契約違反や説明義務違反を主張しやすくなります。

デザイナーへの請求で確認すべき資料内容
業務委託契約書権利保証条項、損害賠償条項の有無
見積書・発注書制作範囲、素材費、権利処理の記載
メール・チャット商用利用可能素材と説明した証拠
納品データ画像ファイル名、メタデータ、制作過程
請求書・振込記録デザイナーの住所、氏名、口座情報
過去のやり取り素材の出典を尋ねた記録

デザイナーと連絡が取れない場合でも、契約時の住所、振込先口座、請求書記載情報、メールアドレス、SNSアカウント、事業者登録情報などから、所在確認を試みる余地があります。所在が判明すれば、内容証明郵便による請求、支払督促、少額訴訟、通常訴訟などを検討します。

もっとも、デザイナーに資力がない場合や所在不明の場合には、回収可能性が低くなるため、費用対効果を見極める必要があります。

7 再発防止策:外注契約と素材管理フローを見直す

今回の根本原因は、ホームページ制作を外注する際に、素材の権利処理について契約書・納品管理・社内確認が不十分だったことです。

LegalOnナレッジでも、ホームページ制作やコンテンツ制作のように成果物を完成させる業務については、業務委託契約として契約内容を明確にしておくことが重要です。LegalOnナレッジ +1

D社には、今後の外注契約書に、少なくとも次の条項を入れるよう助言しました。

8 契約書に入れるべき条項例

受託者は、本件成果物および本件成果物に含まれる文章、写真、イラスト、動画、フォント、プログラムその他一切の素材について、第三者の著作権、著作者人格権、商標権、肖像権、パブリシティ権その他一切の権利を侵害しないことを保証する。

受託者は、本件成果物に第三者が権利を有する素材を使用する場合、事前に当該素材の出典、利用条件、ライセンス範囲および権利者の許諾内容を委託者に書面で開示し、委託者の承諾を得なければならない。

本件成果物または使用素材について第三者から権利侵害の主張、警告、請求、訴訟その他の紛争が生じた場合、受託者は自己の責任と費用においてこれを解決し、委託者に損害、費用または負担を生じさせないものとする。

前項の紛争により委託者に損害、弁護士費用、調査費用、和解金、賠償金その他の負担が生じた場合、受託者はこれを全額賠償する。

9 納品時に提出させるべき「使用素材リスト」

契約書だけでなく、実務運用も重要です。今後は、納品時に使用素材リストの提出を義務付けるべきです。

項目記載内容
素材番号社内管理番号
素材の種類写真、イラスト、動画、フォント、アイコン等
使用箇所トップページ、物件紹介ページ、LP等
出典URL素材サイト、購入ページ、作者ページ
権利者・作者氏名、法人名、アカウント名
ライセンス種別有料素材、無料素材、CCライセンス、自社撮影等
商用利用可否可否、条件、禁止事項
加工可否トリミング、色変更、合成の可否
クレジット要否表記が必要か
証跡購入履歴、利用規約PDF、スクリーンショット
利用期限期間制限の有無

特に「フリー素材」という言葉には注意が必要です。無料で取得できる素材であっても、著作権が放棄されているとは限りません。商用利用、改変、広告利用、ロゴ・人物写真の利用、クレジット表記、再配布禁止など、素材サイトごとに条件が異なります。

10 社内チェック体制の整備

D社には、ホームページや広告物を公開する前に、広報部門だけでなく法務・総務部門も含めて素材権利を確認するフローを導入するよう助言しました。

フロー実施内容
制作発注時権利保証条項を含む契約書を締結
制作中主要ビジュアルの出典を随時確認
納品時使用素材リストと証跡を受領
公開前社内でライセンス条件を確認
公開後素材リストと掲載ページを紐づけて保存
更新時過去素材の再利用可否を再確認
警告受領時速やかに削除・証拠保全・弁護士相談

11 解決結果

本件では、D社は問題画像を速やかに削除し、相手方に対して誠実に対応しました。そのうえで、請求額100万円については、権利者性、使用料相場、掲載期間、掲載場所、故意ではない事情を踏まえて減額交渉を行いました。

最終的には、訴訟に発展することなく、一定額の和解金を支払うことで解決を目指す方針となりました。あわせて、デザイナーに対しては、契約関係資料と送金記録をもとに所在確認を進め、求償請求の可能性を検討しました。

対応項目結果
画像削除指摘後速やかに実施
相手方対応弁護士を通じて回答
請求額100万円からの減額交渉を実施
訴訟リスク早期和解により低減
デザイナー対応所在確認・求償請求を検討
再発防止契約書・素材リスト・社内確認フローを導入

12 弁護士のコメント

ホームページ制作や広告制作では、「フリー素材を使っています」「権利処理済みです」という一言だけで安心してしまうケースが少なくありません。しかし、著作権トラブルが起きた場合、まず表に出るのは広告主です。

外注先が悪い場合でも、権利者との関係では、掲載している企業が削除対応や交渉の窓口にならざるを得ません。広告主に過失がないと主張できる場合もありますが、そのためには、制作会社に権利確認を求めていたこと、権利処理済みと説明を受けていたこと、合理的に信頼できる事情があったことを示す証拠が必要です。

今後、企業が取るべき対策は明確です。

  • 外注契約書に権利保証・補償条項を入れる
  • 使用素材リストと証跡を必ず提出させる
  • フリー素材の商用利用条件を社内でも確認する
  • 主要ビジュアルは有料素材または自社撮影を優先する
  • 指摘を受けたら、まず削除し、掲載継続による損害拡大を避ける

「デザイナーに任せたから大丈夫」ではなく、「任せたことを証明できる契約書と素材管理資料を残しているか」が重要です。著作権トラブルは、発生後の交渉よりも、発注時の契約と納品時の証跡管理で防ぐ方がはるかに低コストです。

「顧客満足度No.1」表示を競合他社から警告された事例

2026-08-24

SaaS系IT企業の広報担当者から、自社サービスのランディングページに掲載しているNo.1表示について相談を受けた事例です。

同社は、自社サービスの広告LPで、次のような表示を使用していました。

  • 「顧客満足度No.1」
  • 「経営者が選ぶツールNo.1」
  • 「導入をおすすめしたいSaaS No.1」

これらの表示は、インターネット広告で見つけたリサーチ会社に約300万円を支払い、調査報告書を納品してもらったうえで掲載していたものでした。

ところが、競合他社の代理人弁護士から内容証明郵便が届きました。そこには、同社のNo.1表示は客観的根拠を欠く不当表示であり、景品表示法上の優良誤認表示に当たる可能性があるため、直ちに表示を停止しなければ消費者庁への通報を検討する、という趣旨の警告が記載されていました。

項目内容
相談者SaaS系IT企業の広報担当者
問題となった表示「顧客満足度No.1」「経営者が選ぶツールNo.1」等
調査費用約300万円
調査実施者外部リサーチ会社
警告者競合他社の代理人弁護士
主なリスク景品表示法違反、措置命令、課徴金、社名公表、広告停止による売上減少

相談者は、「リサーチ会社の調査結果があるのに、なぜ違法と言われるのか」「広告を止めるとリード獲得が落ちるので困る」と強く懸念していました。

1 法的見解:問題は「No.1」そのものではなく、根拠とのズレ

No.1表示自体が直ちに違法になるわけではありません。

しかし、No.1表示が合理的な根拠に基づかず、事実と異なる場合には、実際の商品・サービスよりも著しく優良または有利であると一般消費者に誤認されるおそれがあり、景品表示法上の不当表示として問題となります。

LegalOnナレッジでも、優良誤認表示とは、事業者が一般消費者に対して行う商品・サービスの品質、規格その他の内容に関する表示のうち、実際のものより著しく優良であると示すもの、または事実に相違して競争事業者のものより著しく優良であると示すもので、一般消費者の自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがある表示と整理されています。LegalOnナレッジ

本件で問題となったのは、No.1という表現そのものではなく、表示内容と調査内容が対応していなかったことです。

2 報告書を確認して判明した問題点

リサーチ会社の調査報告書を確認したところ、問題の原因はすぐに判明しました。

調査は、実際に同社サービスを利用した顧客を対象にしたものではありませんでした。調査対象者は、一般のWebモニターであり、同社サービスや競合サービスの利用経験を確認しないまま、各社のWebサイトを見せて印象を聞く形式でした。

