本日は、元政治家とその亡父について、雑誌記事および広告が名誉を毀損したと主張し、謝罪広告と損害賠償を求めた事案をご紹介いたします(福井地判令和6年3月6日)。
このページの目次
1 事案の概要
原告は、元政治家であり、被告は雑誌『A』を発行している出版社です。
被告は同誌上で以下の内容を記載しました。
①原告の亡父が、かつてごみ焼却施設の建設を「仲の良い業者」に独断で発注した。
②原告がその「癒着関係」を引き継ぎ、特定候補を応援した背景に業者の利益を図る意図があった。
さらに、この見出しを新聞紙の広告欄にも掲載しました。
原告は「父の名誉と自身の社会的評価が著しく低下した」と主張し、謝罪広告の掲載と損害賠償を請求しました。
2 裁判所の判断
(1)名誉毀損の成否
①裁判所は「独断」「ツルの一声」との表現が、亡父が公正でない方法で業者に便宜を図ったとの印象を与えると認定した上で、建設工事の発注には議会の手続きを経ており、不公正な事実は確認できないとしました。さらに、被告が十分な取材を行わず掲載したことも指摘し、「亡父の名誉と原告の敬愛追慕の情を侵害した」と判断しました。
②原告の社会的評価の低下について
「亡父から引き継いだ癒着関係を利用して、市長選で業者の利益を図った」との事実を示唆されたことに関して、被告はその根拠を示せず、取材不足も認定されました。
裁判所は「原告の社会的評価を低下させる内容」と判断しました。
(2)違法性阻却事由
被告は「公共の利害に関する内容であり、真実と信じる理由があった」と主張しましたが、裁判所は取材不足と虚偽の内容を認定し、違法性の阻却を認めませんでした。
(3)損害額
裁判所は以下を点を考慮し、原告の損害を55万円と認定しました。
①本件記事および広告の影響の程度
②内容が抽象的であり、誇張表現も含まれること
③名誉毀損の程度は重大ではあるが限定的であること
なお、謝罪広告の請求は、損害賠償で十分に回復されるとして認められませんでした。
3 まとめ
この裁判例は、報道機関が公共性や公益性を盾に名誉毀損を免れるためには、十分な裏付け取材が不可欠であることを示しています。
また、故人や遺族の名誉にも当然に配慮が必要であり、表現の自由と名誉保護のバランスが厳格に問われる事案でした。 名誉毀損に当たるか否かは「事実の真偽」や「取材の相当性」に大きく依存するため、情報発信者には慎重な対応が求められることは今一度再確認する必要があります。