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SNSアカウントの乗っ取りと被害者の法的救済手段

2025-09-03

現代社会において、SNSは個人のコミュニケーションだけでなく、仕事・情報発信・ブランド構築にも活用される重要な手段となっています。しかしその反面、アカウントの「乗っ取り」被害が後を絶ちません。乗っ取りによって個人情報や信頼が損なわれ、なりすまし投稿により被害が拡大するケースもあります。本記事では、SNSアカウントの乗っ取り被害と、法的救済手段について解説します。

1 SNSアカウント乗っ取りとは?

アカウント乗っ取りとは、他人のSNSアカウントに不正にログインし、投稿・プロフィール変更・DM送信などを勝手に行う行為を指します。主な手口には以下があります。

①パスワードの漏洩や弱いパスワードの使用

②フィッシング詐欺によるID・パスワードの詐取

③他サービスとの使い回しによる不正アクセス

④不正なアプリ連携による情報流出

乗っ取られたアカウントは、詐欺や誹謗中傷に利用されることも多く、被害者本人だけでなく、フォロワーや第三者にも影響が及びます。

2 法的にはどのような問題になるか

①不正アクセス禁止法違反

他人のID・パスワードを利用してログインする行為は、不正アクセス行為の禁止等に関する法律(不正アクセス禁止法)により禁止されています。違反した者には刑事罰が科される可能性があります。

②なりすましによる名誉毀損・プライバシー侵害

乗っ取ったアカウントで虚偽の投稿や個人情報の流出が行われた場合、名誉毀損やプライバシー侵害として民事責任を問うことができます。

③損害賠償請求(民法709条)

SNSを業務に利用していた場合には、信用低下や営業損害を理由に損害賠償を請求することも可能です。

3 裁判例:SNSアカウント乗っ取りによる損害賠償

ある裁判例では、元従業員が退職後に前職のSNSアカウントを不正に利用し、なりすまし投稿を行った事案について、裁判所は「不正アクセスと名誉毀損が認められる」とし、被告に150万円の損害賠償を命じました。

この判決は、乗っ取り行為が刑事的にも民事的にも重大な違法行為であることを裏付けています。

4 被害に遭った場合の対応策

①プラットフォームへの通報・復旧申請

SNS運営者に対し、不正アクセスによるアカウント被害であることを報告し、復旧・ログイン制限などの対応を求めます。

②投稿削除・被害拡大の防止

アカウントが回復できる場合は、問題となる投稿の削除やアプリ連携の解除を行いましょう。

③警察への被害届提出

不正アクセス禁止法に基づき、警察へ被害届を提出することが可能です。証拠となるスクリーンショットやログを準備しておきましょう。

④発信者情報開示請求

加害者が誰か特定できない場合でも、ログインIPアドレス等の情報から追跡を行う法的手続があります。

⑤損害賠償請求

業務妨害や名誉毀損が認められる場合には、民事訴訟により損害賠償請求が可能です。

SNSアカウントは現代における“デジタルな人格”ともいえる存在です。乗っ取り行為は単なるイタズラではなく、重大なプライバシー侵害・信用毀損・刑事犯罪に該当し得ます。

被害に気づいたら、まずは冷静に証拠を確保し、運営会社・警察・弁護士と連携して迅速な対処を行うことが重要です。

誹謗中傷の加害者となった場合の法的責任と対応

2025-08-29

インターネット上では、軽い気持ちで投稿・コメントを行った結果、それが「誹謗中傷」と評価され、加害者として責任を問われるケースが増えています。名誉毀損やプライバシー侵害に該当すれば、被害者から損害賠償や刑事告訴を受ける可能性もあり、個人であっても決して免責されません。本記事では、誹謗中傷の加害者側となった場合の法的責任と、取るべき対応について解説いたします。

1 誹謗中傷とは?