つまり、実態は「サイトイメージ調査」でした。

表示消費者が受ける印象実際の調査内容問題点
顧客満足度No.1実際の顧客が利用後に満足度を評価したサイトを見た未利用者が印象で回答表示と調査が対応していない
経営者が選ぶツールNo.1経営者が実際に比較・選定した経営者属性の確認が不十分なWebモニター調査調査対象者が不適切
おすすめしたいSaaS No.1利用経験や専門的判断に基づく推奨LP閲覧後の印象回答客観的根拠が弱い
導入企業満足度No.1導入企業への調査結果導入経験を問わない一般調査実利用者調査ではない

消費者庁の実態調査報告書では、イメージ調査とは、対象商品・サービスや比較対象のWebサイトを閲覧させ、その印象に基づいて回答させる調査をいうと説明されています。そして、「満足度No.1」を訴求する表示の根拠としてイメージ調査のみが実施されているケースは、景品表示法上問題となるおそれがあるとされています。

また、「サイトイメージ調査」「本調査はサイトのイメージをもとにアンケートを実施しています」「本ブランドの利用有無は聴取していません」といった注記があっても、「顧客満足度No.1」という表示内容と調査結果が適切に対応していないことに変わりはなく、問題となるおそれがあるとされています。

3 「リサーチ会社に頼んだから大丈夫」ではない

相談者が最も驚いたのは、リサーチ会社に高額な費用を支払い、調査報告書まで受け取っていたにもかかわらず、広告主側に法的責任が残るという点でした。

消費者庁の調査でも、多くの広告主が、調査会社がインターネット上でアンケートを実施していることは把握していた一方で、どのような質問をしていたか、比較対象となる競合他社がどのように選ばれていたか、回答者がどの範囲を見てイメージを回答したか等を十分に把握していなかったことが指摘されています。

No.1表示を行う事業者は、調査会社の報告書を受け取るだけでは足りません。広告主自身が、表示内容に見合う合理的根拠があるかを確認する必要があります。

確認項目確認すべき内容
調査対象者実際の利用者か、属性確認は適切か
比較対象主要な競合サービスが含まれているか
質問内容誘導的・恣意的な質問になっていないか
調査時期表示時点と整合しているか
表示との対応「満足度」「顧客」「経営者」等の文言と調査内容が合っているか
注記一般消費者に明瞭か、主表示の誤認を打ち消せるか
根拠資料行政や競合から求められた際に提出できるか

消費者庁は、不当なNo.1表示等の防止に向けて、表示の根拠となる情報の確認、共有、管理担当者の設定、事後確認のための措置、不当表示が明らかになった場合の迅速かつ適切な対応など、事業者が講ずべき管理上の措置を徹底すべきとしています。

4 競合他社への回答戦略

競合他社からの内容証明郵便を放置すれば、実際に消費者庁や公正取引協議会等へ通報される可能性があります。また、競合他社がプレスリリースや訴訟を検討する可能性も否定できません。

そこで、まずは問題となるNo.1表示を一時停止するよう助言しました。売上への影響は懸念されましたが、措置命令や社名公表に発展した場合のレピュテーションリスクの方が大きいと判断したためです。

そのうえで、相手方弁護士に対し、次のようなトーンで回答しました。

回答方針内容
違法性の全面自認は避ける将来の損害賠償請求や行政対応への影響を抑える
指摘を真摯に受け止める紛争拡大・通報を抑止する
調査方法を再確認した旨を伝える社内対応を行ったことを示す
表示を自主的に停止した旨を通知行政処分リスクを低減する
今後の表示改善を説明再発防止姿勢を示す

回答書では、「貴職のご指摘を受け、当社において表示内容および調査方法を再検証した結果、一般消費者に誤認を与える可能性を慎重に考慮し、当該表示を自主的に停止しました」という表現を用いました。

重要なのは、全面的に景表法違反を認めるのではなく、紛争予防と消費者保護の観点から自主的に対応したという建付けにすることです。これにより、相手方の通報意欲を下げ、行政処分に発展する前に事態を沈静化させることを目指しました。

5 適法な広告表示への切り替え

広告を止めたままではリード獲得に影響が出るため、No.1表示に代わる訴求表現を検討しました。

まずは、外部調査に頼らず、自社で客観的に裏付けられる実績データに基づく表現へ切り替えました。

従前の表示問題点切替後の表現例
顧客満足度No.1イメージ調査に基づく可能性継続率○%
経営者が選ぶツールNo.1調査対象者の属性確認が不十分導入企業○社突破
おすすめしたいSaaS No.1利用経験のない回答者の印象調査月間利用ユーザー数○万人
サポート満足度No.1実利用者調査ではない平均初回返信時間○分
業界人気No.1比較対象が不明確○○業界の導入企業○社

このように、主観的評価によるNo.1表示から、導入社数、継続率、利用者数、対応時間など、検証可能なファクトベースの表示に変更しました。

ただし、これらの表現も、根拠資料が必要です。たとえば「導入企業数○社」と表示する場合は、集計基準、対象期間、有料契約のみか無料トライアルを含むかなどを明確にしておく必要があります。

6 真正な第三者調査を行う場合のチェックポイント

将来的にNo.1表示を再開したい場合には、表示内容に対応した適切な調査を行う必要があります。

消費者庁の報告書では、主観的評価によるNo.1表示が合理的根拠と認められるためには、比較対象となる商品・サービスの適切な選定、調査対象者の適切な選定、公平な調査方法、表示内容と調査結果の適切な対応が必要と整理されています。

要件実務上の確認ポイント
比較対象の適切性市場における主要競合を除外していないか
調査対象者の適切性実際の利用者を対象にしているか
公平な調査方法自社に有利な選択肢順、誘導質問、途中終了がないか
表示との対応「顧客満足度」と表示するなら実顧客の満足度調査か
調査会社の独立性利害関係や調査設計の透明性に問題がないか
証拠保全調査票、回答データ、集計方法、競合選定資料を保存しているか
注記の明瞭性調査時期、対象者、比較対象、調査機関を明瞭に表示しているか

特に、「顧客満足度No.1」と表示する場合は、少なくとも対象サービスを実際に利用したことがある者でなければ、そのサービスに満足したかどうかを適切に判断できません。対象サービスを利用したことがない者や、利用経験の有無を確認せずに調査対象者を選定している場合は、合理的根拠に基づくとはいえないとされています。

7 リサーチ会社への対応

本件では、リサーチ会社が「景表法上問題のないNo.1表示が可能」と説明していたにもかかわらず、実際の調査内容は広告表示に耐えるものではありませんでした。

そこで、同社に対しては、契約内容、提案資料、営業時の説明、納品された報告書、調査設計の妥当性を確認し、調査費用の返還または一部返金を求める交渉を開始しました。

検討事項内容
契約上の義務景表法適合性についてどのような説明・保証があったか
説明義務違反調査の限界や使用可能な表示範囲を説明していたか
報告書の品質表示内容に対応する調査設計だったか
損害広告停止、修正費用、弁護士費用、信用低下リスク
返金交渉調査費用の全部または一部返還を請求できるか

なお、景品表示法上、直接処分を受ける中心は広告主ですが、調査会社の責任が一切問題にならないわけではありません。特に、景表法に適合する調査であるかのように説明して契約を獲得していた場合には、契約上・民事上の責任を検討する余地があります。

8 解決結果

同社は、問題となるNo.1表示を速やかに停止し、競合他社への回答書を送付しました。その結果、競合他社からの追加警告や消費者庁への通報は確認されず、措置命令や社名公表に至ることなく事態を収束させることができました。

広告面では、No.1表示を一時的に取り下げたうえで、継続率、導入社数、利用者数、サポート対応実績など、客観的な社内データに基づく訴求に切り替えました。その結果、LPの訴求力を一定程度維持しながら、景品表示法リスクを大きく下げることができました。

解決内容結果
No.1表示の一時停止行政通報リスクを低減
競合他社への回答紛争拡大を回避
表示内容の修正ファクトベースの訴求へ変更
社内審査フロー広告公開前の法務チェックを導入
調査会社対応調査費用返還交渉を開始
行政処分措置命令・社名公表なし

9 弁護士のコメント

「お金を払ってリサーチ会社に調査してもらったから大丈夫」という考え方は、現在のNo.1表示規制では非常に危険です。

特に、「顧客満足度No.1」「人気No.1」「おすすめしたいNo.1」といった表示は、消費者に対して、実際の利用者や適切な属性の回答者による評価であるとの印象を与えます。にもかかわらず、実態がサイトイメージ調査にすぎない場合、表示内容と調査結果が対応しておらず、優良誤認表示として問題になる可能性があります。

