インターネット上で名誉毀損やプライバシー侵害などの被害を受けた場合、相手が匿名であっても、法的手続を通じて「発信者の特定」を目指すことが可能です。今回は、いわゆる「発信者情報開示請求」の法的枠組みと、実務上の流れについて解説します。
このページの目次
1 発信者情報開示請求とは
発信者情報開示請求とは、被害者が、加害行為を行った投稿者の情報(氏名、住所、IPアドレスなど)の開示を、インターネット上のサービス提供者(プロバイダ)に求める制度です。主に、プロバイダ責任制限法(正式名称:特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律)に基づいて行われます。
この制度により、被害者は投稿者を特定し、損害賠償請求や削除請求などの民事手続に進むことが可能となります。
2 手続の流れ
①IPアドレスの特定
最初に、投稿先のサイト(掲示板やSNSなど)の運営者に対し、当該投稿に関するログ情報(IPアドレスやタイムスタンプ)の開示を求めます。多くの場合、仮処分の形で裁判所に申し立てを行います。
②接続プロバイダの特定と開示請求
IPアドレスから、投稿時にそのIPを使用していた接続元のプロバイダが判明します。続いて、そのプロバイダに対して、契約者情報の開示を求める訴訟(または仮処分)を提起します。
③本人特定と損害賠償請求へ
プロバイダから開示された情報をもとに、投稿者本人を特定し、損害賠償請求訴訟などの本案手続へ進みます。
3 裁判例:SNS投稿に対する開示命令
ある裁判例では、Twitter上における誹謗中傷投稿について、IPアドレスおよび契約者情報の開示が認められました。裁判所は「違法性が明らかで、開示を受ける正当な理由がある」と判断しています。
このように、開示が認められるかどうかは、投稿内容の違法性、被害の程度、開示請求の必要性などを総合的に判断して決せられます。
発信者情報の開示は、時機を逃すとログが消去され、特定が不可能になるリスクがあります。問題のある投稿を発見したら、まずは画面のスクリーンショットやURLの記録を行い、速やかに弁護士に相談することが重要です。
また、プロバイダやSNS事業者との交渉・裁判手続には専門的知識が必要であるため、専門家のサポートを受けながら対応することをおすすめします。