誹謗中傷とは、他人を悪く言ったり、社会的評価を下げたりする表現行為をいいますが、特に次のような発言が問題となります。

①「○○は犯罪者」「詐欺会社だ」などの根拠なき断定

②「バカ」「死ね」などの侮辱的な言葉

③セクシャルハラスメント的なコメントや人種・性別に関する差別的表現

④外見や障害を揶揄するような投稿

たとえ事実であっても、公共性や公益性がなく、表現が過剰であれば違法とされる可能性があります。

2 加害者が負う法的責任

①民事責任(損害賠償)

名誉毀損(民法710条)やプライバシー侵害によって、慰謝料・弁護士費用等の損害賠償を請求されることがあります。金額は数十万円から数百万円に及ぶこともあります。

②刑事責任

刑法上は、名誉毀損罪(刑法230条)、侮辱罪(231条)などが成立する可能性があります。被害者の告訴により、警察の捜査や検察による起訴がなされることもあります。

③仮処分や投稿削除の義務

③裁判所の仮処分命令により、当該投稿の削除や再投稿の禁止が命じられることもあります。

3 実例:SNS投稿者に対する損害賠償命令

ある裁判例では、Twitter上で芸能人に対し「整形モンスター」「性格が終わってる」などと繰り返し投稿したユーザーに対し、名誉毀損が認定され、110万円の損害賠償が命じられました。被告は「表現の自由」を主張しましたが、裁判所は「社会的相当性を欠く侮辱的表現」として違法性を認定しました。

4 誹謗中傷してしまった場合の対応

①投稿の削除・謝罪

問題となる投稿に気づいたら、速やかに削除することが重要です。任意の謝罪や、被害者との直接連絡を検討する余地もあります。

②被害者との示談交渉

損害賠償請求や刑事告訴を防ぐため、謝罪文や一定の解決金を支払う形で示談を図ることが可能です。

③弁護士への相談

対応を誤ると、損害が拡大したり法的責任が重くなる可能性があります。専門家のアドバイスを受けながら、適切な対応を検討しましょう。

④匿名でも責任は免れないことを自覚する

匿名での投稿であっても、発信者情報開示請求を通じて身元が特定される可能性があります。過去の投稿が問題視されるケースもあるため、履歴の見直しも重要です。

インターネットは感情的になりやすく、「つい言い過ぎた」ということが誹謗中傷につながるリスクを孕んでいます。重要なのは、発信には責任が伴うという意識を持つことです。

仮に誹謗中傷の加害者となってしまった場合も、誠実に謝罪し、早期に被害回復に努めることで、被害拡大や訴訟リスクを軽減できる場合があります。ご自身の立場に不安を感じたら、迷わず弁護士にご相談ください。

誤認逮捕とネット報道の二次被害

2025-08-24

インターネットニュースやSNSの普及により、事件・事故の報道はリアルタイムで拡散されるようになりました。しかし、中には「誤認逮捕」であったにもかかわらず、その情報が半永久的にネット上に残り続け、本人や家族に深刻な影響を与える事態も起きています。本記事では、誤認逮捕とネット報道による“二次被害”の法的問題を取り上げます。

1 誤認逮捕とは?

誤認逮捕とは、実際には無実であるにもかかわらず、犯罪の容疑者として逮捕されることを指します。防犯カメラの誤認、目撃証言の錯誤、捜査機関の過失など、原因はさまざまです。

一旦逮捕されると、警察や報道機関が氏名・年齢・住所などを発表し、インターネットメディアやSNSを通じて全国に広まる可能性があります。たとえ不起訴や無罪となっても、“逮捕された”という事実だけが先行し続けるのが現状です。

2 ネット上に残るデジタルタトゥー

報道記事やSNS投稿は、一度ネット上に掲載されると、検索エンジンやまとめサイト、コピー転載等によって拡散・保存され、完全な削除が極めて困難になります。これがいわゆる「デジタルタトゥー」と呼ばれる現象です。