No.1表示を使う場合は、少なくとも次の点を確認すべきです。

  • 表示文言と調査項目が対応しているか
  • 実際の利用者を対象にしているか
  • 比較対象となる主要競合が適切に含まれているか
  • 回答を誘導する設計になっていないか
  • 調査対象者、調査時期、調査機関、比較対象を明瞭に注記しているか
  • 調査票、集計データ、競合選定資料を保存しているか
  • 調査会社の営業文句を鵜呑みにせず、自社で根拠を確認しているか

No.1表示は、短期的には強い広告効果があります。しかし、根拠の弱いNo.1表示は、競合からの警告、消費者庁への通報、措置命令、課徴金、社名公表という大きなリスクを伴います。

広告表現は、止めるか出すかの二択ではありません。適法な根拠に基づく表現へ組み替えれば、売上への影響を抑えながらリスクを下げることができます。No.1表示を使う前に、調査設計と表示文言が景品表示法上耐えられるかを確認することが、結果的には最もコストの低いリスク管理です。

健康食品広告で警察から呼び出しを受けた事例

2026-08-19

1 相談の背景

相談者は、健康食品販売会社の代表取締役であるB社長です。

B社は、自社開発のサプリメントをECサイトで販売していました。もともとは、健康維持や栄養補給を目的とした一般的な健康食品として販売していましたが、競合商品が増え、広告費も高騰する中で、売上が伸び悩んでいました。

そこでB社長は、ランディングページの訴求力を高めるため、広告表現を次第に強めていきました。最初は「毎日の健康をサポート」「年齢に負けない体づくり」といった表現でしたが、反応が良くないことから、やがて次のような表現を使うようになりました。

・免疫力を高めて癌細胞を攻撃する

・糖尿病の数値が下がる

・高血圧が改善する

・医師も注目する成分

・薬に頼らず病気を根本から改善

B社長自身も、これらの表現が薬機法上問題になり得ることは、薄々認識していました。しかし、「同じような広告を出している会社は他にもある」「注意が来たら修正すればよい」「健康被害が出ているわけではない」と考え、販売を続けていました。

ところがある日、警察署の生活安全課から電話がありました。

「御社のサプリメント広告について確認したいことがあります。任意でお話を伺いたいので、警察署まで来ていただけますか。」

B社長は、行政からの指導や広告媒体の審査落ち程度は想定していましたが、警察から直接連絡が来るとは考えていませんでした。「逮捕されるのか」「会社の商品は販売できなくなるのか」「取引先や従業員に知られたらどうなるのか」と不安になり、刑事事件対応を含めて弁護士に相談しました。

2 法的見解:健康食品でも「医薬品的効能効果」をうたうと薬機法違反になり得る

健康食品やサプリメントは、薬機法上、医薬品として承認されたものではありません。したがって、一般食品として販売する限り、医薬品のような疾病の治療・予防効果を表示することはできません。

問題となるのは、健康食品であるにもかかわらず、広告で医薬品的な効能効果を標ぼうした場合です。行政解釈上、ある物が医薬品に該当するかどうかは、成分本質、形状、表示された使用目的・効能効果・用法用量、販売方法、販売時の説明などを総合して判断されます。広告上、「がんに効く」「アトピーが治る」などの医薬品的効能効果を表示すれば、効能効果を有しない物であっても医薬品に該当すると判断され得ます。

健康食品で、病気の治療や予防に用いられることを目的とするような広告を出すと、その商品は薬機法上「未承認医薬品」と評価され、未承認医薬品の広告を禁止する薬機法第68条に違反する可能性があります。薬機法第68条は、承認を受けていない医薬品等について、その名称、製造方法、効能、効果または性能に関する広告を禁止しています。

B社のLPでは、「癌細胞を攻撃する」「糖尿病の数値が下がる」といった具体的な疾病名と治療・改善効果が表示されていました。これは単なる健康維持表現ではなく、疾病の治療・予防効果をうたう表現です。そのため、薬機法第68条違反が強く疑われる状況でした。

さらに、薬機法第68条違反は、単なる行政指導で終わる問題ではありません。未承認医薬品の広告を行った場合、2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金、またはその併科の対象となります。また、法人の業務に関して代表者や従業員が違反行為をした場合、法人にも罰金刑が科され得ます。

つまり、警察から連絡が来た段階では、「注意されたら直せばよい」という局面ではなく、刑事事件として捜査が進んでいる可能性を前提に対応する必要がありました。

3 警察から連絡が来たときの危険性

薬機法違反の広告については、行政機関による監視・指導だけでなく、悪質性が高いと判断されれば刑事事件化することがあります。

特に、次のような事情がある場合には、警察が動くリスクが高まります。

リスク要素本件での該当状況
具体的な疾病名を表示している癌、糖尿病などを明示
治療・予防・改善効果を断定している攻撃する、数値が下がる等の表現
LPで広く一般消費者に表示しているEC販売用LPとして公開
売上獲得目的が明確広告から購入導線に誘導
違法性を認識しながら継続した疑い社長が問題性を薄々認識
健康被害のおそれがある分野疾病治療の機会を失わせる可能性

薬機法上の広告該当性は、一般に、顧客を誘引する意図が明確であること、特定の商品名が明らかであること、一般人が認知できる状態であること、という要件を満たす場合に認められます。インターネットサイト、折込チラシ、商品パッケージなど、媒体を問わず広告に該当し得ます。

B社のLPは、商品名を明示し、購入ボタンへ誘導し、一般消費者が閲覧できる状態にありました。そのため、薬機法上の広告に該当することはほぼ避けられません。

また、「本当に効果があると思っていた」「実際に愛用者の声がある」といった説明は、薬機法第68条違反の成否を左右する決定的な反論にはなりにくい点にも注意が必要です。未承認医薬品の広告規制では、虚偽・誇大であるかどうか以前に、承認を受けていない医薬品的効能効果を広告すること自体が問題となるためです。第68条は、虚偽・誇大ではなく事実であっても違法となる点に注意が必要とされています。

4 初動対応:広告停止と販売自粛

弁護士が最初に指示したのは、問題となっているLPの即時停止です。

警察が警戒するのは、証拠隠滅と違反行為の継続です。違法表現を含む広告を出し続け、販売も継続していれば、「反省していない」「再犯のおそれがある」「証拠を隠す可能性がある」と評価され、逮捕・勾留のリスクが高まります。

そこで、B社では、次の対応を直ちに実施しました。

対応内容
LPの停止問題表現を含むランディングページを非公開化
広告配信の停止リスティング広告、SNS広告、アフィリエイト広告を停止
販売の一時自粛該当商品の新規販売・出荷を停止
在庫の隔離出荷可能在庫を封印し、販売再開まで管理
広告データの保全LP、広告文、配信履歴、売上データを保存
関係者ヒアリング誰が広告を作成・承認したかを確認
再発防止準備広告審査フローの見直しに着手

ここで重要なのは、広告を削除するだけでなく、証拠保全も行うことです。警察から問い合わせを受けた後に、LPや広告データを完全に消去してしまうと、証拠隠滅と疑われるおそれがあります。そのため、外部公開は停止しつつ、社内ではスクリーンショット、HTMLデータ、広告配信履歴、修正履歴を保存しました。

そのうえで、弁護士から警察の担当者へ連絡し、問題広告はすでに停止し、販売も一時自粛していること、社長は出頭に応じる意思があること、関係資料も任意に提出する用意があることを伝えました。

この対応により、逃亡や証拠隠滅のおそれが低いことを示し、身柄拘束を避ける方向で交渉する土台を作りました。

5 取調べ対応:認めるべき事実と争うべき評価を分ける

警察署への出頭にあたっては、弁護士が事前にB社長と打ち合わせを行いました。

取調べで最も避けるべきなのは、場当たり的な弁解です。たとえば、明らかなLP表現が残っているにもかかわらず、「知らなかった」「自分は関与していない」「本当に効果があるから問題ない」といった説明をすると、反省がない、責任逃れをしている、悪質性が高いと受け取られる可能性があります。

一方で、すべてを無限定に認めることも適切ではありません。刑事事件では、どの広告を誰が作成したのか、社長がどの程度関与していたのか、故意の内容、販売数量、健康被害の有無、組織的な隠蔽の有無などが重要になります。

