「メタバース」という言葉が一般化し、仮想空間上での交流・経済活動・エンタメ体験が日常的になりつつあります。アバターを用いたコミュニケーションや、デジタルアイテムの売買、バーチャルイベントなどが盛んに行われる一方で、現実世界とは異なる“空間”であるがゆえに、法的なグレーゾーンやトラブルが生じやすいのが実情です。
本記事では、メタバース上で発生する典型的なトラブルと、それに対する法的なアプローチの難しさについて解説いたします。
このページの目次
1 メタバースで起きる典型的なトラブル例
①アバター同士のハラスメント・セクハラ
近距離での接触行為、暴言、嫌がらせ的な動き、性的な表現など、現実では違法とされる行為が、アバターを通して再現されるケース。
②デジタル資産の盗難・詐欺
NFTアートやアバター用衣装などが不正に取得されたり、詐欺的な取引により奪われるトラブル。
③著作権・商標権の侵害
他人の作品を模倣したアバター衣装や建築物、企業ロゴの無断使用など。
④バーチャル土地・建物の所有権トラブル
高額で売買された土地が「削除された」「所有者が不明になった」などの問題も報告されています。
2 法適用の難しさ
メタバース上のトラブルが注目される中で、「どの法律が適用されるのか?」という問題に直面します。
①場所の不特定性:仮想空間には国境がなく、プラットフォーム運営者の所在地によって法管轄が分かれる。
②人格の匿名性:現実とは異なるアバターを用いるため、加害者の特定が極めて困難。
③契約関係の曖昧さ:資産取引にあたって明確な契約書が存在しないケースが多く、法的根拠が不十分。
④刑事法との距離感:アバター同士の“接触”が暴行罪や強制わいせつ罪に該当するかは、現行法では未整理の部分が多い。
3 実務上の対応と判断の傾向
現状では、メタバース上の行為に対して、以下のようなアプローチが取られる傾向にあります。
①プラットフォーム規約違反としての対応
違反者のアカウント停止・アクセス制限・コンテンツ削除など、運営会社独自のルールに基づく措置が一般的です。
②民事上の不法行為責任
デジタル資産の詐取や名誉毀損的発言について、民法709条に基づく損害賠償請求がなされるケースも増えています。
③仮想行為の“現実性”が問われる裁判例の登場
たとえば、あるユーザーがバーチャル空間上で他者のアバターに性的な動きを行った件では、「精神的苦痛を与えたことは否定できない」として、慰謝料の支払義務が発生したとする和解事例が存在します。
メタバースの魅力は、現実では体験できない自由な創造・交流にあります。
しかし同時に、現実世界と同様に“他者の権利”が存在しており、違法行為が免責される空間ではありません。
法律の未整備な部分があるからこそ、プラットフォームルールと法的常識の両方を意識した行動が必要です。トラブルに遭遇した場合には、早めに法的助言を求めることが適切な対処につながります。

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