本人が就職・転職・結婚など新たな生活を始めようとしても、ネット検索で逮捕歴(たとえ誤認であっても)が出てしまえば、不利益が生じる可能性があります。

3 裁判例:誤認逮捕報道記事の削除請求

ある裁判例では、誤認逮捕された男性が、ポータルサイトに残った当時の報道記事に対し「名誉毀損かつプライバシー侵害」であるとして削除請求を行いました。裁判所は「既に不起訴処分が確定し、報道を残す公益性が乏しい」として、検索結果からの削除を命じました。

このように、報道の公益性と個人の名誉・プライバシーとのバランスが裁判では重要視されます。

4 被害に遭った場合の救済策

①報道機関・ポータルサイトへの削除要請

逮捕の事実が誤認である場合、不起訴・無罪となった証拠を添えて削除や訂正を求めます。

②検索結果の削除申立て

GoogleやYahoo!などの検索エンジンに対し、「忘れられる権利」に類似する主張をもって削除申請が可能です。

③損害賠償請求

違法な報道や掲載が原因で名誉毀損が成立する場合、民法上の損害賠償請求が認められる可能性があります。

④再発防止と報道倫理の問題提起

報道機関への申し入れを通じて、匿名報道や経過報道の徹底を求めることも有効です。

誤認逮捕そのものは不運であっても、報道による二次被害を放置してはいけません。名誉・プライバシーが不当に侵害された場合には、法的手段により一定の修復を図ることが可能です。

報道の削除や検索結果の抹消は時間と手間を要しますが、適切な手順を踏めば成功事例も増えています。泣き寝入りせず、早期に専門家へご相談ください。

ライブ配信における違法行為とその責任

2025-08-19

YouTube Live、Instagram Live、TikTok Liveなど、個人による「ライブ配信」が一般化した現代において、視聴者とのリアルタイムなやり取りの中で、思わぬ違法行為やトラブルが発生するケースが増えています。ライブ配信では、その場の勢いや軽い気持ちで発言・行動してしまいがちですが、その内容によっては刑事・民事の責任を負う可能性があります。本記事では、ライブ配信における主な違法行為と法的責任について解説いたします。

1 ライブ配信で問題となりやすい行為

ライブ配信中には、以下のような行為が法的問題を引き起こすことがあります。

①著作権侵害

BGMとして市販の楽曲を流したり、アニメ・映画などを画面に映したりする行為。

②名誉毀損・侮辱

特定の個人や企業を中傷・嘲笑する発言、虚偽の事実を語る行為。

③プライバシー侵害

無関係な第三者の顔や声、住所・氏名・電話番号などが映り込む行為。

④暴行・器物損壊などの実況

「迷惑系配信」と称して、飲食店での迷惑行為や他人への暴言・暴行を配信する行為。

⑤わいせつ・児童ポルノの配信

露出度の高い衣装や性的な言動を含む配信、未成年を出演させる行為。

これらは「エンタメ」として行われていたとしても、重大な法的問題となる場合があります。

2 裁判例:配信中の中傷行為による損害賠償

ある裁判例では、ライブ配信者がある個人について「犯罪者」「詐欺師」などと根拠なく言及し、配信のアーカイブ動画が残った事案で、裁判所は名誉毀損が成立するとして配信者に110万円の損害賠償を命じました。

本件は、ライブ配信であっても発言が後に保存・拡散されることを前提に、録画内容に基づく法的責任が生じることを示しています。

3 配信者が負う法的責任

①刑事責任

暴行罪・名誉毀損罪・著作権法違反・児童福祉法違反など、内容によっては刑事告発・逮捕の対象になります。

②民事責任(損害賠償)