そこで、B社長には次の方針を助言しました。

【取調べ対応の基本方針】

・LPに問題表現が掲載されていた事実は争わない

・代表者として確認不足があったことは認める

・薬機法上問題がある可能性を認識しながら放置した点は反省を示す

・ただし、消費者をだまして金銭を詐取する意図はなかったことを説明する

・健康被害の申告がないこと、苦情対応履歴を整理して示す

・広告停止、販売自粛、再発防止策を具体的に説明する

弁護士からは、B社長の出頭意思、広告停止済みであること、販売を一時停止していること、会社として資料提出に協力することを警察に伝えました。あわせて、身柄拘束を伴わない在宅事件として捜査を進めるよう求めました。

6 行政対応も並行して行う

薬機法違反は、刑事事件としての捜査だけでなく、行政対応も問題になります。

未承認医薬品広告については、厚生労働省や都道府県が違反の疑いを探知した場合、調査を開始し、必要に応じて行政指導を行います。指導に従わない場合には、弁明の機会を経たうえで、違反広告の中止、再発防止措置、公衆衛生上の危険防止措置などを内容とする措置命令が出されることがあります。

B社では、警察対応と並行して、管轄の保健所・都道府県薬務課への対応も行いました。

具体的には、次の資料を整理しました。

資料目的
問題広告の写しどの表現が問題となったかを把握する
広告停止の記録違反状態を解消したことを示す
販売自粛の記録再発・継続販売のおそれがないことを示す
販売数量・売上データ影響範囲を確認する
苦情・健康被害申告の有無消費者被害の有無を整理する
再発防止策今後の広告審査体制を説明する
改訂後広告案法令遵守型の販売再開案を示す

行政対応では、単に「広告を消しました」と報告するだけでなく、なぜ違反表現が掲載されたのか、誰が広告を承認したのか、今後どのように広告審査を行うのかを説明することが重要です。

7 再発防止策の構築

B社では、刑事・行政対応と並行して、広告審査体制を抜本的に見直しました。

健康食品の広告では、病名、治療、予防、改善、数値の変化、医師の推薦、体験談、ビフォーアフターなどが特に問題になりやすい表現です。広告担当者が売上を優先し、薬機法の知識がないままLPを作成すると、同じ問題が繰り返されます。

そこで、次の再発防止策を導入しました。

施策内容
NG表現リストの作成病名、治療、改善、予防、数値低下などの禁止表現を明文化
広告審査フローLP、SNS広告、メルマガ、同梱チラシを公開前に法務確認
外部専門家レビュー新規LP・大型キャンペーンは弁護士または薬事専門家が確認
承認権限の明確化マーケティング担当者単独で公開できない仕組みに変更
アフィリエイト管理ASP・アフィリエイター向けに禁止表現を通知
証跡保存広告案、修正履歴、承認記録を保存
社内研修経営陣・広告担当者・CS担当者へ薬機法研修を実施
定期監査公開中広告を定期的に棚卸し、違反表現を点検

特にアフィリエイト広告では、広告主自身が作成していない記事やランキングサイトに、医薬品的効能効果が記載されることがあります。薬機法の広告規制は「何人も」を対象としており、広告に関与する幅広い主体が規制対象になり得るため、広告主としても外部媒体を放置することは危険です。

8 解決結果

B社長は、弁護士の助言に従い、問題広告を即時停止し、販売を一時自粛し、警察への任意出頭にも誠実に応じました。

取調べでは、LP上の問題表現を認め、代表者として確認不足があったことを反省する一方、組織的な詐欺ではないこと、健康被害の申告がないこと、すでに広告停止と販売自粛を行っていること、再発防止策を進めていることを説明しました。

その結果、B社長は逮捕・勾留を免れ、在宅事件として捜査が進められました。最終的には略式手続による罰金刑で処理され、代表者が長期間不在となる最悪の事態は避けることができました。

会社としては大きな信用ダメージを受けましたが、販売停止中にパッケージ、LP、広告表現、アフィリエイト運用を全面的に見直し、法令を遵守した表現にリニューアルしました。その後、再発防止策を社内規程として整備し、広告公開前の審査体制を導入したうえで、事業を再開しました。

9 弁護士のコメント

薬機法違反は、「広告を直せば済む」問題ではありません。

健康食品やサプリメントで、癌、糖尿病、高血圧、アトピー、うつ、不眠などの具体的疾病名を出し、治療・予防・改善効果をうたう広告は、未承認医薬品の広告として薬機法第68条違反となるリスクがあります。違反した場合には、行政指導や措置命令だけでなく、刑事罰の対象にもなります。

警察から連絡が来た段階では、すでに広告のスクリーンショット、LPのURL、販売実績、決済情報などが確認されている可能性があります。その状態で、自己判断でLPを削除し、資料を消し、説明を先延ばしにすると、証拠隠滅や反省なしと見られるおそれがあります。

対応の基本は、次の3点です。

① 問題広告を直ちに停止し、販売継続を止める

② 証拠は消さずに保全し、弁護士を通じて捜査機関に協力する

③ 再発防止策を具体化し、行政対応も並行して進める

薬機法違反が疑われる広告は、売上を伸ばすどころか、代表者の逮捕、法人処罰、商品回収、広告停止、取引先離れ、会社の信用低下につながる重大リスクです。警察や行政から連絡があった場合は、個人で対応しようとせず、刑事事件と薬機法実務の双方に対応できる専門家に直ちに相談することが、会社と代表者を守るために不可欠です。

ステマ規制と「過去投稿」の実務対応

2026-08-14

1 相談の背景

相談者は、化粧品D2Cメーカーのマーケティング責任者であるAさんです。

同社では、数年前からマイクロインフルエンサーを活用したSNSマーケティングを積極的に行っていました。新商品を発売するたびに、数百人規模のインフルエンサーへ商品を提供し、Instagram、X、TikTok、ブログなどで使用感を投稿してもらっていたのです。

当時は、現在ほどステルスマーケティングへの法的規制が明確ではなく、投稿には「PR」「広告」「提供」などの表示が付いていないものも多数ありました。投稿数は累計で数千件に及び、過去のキャンペーン投稿の一部は、現在も検索結果やハッシュタグ経由で閲覧できる状態でした。

Aさんは、2023年10月1日からステルスマーケティング規制が始まったことを受け、今後の投稿については「PR」表記を徹底する運用に切り替えていました。インフルエンサー向けの依頼文にも、「広告であることが分かる表示を必ず入れること」「投稿冒頭または分かりやすい位置にPR表記を行うこと」を明記するようにしました。

しかし、問題は過去投稿でした。

Aさんは、次のような不安を抱えて相談に来られました。

「これからの投稿にPRを付けることはできます。しかし、数年前に依頼した投稿まで、今から全部修正しなければならないのでしょうか。すでに連絡が取れないインフルエンサーも多く、アカウントが削除されている人もいます。上場準備中なので、もし消費者庁から措置命令を受ければ、レピュテーションにも審査にも大きな影響が出ます。現実的にどこまで対応すべきかを知りたいです。」

2 法的見解:過去投稿も規制対象になり得る

まず、前提として押さえるべき点は、ステマ規制は2023年10月1日以降の表示に適用されるということです。

ステルスマーケティングは、2023年10月1日施行の告示により、景品表示法第5条3号の不当表示として規制対象になりました。規制対象となるのは、「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示」であって、「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」です。

ここで重要なのは、投稿された時期が施行日前であっても、施行日後も一般消費者が閲覧できる状態にあり、かつ事業者が管理できる実態がある場合には、施行日後の表示として規制対象となる可能性があるという点です。消費者庁のパブリックコメント回答を踏まえた解説でも、施行日前に第三者に行わせた表示であっても、施行日後に作成者と連絡がつくなど事業者が表示を管理できる状態にある場合には、施行日後の表示が告示の対象となる可能性があるとされています。

したがって、「3年前の投稿だから関係ない」「当時は違法ではなかったから修正不要」とは言い切れません。

特に、過去投稿が現在も検索上位に表示されている、自社LPに埋め込まれている、自社公式アカウントで再投稿している、自社ECサイトの「お客様の声」として引用している、といった場合には、現在の広告表示としての性格が強くなります。

実際、近時の措置命令事例では、インフルエンサー等のInstagram投稿そのものではなく、それを自社ウェブサイトに「お客様の声」や「SNSでも話題」として抜粋・転載した表示が問題とされた例があります。自社が依頼した投稿であることを明らかにせず、自社サイト上で第三者の自然な感想のように見せたことが、ステマ告示上の不当表示と判断されています。

このため、過去のインフルエンサー投稿についても、現在どのように閲覧・利用されているかを確認する必要があります。

3 すべてを一律に処理するのではなく、リスクを分類する

もっとも、数千件の投稿すべてを即時に修正することは、現実的ではありません。アカウントの閉鎖、連絡先の喪失、DM未読、投稿者の活動停止などにより、物理的に修正できない投稿もあります。

