インターネットやSNSの普及に伴い、誰もが情報の発信者となれる時代になりました。
しかし、その裏側で深刻化しているのが、匿名の書き込みによる誹謗中傷トラブルです。
感情的な批判や心無い言葉は、個人の精神的苦痛だけでなく、企業のブランドイメージや売上にも深刻なダメージを与えます。いざ自分が被害に遭ったとき、「これは違法なのか?」「どうすれば書き込みを消せるのか?」と、多くの方が迷われるでしょう。
ネット上で使われる「誹謗中傷」という言葉は、実は法律上の用語ではありません。この「誹謗中傷」が、刑法や民法上の「名誉毀損」や「侮辱」などに該当するかどうかで、とれる法的手段が変わってきます。
このページの目次
1 「誹謗中傷」の法的分類
「誹謗中傷」とは、悪口を言って相手を傷つけたり、根拠のない悪評を広めたりする行為を指す一般的な言葉です。法律は、この行為をその内容に応じて主に以下の3つの類型に分類し、責任を追及します。
①名誉毀損:具体的な事実を挙げて、公然と人の社会的評価を低下させる行為(例:「あの会社は不正経理をしている」「Aさんは過去に犯罪を犯した」)
②侮辱:事実を挙げずに、公然と人を侮辱する行為(例:「バカ」「無能」など、抽象的な悪口)
③信用毀損・業務妨害:虚偽の情報を流し、特定の個人や法人の信用や業務を妨害する行為(例:「あの店の料理は不衛生で食中毒が出た」という虚偽の書き込み)
2 名誉毀損罪(民事・刑事)が成立する3つの要件
刑法230条および民法709条が定める名誉毀損が成立するためには、以下の3つの要件をすべて満たす必要があります。
(1)公然性があること
「不特定または多数の人が認識できる状態」であることを指します。
インターネット上の掲示板、SNSの公開アカウント、ブログなどは、基本的に公然性があると認められます。
(2)事実を摘示していること
真偽を問わず、具体的な事実を挙げて人の社会的評価を低下させる行為です。
①事実の摘示にあたる例:「○○社の社長は社員にパワハラをしている」「あのクリニックは医療ミスが多い」
②事実の摘示にあたらない例:「ムカつく」「気持ち悪い」といった単なる意見や感想(これは次項の侮辱に該当する可能性が高まります)
(3)他人の名誉を毀損したこと
「名誉」とは、その人の社会的地位や評価を指します。
書き込みによって一般人の感覚から見てその人の社会的評価が低下したと認められる必要があります。実際に評価が低下したかどうかではなく、低下させる危険性があれば足ります。
3 名誉毀損と「侮辱」の決定的な違い
名誉毀損が「事実の摘示」を要件とするのに対し、侮辱罪(刑法231条)は事実の摘示を必要としません。
単なる抽象的な悪口や罵倒(例:「無能なクズ」「キモい」)など、具体的な事実を伴わない方法で公然と人を侮辱した場合に成立します。
侮辱罪は、これまで名誉毀損罪と比べて刑罰が軽微でしたが、刑法改正により厳罰化され、以前より重い処分が科せられる可能性が高まっています。
4 まとめ:インターネットトラブルはスピードが命
ネットの誹謗中傷は、時間の経過とともに拡散し、被害が拡大していく恐れがあります。
また、発信者情報開示請求の手続きは、投稿から一定期間(ログ保存期間)が過ぎると、加害者の特定が困難になってしまいます。
ご自身の被害が「名誉毀損」にあたるか、「侮辱」にあたるか、そしてどのような法的措置が可能かを判断するためには、迅速にインターネットトラブルに精通した弁護士にご相談いただくことが不可欠です。

有森FA法律事務所では、インターネット上の誹謗中傷や名誉毀損、プライバシー・著作権に関するトラブルなど、ネットにまつわる様々なお悩みに対応しています。スマートフォンやSNSが日常に溶け込んだ今、ネット上の問題は誰にとっても身近なリスクとなっています。東京都をはじめ全国からのご相談に対応しており、WEB会議によるご相談も可能です。ひとりで抱え込まず、まずはお気軽にご相談ください。