配信によって名誉やプライバシーが侵害された場合、慰謝料や営業上の損害賠償を請求される可能性があります。

③プラットフォーム規約違反によるアカウント停止

YouTubeやTikTokなどでは、一定の違反行為を検知すると配信停止やアカウント削除が行われます。これにより収益機会を失うケースもあります。

4 被害を受けた場合の対応策

①録画・スクリーンショットの保存

配信内容が後に削除されても、証拠が残っていれば法的対応が可能です。

②削除申請と通報

プラットフォーム運営者に対して、規約違反を理由に動画削除を求めます。

③発信者情報開示請求

配信者が匿名の場合でも、動画の掲載者・ライブ主を特定する法的手段が取れます。

④損害賠償・刑事告訴の検討

悪質な内容の場合、民事・刑事の両面から責任追及が可能です。

ライブ配信の「リアルタイム性」は魅力である反面、法的トラブルに直結しやすい点でもあります。一度配信された内容は記録として残り、後から責任を問われる可能性が高いことを認識すべきです。

配信を行う際には、著作権や肖像権、名誉・プライバシーといった法的権利への配慮を忘れず、視聴者を巻き込む前に適切な判断を心がけましょう。

ネット掲示板における悪質なデマとその拡散責任

2025-08-14

インターネット掲示板やSNSでは、不確かな情報や噂話が急速に拡散されることがあります。その中には、特定の個人や企業に対する悪質な「デマ(虚偽情報)」が含まれている場合も少なくありません。デマが拡散されることで、当事者に深刻な社会的・経済的損害が生じるだけでなく、拡散に関わった第三者も法的責任を問われる可能性があります。本記事では、ネット上のデマとその拡散に関する法的リスクを解説いたします。

1 「デマ」とは何か?

デマとは、事実に反する虚偽の情報を、他人に伝達または拡散する行為を指します。ネット上では次のような例が典型です。

①「○○社は倒産寸前らしい」などの経済的信用に関する虚偽情報

②「○○さんは不倫している」「○○は前科がある」といった個人の名誉を毀損する内容

③「この商品には発がん性物質が含まれている」といった科学的根拠のない風評

④犯罪事件に関して「犯人は○○ではないか」と根拠なく特定する投稿

これらのデマは、投稿者自身が創作したものでなくとも、無責任に共有・拡散すること自体が違法行為となり得る点に注意が必要です。

2 デマ投稿・拡散に対する法的責任

①名誉毀損(刑法230条・民法710条)

事実でないことを公然と摘示して、特定の個人や企業の社会的評価を低下させると、名誉毀損に該当します。

②信用毀損罪・業務妨害罪(刑法233条~234条)

企業に対して虚偽情報を流し、顧客離れや取引中止に追い込むようなケースでは、信用毀損や威力業務妨害罪が成立する可能性があります。

③拡散者の共同不法行為責任(民法719条)

デマの投稿者だけでなく、それを積極的に拡散(リツイート、まとめ投稿、引用投稿)した第三者にも損害賠償責任が生じる場合があります。

3 裁判例:デマの拡散による賠償命令

ある裁判例では、虚偽の風評を含む投稿をSNSで引用・拡散したユーザーに対し、名誉毀損の共同不法行為者として55万円の損害賠償が命じられました。裁判所は「投稿者が虚偽であることを容易に知り得たのに、安易に拡散した」として違法性を認定しています。

このように、拡散者も「加害者」として扱われるリスクがあることを認識すべきです。

4 被害を受けた場合の対応

①投稿の証拠保全

投稿内容、投稿日時、URL、拡散の状況などを記録します。画面のスクリーンショットも有効です。

②削除請求・開示請求

デマ投稿に対して、掲示板管理者やSNS事業者に削除申請を行います。悪質な場合は発信者情報開示請求も検討します。

③損害賠償請求・仮処分申立て

投稿者・拡散者に対し、名誉毀損・信用毀損を理由に損害賠償を請求することが可能です。④検索結果削除の申し立て

デマが検索結果に残る場合、Google等の検索事業者に対し削除を要請する方法もあります。

インターネットは情報の流通速度が速く、虚偽情報であっても瞬時に拡散され、被害はあっという間に拡大します。デマの投稿や拡散は「軽い気持ち」で行える反面、その法的責任は非常に重い場合があることを自覚すべきです。