このような場合、重要なのは「ゼロリスク」を目指すことではなく、リスクの高い投稿から優先的に処理し、会社として合理的な管理体制を構築することです。

A社では、弁護士の助言に基づき、過去投稿を次のように分類しました。

優先度対象投稿リスク評価対応方針
最優先自社LP・EC・広告ページに掲載、引用、リンクしている投稿自社が現在も広告利用しているため高リスク即時に削除・差替え・PR表記追加
検索上位、ハッシュタグ上位、インプレッションが多い投稿現在も消費者の購買判断に影響しやすい個別連絡で修正依頼
直近1年程度の投稿、投稿者が活動中の投稿修正可能性が高く、影響も残りやすい一斉DM・メールでPR追記依頼
数年前の埋もれた投稿、表示回数がほぼない投稿実務上の探知可能性は相対的に低いリスト化し、可能な範囲で順次対応
対応困難アカウント削除、連絡不能、投稿者不明事業者側で直接修正不能対応履歴・連絡不能記録を保存

この分類により、限られた人的リソースを最もリスクの高い領域に集中させることができました。

特に注意したのは、自社が過去投稿を現在も広告素材として利用しているケースです。自社サイト、LP、広告バナー、メルマガ、SNS公式アカウント、ECの商品ページなどにインフルエンサー投稿を転載・引用している場合、それはもはや「過去の第三者投稿」ではなく、「現在の自社広告」と評価されやすくなります。

このため、A社ではまず、自社が管理する媒体から、PR表記のないインフルエンサー投稿の引用・埋め込み・リンクを洗い出し、修正または削除を行いました。

4 「PR」表記はどこに、どのように入れるべきか

ステマ規制で重要なのは、一般消費者が事業者の表示であることを明瞭に判別できることです。

「PR」「広告」「プロモーション」「提供:A社」「A社から商品提供を受けて投稿しています」といった表示が、一般消費者に認識可能な方法で表示されているかが問題になります。

したがって、単にプロフィール欄や投稿末尾に小さく書けば足りるとは限りません。投稿本文の冒頭や、ハッシュタグ群に埋もれない位置に表示することが望ましいです。

A社では、インフルエンサー向けに、次のような修正ルールを示しました。

【修正依頼の基本ルール】

・投稿本文の冒頭または冒頭近くに「PR」または「広告」と明記する

・商品提供を受けた投稿である場合は「A社から商品提供を受けています」と記載する

・ハッシュタグの末尾に「#PR」だけを埋め込む運用は避ける

・ストーリーズやリールの場合も、視認できる位置に広告表示を入れる

・自社が指定した文言を削除・変更する場合は事前確認を求める

重要なのは、広告表示が形式的に存在するだけでなく、一般消費者が実際に認識できることです。たとえば、投稿末尾の大量のハッシュタグの中に「#PR」が埋もれている場合や、動画の一瞬だけ小さく表示される場合には、明瞭性に疑問が残ります。

5 連絡が取れない投稿者への対応

Aさんが最も心配していたのは、過去に依頼したインフルエンサーの中に、すでに連絡が取れない人が多いことでした。

この場合、企業として重要なのは、「修正できなかった」という結論だけでなく、修正に向けて合理的な努力をしたことを証拠化することです。

A社では、次の対応を実施しました。

対応内容
投稿リストの作成投稿URL、投稿者名、投稿日、商品名、PR表記の有無を一覧化
連絡先の確認DM、メール、契約書、発送記録、キャンペーン管理ツールを確認
修正依頼の送信DM・メールでPR表記追記または削除を依頼
送信履歴の保存送信日時、送信内容、既読・未読、返信内容を記録
再依頼一定期間後にリマインドを送信
連絡不能の記録アカウント削除、DM不可、メール不達などを記録
自社媒体の削除自社サイト・LP・広告から該当投稿の引用やリンクを削除
社内報告対応件数、未対応件数、理由、今後の管理方針を報告書化

このような対応履歴は、万が一、消費者庁から照会を受けた場合に、会社として管理義務を軽視していなかったこと、問題を認識した後に合理的な是正措置を講じたことを説明する材料になります。

もちろん、対応履歴を残せば違法性がなくなるわけではありません。しかし、行政対応や上場審査の場面では、リスクを放置したのか、把握・分類・是正・再発防止を行ったのかが重要な評価ポイントになります。

6 自社サイトでの「お客様の声」利用は特に注意

ステマ規制対応で見落とされやすいのが、自社サイト上の「お客様の声」「SNSで話題」「愛用者の口コミ」などの表示です。

インフルエンサー投稿にPR表記が付いていたとしても、その投稿を自社サイトに抜粋して掲載する際にPR表記を外してしまうと、一般消費者には、第三者が自発的に投稿した口コミのように見える可能性があります。

実際に、近時のステマ措置命令事例では、対価提供や商品提供を条件に投稿を依頼したインフルエンサー投稿を、自社ウェブサイトに「お客様の声」などとして転載し、自社が依頼した投稿であることを明らかにしていなかった点が問題となっています。

このため、A社では、自社サイト上の口コミ・レビュー欄について、次のルールを設けました。

【自社サイト掲載時のルール】

・依頼投稿を「お客様の声」として掲載しない

・掲載する場合は「広告」「PR」「商品提供を受けた投稿」などを明記する

・Instagram投稿を抜粋する場合、元投稿のPR表記も含めて表示する

・投稿本文を編集・抜粋する場合、広告性が分からなくならないようにする

・自然発生的な口コミと依頼投稿を同じ枠で混在させない

特に化粧品D2Cでは、口コミ、使用感レビュー、ビフォーアフター、愛用者コメントが購買に大きな影響を与えます。だからこそ、広告として依頼した投稿と、自然発生的な口コミを明確に区別する必要があります。

7 今後の契約・同意書の改定

過去投稿対応と並行して、A社では今後のインフルエンサー施策に関する契約書・同意書も見直しました。

ステマ規制への対応は、投稿時に「PRを付けてください」と依頼するだけでは不十分です。投稿後に法令や運用基準が変わった場合、表示内容の修正が必要になった場合、投稿者と連絡が取れなくなった場合に備えて、契約上の対応権限を確保しておく必要があります。

A社が追加した主な条項は、次のとおりです。

条項内容
広告表示義務投稿冒頭等にPR・広告・提供表示を明記する義務
表示位置・文言指定会社が指定する表示方法に従う義務
修正協力義務法令・ガイドライン変更時や会社の要請時に投稿を修正する義務
投稿削除義務修正が困難な場合、会社の求めに応じて投稿を削除する義務
連絡先維持義務一定期間、連絡可能なメール・SNSアカウントを維持する義務
自社利用時の表示会社が投稿を転載・引用する場合にもPR表示を維持するルール
違反時対応表示義務違反時の報酬不払い、削除要請、損害賠償等
証跡提出投稿完了後、表示内容のスクリーンショット提出を求める条項

特に重要なのは、法令改正や行政指導を踏まえた「事後修正協力義務」です。マーケティング投稿は公開後も長期間ネット上に残るため、投稿時点で問題がなくても、後に表示修正が必要になることがあります。

8 解決結果

A社では、まず自社サイト、LP、広告、公式SNSで利用していたインフルエンサー投稿を最優先で確認し、PR表記のないものは削除または修正しました。

次に、検索上位に表示される投稿、直近1年以内の投稿、インプレッションの高い投稿を対象に、弁護士監修の修正依頼テンプレートを用いて、DMとメールで一斉に修正依頼を行いました。

その結果、主要投稿の大部分について、「PR」「広告」「A社から商品提供を受けています」といった表示を追記することができました。連絡が取れない投稿者については、送信履歴、不達記録、アカウント閉鎖記録、対応不能理由を一覧化し、社内コンプライアンス資料として保存しました。

また、今後のギフティング施策については、契約書・同意書・投稿依頼文・投稿チェックリストを改定し、投稿前後の管理フローを整備しました。

【A社が整備した管理フロー】

インフルエンサー選定

        ↓

同意書取得・広告表示義務の説明

        ↓

投稿文言・PR表記位置の事前確認

        ↓

投稿後スクリーンショット保存

        ↓

定期的な投稿モニタリング

        ↓

法令変更時・問題発生時の修正依頼

        ↓

対応履歴の保存

これにより、A社は過去投稿に関するリスクを大幅に低減し、上場準備においても、単なる未対応リスクではなく、把握・是正・再発防止が行われている管理課題として説明できる状態を整えました。

