福祉・介護業界の広告と法的リスク

高齢者施設、訪問介護、デイサービス、障がい者支援、生活支援サービスなど、福祉・介護業界では「安心」「信頼」「やさしさ」といったイメージワードを多用した広告が見られます。しかし、こうした感覚的な言葉であっても、実態と乖離していたり、根拠がなかったりすると景品表示法違反などの法的リスクが生じる可能性があります。

さらに、高齢者やその家族が広告に強く依存する傾向があることから、消費者庁も福祉・介護分野の広告に対して厳格なスタンスを取っています。

1 「安心・安全・信頼」の表現は、根拠がなければNG

広告によく見られる次のような表現は、一見問題なさそうに見えますが、裏付けがなければ優良誤認表示に該当する可能性があります。

①「地域で一番信頼されている施設です」

②「24時間体制で安心の見守り」

③「専門スタッフによる安全なケアをお約束」

④「やさしく丁寧な対応が利用者満足度No.1」

これらの表示を行うには、客観的な根拠資料(例:顧客満足度調査、職員配置体制、事故報告データ等)が必要です。また、主観的な満足度調査を一般化する場合には、調査対象、調査期間、方法をきちんと明示することが求められます。

2 実績表示・資格者数などの事実誤認にも注意

①「介護福祉士が常駐」→ 実際は日中の数時間のみ

②「年間1,000件以上のサポート実績」→ 過去の累積数を“年間”と誤認させている

③「医師監修」→ 実態は一度監修に名を貸したのみ

こうした表示は、事実と異なる、あるいは誤認させる形での表現であり、景表法や業界ガイドラインに違反する可能性があります。特に医師や専門職の肩書きを用いる場合は、監修の内容・期間・関与度合いなどを明確に把握し、必要であれば本人の許諾も得ることが重要です。

3 比較・No.1表示、家族の声、利用者の体験談もリスク対象

「地域No.1」「満足度ランキング1位」といった表示は、出典・調査主体・期間・対象者数を示していない場合、違法表示とされる可能性があります。また、「利用者様の声」や「ご家族の体験談」を使う場合も、実在性・許諾・表現の正確性を確保する必要があります。

例えば、

①架空の家族の感想を演出して掲載

②ご家族のSNS投稿を無断で広告に流用

③内容を脚色・短縮したことで、元の文意が変わっている

これらは、景表法のみならず、プライバシー権や著作権などの侵害にもつながりかねません。

4 チェックポイントまとめ

福祉・介護業界における広告のリーガルチェックポイントとしては、

①「安心・安全・信頼」などの表示に、根拠・体制・データの裏付けがあるか

②資格者数・職員配置・看護体制などが、実際の勤務状況と一致しているか

③満足度・実績表示に、調査方法・出典・期間等の明記があるか

④利用者や家族の声が、実在し、許諾を得て、表現が正確であるか

⑤「監修」や「専門家による支援」の表示が、形式的な関与でないことを確認

福祉・介護業界では、広告による信頼の裏切りは、利用者本人だけでなくその家族にも大きな失望と怒りをもたらします。だからこそ、やさしさを“言葉”で伝えるのではなく、“事実”で証明する広告表現が、真の信頼に繋がります。

弊事務所では広告法務に関して総合的にサポートを提供しております。広告法務に関してお悩みの場合は、お気軽にご相談ください。

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