被害に気づいた時点で、冷静に証拠を保全し、早期に弁護士へご相談いただくことが重要です。

ネット上の著作権侵害と投稿削除の実務

2025-08-09

インターネット上では、画像や動画、文章、音楽などのコンテンツが日々大量に投稿・共有されています。その一方で、著作権者に無断でコンテンツが使用される「著作権侵害」も多数発生しており、投稿者本人が違法行為に気づかずに拡散してしまうケースも少なくありません。本記事では、ネット上の著作権侵害の基本と、削除要請等の実務対応について解説いたします。

1 著作権侵害とは?

著作権侵害とは、著作権者の許可なく、その著作物を複製・公衆送信・翻案等する行為をいいます。代表的な著作物には以下が含まれます。

①写真、動画、イラスト、音楽、文章(ブログや記事など)

②ゲーム画面、アニメ、映画、楽曲の一部切り抜き動画

③他人が撮影・編集した作品

特に、YouTubeやTikTok、X(旧Twitter)などに投稿された二次創作や「転載」は、著作権者の事前許諾がない限り、原則として違法となる可能性があります。

2 よくある侵害パターン

①他人のブログ記事や画像を無断転載

②人気漫画のコマをスクリーンショットで紹介

③他人が撮影した写真を「フリー素材」と誤認して利用

④有名アーティストの楽曲をBGMにして動画投稿

⑤テレビ番組を録画し、YouTubeへ無断アップロード

これらは、たとえ「非営利目的」や「少しだけ」であっても、法的には著作権侵害に該当し得ます。

3 裁判例:無断転載に対する損害賠償命令

ある裁判例では、写真家が撮影した風景写真を無断で観光ブログに転載された事案について、裁判所は著作権侵害を認定し、投稿者に対して30万円の損害賠償を命じました。

本件では、著作物の出所を明示していても、「著作権者の同意なく使用してはならない」原則が優先されると判断されています。

4 被害に遭った場合の対応手順

①証拠の確保

侵害されたコンテンツの元データ、無断投稿のURLやスクリーンショットなどを確保します。

②削除要請(任意)

まずはプラットフォームや投稿者に対し、著作権侵害を理由に削除申請を行います。多くのサービスには専用フォームが用意されています。

③プロバイダ責任制限法に基づく削除請求

投稿者が削除に応じない場合、プラットフォーム運営者に対し、正式に削除申請を行うことができます。あわせて発信者情報の開示請求も検討されます。

④損害賠償請求・仮処分申立て

被害が大きい場合は、民事訴訟による損害賠償請求や、仮処分による差止命令を申し立てることが可能です。

「ネットに出回っている=自由に使ってよい」という誤解が、著作権侵害を助長しています。特に、個人・企業の写真やイラスト、動画には、たとえ無償であっても著作権が発生している場合が多くあります。

著作権侵害に気づいたときには、まず冷静に証拠を保全し、任意の削除交渉と併せて、法的手段を講じることが大切です。自らの権利を守るためにも、早めに弁護士にご相談ください。

オンラインストーカー行為と接近禁止命令の活用

2025-08-04

SNSやメッセージアプリなどの普及により、物理的な接触がなくとも相手に執拗につきまとう「オンラインストーカー」被害が増加しています。被害者の多くは、精神的に追い詰められ、日常生活に支障をきたす事態に発展することも少なくありません。本記事では、インターネット上でのストーカー行為の法的問題と、接近禁止命令などの保護手段について解説いたします。

1 オンラインストーカーとは

オンラインストーカーとは、インターネット上で以下のような行為を継続的に行うことを指します。

①SNSやメールで繰り返しメッセージを送信する

②被害者の投稿に執拗に反応し続ける(「いいね」攻撃など)

③匿名アカウントで監視・追跡を行う

④他人の投稿欄に中傷や攻撃的コメントを連続して書き込む

⑤被害者の住所・交友関係・行動履歴を調査・公開する(いわゆる“ネットストーキング”)

これらは一見すると物理的接触がないため軽視されがちですが、被害者にとっては深刻な精神的苦痛を与える行為です。

2 ストーカー規制法の対象になるか?