9 弁護士のコメント

ステマ規制への対応は、「過去投稿をすべて完全に消すか」「何もしないか」という二択ではありません。

法的には、施行日前に投稿されたものであっても、施行日後も閲覧可能であり、事業者が表示を管理できる実態がある場合には、規制対象となる可能性があります。そのため、「昔の投稿だから放置してよい」と考えるのは危険です。

一方で、数千件の投稿を一斉に完全修正することが現実的でない場合もあります。その場合に重要なのは、リスクの高い投稿から優先的に対応し、対応できなかったものについても、会社として合理的な努力をした証拠を残すことです。

特に、次の投稿は優先対応が必要です。

・自社サイト、LP、広告、ECページに掲載・引用している投稿

・検索上位、ハッシュタグ上位、インプレッションの多い投稿

・現在も販売中の商品に関する投稿

・商品提供や報酬提供の事実が明確な投稿

・PR表記がまったくなく、自然な口コミに見える投稿

ステマ規制で問われるのは、個々の投稿だけではありません。企業として、インフルエンサー投稿をどのように依頼し、確認し、保存し、修正し、再発防止しているかという管理体制そのものが問われます。

上場準備中の企業であればなおさら、過去投稿の棚卸し、修正依頼、対応不能記録、契約書改定、運用フロー整備までを一体として実施する必要があります。ステマ対応は、マーケティング部門だけの問題ではなく、法務、広報、IR、内部統制が連携して取り組むべきコンプライアンス課題です。

EC・予約サイトのキャンセルポリシーで注意すべき消費者契約法と定型約款

2026-08-09

ECサイト、宿泊予約サイト、エステサロン、旅行、スクール、イベント、レンタルサービスなどでは、ユーザーの直前キャンセルや無断キャンセルを防ぐために、キャンセルポリシーを設けることが一般的です。

事業者としては、予約枠を確保し、スタッフを手配し、在庫や設備を準備している以上、キャンセルによる損失を回収したいと考えるのは当然です。特に、完全予約制のサービスや、提供日時が限られるイベント・宿泊・美容サービスでは、直前キャンセルによって他の顧客を受け入れる機会を失うことがあります。

しかし、だからといって、利用規約に「キャンセル料100%」「いかなる場合も返金不可」「理由を問わず一切返金しません」と書いておけば、常にそのまま請求できるわけではありません。

消費者向け取引では、消費者契約法による制限があります。過大なキャンセル料や、一方的に消費者の権利を制限する返金不可条項は、無効となる可能性があります。重要なのは、「厳しく書くこと」ではなく、「法的に有効な範囲で、分かりやすく、合理的に定めること」です。

1 キャンセル料は「平均的な損害」を超えると無効になり得る

消費者契約法第9条1項1号は、消費者契約の解除に伴う損害賠償額の予定や違約金について、これらを合算した額が、解除の事由・時期等の区分に応じ、同種契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超える場合、その超える部分を無効としています。

つまり、キャンセル料を定めること自体は禁止されていません。しかし、その金額は、事業者に通常生じる平均的な損害の範囲内でなければなりません。

ここでいう「平均的な損害」とは、その事業者が締結する同種の契約について、解除の時期や理由などの区分ごとに類型的に考えた場合に、通常生じる損害の平均額を意味します。消費者庁の逐条解説でも、「平均的な損害の額」は、当該事業者に生ずべき損害額について、契約類型ごとに合理的な算出根拠に基づき算定された平均値であり、業界一般の水準そのものではないと説明されています。

たとえば、数か月先のエステ予約をキャンセルされた場合、事業者にはまだ別の顧客を入れる時間的余裕があるかもしれません。その場合、常に施術料金の100%を請求する条項は、平均的な損害を超える部分が無効と判断される可能性があります。

一方で、当日キャンセルや無断キャンセルの場合には、スタッフの人件費、部屋・設備の確保、材料費、他の顧客を断った機会損失などが発生しやすくなります。そのため、キャンセル時期が直前になるほど高い料率を設定すること自体は、合理性を持ち得ます。

2 「一律100%」よりも段階的な料率設計が重要

問題になりやすいのは、キャンセル時期やサービス内容を問わず、一律に高額なキャンセル料を定めるケースです。

消費者庁の解説では、結婚式場の例として、使用日の1年以上前に契約を解除した場合に契約金額の80%を解約料として請求する条項は、通常は平均的な損害を超えると考えられる一方、式の前日に契約金額の80%を請求する条項は、通常は平均的な損害を超えるとはいえないとされています。

この例から分かるのは、同じ80%という料率でも、「いつキャンセルされたか」によって評価が変わるということです。

実務上は、次のようにキャンセル時期に応じた段階的な料率を設計することが望ましいです。

キャンセル時期料率設計の考え方
予約直後・利用日まで十分な期間がある場合事務手数料や実費程度にとどめることを検討
数週間前・数日前仕入れ、スタッフ手配、再販売可能性を踏まえて設定
前日再販売・再予約が難しくなるため高めの料率も検討可能
当日人員・設備・機会損失が大きく、より高い料率に合理性が出やすい
無断キャンセル事業者側の損害が大きく、厳格な取扱いを設けやすい

ただし、段階的に設定していれば常に有効というわけではありません。各料率について、なぜその金額が平均的な損害といえるのか、根拠を説明できる必要があります。

たとえば、次のような費目を整理しておくと、キャンセル料の合理性を説明しやすくなります。

損害・費用項目具体例
事務処理費用予約管理、決済処理、返金処理、問い合わせ対応
人件費スタッフ、講師、施術者、ガイド、司会者等の手配費
仕入れ・材料費食材、化粧品、教材、備品、花材、外注費
場所・設備費会場、個室、機材、宿泊部屋、移動手段の確保費
機会損失他の予約を断ったことによる売上機会の喪失
再販売可能性キャンセル後に別の顧客へ販売できる可能性

消費者契約法第9条2項は、事業者が消費者にキャンセル料等を請求する場合に、消費者から説明を求められたときは、算定根拠の概要を説明するよう努めなければならないと定めています。ウェブそのため、キャンセル料を設定する際には、社内で算定根拠を整理し、問い合わせがあった場合に説明できる状態にしておくことが重要です。

3 「いかなる場合も返金不可」は危険

「いかなる場合も返金不可」「理由を問わず一切返金しない」という条項も、消費者向け取引では注意が必要です。

このような不返還条項は、実質的にキャンセル料や違約金として機能する場合があります。その場合、消費者契約法第9条により、平均的な損害を超える部分が無効となる可能性があります。

実際に、行政書士への委任契約で「いったん納入された料金については理由の如何を問わず返還しない」とする特約が争われた事案では、その不返還条項が委任契約解除時の損害賠償の予定または違約金と解され、平均的損害を超える部分について返還が認められた例が紹介されています。

また、消費者契約法第10条は、民法などの任意規定に比べて消費者の権利を制限し、または消費者の義務を加重する条項であって、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものを無効としています。

特に問題となるのは、事業者側に原因がある場合まで返金しないとする条項です。たとえば、商品が発送されない、サービスが提供されない、講座が中止された、予約システムの不具合で二重予約が生じた、事業者都合で日程変更が必要になった、といった場合にも返金しないとする規定は、消費者の利益を一方的に害するものとして無効と判断されるリスクが高いでしょう。

返金不可条項を設ける場合でも、少なくとも次のような区分が必要です。

場面返金不可にできるか
消費者都合の直前キャンセル平均的損害の範囲でキャンセル料を設定可能
消費者都合でも十分前のキャンセル実費・事務手数料程度にとどめる必要がある場合が多い
事業者都合の中止原則として返金が必要
商品未発送・サービス未提供返金拒否はリスクが高い
災害・不可抗力契約内容、提供不能の原因、代替措置に応じて個別判断
システム障害・二重予約事業者側の原因なら返金・代替対応が必要

「返金しない」と一文で済ませるのではなく、誰の都合で、いつ、どのような理由でキャンセルされたかに応じて、返金・振替・キャンセル料を分けて定めることが実務上有効です。

4 定型約款として「組み込まれているか」も重要

キャンセルポリシーの内容が合理的であっても、それが契約に組み込まれていなければ、ユーザーに対して適用できない可能性があります。

ECサイトや予約サイトの利用規約、キャンセルポリシー、宿泊約款、会員規約などは、多数の取引に共通して使われる定型的な契約条項として、民法上の定型約款に該当することがあります。

