企業の広告において、価格や取引条件の「お得感」を強調することは、消費者の購買意欲を高める上で非常に有効です。しかし、その「お得感」の演出が度を越すと、景品表示法が規制する「有利誤認表示」に該当し、法的な処分を受けるリスクが生じます。
企業の法務担当者や経営者は、価格訴求を行う際に、この有利誤認表示の規制を正確に理解しておくことが不可欠です。
このページの目次
1 有利誤認表示の判断基準
有利誤認表示は、景品表示法第5条第2号に規定されており、価格や取引条件に関して消費者に誤解を与える表示を指します。
具体的には、商品または役務の価格その他の取引条件について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく有利であると誤認させる表示を指します。
優良誤認表示との違いは、規制の対象が「価格や取引条件」である点です。例えば、以下のケースが有利誤認の典型例となります。
①価格に関する誤認:実際よりも安い、あるいは他社より安く買えると思わせる。
②取引条件に関する誤認:実際よりも簡単な条件で契約できる、特典が多い、アフターサービスが充実していると思わせる。
2 実務で最も問題となる「二重価格表示」
有利誤認表示の中で、企業が最も注意すべきは「二重価格表示」です。
これは、「通常価格」「メーカー希望小売価格」「〇〇円からの値下げ」などと、現在の販売価格と、それよりも高額な別の価格(比較対照価格)を併記する表示方法です。これにより、消費者は「今買えばお得だ」と感じ、購買行動に結びつきやすくなります。
しかし、この比較対照価格が不当なものである場合、現在の価格が実際よりも著しく安価であると消費者に誤認させるため、有利誤認表示として規制されます。
3 価格以外の取引条件の落とし穴
価格だけでなく、「取引条件」に関する誤解も有利誤認表示となります。特に注意が必要なケースは以下の通りです。
(1)定期購入・サブスクリプションの条件
近年、健康食品や化粧品の定期購入サービスにおいて、有利誤認表示による摘発が多発しています。
①「初回実質無料!」と大きく表示しながら、実は最低〇回の継続購入が必須条件となっている。
②解約条件や解約方法が、広告の目立つ場所ではなく、極めて小さい文字や見えにくい場所に記載されている。
(2)特典・プレゼント(景品規制との関係)
「今だけ限定で豪華特典をプレゼント!」と謳う場合、その特典が実際には提供されなかったり、条件が厳しかったりすると、有利誤認表示となる可能性があります。
また、特典自体が景品表示法の「景品規制」(前回の記事で触れた景品の上限額規制)に抵触しないかどうかも、同時にチェックする必要があります。特典の価格や提供方法によっては、景品規制違反と有利誤認表示違反の両方が成立するケースもあるため、細心の注意が必要です。
4 違反した場合の実務対応
有利誤認表示で景表法に違反した場合、優良誤認表示と同様に、消費者庁による措置命令や、課徴金納付命令の対象となります。
有利誤認表示によるリスクを回避するためには、以下の施策を徹底する必要があります。
①比較対照価格の根拠保管:二重価格表示を行う際は、比較対照価格での販売実績を証明する資料(販売台帳、伝票など)を広告表示の期間終了後も適切に保管する。
②取引条件の明瞭化:定期購入やキャンペーンの条件(継続回数、解約方法、送料、手数料など)は、「誰が見ても誤解が生じない」レベルで、メインの広告に近接した場所で明瞭に記載する。
③審査フローの徹底:広告制作部門は、「お得感」を強調したいあまりに誇張しがちです。価格に関する表示全てについて、必ず法務部門が「根拠の正確性」と「消費者の誤認可能性」の観点から事前にチェックするフローを義務化しましょう。

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