従来のストーカー規制法(ストーカー行為等の規制等に関する法律)は、面会の強要や尾行など「リアルなつきまとい行為」が中心でしたが、平成28年の法改正により、SNS等を通じた連続的なメッセージ送信行為も規制対象に追加されました(同法2条1項2号の2)。

したがって、SNSを通じた繰り返しのメッセージ送信や監視的行動は、ストーカー行為として警告や禁止命令、さらに刑事処分の対象となる場合があります。

3 裁判例:SNSを利用した執拗なメッセージ送信

ある裁判例では、元交際相手に対してSNS上で「復縁しろ」「無視するな」などのメッセージを100回以上送信した行為について、ストーカー規制法違反が成立し、被告人に罰金刑と保護命令違反による警告が言い渡されました。

この事例は、インターネット上のつきまといも明確にストーカー行為に該当し得ることを示しています。

4 被害者がとれる法的措置

①警察への相談・警告申出

最寄りの警察署に相談し、相手に対する警告を出してもらうことができます。被害の内容や証拠の提示が重要です。

②接近禁止命令(裁判所)

ストーカー規制法に基づき、地方裁判所に「禁止命令(接近・連絡の禁止)」を申し立てることが可能です。

③仮処分申立・損害賠償請求

民事上の手段として、加害者に対してSNSのブロック命令や慰謝料請求を行うことも検討できます。

④証拠の確保

メッセージ履歴やSNSの通知、スクリーンショット、通話記録などを保存しておくことが、後の手続で有効になります。

オンライン上のストーカー行為は、「物理的に近づいていないから安全」とは限りません。むしろ精神的圧迫感が強く、長期的な苦痛をもたらすケースが多く見受けられます。繰り返しの連絡や監視的行動を受けたら、それが“ストーカー行為”に該当する可能性があることを認識すべきです。

被害を感じたら、早めに警察や弁護士へ相談し、証拠保全・警告申出・接近禁止命令などの手続を通じて、自身の安全を確保しましょう。

ネット通販での詐欺・偽サイトとその法的対応

2025-07-30

インターネット通販の利用が拡大する中で、詐欺的な偽サイトや悪質な販売業者による被害も増加しています。注文した商品が届かない、偽物が送られてきた、決済情報が悪用されたといったトラブルは、消費者に深刻な損害を与えるだけでなく、法的な対応を必要とするケースも少なくありません。本日は、ネット通販における詐欺被害と、その法的対応について解説いたします。

1 典型的な偽サイト・詐欺の手口

ネット通販における詐欺には、以下のようなパターンがあります。

①有名ブランドやECモールのロゴ・デザインを模倣した偽サイト

②実在する企業名を騙ったフィッシング型ショッピングサイト

③破格の価格で出品し、代金を騙し取るのみで商品を送らない業者

④海外から粗悪品や偽物を送りつけて返金に応じないケース

これらは、一見すると正規の通販サイトと見分けがつきにくいため、被害者が詐欺と気づくまでに時間がかかることもあります。

2 法的にどのような責任が問われるか

①詐欺罪(刑法246条)

商品を送る意思がないのに代金を振り込ませた場合、詐欺罪が成立し得ます。10年以下の懲役という重い刑罰が規定されています。

②不法行為(民法709条)