定型約款が契約内容となるためには、単にWebサイト上のどこかに掲載しておけば足りるわけではありません。ユーザーが契約時にその内容を認識できる状態にしておくこと、定型約款を契約内容とする旨の合意や表示があることが重要です。定型約款制度は、個別に交渉せず、事業者が用意した契約条項に同意する形の取引を前提としています。

実務上、次のような表示方法はリスクがあります。

表示方法リスク
LP最下部に小さなリンクだけを置くユーザーが認識できない可能性
購入完了後に初めてキャンセル料を表示する契約時に組み込まれていない可能性
予約ボタン付近にキャンセル料の表示がない重要条件として説明不足となる可能性
利用規約の中に埋もれさせる高額キャンセル料が不意打ち条項と評価されるリスク
スマホ画面で見づらい極小文字実質的な開示が不十分と評価される可能性

特にキャンセル料は、ユーザーにとって重要な不利益条件です。予約・購入の意思決定に大きく関わるため、利用規約の奥に隠すのではなく、予約確定前の画面で明確に表示する必要があります。

望ましい設計は、次のようなものです。

【予約・購入画面での表示例】

キャンセルポリシー

・7日前まで:無料

・6日前~2日前:料金の30%

・前日:料金の50%

・当日または無断キャンセル:料金の100%

上記キャンセルポリシーおよび利用規約に同意して予約を確定します。

□ 同意する

このように、キャンセル料の料率、発生時期、返金方法、例外をユーザーが確認できる位置に表示し、チェックボックスなどで明示的に同意を取得する運用が望ましいです。

5 チャージバック・クレームを防ぐための実務対応

法的に有効なキャンセルポリシーを整備しても、表示が分かりにくければ、クレームやチャージバックにつながります。特にクレジットカード決済やオンライン予約では、ユーザーが「キャンセル料がかかるとは知らなかった」と主張することがあります。

事業者側では、次のような記録を残しておくことが重要です。

記録すべき事項目的
予約時点のキャンセルポリシー表示ユーザーが事前に確認できたことを示す
同意チェックのログキャンセルポリシーへの同意を示す
予約確認メールキャンセル料・期限を再通知する
キャンセル申請日時どの料率が適用されるかを示す
返金処理記録返金額・手数料の計算根拠を示す
問い合わせ対応履歴説明内容の一貫性を示す

また、キャンセルポリシーの文言は、法律用語だけでなく、ユーザーが理解しやすい表現にすることが大切です。

たとえば、「契約解除に伴う損害賠償額の予定として、所定の解約料を申し受けます」とだけ書くよりも、「利用日の前日以降にキャンセルされた場合、すでにスタッフ・設備を確保しているため、下記のキャンセル料をいただきます」と説明した方が、トラブル予防に役立ちます。

6 キャンセルポリシー作成時のチェックリスト

キャンセルポリシーを作る際は、次の点を確認してください。

チェック項目確認内容
対象取引EC、予約、定期購入、講座、イベントなど、どの取引に適用するか
キャンセル可能期間いつまでキャンセルできるか
キャンセル料率時期ごとの料率が平均的損害に照らして合理的か
返金方法クレジットカード返金、振込、ポイント返還など
返金手数料誰が負担するか
事業者都合の中止全額返金、振替、代替提供の有無
不可抗力災害、交通機関停止、感染症、行政要請等の場合の扱い
無断キャンセル請求額、今後の予約制限、事前決済の扱い
表示場所予約・購入確定前に明確に表示されているか
同意取得チェックボックスや確認画面で同意を取っているか
算定根拠問い合わせ時に説明できる資料があるか

キャンセルポリシーは、事業者の損失回避だけでなく、ユーザーとの信頼形成のためのルールです。曖昧な規定や過度に厳しい規定は、かえってクレーム、SNS炎上、チャージバック、消費生活センターへの相談につながることがあります。

7 弁護士のコメント

キャンセル料や返金不可条項は、厳しく書けば書くほど事業者に有利になるものではありません。消費者契約法に反する条項は、いざトラブルになったときに無効と判断され、結局請求できない可能性があります。

特に「一律100%」「いかなる場合も返金不可」という規定は、直前キャンセルや無断キャンセルには一定の合理性がある場合でも、十分前のキャンセルや事業者都合の不履行にまで適用すると、過大・不当な条項と評価されやすくなります。

有効なキャンセルポリシーを作るには、次の3点が重要です。

① 平均的な損害に基づいて料率を設計する

② キャンセル時期・理由に応じて段階的に定める

③ 予約・購入前に分かりやすく表示し、同意を取得する

キャンセルポリシーは、単なる利用規約の一部ではなく、売上、顧客対応、決済、チャージバック、ブランド信頼に直結する重要な契約条件です。事業の実態に合った合理的な料率を設計し、ユーザーが納得できる形で表示することが、無用な紛争を防ぐ最も実効的な対策です。

「買い取ったつもり」が通用しない制作委託契約の落とし穴

2026-08-04

広告制作の現場では、デザイン会社、広告代理店、フリーランスのカメラマン、イラストレーター、ライター、動画クリエイターなど、外部の専門家に業務を発注することが日常的に行われています。

バナー広告、ランディングページ、チラシ、商品写真、ロゴ、キャッチコピー、SNS投稿用画像、動画広告など、企業のマーケティング活動は、外部クリエイターの成果物によって支えられています。

しかし、実務では、発注が急ぎであることや、付き合いの長い相手であることを理由に、口頭の合意、メールのやり取り、簡単な発注書だけで制作を進めてしまうことが少なくありません。その結果、納品後になって、次のようなトラブルが発生します。

よくあるトラブル具体例
二次利用料の請求Web広告用に撮影した写真をチラシや店頭POPにも使ったところ、追加料金を請求された
改変への異議納品されたイラストをトリミング・色変更したところ、クリエイターから抗議された
著作者名表示の要求広告上にカメラマン名・イラストレーター名を表示するよう求められた
権利帰属の争いロゴやキャラクターの著作権が発注会社に移っていないと主張された
再委託素材の権利問題制作会社が使った写真・フォント・音源の権利処理が不十分だった
支払・修正トラブル発注後に何度も修正を求めたところ、下請法・フリーランス法上の問題を指摘された

これらの多くは、著作権法と下請法・フリーランス保護新法に関する理解不足から生じます。特に広告制作では、「代金を払ったのだから自由に使えるはず」という発注側の認識と、「依頼された範囲で利用を許可しただけ」というクリエイター側の認識がずれやすい点に注意が必要です。

1 著作権は原則として「作った人」に帰属する

まず押さえるべき基本は、広告制作物の著作権が、当然に発注者へ移るわけではないという点です。

企業が外部のデザイナーやカメラマンに報酬を支払って制作を依頼したとしても、契約で別段の定めをしなければ、著作権は原則として著作者、つまり実際に創作したクリエイター側に帰属します。

たとえば、次のような成果物は、著作物に該当する可能性があります。

成果物著作権上の注意点
イラストキャラクター化、色変更、別媒体利用で問題になりやすい
写真Web用、紙媒体用、屋外広告用など利用範囲を明確にする必要がある
コピー・文章LP、SNS、パンフレットへの転用で利用範囲が問題になる
動画編集、短尺化、字幕追加、二次配信の可否を確認する必要がある
ロゴ長期・独占利用を想定するため権利譲渡が重要
Webデザイン画像、ソース、フォント、素材の権利関係を分けて確認する必要がある

発注者が広告制作費を支払ったとしても、それだけで「著作権を買い取った」ことにはなりません。契約で定めていない場合、発注者は、当初予定された目的・媒体・期間の範囲で利用を許諾されたにすぎないと解釈されることがあります。

そのため、たとえば「Web広告用」として発注した写真を、後日、チラシ、店頭POP、展示会パネル、テレビCM、海外向け広告にも使いたい場合、当初の契約内容によっては、追加許諾や追加料金が必要になることがあります。

2 「著作権を譲渡する」だけでは足りない

発注者が成果物を自由に利用したい場合には、契約書で著作権の譲渡を明記する必要があります。

しかし、ここで注意すべきなのは、単に「著作権を譲渡する」「一切の権利を譲渡する」と書くだけでは不十分な場合があることです。

著作権法第61条2項は、著作権譲渡契約において、著作権法第27条・第28条の権利が譲渡の目的として特掲されていないときは、これらの権利は譲渡人に留保されたものと推定すると定めています。第27条は翻訳・編曲・変形・脚色・映画化その他の翻案に関する権利、第28条は二次的著作物の利用に関する原著作者の権利です。

つまり、広告制作物を改変したり、別媒体へ展開したり、二次的著作物を利用したりする可能性がある場合には、契約書に次のような文言を入れる必要があります。

受託者は、発注者に対し、本成果物に関する著作権

(著作権法第27条および第28条に規定する権利を含む。)

を譲渡する。

この文言がないと、たとえば次のような場面でトラブルになる可能性があります。

利用・変更の内容問題となる権利
イラストを一部トリミングしてバナーに使う翻案権・同一性保持権
コピーを短縮してSNS広告に使う翻案権
日本語記事を英語版LPに翻訳する翻訳権
写真を加工してキャンペーン画像にする変形・翻案に関する権利
キャラクターを動画化・3D化する翻案権・二次的著作物利用権
納品デザインを別商品の広告に転用する利用許諾範囲・二次利用権

広告は、当初の媒体だけで終わらず、SNS、Web、紙媒体、動画、店頭、展示会、海外展開などに広がることが多い分野です。最初から二次利用・改変・再編集を想定して、権利処理をしておく必要があります。

3 著作者人格権というもう一つの壁

著作権を譲渡してもらったとしても、それだけで完全に自由に使えるとは限りません。著作者には、著作権とは別に「著作者人格権」が残るためです。

著作者人格権には、公表権、氏名表示権、同一性保持権などが含まれます。特に広告制作で問題になりやすいのは、著作者名を表示するかどうかを決める氏名表示権と、著作物を意に反して改変されない同一性保持権です。著作者人格権は一身専属の権利であり、著作権法第59条により譲渡することができません。

そのため、著作権を譲渡してもらっていても、クリエイターから次のような主張を受けることがあります。

クリエイター側の主張発注者側の困りごと
「名前を表示してほしい」広告デザイン上、著作者名を表示できない
「勝手に色を変えないでほしい」媒体サイズやブランドカラーに合わせて調整できない
「トリミングしないでほしい」SNSやバナーの規格に合わせられない
「コピーを短くしないでほしい」媒体ごとの文字数制限に対応できない
「作品イメージを損なう使い方をしないでほしい」キャンペーン展開や別媒体利用が制限される

このリスクを抑えるために必要なのが、著作者人格権の不行使特約です。実務上は、次のような条項を設けます。

受託者は、発注者または発注者の指定する第三者に対し、

本成果物に関して著作者人格権を行使しない。

著作者人格権は譲渡できないため、「著作者人格権を譲渡する」と書いても効果は期待できません。重要なのは、譲渡ではなく「行使しない」と約束してもらうことです。

4 権利譲渡に加えて確認すべき契約条項

広告制作委託契約では、著作権譲渡条項と著作者人格権不行使条項だけでは足りません。制作物には、外部素材、フォント、写真、音源、モデル、撮影場所、AI生成物など、複数の権利が関係することがあるためです。

実務上は、少なくとも次の条項を整備しておくべきです。

条項定めるべき内容
成果物の定義何が納品対象か。ラフ案、未採用案、元データを含むか
利用範囲媒体、地域、期間、用途、第三者への再許諾の可否
著作権の帰属譲渡か利用許諾か。第27条・第28条の権利を含むか
著作者人格権不行使特約の有無
第三者素材写真、フォント、音源、ストック素材、AI素材の利用条件
権利侵害保証第三者の権利を侵害しないことの表明保証
修正回数無償修正の範囲、追加修正費用
検収納品後の確認期間、修正依頼、合格基準
再委託外部スタッフ利用の可否、責任の所在
ポートフォリオ利用受託者が実績として掲載できるか
秘密保持未公開キャンペーン情報や商品情報の管理
損害賠償・補償権利侵害や納期遅延があった場合の責任

特に注意すべきなのは、制作会社がさらに外部のカメラマン、イラストレーター、音楽制作者、モデル事務所などに再委託しているケースです。発注者と制作会社の契約では権利譲渡が定められていても、制作会社が再委託先から十分な権利譲渡や利用許諾を受けていなければ、発注者が後から権利主張を受ける可能性があります。

そのため、制作会社に対しては、再委託先・素材提供者から必要な権利処理を取得していることを保証させる条項が重要です。

5 下請法・フリーランス保護新法にも注意する

広告制作の外注では、著作権だけでなく、下請法やフリーランス保護新法も問題になります。

発注者と受注者の資本金規模や取引内容によって下請法が適用される場合、発注者である親事業者には、発注時に給付内容、代金額、支払期日などを記載した3条書面を交付する義務があります。3条書面は原則として書面交付ですが、一定の条件のもとで電子メール等の電磁的方法による提供も可能とされています。

また、フリーランス保護新法では、発注事業者がフリーランスに業務委託をした場合、直ちに、給付の内容、報酬額、支払期日その他の取引条件を、書面または電磁的方法で明示する義務があります。さらに、報酬は、給付を受領した日から60日以内のできる限り短い期間内で支払期日を定めて支払う必要があります。

広告制作では、次のような行為が問題になりやすいです。

行為リスク
口頭やチャットだけで発注する取引条件の明示義務違反となる可能性
報酬額を後で決める報酬額・算定方法の明示が不十分になる可能性
納品後60日を超えて支払う支払期日規制に違反する可能性
発注者都合で何度も無償修正させる不当なやり直し・内容変更と評価される可能性
納品後に一方的に減額する報酬減額の禁止に抵触する可能性
追加の二次利用権を無償で求める知財権譲渡・許諾の対価が問題になる可能性

特にフリーランスとの取引では、知的財産権の譲渡・許諾を受ける場合、その範囲を取引条件として明確に記載する必要があります。知的財産権の譲渡・許諾を業務委託の目的たる使用範囲を超えて求める場合には、その範囲を明示し、対価にも反映させる必要があると指摘されています。

「安く発注できるから」「個人だから柔軟に対応してくれるはず」と考えていると、取引条件の不明確さ、支払遅延、無償修正、権利譲渡の押し付けをめぐって紛争化するおそれがあります。

6 基本契約書を整備するメリット

広告制作を継続的に外注する企業は、案件ごとに一から契約書を作るのではなく、ひな形となる制作委託基本契約書を整備しておくことが有効です。

基本契約書では、著作権、著作者人格権、第三者権利処理、再委託、秘密保持、検収、支払条件などの共通ルールを定めます。そのうえで、個別案件ごとに、発注書や個別契約で、具体的な制作内容、納期、報酬、利用媒体、納品形式、修正回数を定める運用にします。

【推奨される契約構成】

制作委託基本契約書

        ↓

個別発注書・個別契約

        ↓

仕様書・見積書・スケジュール

        ↓

納品・検収記録

        ↓

権利処理資料の保管

基本契約書を整備しておくことで、次のようなメリットがあります。

メリット内容
権利帰属が明確になる二次利用・改変・再編集の可否を事前に整理できる
発注条件を標準化できる報酬、納期、検収、修正回数の認識違いを減らせる
下請法・フリーランス法に対応しやすい3条書面・3条通知に必要な事項を漏れなく管理できる
炎上・権利侵害時に対応しやすい制作過程、素材の出所、責任分担を確認しやすい
社内運用が安定する広告部門・法務部門・購買部門の判断基準を統一できる

特に、複数の媒体で広告を展開する企業、SNS用に素材を細かく編集する企業、インフルエンサーやフリーランスへの発注が多い企業では、権利処理の標準化が不可欠です。

7 弁護士のコメント

広告制作の外注では、「納品されたから自由に使える」「お金を払ったから権利も当然に移る」という理解は危険です。著作権は、原則として創作した人に発生し、発注者が自由に使うためには、契約で権利譲渡または利用許諾の範囲を明確に定める必要があります。

特に、発注者が成果物を広く活用したい場合には、著作権法第27条・第28条の権利を含めて譲渡を受けること、著作者人格権を行使しない旨の特約を設けることが重要です。これらが抜けていると、後から二次利用、改変、媒体展開、海外展開のたびに追加交渉が必要となる可能性があります。

また、制作委託は知的財産の問題であると同時に、下請法・フリーランス保護新法の問題でもあります。発注時の取引条件明示、支払期日、無償修正、減額、知的財産権譲渡の対価などを適切に管理しなければ、発注者側が法令違反を指摘されるリスクがあります。

広告制作はスピードが重視される業務だからこそ、毎回の案件で場当たり的に対応するのではなく、あらかじめ基本契約書、発注書ひな形、権利処理チェックリストを整備しておくべきです。契約の整備は、クリエイターを縛るためではなく、発注者と受注者の認識をそろえ、安心して制作に集中するための土台です。

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