民事上は、詐欺的な行為により損害を被った被害者が、加害者に対して損害賠償を請求することができます。

③特定商取引法違反

通信販売に関する表示義務違反や虚偽表示がある場合、消費者庁などの行政機関による指導や処分の対象となります。

3 裁判例:偽通販サイト運営者に対する損害賠償命令

ある裁判例では、有名ブランドの公式サイトを模倣した偽サイトを運営し、複数人から代金を詐取した被告に対し、総額約300万円の損害賠償が命じられました。裁判所は、「社会的信頼を利用した悪質な詐欺行為」と断じ、慰謝料も含めて高額の賠償を認定しました。

このように、詐欺的通販サイトは民事・刑事の両面から責任を追及され得ます。

4 被害に遭った場合の対応策

①証拠の保存

注文履歴、メールのやり取り、商品ページのスクリーンショット、振込明細などを保管しておきましょう。

②クレジットカード会社・金融機関への連絡

不正利用の可能性がある場合は、カードの停止やチャージバック手続の相談を速やかに行います。

③警察への被害届提出

詐欺の可能性が高いと判断される場合は、最寄りの警察署へ被害届を提出します。複数の被害者がいれば集団訴訟や捜査が進む可能性も高まります。

④弁護士への相談・損害賠償請求

加害者が特定できた場合には、民事訴訟による損害賠償請求を検討することが可能です。国外サイトの場合でも、代理人を通じた対応が行われることもあります。

被害に遭ったとしても、「泣き寝入りせず、速やかに対応する」ことが重要です。サイトのドメイン情報や運営元情報など、少しの痕跡から追跡・法的措置が可能となるケースもあります。

また、消費者としては、過度に安い価格や支払方法に注意を払い、正規サイトであることを確認したうえで利用することが、被害予防の第一歩です。

ネット上での“特定”と個人情報晒しの法的リスク

2025-07-25

インターネット上では、ある人物の名前や住所、勤務先、顔写真などの個人情報を暴露する「特定行為(いわゆる“晒し”)」が頻繁に見られます。一見、正義感から行われることもありますが、特定行為は重大な法的問題を引き起こす行為であり、加害者側が刑事・民事の責任を負う可能性もあります。本記事では、ネット上の“特定”に関する法的リスクを解説いたします。

1 “特定”とは何か

「特定」とは、SNSや掲示板等において、ある人物について以下のような情報を晒す行為を指します。

①氏名、住所、電話番号

②学校名、勤務先

③顔写真や家族構成

④車両ナンバー、通勤経路、SNSアカウントなど

これらの情報が、本人の許可なく公開され、ネット上に拡散されることで、被害者はプライバシーの侵害や嫌がらせ、就業・就学上の支障など深刻な被害を受けることになります。

2 プライバシー権侵害と名誉毀損

特定行為は、以下のような法的責任を生じ得ます。

①プライバシーの侵害(民法709条)

私生活上の事実を無断で公表することは、不法行為に該当します。

②名誉毀損(刑法230条・民法710条)

個人情報の開示によって、社会的評価を下げる結果になれば、名誉毀損と評価されることもあります。

③業務妨害罪・信用毀損罪(刑法233条~234条) 

勤務先を晒すことで、企業に対するクレームや迷惑行為が生じた場合、刑事責任が問われる可能性もあります。

3 裁判例:勤務先の晒しによる損害賠償命令

ある裁判例では、ある女性がSNSでの発言をきっかけに炎上し、住所や勤務先を晒された事案について、裁判所は「プライバシー侵害にあたり違法」と認定。投稿者に対して約100万円の損害賠償が命じられました。

この裁判例は、ネット上の“特定”行為が違法であることを明確に示したものです。

4 被害を受けた場合の対応策

①証拠の確保

個人情報が公開された投稿やページのスクリーンショット、URL、投稿日時などを保存します。証拠が削除されても、キャッシュや保存データがあれば対応可能なこともあります。

②削除請求・仮処分

プラットフォーム運営者に対し、プライバシー権侵害や名誉毀損を理由に削除を申し立てます。緊急性が高い場合は、仮処分による対応も視野に入ります。

③発信者情報開示請求と損害賠償請求

加害者が匿名であっても、法的手段によって投稿者の特定を進めることが可能です。損害賠償のほか、再発防止措置や謝罪を求めることもできます。

④警察への相談

晒されたことによってストーカー行為や脅迫を受けるなど、安全上の懸念がある場合は、迷わず警察に相談すべきです。

ネット上での“特定”行為は、たとえ「事実」を投稿していても違法となるケースがあります。情報の公開には常に慎重さが求められます。

被害を受けた際には、被害が拡大する前に速やかに弁護士へ相談し、削除・損害賠償・投稿者特定などの対応を講じることが極めて重要です。

炎上とネット上の集団攻撃 ― 個人・法人の法的防衛策

2025-07-20

一つの投稿や発言がSNS等で急速に拡散され、非難や攻撃の対象となる「炎上」。当事者に対する人格攻撃や不買運動、企業への大量のクレーム電話など、いわゆる「集団攻撃(集団ネットリンチ)」に発展するケースもあり、社会的・経済的な損失は極めて大きなものとなり得ます。本記事では、炎上被害に対する法的対応の考え方と、実務上の留意点について解説します。

1 炎上と集団攻撃の特徴

炎上の特徴として、以下のような点が挙げられます。

①投稿の趣旨が切り取られて誤解される

②一部の発言が差別的・倫理的に問題視される

③SNS・まとめサイト・掲示板など複数の媒体で拡散される

④匿名ユーザーによる誹謗中傷や私生活の暴露が相次ぐ

⑤被害者への直接攻撃(電話、メール、DMなど)が殺到する

このような状況は、「表現の自由」の範囲を超えた違法行為を含む場合があります。

2 法的に問題となる行為

炎上に乗じたネット上の行為のうち、特に法的に問題となるものには以下が含まれます。

①名誉毀損(刑法230条)

虚偽・真実を問わず、社会的評価を不当に低下させる表現。

②侮辱罪(刑法231条)

具体的事実を摘示しなくても、抽象的に人を侮蔑する発言。

③威力業務妨害(刑法234条)

抗議電話や嫌がらせメールを大量に送り、業務を妨害する行為。

④プライバシー侵害・肖像権侵害

被害者の住所、顔写真、家族構成などの個人情報を晒す行為(いわゆる「特定」)も違法です。

3 裁判例:炎上加害者に対する損害賠償命令

ある裁判例では、ある企業のキャンペーン内容を巡ってSNSで炎上し、個人ユーザーが企業名・担当者の実名を挙げて誹謗中傷を行った事案において、投稿者に対して110万円の損害賠償が命じられました。

裁判所は「批判の範囲を逸脱した攻撃的・感情的表現は、表現の自由の範囲を超えて違法である」と明示しています。

4 被害に遭った場合の対応策

①証拠の確保

投稿内容、投稿日時、URL、スクリーンショットなどを保存します。時系列で整理しておくと、後の法的対応がスムーズです。

②投稿削除とアカウント停止要請

各プラットフォームに対し、利用規約違反を理由に削除やアカウント停止を申請します。

③発信者情報開示と損害賠償請求

匿名投稿者に対し、発信者情報開示請求を行い、名誉毀損や業務妨害を理由に損害賠償を求めることが可能です。

④企業広報の戦略的対応

場合によっては法的措置に加え、記者会見やQ&Aページ作成など、広報対応を組み合わせる必要があります。

炎上は突発的に起こるものですが、被害が拡大するかどうかは初動対応にかかっています。法的な観点からは、違法な投稿に対して迅速に証拠を確保し、被害の拡大を防止する措置を取ることが極めて重要です。

被害を受けた際には、一人で抱え込まず、早期に弁護士へご相談ください。

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